清研時報

1984年10月号

業務の縮小又は廃止を余儀なくされる場合の一般廃棄物処理業者に対する損失補償について(Ⅰ)
  1. 合理化特別措置法の改正で補償問題の解決は期待できるか
  2. 合理化特別措置法は、どんな法律か
  3. なぜ全国の市町村は合理化事業計画を定めないのか
  4. 損失補償に関する厚生省の前時代的な見解
  5. 補償問題解決のために業界が今やらねばならないことは何か
合理化特別措置法の改正で補償問題の解決は期待できるか

(『下水道の整備等に伴う一般廃棄物処理業等の合理化に関する特別措置法』をここでは『合理化特別措置法』と呼ぶことにする。)

  • 環境保全議員連盟の提案による合理化特別措置法の一部を改正する法律案が、さきの国会で成立するものとばかり思っていましたら、どうやらさきの国会には提出されなかったようですね。
  • 6月1日に東京・永田町のキャピトル東急ホテルで開催された日本環境保全協会の昭和59年度通常総会の席上、来賓として挨拶された環境保全議員連盟代表世話人の安井謙先生は、
    「合理化特別措置法改正案はできあがりました。手続上、まず自民党政務調査会の社会部会、審議委員会の承認を経て、最終的には総務会の承認を得なければなりませんが、この議員立法の提案は、もう時間の問題であると思いますよ。」
    と述べておられましたし、同連盟の合理化特別措置法改正検討小委員会の委員長をつとめておられる植木光教先生も、
    「改正案は、提案の趣旨説明とともに自由民主党の社会部会長のもとに提出しました。稲垣実男社会部会長は、これに精力的に取り組むことを明確に私どもに意思表示をされて、本日、社会部会長と政務調査会の幹部との間に、この改正案について実質的な協議が行われることになりました。これを速やかに社会部会、政策審議会、さらに総務会を通過させて、今国会に提案を行い、成立させるということで、私どもは対処しています。」と説明しておられましたので、前の国会の会期中には提案され、きっと成立するものとばかり考えていましたが……。
  • おそらく全国の一般廃棄物処理業者は、一様にそう思っていたのでしょうね。
  • 健康保険法改正問題などで手間どったりしていたために見送られたものと思いますが、次の国会には間違いなく提案されるでしょうね。
  • そうですね。次の通常国会には提案されましょう。
  • 次の国会で首尾よく改正法案が成立したら、下水道の整備等に伴って業務の縮小又は廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業者等に対しては、補償の道が開かれることになるわけですね。
  • そうなるといいんですが……。
  • そうはならないのですか。
  • 早合点してはいけませんよ。環境保全議員連盟の提案による合理化特別措置法の一部改正案が成立したら、補償問題の解決のために大きく前進することは確かでしょうが、それだけで、補償問題のすべてが解決するとは考えられませんからね。
  • しかし、植木先生は、その日の説明の中で、
    「合理化特別措置法第3条第2項は、『合理化事業計画は、下水道の整備等による一般廃棄物処理業等の経営の基礎となる諸条件の変化の見通しに関する事項、下水道の整備等に伴う一般廃棄物処理業等の事業の転換並びに経営の近代化及び規模の適正化に関する事項その他厚生省令で定める事項について定めるものとする』となっています。一番大事な資金の事項がこの中に欠けているため、市町村が合理化事業計画をたてるときに、資金上の措置が明確に計画の中に打ち出されない。ここに一番の問題があるということに着目して、法第3条第2項中『適正化に関する事項』の下に、『下水道の整備等により業務の縮小又は廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業等を行う者に対する資金上の措置に関する事項』を加えることにしました。いろいろな計画を立てていくなかに、業界や業者の皆さん方に対する資金上の措置に関する事項を計画の中に入れさせるということにより、この計画は、いわば魂を入れるということになるわけで、私どもは合意をみた次第です。この点に関しては、厚生省、通産省に対し、この項目を入れることによって、市町村が資金上の措置に関する事項を計画の中に入れる。そのことによって、いろいろ交付金を交付される場合に、この交付金の交付を行うということによって受けられる皆さん方の利益というものを充分に認識をし、周知徹底させること、各市町村に対して、資金上の措置に関する事項を計画の中に入れるということを、強く行政指導を行うよう要請し、確約を得ました。皆さん方が交付金を受けられたときには、租税特別措置法により免税を受けるという措置がなかったら、せっかく交付金を受け取っても、その交付金は充分に生きてこない訳ですから、免税措置については、実態調査の上で、租税特別措置法により対処するという約束を大蔵省から得た次第です。そして、市町村から交付金として交付されるものについて、自治省が特別交付税その他の交付税により市町村を援助するという道も開くということについて、各省庁の合意も得ました。このような改正をすることにより、この法律が本当に生きて、皆さん方が受けられる被害に対する救済策がとられることになる訳で、この点について、この成案を得たことを、ここに報告します。」
    と、述べておられますよ。このお話しのとおりになれば結構なことだと思いますが……。
  • 植木先生のおっしゃるとおりにコトが運べば、結構なことに違いありませんがね。
  • それじゃ、植木先生のお話しのとおりにはコトが運ばないおそれがあると云われるのですか。
  • 日本環境保全協会の昭和59年度通常総会の模様を報じた環境保全タイムズによりますと、植木先生は、そのお話しの冒頭で、
    「昭和38年に下水道整備5カ年計画が始まり、以来今日に至るまで下水道の整備が全国各地において展開されている訳です。従って、一般廃棄物処理業者である皆さん方の仕事が、それにより非常に大きな圧力を受け、合理化を迫られるというような時代が続いて参りました。私共は、皆さん方の遭遇しておられる危機を、何とかして、国又は地方公共団体の力で守り抜いて参りたいという趣旨のもとに、昭和50年に合理化特別措置法を議員立法をもって制定しました。下水道の整備等に伴う合理化事業が、皆さん方自身の力と共に、この法律が担保して、円滑に行われるようにという願いをもって、また、この法律でやれるという自信をもって制定したのです。」
    と、述懐しておられますね。
  • はい。
  • ところが、結果はどうですか。植木先生が、合理化特別措置法の一部を改正する法律案を自民党の社会部会長に提出された折の提案理由説明の中でも触れておられるように、「その後も着実に下水道整備等が進み、以前にもまして一般廃棄物処理業者等の受ける影響が増大しているにもかかわらず、これまで合理化特別措置法に基づく合理化事業計画を定めた市町村はなく、一部の市町村において、事実上の措置として、転廃業を余儀なくされる一般廃棄物処理業者等に対し、交付金を交付している」にすぎない有様ではありませんか。
  • そうですね。
  • そこで、環境保全議員連盟では、日本環境保全協会の陳情を受けて検討された結果、合理化特別措置法第3条第2項の『適正化に関する事項』の次に、『下水道の整備等により業務の縮小又は廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業等を行う者に対する資金上の措置に関する事項』を加えようとしておられるわけですが、昭和50年に、環境保全議員連盟の先生方が自信をもって制定された合理化特別措置法が、市町村によって無視されたのは何故か、この法律に基づく合理化計画を定めた市町村が1箇所もないのは何故であるかという謎を解明し、せっかくの法律を休眠させてしまっている原因を取り除かない限り、次の通常国会で、法律の一部を改正してもらったとしても、おそらく、この法律がよみがえって、業務の縮小又は廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業者を救済することはできますまい。
  • その合理化特別措置法の施行を妨げているものは、いったい何ですか。
  • そのお話しをする前に、先ず、現在の法律の条文を確認しておきましょう。
合理化特別措置法は、どんな法律か
  • し尿やし尿浄化槽の清掃に係る汚泥の収集、運搬又は処分に従事している業者で、合理化特別措置法にどんな規定が設けられているかということを承知している人は少ないように思われますが……。
  • どうも、そのようですね。
  • 正直に申しますと、実は、私もくわしいことは覚えていませんでした。今度改めて読んでみて、一般廃棄物処理業者にとっては、大変に重要な法律だということがわかったような次第です。
  • そうですか。環境保全議員連盟の先生方が自信をもって制定されたという法律ですからね。
    念のために、ここで、合理化特別措置法という法律にはどんなことが規定されているのか、読み直してみることにしましょう。

    (目的)
    第1条|この法律は、下水道の整備等によりその経営の基礎となる諸条件に著しい変化を生ずることとなる一般廃棄物処理業等について、その受ける著しい影響を緩和し、併せて経営の近代化及び規模の適正化を図るための計画を策定し、その実施を推進する等の措置を講ずることにより、その業務の安定を保持するとともに、廃棄物の適正な処理に資することを目的とする。

    (定義)
    第2条|この法律において、「一般廃棄物処理業等」とは、廃棄物の処理及び清掃に関する法律の規定による市町村長(特別区の存する区域にあっては、都知事)の許可を受け、又は市町村(特別区の存する区域にあっては、都)の委託を受けて行うし尿処理業その他政令で定める事業をいう。

    法第2条の政令で定める事業については、政令第1条に、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律第9条第1項の規定による市町村長(特別区の存する区域にあっては、都知事)の許可を受けて行うし尿浄化槽清掃業とする。」と、定められています。
    この法律が公布されたのは昭和50年5月23日ですから、廃棄物処理法では、施行規則第2条第2号に定めるところにより、「法第9条第1項の規定により市町村長の許可を受けたし尿浄化槽の清掃を業とする者がし尿浄化槽に係る汚泥の収集、運搬又は処分を業として行う場合」は、法第7条第1項の規定による市町村長の許可を要しないと定められていた当時のことです。
    ところが、その後、 昭和53年8月10日、厚生省令第51号による改正で、施行規則第2条の第2号が削除され、廃棄物処理法第9条第1項の規定により市町村長の許可を受けた者は、し尿浄化槽の清掃だけを業として行うことに改められ、し尿浄化槽の清掃に係る汚泥の収集、運搬又は処分を業として行うには、別に廃棄物処理法第7条第1項の規定による市町村長の許可を受けなければならないことになったのは、ご承知のとおりです。従って、廃棄物処理法第7条第1項の規定による市町村長の許可を受けてし尿浄化槽の清掃に係る汚泥の収集、運搬又は処分を業として行っている者については、合理化特別措置法の規定が適用されるのは当然のことですが、廃棄物処理法第9条第1項の規定による市町村長の許可だけを受けて、し尿浄化槽の清掃のみを業として行っている者については、合理化特別措置法の規定が適用されると解することに無理があると考えなければなりますまい。来年の10月1日からは浄化槽法が施行され、廃棄物処理法第9条の規定はなくなりますので、合理化特別措置法に基づく政、省令の規定のうち、廃棄物処理法第9条に関する事項は、いずれ改められなければならないわけです。

    (一般廃棄物処理業等についての合理化事業計画の承認)
    第3条|市町村は、当該市町村の区域に係る下水道の整備その他政令で定める事由によりその経営の基礎となる諸条件に著しい変化を生ずることとなる一般廃棄物処理業等について、その受ける著しい影響を緩和し、併せて経営の近代化及び規模の適正化を図るための事業(以下「合理化事業」という。)に関する計画(以下「合理化事業計画」という。)を定め、都道府県知事の承認を受けることができる。

    2|合理化事業計画は、下水道の整備等による一般廃棄物処理業等の経営の基礎となる諸条件の変化の見通しに関する事項、下水道の整備等に伴う一般廃棄物処理業等の事業の転換並びに経営の近代化及び規模の適正化に関する事項その他厚生省令で定める事項について定めるものとする。

    3|都道府県知事は、第1項の承認の申請があった場合において、その合理化事業計画が厚生省令で定める基準に適合していると認めるときは、同項の承認をするものとする。

    法第3条第1項の政令で定める事項については、政令第2条に、「し尿及びし尿浄化槽に係る汚泥の海洋投入処分に対する法令の規定による規則の強化とする。」と定められています。従って、この法律の適用を受けるのは、『下水道の整備』のためか、もしくは『し尿及びし尿浄化槽に係る汚泥の海洋投入処分に対する法令の規定による規則の強化』のために、業務の縮小又は廃止を余儀なくされる業者に限定されているわけです。

    (合理化事業計画の変更)
    第4条|市町村は、前条第1項の承認に係る合理化事業計画を変更しようとするときは、都道府県知事の承認を受けなければならない。
    2|前条第3項の規定は、前項の承認について準用する。

    (合理化事業の実施)
    第5条|市町村は 、合理化事業計画に基づき、合理化事業を実施するものとする。
    (市町村に対する資金の融通等)
    第6条|国は、市町村に対し、合理化事業計画に基づく合理化事業の実施に関し、必要な資金の融通又はあっせんその他の援助に努めるものとする。

    (事業の転換に関する計画の認定)
    第7条|一般廃棄物処理業等を行う者であって、合理化事業計画の定めるところにより事業の転換を行おうとするものは、その事業の転換に関する計画を市町村長に提出して、その計画が適当である旨の認定を受けることができる。
    2|前項に規定するもののほか、同項の認定及びその取消しに関し必要な事項は、厚生省令で定める。

    (認定を受けた者に対する金融上の措置)
    第8条|国又は地方公共団体は、前条第1項の認定を受けた一般廃棄物処理業等を行う者に対し、当該認定を受けた計画に従って事業の転換を行うのに必要な資金につき、金融上の措置を講ずるよう努めるものとする。

    (就職のあっせん等)
    第9条|国又は地方公共団体は、一般廃棄物処理業等を行う者が合理化事業計画の定めるところにより事業の転換等を行う場合においては、当該事業の従事者について、職業訓練の実施、就職のあっせんその他の措置を講ずるよう努めるものとする。

    このほか、第10条に、特別区の存する区域にこの法律の規定を適用する場合には、第2条を除き、「市町村」とあるのは「都」とし、「市町村長」とあるのは「都知事」とするという特別区に関する特例が設けられています。
  • 既に9年以上も前に、下水道の整備や、し尿及びし尿浄化槽に係る汚泥の海洋投入処分に対する法令の規定による規制の強化に伴って、業務の縮小又は廃止を余儀なくされる業者に対して、その受ける著しい影響を緩和するため、市町村は、合理化事業計画を定め、その計画に基づいて合理化事業を実施すること。国は、市町村に対して、そのために必要な資金の融通その他の援助に努めること。合理化事業計画に基づく事業転換計画の認定を受けた業者に対しては、国又は地方公共団体は、必要な資金についての金融上の措置を講じ、また、従事者については就職の斡旋その他の措置を講ずることなどが、ハッキリと規定してありますね。
  • そのとおりです。そして、その合理化特別措置法の施行に際して、当時の厚生事務次官は、昭和50年10月21日付厚生省環第676号・依命通知の中で、法制定の趣旨について、

    下水道の整備並びに海洋汚染防止法に基づくし尿及びし尿浄化槽汚泥の海洋投入処分に対する規制の強化は、環境の保全上緊急かつ重要な施策であるが、国及び地方公共団体におけるこのような施策の推進に伴い、市町村長の許可又は市町村の委託を受けてし尿の処理を業とする者及び市町村長の許可を受けてし尿浄化槽の清掃を業とする者が、その事業の転換、廃止等を余儀なくされる事態が生じてきている。
    しかし、これらの事業者が事業の転換、廃止等を行う場合、不要となる運搬車、運搬船等の設備及び器材を他に転用することは極めて困難であり、このため事業そのものの転換、廃止等も容易ではない実情にある。しかも、し尿の処理及びし尿浄化槽の清掃の適正な実施を確保するためには、これらの事業は、下水道の終末処理場によるし尿処理への転換が完了する直前まで、その全体の規模を縮小しつつも、継続して行われなければならない。また、海洋投入処分に対する規制の強化が実施されるときも同様である。
    このような事情にかんがみ、この際、市町村が合理化事業計画を定め、都道府県知事の承認を受けて合理化事業を実施することができることとし、また、転換計画を策定して市町村長の認定を受けた事業者に対し、国又は地方公共団体が金融上の措置を講ずるとともに、当該事業の従事者についての就職の斡旋等の措置を講ずるよう努めることとすることにより、これらの事業の業務の安定を保持するとともに、廃棄物の適正な処理に寄与せんとする趣旨のもとに本法が制定されたものである。

    と、述べています。
  • ところが、それにもかかわらず、合理化特別措置法が公布されて間もなく10年が経過しようとしているのに、この法律に基づく合理化事業計画を定めた市町村が絶無だというのは、どうしてでしょうか。
  • それには、それなりの理由があるからですよ。
  • さきほど、環境保全議員連盟の提案による合理化特別措置法の一部を改正する法律案が、次の国会で成立して、法第3条第2項の『適正化に関する事項』の次に、『下水道の整備等により業務の縮小又は廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業等を行う者に対する資金上の措置に関する事項』を加えることが出来たとしても、補償問題のすべてが解決できるとは考えられないと言われましたが、それも同じ理由によるものですか。
  • そうです。
  • 折角の重要な法律が生かされないのは、一体、どんな理由によるものでしょうか。
なぜ全国の市町村は合理化事業計画を定めないのか
  • 合理化特別措置法並びに同法の規定に基づく政令によれば、『市町村は、下水道の整備や、し尿及びし尿浄化槽に係る汚泥の海洋投入処分に対する法令の規定による規制の強化により、その経営の基礎となる諸条件に著しい変化を生ずることとなるし尿処理業並びにし尿浄化槽清掃業について、その受ける著しい影響を緩和し、併せて経営の近代化及び規模の適正化を図るための事業に関する計画を定め、都道府県知事の承認を受けることができる。』と、定められていますね。
  • はい。
  • つまり、合理化特別措置法は、市町村に対して、合理化事業計画を立てて合理化事業を実施しなければならないという義務を課してはいないわけです。
  • なるほど、合理化事業計画を立てるかどうかは、市町村の自由意志に任せているわけですね。
  • しかも、厚生省では、水道環境部で編集した≪廃棄物処理法の解説≫の中で、一般廃棄物処理業について、「下水道の供用開始等の事情により、許可を受けた者の従来の業務量が減少し、又は、許可に付された期限の到来のため再申請した者に対して市町村長が不許可処分を行ったとしても、当該市町村は、当該業者に対して何ら補償の責を負うものではない。」と。説明しているでしょう。
  • そうですね。
  • また、「従来法第7条第2項の許可を受けて一般廃棄物の収集、運搬又は処分を業としていた許可業者でも、その許可期限の満了時において市町村による収集、運搬又は処分が困難な場合でなければ、新たな許可を受けられなくなるが、許可の期限の満了の際に、許可の更新を受けることができなかったことについて、補償を請求するということはできない。」とも説明していますね。
  • はい。
  • 合理化特別措置法の規定は、市町村に合理化事業計画の策定を義務づけたものではなく、その上、厚生省が、下水道の整備等により業務の縮小又は廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業者に対して、市町村は何ら補償の責を負う必要はなく、業者は許可の期限の満了の際に許可の更新を受けることができなかったことについて補償を請求することは出来ないという行政指導を行っているわけですから、市町村の側では、何もわざわざ合理化事業計画を立てて知事の承認を受けるなどという面倒くさいことをしなくてもよいと考えるのは、至極当然のことじゃありませんか。
  • なるほど、そういうことになりますね。
損失補償に関する厚生省の前時代的な見解
  • それにしても、昭和50年には既に下水道の整備等に伴って業務の縮小又は廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業者等の救済に関して、特別の措置を講ずるための法律が制定されているというのに、どうして厚生省では、下水道の供用開始等の事情により業務の縮小又は廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業者に対して、市町村は何ら補償の責を負うものではないという見解をとっているのでしょうか。
  • どうも、清掃法当時からの前任者の見解を、そのまま踏襲しているみたいですね。
  • 厚生省では、清掃法当時からそんな見解をとっていたのですか。
  • そうです。そもそも厚生省の担当者が補償問題について正式に見解を表明したのは、昭和37年9月19日、厚生省環境衛生局長が、横浜市清掃局長の照会に対して、環発第358号をもって回答したのが最初です。
    環境衛生局長は、その回答の中で、
    「当該許可の効力は、これに附せられた期限、その他の附款によって制限されるものである。したがって、市町村長が、従来許可を与えてきた汚物取扱業者から、当該許可に附せられた期限に伴い、許可の更新の申請があった場合において、下水道の布設等による当該市町村の汚物処理計画の変更等の事情により、この申請を不許可とし、又は、当該汚物取扱業者に係る収集区域を従来よりも縮小して許可したとしても、当該市町村は、当該業者に対して、そのことについての補償の責を負うものではないと解すべきである。」
    と、述べています。
  • その考え方が、厚生省の担当者の間で、ずっと受け継がれてきているわけですね。
  • 昭和40年6月3日、法律第119号により清掃法第1次改正が行われましたが、当時の環境整備課長田中正一郎氏は、改正された清掃法の解釈運用について説明した著書≪清掃法の解説≫の中で、第15条の汚物取扱業について、
    「本条の許可は、前述のように制限された内容として与えられるものであるから、市町村長は、従来許可を与えてきた汚物取扱業者から、当該許可に附せられた期限の到来に伴い、許可の更新の申請があった場合において、下水道の布設等による当該市町村の汚物処理計画の変更等の事情により、この申請を不許可とし、または当該汚物取扱業者に係る収集区域を従来よりも縮小して許可したとしても、当該市町村は、当該業者に対して、そのことについて、事実上はともかく、法律上は当然に補償の責を負うものではないと解されている。」
    と、述べています。
  • 昭和37年9月19日付環発第358号の環境衛生局長の回答と同じ文句ですね。
  • 田中正一郎氏は、更に、その≪清掃法の解説≫の中で、
    「許可の期限の満了の際に、許可の更新を受けることができなかったことについて、公用収用に準ずる考えを導入して、法律上の補償を請求することはできないと解されている。」
    とも述べています。
  • 公用収用の場合は無償で収去できるというのは、明治憲法当時のことではありませんか。
  • そうですよ。現在の憲法のもとでは、公用使用または公用徴収については正当な補償をすべきであると定められています。
  • 無償収去を認めている例はないでしょう。
  • いや、あるにはありますが、僅かに、薬事法第69条第1項に定める『規定に触れる疑いのある医薬品、医薬部外品、化粧品若しくは医療用具等を、試験のため必要な最小分量に限り、収去させる場合』や、麻薬取締法第53条第1項に定める『試験のため必要な最小限度の分量に限り、麻薬、家庭麻薬若しくはこれらの疑いのある物を収去させる場合』、または、食品衛生法第17条第1項に定める『試験の用に供するのに必要な限度において、販売の用に供し、若しくは営業上使用する食品、添加物、器具若しくは容器包装を収去させる場合』など、警察作用としての財産権の侵害を認めている外は、刑法第19条に附加刑として没収の規定を設け、刑罰権による財産権の侵害を認めている例があるだけです。
  • 厚生省の担当課長が、一般廃棄物処理業者が、許可の期限の満了の際に、業者の責に帰すべき理由もないのに、市町村の計画変更に伴って許可の更新を受けることが出来なかったことについて、「公用収用に準ずる考えを導入して、法律上の補償を請求することはできない」と言うのは、独断による偏見としか評しようがなく、幸福追求に対する国民の権利を尊重し、私有財産は公共のために用いる場合も正当な補償がなされなければならないとする現在の憲法の精神を否定するものと云わねばなりませんね。
  • そのとおりだと思います。ところが、その後、清掃法を全面的に改正した廃棄物処理法が施行された機会に、環境整備課で編集した≪廃棄物処理法の解説≫の初版が発行されましたが、第7条の一般廃棄物処理業についての解説を見ますと、

    本条の許可は、前述のように制限された内容として与えられるものであるから、市町村長は、従来許可を与えてきた一般廃棄物処理業者から、当該許可に附せられた期限の到来に伴い、許可の更新の申請があった場合において、下水道の布設等による当該市町村の処理計画の変更等の事情により、この申請を不許可とし、または当該一般廃棄物処理業者に係る収集区域を従来よりも縮小して許可したとしても、当該市町村は、当該業者に対して、補償の責を負うものではない。

    許可の期限の満了の際に、許可の更新を受けることができなかったことについて、公用収用に準ずる考えを導入して、法律上の補償を請求することはできない。

    と、述べていまして、清掃法第1次改正当時に田中正一郎環境整備課長が書いた≪清掃法の解説≫の文句と全く同じであることがわかります。
  • ほんとうにそうですね。
  • 今でも、厚生省のこの見解は変わっておりません。今年の6月1日付で発行された水道環境部編集の《廃棄物処理法の解説》の第5版においても、

    本条の許可は、講学上の『特許』のように、申請者に特定の権利を付与するものではないため、下水道の供用開始等の事情により、許可を受けた者の従来の業務量が減少し、又は、許可に付された期限の到来のため再申請した者に対して市町村長が不許可処分を行ったとしても、当該市町村は、当該業者に対して何ら補償の責を負うものではない。

    許可の期限の満了の際に、許可の更新を受けることができなかったことについて、補償を請求するということはできない。

  • 今では「公用収用に準ずる考えを導入して」という文句は使っていないわけですね。
  • 昭和54年に発行した同書の第3版から「公用収用に準ずる考えを導入して」という文句を除くようになりましたが、その前後の文句は初版のそれと全く同じ文句で、公用収用の場合は無償収去できるものと錯覚しているとしか考えられません。
  • どうも、お役人の中には、一般廃棄物処理業についての認識が曖昧な人も少なくないようで、そんなことが影響しているのではないでしょうか。
  • そうですね。ここらで、一般廃棄物処理業の歴史をふりかえってみましょう。
    一般廃棄物処理業の歴史は決して新しいものではありません。農家が次第にし尿を肥料として使わないようになったことから、し尿を収集し、運搬し、これを処分する業者が現われるようになりました。それは、都会においては、清掃法が施行される以前からのことです。
    昭和29年7月1日から清掃法が施行され、市町村は、定められた地域内の土地又は建物の占有者によって集められた汚物を、一定の計画に従って収集し、これを処分しなければならないことが義務づけられ、直営事業として汚物を処理することが困難な市町村では、特定の業者に代行させることが認められ、市町村長の許可を受けた業者でなければ、定められた地域内の汚物の収集、運搬又は処分を業として行ってはならないこととされました。その後、法律の改正によって、汚物取扱業は一般廃棄物処理業と呼ばれることになりましたが、業務の内容に変化はなく、許可業者は、本来は市町村が処理すべき行政事務を代行する役目を果してきたわけです。
  • ところが、今でも、この仕事は、市町村長の許可を受けさえすれば、自由に営業できるものだと考えている人が少なくありませんよ。
  • とんでもないことです。一般廃棄物の処理業務は、市町村長の許可を受けさえすれば自由に営業できるという性質のものではありません。法の定めるところにより、市町村が定めた一定の処理計画に従って業務を行い、手数料は、市町村が条例で定めた金額で抑えられているのが実情です。
  • 今でもよく清掃法が施行された当時のことを思い出しますが、あの頃はし尿処理施設を設置している市町村は殆どありませんでした。当時からし尿やし尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の終末処理の責任は市町村にあることが法律に定められていたにもかかわらず、大半の市町村は、許可業者に終末処理の責任を転嫁し、業者に許可を与える際に、し尿等を処理するための貯溜槽を設けることや、海洋投入処分をするための排出船を用意することを条件としたものです。業者は、許可をしてもらいたい一心から、或いは土地を購入し、或いは借地し、ブルドーザーを使って貯溜槽を掘り、そこに至るまでの道路をつくり、それを修理しながら、又は、廃棄物排出船や、貯溜船、中継船などを買い入れ、桟橋をつくったりしながら、市町村が行うべき業務を代行してきました。それらは殆ど業者の自己負担で、そのための出費は決して少なくはありませんでした。
    許可には、たいてい1年の期限が付されていましたが、違法行為による処罰を受けない限り、許可の更新は受けられるものと考えるのが社会通念からみて妥当であり、実際年度替わりに許可の更新を受けるのが慣習となっていましたし、それだからこそ、業者は、少なからぬ出費にもかかわらず、バキュームカーを買い、貯溜槽をつくり、又は、排出船、貯溜船などを購入し、桟橋をつくり、作業員を雇い入れてやってきました。作業員にしても、人に嫌われる汚れ仕事ではありますが、永続性があると思えばこそ労務に服してこられたわけです。
    市町村長の許可を受けた業者の場合だけではありません。市町村の委託を受けた受託者にしても同じです。委託契約に期限の定めはありますが、契約に違反しない限り、契約は当然に更新されるものと考えるのが常識的ですし、それだからこそ、受託業務を遂行するに足りる施設や、人員や、財政的基礎を整えて、市町村の義務を代行してきたものです。
  • そうですね。
    ところで、廃棄物処理法の定めるところにより、一般廃棄物の収集、運搬及び処分は市町村が直営事業として行うべきものとされ、市町村による処理が困難な場合でなければ一般廃棄物処理業の許可をしてはならないことになっていますが、直営事業としてし尿等の収集、運搬及び処分を行ってきた市町村が、下水道の供用開始や、し尿等の収集、運搬業務の民間委託への切り替えなどの事情により、し尿等の収集、運搬業務に従事してきた職員を必要としなくなったときは、どうしますか。不要となった職員は、配置転換によって他の職場に移すでしょう。どうしても人員整理をしなければならなくなったときは、退職を勧奨することになりますが、退職させるに当たっては、定められたところに従って退職金を支給するじゃありませんか。しかも、市町村の一般廃棄物処理業務に従事する職員は、すべておしきせです。車両も、器具も、船舶も、その他の施設も、なに一つとして自費で購うものはありません。いわんや貯溜槽を自費で設置したこともなければ、貯溜槽に至るまでの道路を自腹で修理したことなどあろう筈もありません。
    それでも、地方公務員の場合は、市町村の一般廃棄物処理計画の変更に伴ってその職場がなくなれば、配置転換によって他の職場が与えられ、退職の余儀なきに至ったときは勧奨退職として退職金が割増しして支給されるのに、市町村に代わって多額の費用を負担し、自らの責任において業務を遂行するに足りる施設や人員を整備して、市町村に課されている義務を代行してきた業者に対しては、転廃業の余儀なきに至った場合、市町村は何ら補償の責を負うものではないという厚生省の見解が妥当であろう筈はありません。日本国憲法は、地方公務員だけがその恩恵に浴することができるもので、市町村の義務を代行してきた民間業者は恩恵に浴することができないというような、そんないい加減なものではありませんよ。
補償問題解決のために業界が今やらねばならないことは何か
  • 厚生省が、下水道の整備等により業務の縮小又は廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業者に対して、市町村は何ら補償の責を負うものではないという行政指導をしている以上、全国の市町村が、合理化特別措置法に基づく合理化事業計画を定めないのは、むしろ当然のことですね。
  • ですから、環境保全議員連盟の先生方のご尽力で、合理化特別措置法の一部が改正され、市町村が定める合理化事業計画の中に、資金上の措置に関する事項を加える規定が設けられたとしても、ただそれだけでは、全国の市町村が、こぞって今までの態度を改め、合理化事業計画を定めてそれに基づく合理化事業を実施するようになるとは、とても考えられませんよ。
  • そうですね。
  • 市町村が、改正法律に基づく合理化事業計画を定めようとせず、従って、合理化事業を実施しないとなれば、せっかく改正してもらった法律も、今までどおり休眠を余儀なくされる羽目とならざるを得ないでしょう。
  • そうなったら、環境保全議員連盟の先生方のご苦労が水泡に帰してしまいますし、清掃業者の間にふくらみかけている夢も正夢とはならずに潰れてしまうことになりますね。
  • そこで、そうならないためには、業界は今どうしたらよいかということを、真剣に考える必要があるわけです。
  • しかし、環境保全議員連盟代表世話人の安井謙先生は、日本環境保全協会の昭和59年度通常総会での挨拶の中で、「法案の内容については、もっとこうもしたい、ああもしたいという希望条件もないではありませんが、どれもこれも盛り込んで文句のないものというところまでは、今日の情勢上必ずしも行きません。」と、述べておられますし、業界でも、今度の法律改正で、これだけでも実現してもらえばいいじゃないかという声もあるようですが……。
  • 安井先生はじめ環境保全議員連盟の先生方は、厚生省が、『下水道の整備等により業務の縮小又は廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業者に対して、市町村は何ら補償の責を負う必要はない』という行政指導を行っていることなど、おそらくご存知ではありますまい。合理化特別措置法の一部を改正し、市町村が定める合理化事業計画の中に資金上の措置に関する事項を加える規定を設ければ、改正法律は直ちに生きた法律として効果を発揮するものと思いこんでおられるのでしょう。
  • そうかもしれませんね。
  • 業界の中に、今回は、合理化特別措置法改正検討小委員会で作成してもらった改正案が次の国会で成立すればよい、という意見があることは、私も承知しています。しかし考えてごらんなさい。合理化特別措置法が公布されたのは昭和50年5月のことですよ。折角の法律に基づく合理化事業を実施する市町村が全くないというので、日本環境保全協会の幹部諸君が中心となって法律改正の運動にとりくんでから何年になりますか。今度はこれくらいでよかろうなどと考えていると、現在用意されている改正案が次の国会で成立したら、とりあえず、それで一段落したものとして、ここ当分の間は、補償問題について手をつけてもらえなくなるおそれがありますよ。
  • そうかもしれませんね。次の法律改正には、また5年なり10年なりかかるものと考えなければならないでしょうね。
  • ところが、清掃業界の現実は、そんなにのんびり構えておれる余裕がありますか。
  • そんな余裕のない人たちが少なくありませんね。
  • それに、合理化特別措置法は、『下水道の整備』か、又は、『し尿及びし尿浄化槽に係る汚泥の海洋投入処分に対する法令の規定による規制の強化』のために、業務の縮小又は廃止を余儀なくされる業者を対象とするものですが、業者が業務の縮小又は廃止を余儀なくされるのは、下水道の整備や、海洋汚染防止法に基づくし尿及びし尿浄化槽汚泥の海洋投入処分に対する規制の強化だけにとどまるものではありませんね。
    たとえば、廃棄物処理法第7条第1項の規定による市町村長の許可を受けてし尿処理業に従事していたところ、市町村の方針が変わり、直営または委託方式によってし尿処理を行うようになったため、業務の廃止を余儀なくされる場合もあれば、既存の許可業者で十分にし尿及びし尿浄化槽汚泥の処理が行われているにもかかわらず、市町村長が恣意に新規の者に許可を与えたため、既存の許可業者の業務量が減少させられる場合もありましょう。また、廃棄物処理法第6条第3項の規定に基づく市町村の委託を受け、廃棄物廃出船に数億円の経費をかけて、し尿及びし尿浄化槽汚泥の海洋投入処分業に従事していたところ、市町村が処理施設をつくり陸上で処理することにしたため、業務の廃止を余儀なくされる場合もあるでしょう。
    これらは、いずれも市町村の一般廃棄物処理計画の変更によるものですが、下水道の整備や、海洋汚染防止法に基づくし尿及びし尿浄化槽汚泥の海洋投入処分に対する規制の強化のために不利益を蒙る業者を救済するのが道理であるとすれば、その外に、市町村の一般廃棄物処理計画の変更によって不利益を蒙る業者に対して救済の手を差しのべるのも、同じく道理というものでありましょう。その当然の道理を廃棄物処理法の条文の上に明文化すること、これが、業界が今やらねばならない大切なことです。
  • それには厚生省の補償問題についての見解を改めてもらう必要がありますが、なかなか容易なことではないでしょうね。
  • 置いたものをとるようなわけにはいきますまいが、合理化特別措置法という法律が既に公布されているじゃありませんか。その合理化特別措置法の制定の趣旨を、廃棄物処理法の条文の中に生かすことだと考えればよいわけで、決して無茶な注文ではない筈ですよ。
  • それにしても、運動を進めるには、全国の業者が一致協力せねばなりませんね。
  • 勿論です。
  • ところが、この業界は、なかなかまとまりませんからね。
  • 差し迫った問題がなかった頃は、まとまりが悪くても、なんとかやってこれましたが、情勢が逼迫してくると、各個バラバラに勝手なことを云っている暇なんかありませんよ。業界共通の問題である補償問題の解決には、業界のすべての団体が結束して当るべきですし、どうやらその気運が高まってきていますよ。
  • 大同団結するのが無理なら、連合体組織をつくってやればいいですね。
  • 私は、特に若い人たちに期待しています。最近、若い人たちの間で全国清掃青年会議所でもつくったらという声が出ていますが、その若い力が今の業界には必要です。

次号では、損失補償の法律上の根拠や、補償の基準などについて検討する予定です。