清研時報

1985年1月号

不見識な行政指導が混乱を助長した静岡県大井川地区1市9町のし尿浄化槽清掃業新規許 可申請問題
  1. 組織内のいざこざに便乗した許可申請
  2. 日本環境保全協会の対応
  3. 対応に苦慮する関係市町の担当者たち
  4. 県の対応指導が紛争を助長
  5. 因をなした厚生省の過去の無定見な行政指導
  6. 県の指導に抗議して遂にハンストを決行
  7. 法の目的に反した結果を招く行政行為は違法と知れ
組織内のいざこざに便乗した許可申請
  • 静岡県大井川地区で発生したし尿浄化槽清掃業の新規許可申請をめぐる紛争は、ずいぶん長引いているようですね。
  • そのため、担当課長の中にはノイローゼ気味になった人も居るそうですよ。
  • 騒動に巻き込まれているのは、島田市と、榛原郡8か町、南の方から御前崎町、相良町、榛原町、吉田町、金谷町、川根町、中川根町、本川根町、それに志太郡岡部町を加えた1市9町ですね。
  • そうです。
  • 許可申請が出たのは、3月でしたね。
  • ええ。最初に許可申請が出たのは吉田町で、3月2日のことです。続いて9日に金谷町と岡部町、12日に御前崎町、相良町、川根町、中川根町、本川根町、19日に榛原町、最後が島田市で3月23日に申請しています。
  • 申請したのは、柴山清子という女性ですね。
  • そうです。個人名義で申請しています。
  • その柴山清子という女性は、日本環境保全協会の浄化槽法対策特別委員長で、環境保全協会静岡県連合会の会長をしている服部和彦さんの会社の事務員だというじゃありませんか。
  • 許可申請書には、59年2月10日に、服部氏が社長をしている東海衛生(株)を退社したと書いているそうですよ。
  • ほんとに退社したのでしょうか。
  • まだ退社していないという云う人も居ますが、そんなことは調べればすぐわかることです。
  • そうですね。社会保険料や、所得税、市民税などの納入はどうなっているかなどを調べたら、2月10日に退社したというのが本当か嘘かわかりますが、もし、本当でないとしたら、申請書に虚偽の記載をしたことになりますね。
  • そういうことになりますね。
  • 申請書に虚偽の記載をするような者に許可を与えるわけにはいかないでしょう。
  • それは、市長さんや町長さんが判断して決められることですよ。しかし、すくなくとも、申請書に虚偽の記載をするような者は、その業務に関してどんな不誠実な行為をするかわからないと考えるのが当然でしょうね。
  • ところで、あなたは、この新規許可申請問題で、服部さんと話し合われたことがあるそうですね。
  • ええ、7月10日、島田市阿知ケ谷清掃センターに島田市の環境衛生課長を訪ねた際、たまたま服部氏が3人の女性を伴って入って来まして、その中の1人が柴山清子氏だということでしたが、偶然の機会でした。
  • どんな話をしたのですか。
  • ちょうどよい機会だと思ったので、日本環境保全協会では、今年も通常総会で、新規許可の阻止を運動目標の1つとして決議しており、あなたは、その日本環境保全協会で浄化槽法対策特別委員長をつとめている人物だ。そのあなたが新規許可申請をするというのはおかしいじゃないか、とたしなめたら、「うちの女の子がやっている。」ということでした。そこで、従業員がやっているのなら何故とめないのか、と云ったところ、「無理に押えれば憲法第22条違反になる。」と云っていました。
  • 憲法違反ですか。
  • 憲法第22条に、「何人も、職業選択の自由を有する。」と定めてあると云いたかったのでしょう。しかし、憲法に定める“基本的人権の制限"については、2月に発行した《清研時報》第3号の6項以下で詳しく説明しておいたので、服部氏がよく読んでいればわかっていなければなりませんが、憲法第22条第1項には、「公共の福祉に反しない限り」という条件がついているんですよ。その条件がついているからこそ、廃棄物処理法で、市町村長の許可を受けなければ、し尿浄化槽清掃業や一般廃棄物処理業を自由に営業することは出来ないと規定しても、憲法違反にはならないわけです。
  • 編集部には、大井川地区のし尿浄化槽清掃業新規許可申請問題に関連して、服部さんがあちこちに書き送った書類の写しが10通あまりありますが、その中の1通に、「申請は、うちの女の子がやっている。それは、うちにいて、清水市で3社、函南町で1社などの新規許可を見て、ノウハウを覚えてやりたくなったのだろう。今までは押えていたが、大井川ブロックの背信行為を見て、それに服部が怒っているのを見て、今がチャンスと思ったのだろう。」と書いたのがあります。大井川支部から取り寄せた資料と照合してみたのですが、服部さんがいう大井川ブロックの背信行為というのは、大井川支部の10名の会員のうち1名を除く全員が、服部さんの方針についてゆけないというので、環境保全協会静岡県連合会を脱退したことを云っているようですね。
  • 要するに組織内のごたごたですよ。
  • 服部さんが云っている、清水市や函南町で新規許可が出たというのは、昭和53年8月10日、厚生省令第51号により規則第2条の第2号が削除される以前のことで、法第9条の許可を受けた業者は、し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集、運搬を行うについて、法第7条の許可を受けなくて もよいとされていた当時のことで、7、8年も前のことですよ。
  • そうだそうですね。
  • そうしますと、その頃からチャンスを狙っていて、大井川支部の県連脱退という内紛に便乗して許可申請をしたということになりますね。
  • 服部氏が自分でそう云っているのですから、それに違いないでしょう。
  • 服部さんが書いた書類を見ますと、まるで服部さん自身が申請者であるかのような書きぶりですが……。
  • 私がお会いした関係市町の担当者たちも、ほとんど、服部氏が柴山清子名義で申請されたものと受け取っているような感じでしたよ。
  • 服部さんのホームグラウンドの静岡市では下水道の整備がすすめられているようですから、他の市町村へ進出したいという願いもありましょうね。
  • そう見ている人も居るようです。
日本環境保全協会の対応
  • 組織内のごたごたを契機にして新規許可申請問題が発生し、紛争が続いているわけですが、日本環境保全協会では、このことを知らない筈はありませんね。
  • 大井川支部では、5月9日付で、この件に関する陳情書を小林会長宛に提出し、6月26日には、青島久雄、山本重平、山村康夫3氏が、日本環境保全協会の事務所を訪ね、小林会長、宇田川会長代行、三浦常務理事、西原事務局長と会い、次の文書を提出して陳情しています。

    お願い

    会長様をはじめ役員の皆様方には日頃から業界の発展と会員の地位向上に御尽力を頂いており、心から感謝申し上げております。また、此の度の問題では大変な御面倒をおかけしており、申し訳なく思っております。5月9日に陳情書を提出し御報告致しました通り、日環協本部副会長であり、また浄化槽法対策特別委員長である服部和彦氏が、本部の大方針である新規許可反対に叛き、従業員柴山清子名儀を使って静岡県大井川支部の1市8町に対して浄化槽清掃業新規許可申請を提出しています。各市町当局においては、今回の申請を許可すれば、他の業者の追随を招くとして、今のところ申請書を放置して、服部氏の取下げを待っている状況にあります。此の度の許可申請問題は私たち静岡県大井川支部の県連退会を期に始まったもので、これまでの服部氏の許可申請の経過を要約しますと、次の通りです。(略)また、市町当局、支部員に対する発言内容を要約すると、次の通りです。

    1. 許可申請は取り下げない。
    2. 許可は必ず出る。また、必ず取る。万一不許可になった場合には、その他の業者にも云って次々に許可申請を出させる。
    3. 反対運動などせず、おとなしくしていれば、許可を取っても実害を与えない。
    4. 大量のビラをまき、値下げ競争に訴える。
    5. 9条の許可は必ず下りるから仕事をする。その結果、汚泥が放置されても、汚泥の収集、運搬は市町の責任においてやるべきものだから、責任は市町にあり、文句が出たら7条の許可申請書を出す。

    服部氏は、現在なお許可申請書類の整備を進め、各町に事務所開設の準備を進めています。このような状況の下において許可申請書提出から既に4か月が経っているため、ある町では、このまま放置できないとして差し迫った状況に置かれています。万一許可されますと、他業者も許可申請をねらっているところから、全国的な問題に発展することは明らかであります。日環協本部におかれましては今回の状況をよく調査して頂きまして、日環協の方針に基づく解決の道を探して頂きますようにお願い申し上げます。

    これが、そのときの陳情の要旨です。
  • その陳情に対して、日本環境保全協会では、どんな対応をしたのですか。
  • 大井川支部の6月29日付の議事録の写しによれば、小林会長は、「総務委員会を開き、会長も加わって協議する。総務委員会は、北海道連合会の大会が終った後、7月中旬に開催する。」と約束したそうです。
  • 総務委員会は開催されたのですか。
  • 7月24日に開催されました。しかし、この件については何も協議されていません。
  • どうしてですか。
  • なんでも、服部氏が、日本環境保全協会に対して、静岡県連合会の規約により、県連を脱退したものは自動的に日本環境保全協会の会員の資格を失うことになっていると申し出たため、大井川支部の諸君は非協会員の扱いを受け、総務委員会で審議することをやめたということです。
  • そうですか。……でも、日本環境保全協会大井川支部は、他の静岡支部や、清水支部、伊豆支部と同じように、直接本部に加入して、後で4つの支部が静岡県連合会を組織したのではありませんか。
  • そうだそうですね。4月24日付の大井川支部ニュース6号でも、「他県の組織は県単位で本部に加盟しているが、静岡県連合会は特異の組織形態である。」と述べた上で、「服部氏が、県連合会を退会したら、本部へも退会届を出せと迫っているが、そのような規約は見たことはない。」と云っていますよ。
  • 服部さんが云うように、県連を脱退したものは本部会員の資格を失うことになっているのなら、何も本部へ退会届を出せと迫る必要はありませんね。どちらの言い分が本当か知りませんが、業者は、こんな問題がおきたときに力を貸してもらいたいからこそ全国的な組織に加盟しているのですから、なんとか力になってもらいたいものですね。
対応に苦慮する関係市町の担当者たち
  • 1市9町の担当課長さんや助役さんたちは、対応に苦慮しておられるようですね。
  • ひんぱんに課長会議や助役会を開いて検討を重ねておられますが、残念なことに、申請者が許可要件に適合しているかどうかという肝心な点の調査が後まわしにされた観があるようです。
  • はじめのうちは、服部さんと大井川支部の皆さんが和解して、許可申請を取り下げてくれることを期待しておられたようですね。
  • そうです。それが出来れば一件落着ですからね。助役会では、県の機関である志太榛原振興センターの相馬久雄所長と諏訪安弘次長に和解の斡旋を依頼し、相馬所長と諏訪次長はこれを受けて斡旋に乗り出したのですが、不調に終わりました。
  • どうして不調に終ったのでしょうか。
  • 大井川支部では、諏訪次長の呼びかけに応じて
    1. 青島、山本の両名が正副支部長を引退する代わりに、服部氏についている酒井氏も引退すること。
    2. 柴山清子氏が許可申請を取り下げたら、県連に復帰すること。
    3. 以上2点の条件で和解ができるのであれば、柴山氏のこれまでの経費等に充てるため、合計100万円ぐらいは支払ってもよいこと。
    という提案を行ったのですが、服部氏の方が和解に応ずる気配を示さなかったため、相馬所長、諏訪次長も和解の斡旋をやめ、この件から手を引いてしまいました。
  • 服部さんが諏訪次長に送った8月3日付の手紙の写しを見ますと、ずいぶん強いことを云っていますから、これではとても無理だと判断されたのでしょうね。
  • 諏訪次長は、9月3日、大井川支部の青島支部長に、和解の斡旋をやめる旨の連絡をするとともに、同日、志太榛原振興センターで開催した助役会で、
    1. 組合内部の紛争については、今後一切関知しないこと。
    2. 申請書に、汚泥の収集、運搬を法第7条の許可業者が引き受けるという承諾書を添付させること。
    3. 申請者が提出した書類について汚泥が放置されるおそれがあるかどうかを判断し、処分を決めること。
    などを申し合わせた旨を知らせています。
  • 各町の助役さんたちも、服部さんの執念がわかったのですね。
  • そこで、関係市町では、その申し合わせの線に沿って、9月下旬、申請者に対して、「許可申請書の添付書類中、汚泥の収集、運搬及び処分方法の欄で、既存の第7条の許可業者に依頼するとあるが、第7条の許可業者の承諾書を提出されたい。」という趣旨の文書を送付しました。
  • 申請者の方では困ったでしょうね。
  • 困ったかどうか知りませんが、申請者は、各業者宛に内容証明書を郵送し、役場から送られてきた文書の写しと往復ハガキを同封し、返信用のハガキに、

    御不用の方を御消し下さい。
    汚泥運搬の件 承諾しました。
    汚泥運搬の件 拒否します。

    と記載して、回答を求めてきました。
  • 内容証明郵便でそんなものを送りつけてくるというのは、穏やかではありませんね。そんなことをしたのでは、承諾書を出すような人は居ないでしょう。
  • ところが、最近になって、3人だけは承諾書を出したそうですよ。
  • なんでそんなことをしたのでしょうかね。承諾書を出すということは、新規許可に同意することを意味するじゃありませんか。
  • どうやら、服部氏に逆らわないでおけば、許可が出ても、自分のところだけは荒らされないで済むだろうと考えているようですよ。
  • そんな馬鹿な……。法第7条の許可業者が汚泥の収集、運搬を引き受けないところでは、汚泥がその場に放置されることになり、申請者は、法第9条第2項第2号に規定する法第7条第2項第4号ハに掲げる者に該当するので、市町村長は許可を与えることは出来ないことになっていますし、法第7条の許可業者が汚泥の処理を引き受ける旨の承諾書を出したところにだけ許可が出るおそれがあるのですから、荒らされずに済むわけはないじゃありませんか。
  • ところが、関係市町の担当者たちの間で、県の環境衛生課が、汚泥を放置するかどうかは、やってみなければわからない。申請者がその業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあるということを理由にして不許可処分にすることは出来ない。もし不許可処分にした場合、訴えられたら必ず敗訴すると云うので、裁判沙汰になるのを避けるためにも許可を出さざるを得ないだろうという意向が強くなってきたと伝えられたため、許可は出るものと諦めて、どうせ許可が出るものなら、服部氏に逆らわないでいた方が無難だろうと考えたようですよ。
  • そうでしょうか。
  • おそらく、夜の目も寝ずに考えたことでしょう。弱い立場の人たちだけに、その弱気を一概に責めるわけにもいきますまい。
県の対応指導が紛争を助長
  • そう云えば、服部さんが7月11日に県庁で信沢環境衛生課長、興津環境施設係長と会ったときの対談の模様を伝えた書類の中で、興津係長が、
    「……おそれがあるもの……というのは、法律の慣用句だ。」
    「たとえば、人相が悪いので泥棒をしそうだ、などと云えないのと同じだ。」
    と答えた、と書いていますが、静岡県の環境衛生課では、そんな考え方に基づいて指導しているのですか。
  • 私が7月10日に信沢課長、興津係長を訪ねたときには、そんな話は出ませんでしたが、その月の26日に県の環境衛生課に関係市町の担当課長を集めた席で、
    「申請者がその業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあるという理由で不許可処分にすることは出来ない。もし不許可にした場合、訴えられたら必ず敗訴する。許可を与えて、不正又は不誠実な行為をしたときに許可を取り消せばよい。」
    という趣旨の指導をしたという話を聞きました。その後、紛争の渦中にある某町を訪ねたとき、そこの課長さんも、県の指導がそうだから困ると云っていましたよ。
  • おかしな話ですね。し尿浄化槽清掃業の不許可処分の取消しを求めた訴訟事件については、《清研時報》でも、4号から6号まで3回に分けて、行政側の勝因と敗因を解剖してもらいましたが、行政側が敗訴したのは何れも誤った主張をしたためで、主張を誤らなかったところでは勝訴しているじゃありませんか。
  • そうですよ。
  • 裁判記録を十分に調べもせずに、行政側が敗訴した裁判の結果だけを見て、不許可処分にしたら裁判で必ず負けるぞと指導するなんて、無責任すぎますよ。負けたところもあれば勝ったところもあるのですから、敗因と勝因について検討した上で発言する慎重さが欲しいですね。
  • そうするのが責任ある行政指導というものです。
  • それに、申請者がその業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあるという理由で不許可処分にすることは出来ないというのは、法第9条第2項第2号において準用する法第7条第2項第4号ハの規定をまるで無視してしまった意見ではありませんか。
  • 県の担当者にあるまじき意見といわねばなりません。昭和51年、法律第68号により廃棄物処理法の一部が改正され、一般廃棄物処理業及びし尿浄化槽清掃業の許可の適正化を図るため、許可基準が整備されるに至った経緯が、まるでわかっていないようです。廃棄物処理法では、はじめ、第9条第2項に「市町村長は、前項の許可を受けようとする者が厚生省令で定める技術上の基準に適合する設備、器材及び能力を有すると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。」と定めていました。
    ところが、この条文を曲解して、「申請者が厚生省令で定める技術上の基準に適合する施設及び能力を有すると認めるときは、同項の許可をしなければならない」ものと解釈する傾向が見られるようになり、市町村の実情の如何にかかわうらず、申請者に対しては、人数に制限なく許可を与えねばならないとする意見が出はじめ、各地で許可申請をめぐる紛争が発生するようになったため、これじゃいけない、市町村長は、法の目的とそれぞれの市町村の実情に照らして、申請者に許可を与えるか否かを判断し、決めるべきものだということを明確にする必要があるというので、昭和51年6月16日、法律第68号により、廃棄物処理法の一部を改正し、し尿浄化槽清掃業については、従来の許可要件の外に、
    1. 廃棄物処理法又は廃棄物処理法に基づく処分に違反して罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者
    2. 一般廃棄物処理業、し尿浄化槽清掃業、産業廃棄物処理業のいずれかの許可を取消され、その取消しの日から2年を経過しない者
    3. その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者については、許可をしてはならない
    という規定が加えられることになったものです。この法律改正のいきさつを無視することは出来ません。
  • そうですね。その業務に関して不正な行為をした場合に許可を取消せばよいというのなら、何も法律を改正しなくても、以前からその罰則はありましたからね。
  • 法律の条文をどのように解釈したらよいかを考えるときには、その法律の目的を達成するためにはどうしたらよいかということを基準にして判断したらいいんですよ。それでもわからないときは、判例に学べばよい。根拠のない自分勝手な解釈をしてはいけません。
    旅券法に、「外務大臣において、著しく且つ直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に対しては、旅券を発給しないことができるという規定がありますが、この規定に基づき、日本国の利益を害するおそれがあるという判断によって旅券の発給を拒否されたために損害を蒙ったとして提訴した事件の上告審で、最高裁判所大法廷は、昭和33年9月10日、上告代理人の「海外渡航の自由は、仮に公共の福祉による制約をうけるものであるとしても、その基準は明白かつ現在の危険を防止するために具体的に明示されねばならない。」という主張に対して、

    日本国の利益又は公安を害する行為を将来行うおそれある場合においても、なおかつその自由を制限する必要のある場合のありうることは明らかであるから、同条をことさら所論のごとく『明白かつ現在の危険がある』場合に限ると解すべき理由はない。

    と判示しています。この判例は、現在その危険がある場合に限らず、将来危険な行為を行うおそれがあると認める場合においても、行政庁の判断で処分を決めることが出来るものであることを明らかにしたものです。
    廃棄物処理法が、「市町村長は、申請者がその業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるときは、許可をしてはならない。」と規定しているのも、許可をしてしまった後で、公共の福祉を害する行為をしたのを確認した上で処罰したのでは遅すぎるからですよ。
  • その道理が、どうして静岡県の課長さんや係長さんに理解できないのでしょうかね。
  • それは、厚生省の過去の行政指導に原因があるんですよ。
因をなした厚生省の過去の無定見な行政指導
  • し尿浄化槽清掃業の許可に関する厚生省環境整備課の解説の無定見さについては《清研時報》の創刊号でも指摘しておられましたね。
  • 私だって憎まれ口をたたきたくはありませんよ。しかし、市町村の担当者たちは都道府県の指導に従い、都道府県の担当者たちは厚生省の指導に従う。これは当然のことですが、この当然のことに慣れすぎて、誤った指導にも盲従する癖がついています。なかには、これはおかしいと思うようなことがあっても、黙って従っていた方が無難だと考えるのが役所勤めをしている人たちの一般的な処世術です。それだけに、厚生省が指導を誤れば、全国に弊害が及びます。言いたくはないけど言わねばならぬのは、そのためですよ。
  • そうですね、厚生省の担当の人たちといえども神様ではありませんからね、法令の解釈を誤ることが無いとは云えませんよ。そんなときには注意する必要がありましょう。
  • 法律の専門家である裁判官の判断にだって誤りがないとは云えません。3人の裁判官が合議して下した第1審の判決が控訴審でくつがえされたり、第1審、第2審の判決が最高裁で違法とされる例もありますからね。
  • 厚生省の担当者が示した判断が必ずしも絶対ではあり得ないのもやむを得ませんね。
  • ですから、その指導のすべてに盲従してはいけません。厚生省がし尿浄化槽清掃業の許可について公けにしてきた解説を見れば、無批判に盲従できないわけがわかる筈です。廃棄物処理法が施行されて間もなく、昭和47年4月20日に、環境整備課の全員の協力によって発行された《廃棄物処理法の解説》の初版では、「し尿浄化槽清掃業の許可はき束裁量に属する行政処分である。行政行為は、すべて法規に基づき法規にしたがってなされるのであるが、その法規によるき束の程度、態様は画一的ではない。一般に、自由裁量行為は、行政庁に一定範囲の自由裁量を認めてなされる行為であり、き束裁量行為は、行政庁に裁量の余地のない行為であるとされているが、両者は本質的に異なるものではなく、いずれも、ある程度に法規のき束を受け、反面、ある程度の裁量が認められるのであって、両者の差異は究極的には程度の差であるというのが通説である。」と、田中二郎博士をはじめ多くの行政法学者の共通の意見を付記して、し尿浄化槽清掃業の許可は、ある程度に法規のき束を受けるが、その反面、市長村長にある程度の裁量が認められるものだと説明していました。
  • 田中二郎博士というのは、東大法学部長から最高裁判所の判事となった方で、行政法学の権威として自他ともに許した人ですね。
  • そうです。……ところが、前に述べたように、昭和51年、法律第68号により廃棄物処理法の一部が改正され、一般廃棄物処理業とともに、し尿浄化槽清掃業についても許可の適正化を図るため、「申請者がその業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」などについては許可をしてはならないという欠格条項が設けられ、許可基準が整備されたにもかわらず、それから2年ばかり経って、昭和54年3月31日に発行された《廃棄物処理法の解説》の第3版では、第9条のし尿浄化槽清掃業について、「本条第1項に基づく許可申請を行った者が本条第2項に適合している場合には、市長村長は必ず許可しなければならない。本条の許可は、法第7条の一般廃棄物処理業に係る許可と比較して、市長村長の裁量の幅が狭いものとなっている。」という解説に変わりました。
    その当時、私は、あちこちで、これはどういう意味かとよく聞かれましたよ。申請者が法第9条第2項に適合している場合は市長村長は必ず許可しなければならぬというなら、市長村長に裁量の余地は全くないことになる。市長村長に裁量の余地は全くないといいながら、法第9条の許可は一般廃棄物処理業の許可に比べて市町村長の裁量の幅が狭いものとなっているとして、その幅は狭いながらも裁量の余地があることを認めている。この矛盾した解説をどう判断したらよいのですかという質問でした。
    その後、法律の改正は行われなかったのですが、昭和56年12月20日に発行された《廃棄物処理法の解説》の第4版では、第9条の許可について、「法第7条の一般廃棄物処理業に係る許可が市町村長の裁量の幅の広い許可であるのに対し、本条第1項に基づく許可申請を行った者が本条第2項に適合している場合には、市長村長は必ず許可しなければならない。」と述べて、市長村長に裁量の余地は全くないかのような見解を示すに至りました。そして、し尿浄化槽清掃業の許可は、市長村長に、その幅は狭いながらも裁量の余地があることを認めていた従来の解説を、何故に変更したかについては一言半句もふれておりません。今年の6月1日に発行された同書の第5版でも同じです。都道府県の担当者や、市町村の担当者が迷うのも無理からぬことです。
  • 私はいつも不思議に思っているのですが、法第9条第2項の規定は、「市長村長は、前項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ同項の許可をしてはならない。」という条文であって、「次の各号に適合していると認めるときは同項の許可をしなければならない。」という条文ではないじゃありませんか。
  • そうですよ。
  • 仮に、「次の各号に適合していると認めるときは同項の許可をしなければならない。」という条文であったとして、申請者が第2号において準用する法第7条第2項第4号ハに該当するかどうかの判断は、誰がするんですか。
  • 市長村長ですよ。
  • だったら、市長村長が、申請者はその業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると判断した場合は、第2号に適合していないわけですから、それでも許可しなければならぬことにはならないじゃありませんか。
  • そのとおりですよ。厚生省でも、昭和54年8月1日付環整第87号で、神奈川県環境部長からの照会に対する環境整備課長の同日付環整第86号回答を各都道府県・各政令市廃棄物行政主管部(局)長あてに通知した中で、「申請者がし尿浄化槽の清掃の終了にあたって、当該し尿浄化槽の清掃の結果引き抜かれた汚でいをその場に放置する等『環境衛生上不適切な行為をするおそれがある場合』にあっては、当該申請者は、法第9条第2項第2号に規定する法第7条第2項第4号ハに掲げる者に該当するので、市長村長は許可を与えることはできない。」と、ハッキリ指示しているんですよ。
  • それじゃ、静岡県の係長さんが、「そのおそれがあるということを理由にして不許可処分にすることは出来ない。」と云うのは、おかしいじゃありませんか。
  • ところが、厚生省の以前の担当者が、全国の都道府県の担当課長を集めた席で、そう受け取れるような説明をしたことがあるというんですよ。
  • おかしな話ですね。その昭和54年8月1日付環整第86号回答の内容は、その後取消されてはいないでしょう。
  • ええ、取消された事実はありません。
  • それなのに、どうして都道府県の担当者を迷わすような指導をしたのでしょうかね。
県の指導に抗議して遂にハンストを決行
  • それにしても、許可申請書が提出されてから相当期間が経ちますね。
  • 3月以来ですからね。その間、服部氏は、まだかまだかと執拗に督促してくるし、県からは、法第9条については許可せざるを得ない。もし不許可にして裁判沙汰になったら必ず負けるぞと云われるし、だからといって許可をしてしまったら、現在せっかく円滑に業務が行われているのに、競合による弊害が生じ、手抜き作業や不法投棄による生活環境の悪化を招くに違いあるまいし、これを取締ることは殆んど不可能なことであり、どうしたらよいものかと思い悩んで、担当課長の中に、ノイローゼ気味になった人が居たとしても不思議ではありません。
  • 市町村の担当者たちは、直接その苦しみを味わう立場にありますからね。実務に疎く、机上でモノを考えるだけの厚生省や都道府県の関係者たちは、行政の第一線で働く人たちの苦しみはわかりますまい。
  • いま紛争の渦中にある大井川地区1市9町の殆んどが、それぞれ業者を指定して区域を分担させたり、1町1社、または、2か町で1社、3か町で1社を指定して、第7条と第9条の許可を与えているのは、清掃法以来、複数の業者による競合の弊害に悩まされた体験を経て、ようやくつくり上げたシステムです。すぐ近くの焼津市が、し尿及びし尿浄化槽汚泥の収集、運搬、処分だけでなく、し尿浄化槽の清掃を自ら直営事業として行い、業者に許可を与えていないのも、焼津市が、法の目的と焼津市の実情に照らし最良の方法として選んだシステムにほかなりません。
    そうした市町村の事情にはお構いなしに、第9条については申請者の施設や能力が許可要件に適合しておれば必ず許可しなければならぬと指導する。厚生省や県に対して逆らえない立場にある市町の担当者が悩むのも無理からぬことです。
  • はじめのうちは許可すべきでないと云っていた関係市町の担当者たちの間に、許可しなければなるまいという空気が出てきたのは、そのためですね。
  • そうです。そこで、11月12日、大井川地区の既存業者を代表して、青島久雄、山本重平氏ら5名が上京し、厚生省に加藤三郎環境整備課長を訪ねて実情を訴え、県に対して指導をしていただきたいと陳情したわけです。
  • そのときの陳情には、あなたも立ち合われたのですね。
  • ええ。その前日、電話で、厚生省の課長さんを紹介してくれと頼まれたものですから。
  • 加藤課長さんのご意見は、どんな内容だったのでしょうか。
  • この件については初耳で、静岡県からも関係市町からも何も聞いていない。私だけでなく、環境整備課の者は誰も聞いていない筈だ。従って、どうしたらよいと即答することは出来ないが、許可をするかしないかを決めるのは市や町であって、厚生省や県ではない。市や町の実情によって、現在の許可業者で円滑に業務が実施されているところでは新たに許可を出す必要はないだろうし、現在の許可業者で困っているようなところでは新規に許可を出す必要もあるだろう。ともかく県や関係市町から事情を聞いてみようということでした。
  • そのほかには、何か……。
  • 県側が、汚泥をその場に放置するおそれがあるかどうかということは、やってみなければわからないとして、そのおそれがあるからという理由で不許可にすることは出来ないと云っていることにふれて、昭和54年8月10日付環整第86号、神奈川県環境部長からの照会に対する環境整備課長の回答のコピーを示し、「申請者がし尿浄化槽の清掃の終了にあたって、当該し尿浄化槽の清掃の結果引き抜かれた汚泥をその場に放置する等『環境衛生上不適切な行為をするおそれがある場合』にあっては、当該申請者は、法第9条第2項第2号に規定する法第7条第2項第4号ハに掲げる者に該当するので、市長村長は許可を与えることはできない。」と指示しているが、これは如何ですかと質問したところ、「当然のことだ。」という回答でした。
  • 加藤課長は、10月8日に代わられて以来、浄化槽法に基づく政令・省令の草案づくりや、保守点検を業とする者についての都道府県条例のサンプルづくりなどに取り組まれてし尿浄化槽清掃業についても相当の知識を持っておられた筈ですね。
  • そうですよ。最近はとかく法律の文句をああでもないこうでもないとひねくり廻して無理にこじつけたような感じの説明が多すぎただけに、久しぶりに率直、明快な意見を聞いて、胸のつかえがとれたような気がしましたよ。
  • 大井川地区の業者の皆さんも喜んだでしょうね。
  • ええ、愁眉をひらいて帰って行きましたよ。
  • それがどうして、ハンストをしなければならないことになったのですか。
  • 青島氏らは、早速13日に関係市町を廻り、厚生省に陳情に行ったことを報告するとともに、近く厚生省で事情を聴取した上で然るべき指導がある筈だから、それまでは処分を決めるのを待ってもらいたいと陳情し、14日には県庁へ行き、信沢課長、興津係長の両氏に会い、厚生省の加藤課長に陳情した内容について説明したところ、両氏は、「加藤課長は新任で、まだよく理解しておられないのだ」として、
    1. 厚生省と県の考えは以前と変わらない。
    2. 法第9条の許可は、市町村の実情の如何にかかわらず、申請者が施設及び能力を有しているときは必ず許可をしなければならない。
    3. 汚泥を放置するかどうかは、やらせてみなければわからない。過去においてそのようなことをしたことがあればともかく、そうでもないのに、そのおそれがあるということを理由に不許可にすることは出来ない。
    4. 明15日、関係市町の担当課長を集め、以上の線に沿って行政指導をするつもりである。
    5. 明後16日、厚生省に行く予定があるので、環境整備課に立ち寄り、また、前任者にも会うようにしよう。
    と、明日には、関係市町の担当課長に対して、許可すべき旨の行政指導をすることを予告したため、青島、山本両氏は、もはや非常手段に訴えるほかはないと決意するに至ったようです。
  • 大井川地区の業者は、すべて法第9条の許可だけでなく、し尿汲み取りのための法第7条の許可も持っているのですから、やろうと思えば、ハンストでなくて、し尿の汲み取り業務をやめるストライキだって出来たのでしょう。
  • 青島氏の息子さんから、電話で、11月15日9時35分から県庁正面玄関前で青島、山本両氏がハンストに入ったという知らせがありましたが、青島、山本両氏は、県の指導を改めてもらうことが目的だから、住民に迷惑をかけるようなことは決してしてはならぬということで、ハンストを選んだのだと言っていましたよ。
  • そうですか。……ところで、結果はどうなりましたか。
  • 県では、予定どおり15日に関係市町の担当課長を集めたものの、思いもかけぬハンスト騒ぎとなったため、興津係長が16日に厚生省に行き、加藤課長に会ってきた上で県の方針を決めるということで散会し、16日には、信沢課長が、青島氏らに、話し合いに応ずるからストをやめてくれと申し入れてきました。業者側の主張は決まっているのだから、県側の態度が今までと変わらないのであれば話し合っても無駄であると拒否したところ、別の角度から話し合うようにすると約束したため、一応、県の意向を汲み、中断する形で、当日18時17分にストを中止しました。
  • 別の角度からの話し合いは、どうなりましたか。
  • 11月19日16時から行われた県と青島氏らとの話し合いで、県側は変化を見せ、
    1. 昭和54年8月1日付環整第86号、環境整備課長回答のただし書きについてはこれを認める。
    2. 許可をするかしないかを決めるのは市町村長であるから、汚泥を放置するおそれがあるかどうかの判断は市長村長がすべきである。
    という見解を明らかにしたそうです。
  • 青島、山本両氏が、若い人を使わず、自らハンストを敢行したわけですが、無駄ではなかったようですね。
法の目的に反した結果を招く行政行為は違法と知れ
  • 法第9条第2項の規定によれば、申請者が、
    1. し尿浄化槽の機能点検を行うに適する器具を所有していない者
    2. し尿浄化槽の清掃を行うに適する器具を所有していない者
    3. 汚泥の引出しに適するバキュームカーなどを所有していない者
    4. し尿浄化槽の機能点検及び清掃に関する専門的知識及び技能を有する者を養成する講習として厚生大臣の認定した課程を修了していない者
    5. し尿浄化槽の清掃について相当の実務経験を有していない者
    6. 廃棄物処理法又は廃棄物処理法に基づく処分に違反して罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者
    7. 一般廃棄物処理業、し尿浄化槽清掃業、産業廃棄物処理業のいずれかの許可を取消され、その取消しの日から2年を経過しない者
    8. その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者
    以上のうち、どれか1つにでも該当しているときは、市長村長は許可をしてはならないと定められていますが、大井川地区の市や町では、申請者がこれらの要件に適合しているかどうかを調べた上で、許可するかしないかを決めれば、なにも騒ぎになるところはなかったのですよ。
  • そうですね。4月15日付の大井川支部ニュース3号に、「新明和水中ポンプCVS40Sについて新明和KKに問い合わせたところ、浄化槽の汚泥、スカムの汲み出しは無理であるとの回答でした。」と報じていますが、申請者が、汚泥の引出しのための自吸式ポンプとして新明和水中ポンプCVS40Sを使用するというのであれば、この水中ポンプは浄化槽の汚泥、スカムの引出しには適しないというのですから、明らかに規則第6条第3号で定める要件に欠けるものと云わねばなりませんね。
  • 申請書に水中ポンプを記載しているとすれば、バキュームカーを所有していないからでしょうが、仮にバキュームカーを所有しているとしても、申請者は1市9町に対して同時に許可申請をしていますので、1台や2台のバキュームカーでは足りますまい。A町の汚泥をB町の処理施設に投入するおそれもありましょうし、その町で使用する車輌の登録番号を明らかにしておく必要がありましょう。
  • 申請者は服部さんの会社の従業員ということですが、し尿浄化槽の清掃について相当の実務経験を積んでいるのでしょうか。大分県臼杵市の訴訟事件では、申請者はし尿浄化槽の販売などもしている人物でしたが、裁判所は、し尿浄化槽の据付けに立会った程度では、清掃の実務に携わったと認めることは出来ないと判示していますから、申請者が事務をとっていたのであれば、清掃の実務の経験を積んだことにならないのは当然ですね。また、1市9町の広い範囲で業務を行うには、専門的知識及び技能を有する相当の実務経験者も1人や2人では足りますまい。
  • そればかりではありません。1市9町の業者11名のうち清掃にかかる汚泥の収集、運搬を引き受けてもよいと承諾したのは3名だけですから、他の8名が業務を行っている地区では、清掃の結果引き抜かれた汚泥はその場に放置されることになります。これは、やってみなければわからないというようなものではありません。まさに昭和54年8月1日付環整第86号回答にいう「申請者がし尿浄化槽の清掃の終了に当って、当該し尿浄化槽の清掃の結果引き抜かれた汚泥をその場に放置する」ことになり、「法第9条第2項第2号に規定する法第7条第2項第4号ハに掲げる者に該当する」ものとして、市長村長は許可を与えることは出来ないものです。関係市町の担当課長さんたちは、何も迷うことはない。冷静に、法令に準拠して処理すればいいんですよ。
  • しかし、不許可処分にしたら訴えるぞと云われると、やはり心配になるのでしょうね。
  • 訴訟沙汰は出来るだけ避けたいというのが人情です。しかし、訴訟沙汰になることを恐れるあまり、許可の要件に欠ける者に許可を与えるような違法な行政行為をすることは許されません。法規に基づき法規に従った処置をして、それで訴えられたら、法規に準拠した処置である所以を明らかにすれば、敗訴することはありませんよ。
  • 申請者が許可要件に欠けているにもかかわらず許可をするようなことがあれば、大変なことになりますね。
  • 次から次に申請してくる者にすべて許可を与えねばならないことになり、曽てそうであったように、複数の業者による競合の弊害を招くのは必至です。
  • 手数料を値下げしての得意の奪い合いは、必ず手抜き作業となり、不法投棄を招くことになりますからね。
  • そればかりではありませんよ。えてして業者は複数にした方がサービスがよくなると考えられ勝ちですが、とんでもないことです。複数の業者を認めるということは、業者と住民の自由契約を認めるということです。契約は自由ですから、手数料を払いたくない住民はどの業者とも契約せずに5年も6年も清掃しないまま使用することになります。業者たちは互いに競争相手で、業者間の協調は望めませんし、保健所の人手も十分ではないので、どの住民が清掃しないまま使用しているかをチェックすることは殆ど不可能です。手抜き作業どころか、まるで作業しない浄化槽から浄化されないままの排水が放流されることになります。こんな危険なことはありません。
  • そうですね。
  • 昭和52年の夏、佐賀県三養基郡基山町で、小学校のし尿浄化槽の維持管理の手抜きから、486名にのぼる流行性肝炎患者を出すという事件が発生しました。町側は、すったもんだの末、救済金名儀で約5000万円を患者側に支給して解決しようとしたところ、470余名の人たちはその金を受取りましたが、15名は、救済してもらう筋合いのものではなく、町当局はその責任を認めて損害を賠償すべきであるとして提訴し、佐賀地方裁判所は、去る10月3日、15名のうち大人1名、子供13名の計14名について、その主張を全面的に認め、請求額どおり798万9000余円の賠償金の支払いを命ずる判決をしました。
    この基山町の流行性肝炎集団発生事件と時を同じくして、和歌山県有田市ではコレラの多発事件が発生し、真性23名、疑似18名の患者を出しましたが、現地調査に当った当時の国立予防衛生研究所長福見秀雄氏は、「初発患者の家には浄化槽があり、患者の水様便が流水と共に下水に入り、それが患者多発につながった可能性を否定することはできない」との見解を発表するとともに、「わが国は、コレラの常在地を持った国々との交流が激しく、患者のみならず、健康保菌者、軽症感染者によるコレラ感染の持ち込みも当然考えなければならない。」と警告しています。
    清掃業者の競合による手抜き作業などが原因となって、このように流行性肝炎患者が集団発生したり、コレラなどの伝染病患者が多発したとしても、厚生省や県は責任をとってはくれません。責任を負わねばならぬのは市や町です。このことを忘れてはなりますまい。ともあれ、大井川地区関係市町担当者の良識ある処置に期待しましょう。

編集局から お困りのことがありましたらご相談下さい。一緒に解決に努力しましょう。