1985年5月号
- 浄化槽の汚泥を処理するための廃棄物処理法第7条の許可について
- き束裁量行為と判示した静岡地裁 福岡地裁は自由裁量行為と判示
-
- し尿浄化槽の清掃とそのし尿浄化槽の清掃に当たって引き抜く汚泥の運搬を併せて行うために、廃棄物処理法第 9 条と第7条の許可申請をして、不許可処分に付された者が提訴していた『し尿浄化槽清掃業及び一般廃棄物処理業不許可処分取消請求事件』で、静岡地方裁判所と福岡高等裁判所が、内容の違った判決を出しているという話を聞きましたが…。
- そうですね。静岡地方裁判所の判決内容と、福岡高等裁判所の判決内容とでは、まるで反対ですよ。
- 判決の時期は、いつだったのでしょうか。
- 静岡地方裁判所で扱った事件は昭和56年春の不許可処分に関するもので、昭和59年4月26日に判決が言渡され、福岡高等裁判所で扱った事件も同じく昭和56年春の不許可処分に関するもので、第1審の判決が昭和57年12月21日に、第2審の判決が昭和59年5月16日に言渡されています。
- それでは、どちらも、廃棄物処理法や廃棄物処理法に基づく政令、省令は全く同じ条文のもとで審理されたわけですね。
- そうですよ。
- それで判決内容がまるで正反対というのは信じられませんが、いったい、どのように違っているのですか。
- 静岡地方裁判所の判決は、静岡県南伊豆町長が有限会社栄共メンテナンス(代表者・菱沼聖)に対してなしたし尿浄化槽清掃業許可申請及び一般廃棄物処理業許可申請に対する各不許可処分は違法であるから、いずれも不許可処分を取り消す、という内容です。
福岡高等裁判所の判決は、福岡県添田町外3ケ町村清掃施設組合組合長、同県川崎町長、同県田川市長が、それぞれ小峠富生に対してなした一般廃棄物処理業及びし尿浄化槽清掃業許可申請に対する不許可処分について、一般廃棄物処理業の不許可処分は適法であるとして小峠富生の請求を棄却し、し尿浄化槽清掃業の不許可処分は違法であるとして不許可処分を取り消す決定をした福岡地方裁判所の判決について、小峠富生及び添田町外3ケ町村清掃施設組合組合長、川崎町長、田川市長が、いずれも敗訴部分の取り消しを求めたのに対し、福岡地方裁判所の判決は相当であって、各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却する、という内容です。 - なるほど、まるで反対ですね。し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集、運搬をするための一般廃棄物処理業の許可について、静岡地方裁判所の判例によれば、不許可処分にすることは違法だということになり、福岡高等裁判所の判例によれば、不許可処分にしても違法ではないということになりますね。
- そうです。
- どうして、そんな違った判決が出たのでしょうか。
- おそらく、静岡地方裁判所や福岡高等裁判所で事件の審理に当たった裁判官たちは、廃棄物処理法に第9条のし尿浄化槽清掃業の規定が設けられたいきさつや、昭和53年厚生省令第51号により法施行規則第2条第2号が改正され、し尿浄化槽の清掃とその清掃にかかる汚泥の収集、運搬を併せて行おうとする者は、法第9条の許可と併せて法第7条の許可を要することとなったいきさつ等を十分には理解しないまま、し尿浄化槽の清掃とその清掃にかかる汚泥の処理についても、その業務の実態がどうなっているかについては十分には認識しないまま、結論を出したのでしょうね。
- しかし、し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集、運搬を行うための許可申請を不許可にした場合、違法として取り消しを命じた裁判所もあれば、適法として認めた裁判所もあるというのでは、市町村の担当者も迷ってしまいますよ。
- そうですね。し尿浄化槽清掃業の許可申請に対する不許可処分は違法であるとした福岡高等裁判所の判定については、添田町外3ケ町村清掃施設組合組合長と川崎町長が連名で、田川市長は単独で、それぞれ上告し、最高裁判所で審理されることになっていますのでその問題はしばらく措くことにして、ここでは、し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集、運搬を行うための許可申請に対する不許可処分を違法であるとした静岡地方裁判所の判決理由について、妥当であるかどうかを検討することにしましょう。
- 静岡地裁で審理された南伊豆町の訴訟事件のあらまし
-
- 南伊豆町というのは伊豆半島の南の端の町ですね。
- そうです。人口1万1,500人足らず、世帯数およそ3,470、浄化槽が1,000基足らずという小さな町です。
- そんな小さな町で訴訟事件が起ったのですか。
- ここでは、株式会社辻村衛生社が、し尿浄化槽の清掃とその清掃にかかる汚泥の収集、運搬を1社で行っていたのですが、昭和56年4月7日、南伊豆興業有限会社がし尿浄化槽清掃業の許可申請と、し尿浄化槽の清掃により引き抜く汚泥の収集、運搬を事業の範囲とする一般廃棄物処理業の許可申請をして、いずれも許可を与えられ、その3日後の同月10日に有限会社栄共メンテナンスが同様の許可申請をしたところ、不許可処分となったため、それを不服として提訴したものです。
- 南伊豆興業有限会社に許可を与えたので、それで処理計画の実施は十分であり、有限会社栄共メンテナンスに対してまで許可を与える必要はない、と判断したのですね。
- ところが、南伊豆興業有限会社は、許可を受けた当時、バキュームカーを1台も持っていなかったそうですよ。
- それじゃ施設も備えていないのに許可を与えたのですか、明らかな法令違反ですね。
- 南伊豆町長が、有限会社栄共メンテナンスに対して、「2業者が許可済みであり、株式会社辻村衛生社のバキュームカー4台と南伊豆興業有限会社のバキュームカー2台で処理は困難であると思料されない」という理由で不許可処分にしたのが昭和56年4月27日です。ところが、南伊豆興業有限会社が2台のバキュームカーを購入したのは同年6月、業務を始めたのは7月になってからだったということです。
- そんな事情があったのでは、有限会社栄共メンテナンスが不許可処分に付されて、黙って引き下る筈がありませんね。訴訟に踏みきったのも、うなずけますよ。
- それだけではありません。南伊豆興業有限会社では、その年の9月に同社の監査役が、翌10月には南伊豆町役場の観光課長でもあった同社代表取締役の実弟が、有限会社栄共メンテナンスの当時の代表取締役に対して、代金2,500万円で南伊豆興業有限会社を買い取ってくれないかと申し入れてきた事実があるということですし、事実、その後、他に会社を売却してしまったそうです。
- 南伊豆町長は、それを放置したのですか。
- 放置したままで、なんらの措置もとらなかったようです。
- 会社を買い取って営業している人については、町長がそれを認めているかぎり、とがめ立てするところはありませんが、施設も備えていないような会社に許可を与え、その営業許可を利権として他に売却しても、何らの措置もとらずに放置していたということは、営業の許可を利権として他に売却することを認めたことになるのじゃありませんか。
- そういうことになるでしょうね。
- 静岡地方裁判所では、南伊豆町長が、施設も備えておらず、営業の許可を利権として他に売却するために設立したような南伊豆興業有限会社には許可を与え、3日おくれて申請した有限会社栄共メンテナンスに対しては許可を与えなかったことについて、裁量権の範囲を超えた違法があると判断したのでしょうね。
- ところが、静岡地方裁判所が、南伊豆町長の有限会社栄共メンテナンス(原告)に対するし尿浄化槽清掃業及び一般廃棄物処理業の不許可処分を取り消す決定をした理由はそうじゃないんですよ。
- 静岡地裁が不許可処分を取消した理由
-
- 南伊豆町長は、静岡地方裁判所の判決を受けて、控訴することを諦め、有限会社栄共メンテナンス(原告)に対して、し尿浄化槽清掃業及びし尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集、運搬を事業の範囲とする一般廃棄物処理業の許可を与えて、事件は落着したわけですが、静岡地方裁判所の判定には、重大な法令違背が認められますので、黙って見のがすわけにはまいりません。
ここでは、し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集、運搬を事業の範囲とする一般廃棄物処理業の許可に関する分について、裁判所が示した判決理由を紹介し、その法令違背について検討することにしましょう。
- 南伊豆町長は、静岡地方裁判所の判決を受けて、控訴することを諦め、有限会社栄共メンテナンス(原告)に対して、し尿浄化槽清掃業及びし尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集、運搬を事業の範囲とする一般廃棄物処理業の許可を与えて、事件は落着したわけですが、静岡地方裁判所の判定には、重大な法令違背が認められますので、黙って見のがすわけにはまいりません。
- (1)裁判所が示した判決理由の要点
-
一、被告(南伊豆町長)のし尿浄化槽清掃業及び浄化槽汚泥収集、運搬業許可状況
- ≪証拠略≫によれば、以下の事実が認められる。
- 被告は、浄化槽汚泥収集、運搬業務については、自らはそのための設備を有さず、全てを業者に法第7条の許可を与えて行わせ、これを被告が構成員となっている一部事務組合の南伊豆衛生プラントに搬入させ処分している。
- 昭和55年度までは被告の法第7条の許可業者は辻村衛生社のみであったが、昭和56年4月7日に南伊豆興業にも右許可を与えてからはこの2業者が右業務を行っている。右2業者はいずれも、被告から法第9条のし尿浄化槽清掃業の許可も受けており、各自の浄化槽清掃業務にかかる浄化槽汚泥は、自ら収集、運搬している。
- 被告は昭和56年度の一般廃棄物処理計画において、浄化槽汚泥の排出量を年間1700キロリットルと想定し、これを辻村衛生社及び南伊豆興業の許可業者2社が6台のバキュームカーで収集、運搬するものと定めていた。
- 被告の右計画区域内において発生した浄化槽汚泥の量は、昭和55年度には、約1734キロリットル、昭和56年度には、約2686キロリットルであった。右量は、右2業者で収集、運搬することが可能であった。
二、法第9条の許可の性質について
- 法第9条は、し尿浄化槽の普及により、その清掃等が不適切になされた場合環境汚染問題を発生させるおそれが生じるに至ったことから、生活環境の保全及び公衆衛生の向上という公益実現のため、し尿浄化槽清掃業につき一定の規制を定めたものである。法は一般廃棄物処理業務については、第6条第1、2項において、市町村は一般廃棄物の処理計画を定め、これに従って自らその収集、運搬及び処分を行うよう規定し、第7条第1項、第2項第1、2号において、市町村による処理が困難な場合に限り右計画に適合する範囲で私人に許可を与え一般廃棄物処理業を行わせることとし、同条第3項において、右許可に際しては一般廃棄物の収集を行うことができる区域を定めうるものとした。
これに対し、し尿浄化槽清掃業務については、右とは別個に第9条の規定を置き、同条第1、2項において、同業務を行うには市町村長の許可を要すること及び右許可のための必要条件を定めているが、第6条第1、2項、第7条第2項第1、2号に対応する規定はなく、許可に際し営業区域を制限できる旨の規定も置かれていない。右からすれば、法は一般廃棄物処理業務については、その役務の提供に関し行政主体が積極的に介入して統制を行い、提供される役務の質的量的水準の確保をはかることにより、前記公益の実現をはかることとし、そのために、これを市町村の業務と定め、市町村が自らこれを遂行するのが困難な場合に限り私人に許可を与えてこれを代行させることとしたものと解される。
他方、し尿浄化槽清掃業務については、その業務内容からみて右のような統制の制度を定める必要までは認めず、複数の業者による競争は容認し、一定の技術上の基準に適合する設備及び能力を有し、かつ業務の遂行について不正を行うおそれのない者に限り営業の許可を与えることによりその適正な遂行を担保して前記公益の実現をはかることとしたものと解するのが相当である。 - 法第9条の許可の性質を右のように解する以上、法第9条の申請が同条第2項に適合している場合には、市長村長はこれを許可しなければならないものと解すべきである。よって、被告の「法第9条第2項は許可に必要な条件を規定するのみであり、申請が同項各号に適合していた場合に当然に許可を与えるべき旨規定されてはいない。市長村長は、右許可につき裁量権を有し、申請が右各要件を充足する場合においても、これに許可を与えないこともできるものと解すべきだ。」という主張は失当である。
三、し尿浄化槽清掃業と浄化槽汚泥収集、運搬業との関係
- し尿浄化槽を清掃すれば、必然的に浄化槽汚泥を引き抜くこととなるから、し尿浄化槽清掃業を行うについては、当該業務にかかる浄化槽汚泥のの収集、運搬についても方策を講じる必要があることは明らかである。
- 廃棄物処理法施行規則は、昭和53年厚生省令第51号により改正する前、第2条において「法第7条第1項の規定による厚生省令で定める場合は、次のとおりとする。」として、第2号に「法第9条第1項の許可を受けた者がし尿浄化槽に係る汚泥の収集、運搬または処分を業として行う場合」と規定し、第6条において「法第9条第2項第 1号の規定による厚生省令で定める技術上の基準に適合する施設及び能力は次のとおりとする。」として、第3号に「バキューム式の汚泥収集運搬車」と規定していた。よって、右改正前は法及び規則上、し尿浄化槽清掃業務と当該業務にかかる浄化槽汚泥の収集、運搬は一体の業務と把握され、法第9条の許可を受けてし尿浄化槽清掃業を行う者は、法第7条の許可を受けることなく浄化槽汚泥の収集、運搬をなし得ただけでなく、右収集、運搬のための設備を具備し自らこれを行うことを要求されていたものと解される。
- しかし、し尿浄化槽が一般家庭に普及したことに伴い、浄化槽汚泥の処理が市町村の一般廃棄物処理事業中に占める割合が増大したため、し尿浄化槽清掃業の許可を得た者による浄化槽汚泥の収集、運搬または処分についても市町村の処理計画との整合性を図る必要を生じるに至ったため、廃棄物処理法施行規則の一部を改正する省令により(昭和53年厚生省令第51号)、規則が改正され、第2条第2号が削除され、し尿浄化槽清掃業の許可を得た者が浄化槽汚泥の収集、運搬または処分を行うについても、これを事業の範囲とする法第 7 条の許可を要することとなり、また、第6条第3号が「自吸式ポンプその他汚泥の引き出しに適する器具」と改められ、浄化槽汚泥の収集、運搬のための設備の具備は法第9条の許可の要件ではなくなった。よって今後は、法令上、し尿浄化槽清掃業と右業務にかかる浄化槽汚泥の収集、運搬業とは、形式的には別個の許可制度の規制に服する独立した業務として取り扱われることになり、し尿浄化槽清掃業者は、浄化槽汚泥の収集、運搬を自らは全く行わずに他の業者にまかせることも可能になったものと解される。
- しかし、浄化槽汚泥の収集、運搬だけを別に他の業者にまかせるという方法をとることによりし尿浄化槽清掃業を行う者が営業上かなりの制約を受けることは明らかである。そして、≪証拠略≫によれば、右規則改正後においても、し尿浄化槽清掃業者は、浄化槽汚泥を引き抜くためにバキュームカーを使用し、その収集、運搬業務まで併せて行っているのが通例であり、浄化槽汚泥を他の方法で引き抜いたり、その収集、運搬を他の業者にまかせたりすると採算がとれないことが認められる。したがって前記規則改正後においても、現実的には、し尿浄化槽清掃業を行おうとする者は、法第7条の許可も得て浄化槽汚泥収集、運搬業も併せて行う必要があるものといえる。
さらに、本件においては、被告の前記計画区域内の浄化槽汚泥の処理体制は前記認定のとおりであるから、原告が浄化槽汚泥の収集、運搬だけを別に他の業者にまかせるという方法でし尿浄化槽清掃業を行うとすれば、原告はその競業者の立場にある前記2業者らにこれをまかせざるをえないということになってしまうが、これはこのような方法でし尿浄化槽清掃業を行うことは現実には不可能に近いといえるから、原告としては浄化槽汚泥の収集、運搬業の許可も併せて取得しないと、事実上、し尿浄化槽清掃業を行うことができない状況にあると認められる。
四、本件各処分の適否
- 被告は、本件7条申請について、浄化槽汚泥収集、運搬業務は既に許可ずみの2業者で処理できるから、これを許可すべき必要性はなく、よって同申請に対しては不許可処分が相当であるとし、これを前提にして、本件9条申請について、原告が本件7条申請について不許可とされたことのみを以って、原告がし尿浄化槽清掃業を行った場合、浄化槽汚泥をその場に放置するおそれがあるものと認め、よって原告は法第9条第2項第2号に規定する法第7条第2項第4号ハに掲げる者に該当するから、同申請も不許可とされるべき旨主張するものである。
-
- 法第7条の許可の前記性質からすれば、ある廃棄物の処理について法第7条の許可の申請がなされた場合、市町村長は、当時の処理計画に基づき当該廃棄物が困難なく処理されている以上、従前の処理計画を変更してこれに対し許可を与えるか、従前の処理計画を維持してこれを不許可にするかについて広汎な裁量権を有するから、後者に対して右申請を不許可としても、原則として違法ではないと解される。
- しかし、浄化槽汚泥収集、運搬を事業の範囲とする法第7条の許可については、同業務が前記のとおり、異なった法理に基づく別個の許可制度の規制下に置かれているし尿浄化槽清掃業と事実上密接な関係を有することから、右両業務の許可申請が併せてなされた場合、両申請に対して整合的な処分をなすべきであると解されるので、法第7条の許可に関する前記裁量権の範囲はその限りで制約されるものと解すべきである。
- 本件のように浄化槽汚泥の収集、運搬を自ら併せて行わないかぎり、事実上し尿浄化槽清掃業を行うことができない状況にある場合、浄化槽汚泥収集、運搬業の許可につき前記(1)のような裁量権が認められるとすると、法第7条の許可の法理によりし尿浄化槽清掃業を規制するのと同一の結果をもたらしてしまうことになって、し尿浄化槽清掃業について特に法第9条の許可制度を定めた趣旨が没却されることになる。しかも、浄化槽汚泥の収集、運搬は、し尿浄化槽清掃業務の付随的業務であるから、これに対する裁量権の行使により主たる業務であるし尿浄化槽清掃業について別個に定められている規制内容を実質的に変更する結果を招来させるのは相当でない。また、浄化槽汚泥の収集、運搬は本来、市町村が責務を負う業務であるから、市町村は、し尿浄化槽清掃業の許可をなす際には、右許可を得た者が将来引き抜くこととなる浄化槽汚泥について、自らあるいは法第7条の許可を通じてこれを遅滞なく処理し得る体制を整備すべき責務を負うものである。
- したがって、法第 7条及び第9条を整合的に解釈すれば、市町村長は、し尿浄化槽清掃業の許可申請と併せて当該業務にかかる浄化槽汚泥の収集、運搬業の許可申請を受けた場合、浄化槽汚泥収集、運搬業務についてこれを併せて行わなくてもし尿浄化槽清掃業を行うについて支障がないだけの処理体制が整備されていない以上は、従前の処理計画により浄化槽汚泥収集、運搬業務が支障なく処理されていることだけを理由として浄化槽汚泥収集、運搬業の許可申請を不許可とすることはできず、同申請が法第7条第2項第3、第4号の要件を充足し、かつ、し尿浄化槽清掃業の許可申請も、許可要件を充足している場合には、両申請を併せて許可し、浄化槽汚泥に関する処理計画をこれに合わせて変更しなければならないものと解すべきである。なお、この場合、し尿浄化槽清掃業の許可申請については、浄化槽汚泥収集、運搬業の許可申請が右要件を充たしている以上、浄化槽汚泥の収集、運搬については、確実な方策が存在するものとして許可要件の判断がなされるべきである。
- よって、本件においては、前記のとおり、本件7条申請は本件9条申請と併せてなされ、また原告がし尿浄化槽清掃業を行うためには浄化槽汚泥の収集、運搬業務も併せて行わざるを得ない状況にあったから、被告の主張する前記申請却下の理由は本件7条申請の不許可理由とはなし得ないものである。そうだとすれば、本件7条申請に対する不許可処分は、法第7条の許容しない考慮に基づいてなされたものであるから、同法条により被告に付与された裁量権の範囲を逸脱してなされた違法な処分といわざるを得ない。そして、本件9条申請に対する不許可処分は、前記のとおり本件7条申請について許可を得られないことが法第9条第2項第2号所定の欠格要件に該当するとしてなされたもので、本件7条申請に対する不許可処分が適法であることを前提としているから、右のとおり本件7条申請に対する不許可処分が違法として取り消される以上、処分の理由となった欠格要件の認定に誤りのある違法な処分であるということになる。
- (2)判決理由に見る重大な法令違背
-
- 要するに、静岡地方裁判所の判決は、し尿浄化槽清掃業の許可申請と併せてそのし尿浄化槽の汚泥を収集、運搬するための一般廃棄物処理業の許可申請が出たら、市町村長は、必ず両方とも許可しなければならないというものですね。
- そうです。もっとも、し尿浄化槽の清掃に当たって引き抜く汚泥を、市町村が自ら又は一般廃棄物処理業者によって遅滞なく処理する体制が整備されておれば別だと、ことわってはいますがね…。
- そう云えば、判決理由の中で、「浄化槽汚泥の収集、運搬は本来、市町村が責務を負う業務であるから、市町村は、し尿浄化槽清掃業の許可をなす際には、右許可を得た者が将来引き抜くこととなる浄化槽汚泥について、自らあるいは法第7条の許可を通じてこれを遅滞無く処理し得る体制を整備すべき責務を負うものである。」と、述べていますね。
- ええ。
- また、「従前の処理計画により浄化槽汚泥収集、運搬業務が支障なく処理されていることだけを理由として浄化槽汚泥収集、運搬業の許可申請を不許可とすることはできず、同申請が法第7条第2項第3、第4号の要件を充足し、かつ、し尿浄化槽清掃業の許可申請も許可要件を充足している場合には、両申請を併せて許可し、浄化槽汚泥に関する処理計画をこれに合わせて変更しなければならないものと解すべきである。」という判断も示していますね。
- そうです。
- こんな判決を全国の市町村の担当者たちが真(ま)に受けたら、とんでもないことになりますよ。
- 真(ま)に受けようにも、受けられますか。し尿浄化槽の清掃とその清掃にかかる汚泥の収集、運搬を併せて行おうとする者から法第9条と法第7条の許可の申請があったら、次から次に、両申請を併せて許可をし、その都度、それに合わせてし尿浄化槽汚泥の処理計画を変更しなければならないと云っても、おいそれと計画を変更することは出来ますまい。
- そんなことは出来ませんよ。廃棄物処理業務の実態を知らないからこそ、そんなことが云えるのでしょうね。
- 廃棄物処理に関する法令も十分に理解されていないからですよ。
- 困りますね。裁判官は、廃棄物処理法の目的と廃棄物処理業務の実態に照らして、生活環境を清潔にするにはどうしたらよいか、公衆衛生の向上を図るにはどうしたらよいかという観点から、もっと慎重に審理を尽くしてもらいたいものですね。
- 「主張なければ斟酌(しんしゃく)せず」というのが現在の民事訴訟の大原則です。廃棄物処理法に関する訴訟事件はめったにないだけに、廃棄物処理法関係の事件を扱った経験のある弁護士や裁判官は少ないものと思われます。従って、市町村の担当者たちは、弁護士に必要な資料を提供し、肝心な点を十分に主張してもらうように心がけることが大切です。この裁判でも、そうしておれば、違った判決が出ていたでしょう。
- 全国の市町村の担当者たちや、し尿浄化槽清掃業を始めようと考えている人たちを迷わせないためにも、この判決が法令の解釈を誤っている点を明らかにする必要があると思いますが…。
- そうですね。このままにしていたのでは迷う人たちも居るでしょうから、気付いた点を述べることにしましょう。
第一に、廃棄物処理法にし尿浄化槽清掃業の規定が設けられた経緯や、その後、し尿浄化槽清掃業務に関する法律や省令の一部が改正された理由が理解されていません。市町村は、その処理区域内のし尿浄化槽に生ずる汚泥の処理について、汲み取り便所のし尿の処理とともに、一定の計画を定め、その計画に従って、生活環境の保全上支障が生じないうちにこれを収集し、運搬し、処分しなければならない義務を負うものでありますが、し尿浄化槽に生ずる汚泥を収集する作業は、汲み取り便所のし尿を汲み取るのとは違って、専門的な知識、技能および相当の経験を必要とする附属機器の点検、槽内単位装置の掃除ならびに種(たね)汚泥の調整作業などと一体的に実施しなければならない性質のものであるため、清掃法当時から市町村が自ら直営事業として定常的に行うことは困難な業務として扱われ、汚物取扱業―現行法でいう一般廃棄物処理業のライセンスを持ち、かつ、厚生省令に基づく『管理技術者』の資格を有する者に限って業務を行わせてきたものです。
廃棄物処理法の制定に当たり、市町村の固有事務である汲み取り便所のし尿の収集、運搬又は処分の業務を代行するものを法第7条に一般廃棄物処理業として規定し、管理者の義務であるし尿浄化槽の清掃業務を管理者の委託を受けて代行するとともに、市町村の固有事務であるし尿浄化槽汚泥の収集、運搬又は処分の業務の代行も併せて行うものを法第9条にし尿浄化槽清掃業として規定したのですが、第9条第2項に、「市町村長は、前項の許可を受けようとする者が厚生省令で定める技術上の基準に適合する設備、器材及び能力を有すると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。」と定めただけで、第7条第3項の「第1項の許可には、期限を附し、一般廃棄物の収集を行うことができる区域を定め、又は環境衛生上必要な条件を附することができる。」という規定に相当する規定もなかったため、市町村長は、し尿浄化槽清掃業の許可を受けようとする者が厚生省令で定める技術上の基準に適合する設備、器材及び能力を有すると認めるときは、必ず許可をしなければならないものだと解釈する者もあらわれ、し尿浄化槽清掃業の許可の性質をめぐって、やれ自由裁量行為だ、やれき束裁量行為だと各地で紛争が発生し、厚生省に対して、昭和49年5月20日付で鳥取県衛生環境部長から、同50年12月27日付で岐阜県衛生部長から、それぞれ文書をもって法第9条の許可の性質に関する照会が寄せられたりしたこともあって、翌51年、法律第68号による廃棄物処理法の一部改正に当たり、第9条第2項が市町村長は、前項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。
- その事業の用に供する施設及び申請者の能力が厚生省令で定める技術上の基準に適合するものであること。
- 申請者が第7条第2項第4号イからハまでのいずれにも該当しないこと。
第1項の許可には、期限を付し、又は生活環境の保全上必要な条件を付することができる。
- 静岡地方裁判所が判決理由の中で述べているような『複数の業者による競争を容認』していると解釈できるような条文は、どこにも見当たりませんね。
- それは裁判所の独断です。廃棄物処理法第21条の規定により、処理能力500人分以上のし尿浄化槽については、厚生省令で定める資格を持った技術管理者を置かなければならないことが義務づけられていることはご承知のとおりです。500人槽以下については技術管理者を置くことを義務づけてはいませんが、しかし、し尿浄化槽の清掃に当たる業者に対して、市町村長は、生活環境の保全上必要な条件を付すことが出来るようになっています。そのため、市町村の多くが、或いは複数の業者を企業合同させて1社とし、或いは区域を分けて地域を指定していますが、これは競合の弊害に懲りた結果によるものです。
- 競合すれば、どうしても値下げ競争となり、業者はやむなく手抜き作業や不法投棄をしなければならなくなりますからね。
- そればかりではありませんよ。現に業者の競合を許している市町村では、手数料を支払いたくない管理者たちが、どの業者にも委託しないで、5年も6年もの間、清掃しないまま使用している例が珍しくありません。しかも、これを取締ることは実際問題として殆ど不可能ですからね。
- その実態が裁判所にはまるでわかっていませんね。
- それがわかっておれば、こんな判決にはなっていないでしょう。
……ところで、昭和51年の法律改正により、市町村長は、それぞれの市町村の実情のもとで、許可申請者が、し尿浄化槽清掃業務に関して不正又は不誠実な行為をするおそれがあると判断したときは許可してはならないという規定が設けられたにもかかわらず、その後も依然として、その規定を無視し、従来のままの解釈をする者が少なくなかったため、昭和53年8月10日、厚生省令第51号により、法施行規則の一部を改正した際に、規則第2条第2号を削除し、し尿浄化槽の清掃と、その清掃にかかる汚泥の収集、運搬又は処分を併せて行おうとする者は、法第9条第1項の許可と併せて、市町村長の自由裁量行為であるという解釈に異論のない法第7条第1項の許可をも要することに改められました。 - ちょうど、清掃法当時、し尿浄化槽の清掃とその清掃にかかる汚泥の収集、運搬を併せて行おうとする者は、汚泥の収集、運搬業務を行うためのライセンスを持ち、かつ、厚生省令に基づく管理技術者の資格を持つ者に限って業務を行わせていたあの頃の姿に戻したようなものですね。
- そうとも云えましょう。市町村は、市町村が定めた処理計画に従ってし尿浄化槽の汚泥を収集し、運搬しなければなりませんが、それには専門的な知識、技能及び相当の経験を必要とする付属機器の点検、槽内単位装置の掃除及び種汚泥の調整作業などを一体的に実施しなければならないため、その業務を行う資格を持った者に許可を与えて、し尿浄化槽汚泥の収集、運搬業務を代行させることにしたのだということを見落してはなりません。このことは肝心なことです。し尿浄化槽の清掃業務に付随して槽内から引き抜く汚泥を収集し、運搬するために、市町村長が許可を与えるのだという考え方は、本末を転倒したものだということを認識すべきです。
- 市町村の側からすれば、し尿浄化槽の汚泥を収集し、運搬するのが主たる業務であって、し尿浄化槽の清掃はその主たる業務に付随した従たる業務であるというわけですね。
- そうです。
- この判決では、し尿浄化槽汚泥の収集、運搬を行うための許可申請が、法第7条第2項第3、第4号の要件を充足し、かつ、し尿浄化槽清掃業の許可申請も許可要件を充足している場合には、両申請を併せて許可しなければならないとして、法第7条第2項の第1、第2号の要件を充たす必要はないものと判断していますが、これでは、昭和53年、厚生省令第51号により法施行規則第2条第2号が削除される以前の解釈と同じではありませんか。
- 厚生省では、その改正省令の施行について、昭和53年8月21日付環整第90号、環境整備課長通知をもって、各都道府県・各政令市廃棄物処理担当部(局)長宛に、
規則第2条第2号の改正により、し尿浄化槽の清掃と当該し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集、運搬又は処分を併せて行おうとする者は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律第9条第1項の許可と併せて法第7条第1項の許可を要することとなったので、その適格性を審査するに当たっては、し尿浄化槽の清掃については法第9条第2項に規定する許可要件との適合性を、し尿浄化槽の汚泥の収集、運搬又は処分については法第7条第2項に規定する許可要件との適合性を併せて判断しなければならないものであるので、この旨管下市町村に周知徹底されたいこと。
- 省令改正の狙いを無視して、勝手な判断をされては困りますね。
- 第二に、市町村が、廃棄物処理法第6条第1項の規定に基づき、その処理区域内のし尿及びし尿浄化槽汚泥の処理について定める一定の計画は、簡単に変更できるものではないということが理解されていません。
市町村が設置している終末処理施設で、処理能力に余裕のあるところは殆どありません。しかも、その大半は老朽化しており、財政上の理由等から増、改築も容易でないのが実情です。し尿やし尿浄化槽汚泥の海洋投入処分の是非については、いずれ稿を改めて検討するつもりですが、それはしばらく措くとして、厚生省では以前から海洋投入処分をやめさせる方向で指導しており、そのため大半の市町村では陸上処理を行っていますが、現在設置されている終末処理施設は、主として嫌気性の生し尿を処理するように設計されていて、好気性のし尿浄化槽汚泥の投入はおよそ3割までが限界です。その限度を超えてし尿浄化槽汚泥を混入すれば、施設の機能は阻害されてしまいます。従って、市町村では、その処理区域内のし尿及びし尿浄化槽汚泥の量と、処理能力等を勘案して処理計画を定めているわけですから、し尿浄化槽の清掃とその清掃にかかる汚泥の収集、運搬を併せて行おうとする者に、次から次に許可を与え、それに合わせて、その都度、処理計画を変更しなければならないのだと云われても、ハイそうですかというわけにはまいりません。そんなことになったら、市町村はどこも完全にお手上げです。行政の実態を無視した不当な判断であると云わねばなりますまい。 - この判決理由の中で、市町村は、し尿浄化槽清掃業の許可をする際には、その許可を得た業者が引き抜くし尿浄化槽の汚泥について、自ら或いは既存の一般廃棄物処理業者によって遅滞なく処理する体制を整備すべき責務を負うものだと述べていますが、この判断に従うとすれば、ごみについても、市町村は、個々の住民が掃除するのを待って遅滞なくこれを処理する体制を整えなければならないことになりますね。
- おそらく廃棄物処理法第6条第4項に、市町村の住民は、自ら処分することの出来ない一般廃棄物については、市町村が一定の計画に従って行う一般廃棄物の収集、運搬及び処分に協力しなければならないという規定があるのを見落したのでしょう。し尿浄化槽の清掃は管理者―つまり住民の義務であり、このことは廃棄物処理法第8条第4項に定められていますが、し尿浄化槽清掃業者は、厚生省令で定める技術上の基準に従って清掃することの出来ない住民に代わり、その委託を受けて清掃業務を行う立場にあるのですから、市町村が定めた一定の計画に従うべきは理の当然であると云わねばなりません。
- 南伊豆町長が、このような判決を受けて控訴しなかったのは、厚生省令で定める施設を所有してもいない南伊豆興業有限会社に対しては許可を与え、その僅か3日後に申請した原告に対しては不許可処分にしたことや、その南伊豆興業有限会社が営業の許可を利権として原告に売りつけようとして拒絶され、その後これを他に売却したのをそのまま放任していたことなどもあって、控訴を断念したのではないでしょうか。
- そうかもしれませんね。しかし、どんな理由で控訴しなかったにしろ、この判決理由に示された法解釈が正当なものだと確定したわけではありませんよ。
- ところが、裁判の判決で不許可処分が取り消されたと聞くと、不許可処分にして訴えられたら、不許可処分は必ず取り消されるものと考えるのが普通ですからね。
- もっともです。けれども、行政側が主張を誤って敗訴することもありますし、裁判官が法令の解釈を誤ったり事実を誤認したりしてそれが判決に影響することもありますから、無批判に結果だけを盲信することは避けるべきです。