1985年7月号
- 浄化槽清掃業の許可に関する省令について
- 必須の要件は一般廃棄物処理業者との業務提携清掃にかかる汚泥等を計画的に処理するために
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- 浄化槽清掃業の許可の基準について定めた浄化槽法第36条第1号は、現在の廃棄物処理法第9条第2項第1号と同じ規定ですね。
- 『申請者』が『清掃業許可申請者』となっているだけで、そのほかは全く同じです。
- 廃棄物処理法では、し尿浄化槽清掃業の許可の技術上の基準は規則第6条に定められていますが、浄化槽法でも、浄化槽清掃業の許可の技術上の基準は、やはり同じようなものになるでしょうね。
- 多少は違ったものになりましょう。浄化槽法では、浄化槽清掃業の許可に関する規定と、保守点検を業とする者の登録制度に関する規定とが分けられましたので、厚生省令で定める浄化槽清掃業の許可の技術上の基準は、その事業の用に供する施設にしても、申請者に求められる能力にしても、今までとはいくらか変わってきましょうね。
- どんな内容になるでしょうか。
- そうですね。省令としては、
- 浄化槽の清掃を厚生省令(昭和59年・厚生省令第17号第3条)に定める基準に従って行うに適する器具
- 自吸式ポンプその他の汚泥、スカム等の引出しに適する器具
- 浄化槽の清掃に関する専門的知識、技能及び相当の経験
- その事業の用に供する施設については、それでよいとして、申請者の能力についてはもっとハッキリした規定にしておく必要があるのじゃないでしょうか。
- それについては、水道環境部長通知で具体的に行政指導をすべきでしょうね。
- 部長通知でですか……。
- そうです。廃棄物処理法のもとでは、昭和46年10月16日付環整第43号・厚生省環境衛生局長通知により、「規則第4条の2第3項第21号及び第6条第4号に定める『専門的知識、技能及び相当の経験』を有する者は、厚生大臣の認定する講習会の課程を終了した者であって相当の経験を有する者又はこれと同等以上の能力を有する者とすること。」という行政指導がなされていたでしょう。
- そして、その環境衛生局長通知に基づいて、財団法人日本環境整備教育センターが厚生大臣の認定を受けて行ってきたAコースの講習会の課程を終了した者が、保守点検に関する専門的知識及び技能の修得者としての資格を与えられ、Bコースの講習会の課程を終了した者が、清掃に関する専門的知識及び技能の修得者としての資格を与えられてきたわけです。
- ところが、浄化槽法が施行されますと、廃棄物処理法の規定のうち、し尿浄化槽清掃業に関する部分はすべて削除されることになりますので、昭和46年10月16日付環整第43号・厚生省環境衛生局長通知のうち、し尿浄化槽清掃業に関する部分はお蔵入りすることになります。そこで、浄化槽清掃業の許可の技術上の基準については改めて厚生省令を定め、その省令については、水道環境部長通知及び環境整備課長通知をもって行政指導がなされる筈です。ですから,その際に、許可問題をめぐって紛争をひき起す余地のないような、ハッキリした基準を示してもらいたいですね。大方の地方自治体の担当者や業者たちはそう願っているのではないでしょうか。
- そう云えば、こんにちまで、各地で、し尿浄化槽清掃業の許可に関して、いろんなトラブルが発生しましたからね。
- 全清連が、先般、厚生大臣に対して、浄化槽法に基づく厚生省令・規則等の制定に関して提出した陳情書の中で、浄化槽清掃業の許可について、建設業法第7条の許可の基準を参考にされたいと要望したということですが、頷けますよ。
- 建設業法第7条の規定を参考にすれば、どんなものになりますか。
- 第一に、申請者が法人である場合においては、その役員(業務を執行する社員、取締役又はこれらに準ずる者)のうち常勤であるものの1人が、個人である場合においてはその者又はその支配人のうち1人が、浄化槽清掃業に関し○年以上経営業務の管理責任者としての経験を有する者又は市町村長がこれと同等以上の能力を有するものと認定した者であること。
第二に、浄化槽清掃業務に関して○年以上の実務の経験を有し、かつ、厚生大臣の認定する浄化槽の清掃に関する専門的知識及び技能を有する者を養成するための講習会の課程を修了した者又は市町村長がこれと同等以上の能力を有するものと認定した者で、専任のものを清掃責任技術者として置く者であること。以上のようなものになりましょうが、これくらいの条件をつけることは、浄化槽清掃業務の重要性を考えれば、当然でしょうね。なお、全清連では、経営業務管理責任者は5年以上の経験を、清掃責任技術者は3年以上の経験を要望しているようです。 - それでは、次にまいりましょう。従来も、し尿浄化槽清掃業の許可を受けようとする者は、市町村長に許可申請書を提出していましたが、申請書や添付書類の内容については、別段、厚生省令で定めてはいませんでしたね。
- ええ。
- ところが、浄化槽法では、許可申請書や添付書類の内容を厚生省令で定めることになるわけですが、どんな内容であったらよいでしょうか。
- まず、申請書に記載すべき事項ですが、これは問題ないでしょう。第一に、申請者の氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名 第二に、法人にあっては、その役員(業務を執行する社員、取締役又はこれらに準ずる者)の氏名及び住所 これだけは記載しなければならないでしょうね。
- 問題は、添付書類です。どんな書類を添付させるべきでしょうか。
- そうですね、考えられる書類を列挙してみましょう。
- 申請者が浄化槽清掃業に関し5年以上経営業務の管理責任者としての経験を有する者であることを証する書類
- 専任の清掃責任技術者が、浄化槽清掃業務に関して3年以上の実務の経験を有し、かつ、厚生大臣の認定する浄化槽の清掃に関する専門的知識及び技能を有する者を養成するための講習会の課程を修了した者であることを証する書類
- 事業の用に供する施設の明細を記載した書類
- 申請者が法第36条第2号イからニまで及びヘからヌまでに該当しないことを誓約する書類
- 浄化槽の清掃に係る汚泥、スカム等の収集、運搬又は処分を一般廃棄物処理業者に行わせている場合にあっては、一般廃棄物処理業者が汚泥、スカム等の処理を引き受けることを約定した書類
- その中で問題になるのは、5番目の、一般廃棄物処理業者の汚泥等の処理引受承諾書の添付ですね。
- そうでしょう。しかし、これは、どうしても必要な書類ですよ。
- 厚生省がそれを認めるでしょうか。
- 認めてもらわなければなりません。浄化槽法では、『浄化槽の清掃』とは、「浄化槽内に生じた汚泥、スカム等の引出し、その引出し後の槽内の汚泥等の調整並びにこれらに伴う単位装置及び附属機器類の洗浄、掃除等を行う作業をいう」と定められています。浄化槽内から引出した汚泥、スカム等は、勿論その場に放置することはできません。当然のことながら、これを所定のところに運搬し、処分しなければなりませんが、それを行うについては一般廃棄物処理業の許可を必要とします。従って、一般廃棄物処理業の許可も受けておれば問題はありませんが、その許可を受けていなければ、勝手に汚泥等を運搬し、処分することはできないわけです。
市町村が自ら直営事業として、し尿及び浄化槽汚泥の収集、運搬、処分を行っているところでは、浄化槽内から引き出した汚泥等の処理は市町村の直営事業に任せればよく、市町村が市町村以外の者に委託して、し尿及び浄化槽汚泥の収集、運搬、処分を行わせているところでは、浄化槽内から引き出した汚泥等の処理は市町村の委託を受けている者に任せればよいのですが、市町村長の許可を受けた一般廃棄物処理業者がし尿及び浄化槽汚泥の収集、運搬又は処分を行っているところでは、浄化槽内から引き出した汚泥等の処理は一般廃棄物処理業者に引き受けてもらうほかありません。 - しかし、現実には、し尿浄化槽清掃業の許可だけを受けて仕事をしている例は殆どなく、し尿の収集、運搬、処分を直営で実施している市町村でも、し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥は、し尿浄化槽清掃業者に一般廃棄物処理業の許可も与えて収集、運搬させているようですね。
- たとえば、千葉県松戸市がそうです。九州の延岡市も、鹿児島市もそうです。鹿児島県薩摩郡東部衛生処理組合では、以前は、し尿浄化槽の保守点検と清掃を同一業者に任せ、その清掃にかかる汚泥は処理組合が収集し、運搬し、処分していましたが、業務連絡が思わしくないため、昭和58年4月からは、民間業者にし尿浄化槽清掃業の許可と併せて一般廃棄物処理業の許可を与えるようになりました。
おっしゃるとおり、現実には、し尿浄化槽清掃業の許可だけを受けて仕事をしている例は殆ど見かけませんが、浄化槽清掃業の許可の条件として、『一般廃棄物処理業の許可を受けている者』に限定するわけにはまいりますまいから、許可申請書に一般廃棄物処理業者の汚泥等の処理引受承諾書を添付させることにより、清掃にかかる汚泥等が放置されたり、不法投棄されたりすることがないような措置を講じておく必要があろうと思います。 - もっとも、厚生省では、『浄化槽の保守点検業者の登録に関する条例準則』の中で、登録申請書には「営業区域ごとに連絡をとっている又は連絡をとる予定の浄化槽清掃業者の氏名若しくは名称及び営業所の所在地を記載した書類」を添付しなければならないと定めていますし、兵庫県の『浄化槽保守点検業者登録に関する条例』では、申請書に「営業区域ごとに浄化槽清掃業者と業務に関する提携がなされていること又はなされることが確実であることを証する書面」を添付しなければならないと定めているのですから、それを考えれば、浄化槽清掃業の許可申請書に、浄化槽の清掃にかかる汚泥等を適正に処理するあかしとして、一般廃棄物処理業者との業務提携を証する書類の添付を義務づけることに、厚生省が難色を示す筈はありませんね。
- さきほども申し上げましたが、連絡をとるつもりの業者の名前を書いて出しても何の役にも立ちません。保守点検業者に浄化槽清掃業者との業務提携を義務づけても憲法違反にならないのと同様に、浄化槽清掃業者に一般廃棄物処理業者との業務提携を義務づけても決して憲法に抵触するようなことはありません。しかも、全国各地のし尿処理施設の大半は、浄化槽汚泥の投入量を制限しており、その投入制限のもとで計画的に処理しているのですから、実情に合わせた行政措置をとるのが当然のことでしょう。
- 許可申請書に、浄化槽の清掃にかかる汚泥等が適正に処理されることを保証するための一般廃棄物処理業者の汚泥等の処理引受承諾書が添付されていなければ、書類不備として許可を与えるべきでないことを明確にしておけば、許可問題に関する紛争もほとんど発生しなくなるでしょうね。
- 浄化槽法の疑問点 ― 保守点検と、清掃と、水質検査に関して
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- 浄化槽法はまだ施行されてはいませんが、なんだか肝心なところが抜けているような気がしてなりませんね。
- 遠慮なく云わせてもらえば、明らかに抜け穴と見られる箇所がいくつかあるようです。
第一に、浄化槽の管理者は、厚生省令で定めるところにより、毎年1回、厚生省令で定める場合にあっては、厚生省令で定める回数だけ、浄化槽の保守点検及び清掃をしなければならないと定めていますが、ほとんどの管理者は、自ら厚生省令で定める技術上の基準に従って保守点検を行い、清掃を実施することは困難です。そこで、自ら厚生省令で定める技術上の基準に従って保守点検や実施することができない管理者は、専門業者に委託して実施するようにしなければならないと定めるべきだと考えますが、法第10条第3項では、「業者に委託することができる。」と規定しているにすぎません。もっとも、都道府県知事は、厚生省令で定める技術上の基準に従って浄化槽の保守点検又は清掃が行われていないと認めるときは、浄化槽管理者に対して必要な改善措置を命じ、又は10日以内の期間を定めて浄化槽の使用の停止を命ずることができると定めていますし、その命令に違反した者は6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処するという罰則も設けられています。
ところで、現在の廃棄物処理法にもこれと同じ趣旨の規定がありますが、保守点検及び清掃を専門業者に委託しない管理者が少なくないのが実情です。それでも、改善命令が出たり使用停止命令が出たという話は一向に聞きませんし、命令違反のかどで処罰された管理者の話など耳にしたことはありません。それは、都道府県知事が、その管轄する区域内の浄化槽について、厚生省令で定める技術上の基準に従って保守点検や清掃が行われているかどうかを監督することになっているものの、監督するために必要な人手を持っていないからです。どの都道府県にしろ、その人手不足を補う見込みは全くない現在の状態で、廃棄物処理法と同じスタイルで浄化槽法が施行されても、これと同じ結果になるのは眼に見えています。自ら厚生省令で定める技術上の基準に従って浄化槽の保守点検や清掃を実施することができない管理者に対しては、専門業者に委託することを義務づけるように改め、専門業者に委託しない場合は罰則を設けて処罰することにしなければ、文字どおり百年河清を待つようなもので、浄化槽法制定の意義は失われてしまいますよ。 - しかし、浄化槽法案要綱を審議していた過程で、保守点検及び清掃を専門業者に委託契約することを義務づけることが問題となったとき、浄化槽は私有財産であり、その管理は管理者の責任であるから、専門業者に委託することを義務づけるのは憲法にふれるおそれがあるという理由で、実現しなかったと聞いていますが……
- そんな意見があったそうですが、おかしな話ですよ。政令で定める規模の浄化槽だって私有財産に変わりはないでしょう。憲法学者鵜飼信成教授が、私有財産を公共の福祉のために法律によって制限することについては憲法上なんらの問題もないと解説しておられることは、前にも述べたとおりです。くどいようですが、政令で定める規模の浄化槽については、自ら技術管理者として管理することのできない管理者に対して、浄化槽の保守点検及び清掃に関する技術上の業務を担当させるため、厚生省令で定める資格をもった技術管理者を置かなければならないと規定し、これに反して技術管理者を置かなかった者は10万円以下の罰金に処するという罰則を設けているでしょう。それは憲法違反にならないで、政令で定める規模以下の浄化槽については、自ら厚生省令で定める技術上の基準に従って管理することのできない管理者に対して、浄化槽の保守点検又は清掃に関する技術上の業務を担当させるため、浄化槽法に基づく資格をもった専門業者に委託しなければならないと定めるのは憲法違反になるというのは、筋がとおりませんよ。
- そうですね。
- 政令で定める規模の浄化槽の管理者に対して、その自由を制限し、技術管理者を置かなければならないと定めることができるのは、それが公共の福祉のために必要であると認められるからでしょう。政令で定める規模の浄化槽はおそらく501人槽以上の浄化槽と定められるでしょうが、厚生省調べによれば、昭和57年度末現在で、501人槽以上の浄化槽は、総設置基数4,698,228基のうち、12,422基しかありません。残りの4,685,806基は500人槽までの浄化槽です。全体の僅か0.26パーセントの浄化槽の管理者に対して、その自由を制限しても、残りの99.74パーセントの浄化槽の管理者に対して、その管理を自由意志に任せれば、管理不十分な浄化槽からの放流水によって公共の水域が汚染され、生活環境の悪化を招くのは必至ですよ。
- 現在の状態を見れば、それがわかる筈ですがね。
- 浄化槽法第10条第3項の「委託することができる。」というのを、「委託しなければならない。ただし、自ら厚生省令で定める技術上の基準に従って浄化槽の保守点検及び浄化槽の清掃を行うものについては、この限りでない。」と改めるべきです。そうすれば、この規定に違反して専門業者に委託しなかった者については、法第12条第2項の規定に基づいて、都道府県知事は、必要な改善措置を命じ又は当該浄化槽の使用の停止を命ずることもできますし、その命令に違反した場合は、法第60条の規定により6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処することもできますので、不心得な管理者も一掃されるようになりましょう。
- たしかに、その必要がありますね。
- 第二に、浄化槽管理者は,浄化槽を新たに設置し又はその構造若しくは規模を変更したときは、その使用開始後6カ月を経過した日から2カ月の期間内に、それ以後は、毎年1回、厚生省令で定める浄化槽については厚生省令で定める回数だけ、指定検査機関による水質検査を受けなければならないと定めていますが、これらの規定に背いて検査を受けなかったとしても、処罰されることはありません。これでは、残念ながら費用をかけて検査を受ける管理者の数は限られてしまいます。
- そうですね。
- 現在でも、定期検査の制度は廃棄物処理法施行規則第4条の2第3項第20号に、処理対象人員500人以下の施設にあっては、その維持管理について1年以内ごとに1回、定期的に、地方公共団体の機関又は厚生大臣の指定する者の検査を受けること、と定められ、昭和55年1月から実施されていますが、厚生省が、昭和54年3月10日付環整第26号、水道環境部長通知をもって、「検査は、し尿浄化槽の管理者の依頼により当該し尿浄化槽の設置場所において行うものであること」という行政指導をしてきたため、検査にはそれなりの費用もかかることから、進んで検査を依頼する管理者は微々たるものです。厚生省が発表した昭和57年度の検査実績によれば、栃木、新潟、和歌山、鳥取、徳島、沖縄の6県を除く41都道府県と名古屋市、北九州市の2政令市で指定検査機関による検査が実施され、合計3,934,606基のうち定期検査を受けたのは僅か239,468基で、実施率6.1パーセントにすぎません。
- 浄化槽の管理者に対して、水質検査を受けなければならないことを啓蒙する必要があることは云うまでもありませんが、ただ啓蒙するだけでは、それなりの検査費用を自分で負担しなければならない管理者の気持を動かすことは無理でしょう。やはり、水質検査を受けない場合は処罰するようにしなければなりますまいね。
- 浄化槽法が、その目的とする「浄化槽によるし尿等の適正な処理を図り、生活環境の保全及び公衆衛生の向上に寄与する」ためには、以上に述べたように、浄化槽の保守点検と、清掃と、水質検査について、法律の抜け穴と見られるところは、出来るだけ早く埋めるようにする必要がありましょう。
編集局から
本号は、収録した内容の関係から、少し早めに発行することにしました。次号では、6月14日の衆議院環境委員会でとり上げられたし尿の海洋投入処分業務の委託契約問題について、引用された尾鷲市の事例の経過を追いながら、行政庁がとった措置の適否を検討する予定です。委員会での中井洽委員(民社党)と関係省庁の担当局・課長との質疑応答の内容も紹介します。し尿の海洋投入処分業務だけの問題でなく一般廃棄物処理業務の委託契約のあり方について、きっと、ご参考になるでしょう。