清研時報

1985年11月号

合理化特別措置法の一部改正について ~この法律に魂を入れるために~
  1. 改正案の継続審議は、この法律に魂を入れる天与の好機
  2. 行政庁によって無視されてきた合理化特別措置法制定の趣旨
  3. 環整連がまとめた下水道整備に伴う補償措置の実態
  4. 公務員なら配置転換、業者は斬り捨て御免では済まされまい
  5. どうすればこの法律に魂を入れることができるか
改正案の継続審議は、この法律に魂を入れる天与の好機
  • 合理化特別措置法(下水道の整備等に伴う一般廃棄物処理業等の合理化に関する特別措置法)の一部を改正する法律案がいよいよ国会で審議されることになりましたが、改正の要点は、環境保全議員連盟から提案されていたとおり、法第3条第2項の一部を改め、市町村が定める合理化事業計画の中に、「下水道の整備等により業務の縮小又は廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業等を行う者に対する資金上の措置に関する事項」を加えようというものですね。
  • そうです。
  • 自民党からの議員提案になっているようですが、野党側に反対はありませんか。
  • それは無いようですね。実は、前の第102国会で成立する運びになっていたようです。衆議院の社会労働委員会では、理事会で、6月13日に合理化特別措置法の一部改正案を社会労働委員長提案の形で提出し、審議を省略して、全会一致で通過させる段取りを決めていたところ、委員の一部から、やはり審議は尽すべきだという意見が出されたため、翌14日に自民党提案の形で提出されたという話ですよ。
  • それじゃ、一部の委員の反対がなければ、前の国会で成立していたわけですね。
  • ええ。いっしょに提案される筈だった『優生保護法改正案』と『栄養士法及び栄養改善法改正案』は、予定どおり6月13日に衆議院に提出され、翌14日には全会一致で衆議院を通過し、同月19日には参議院も通過して成立していますから、一部の委員から異論が出されていなければ、おそらく合理化特別措置法の一部改正案も6月19日には全会一致で可決成立していたものと思われます。
  • その異論を出された委員も、改正案の内容に反対されたわけではないのですね。
  • 私が聞いたところでは、改正案の内容に反対されたのではなく、審議を省略することに反対されたということです。
  • それじゃ、改正案の成立は時間の問題と考えていいですね。
  • 成立に問題はないでしょう。
  • 清掃業者の皆さんとしては、しばらくの間おあずけを食っただけのことですね。
  • ところが、そのしばらくのおあずけに大変な意義があるんですよ。
  • と、言いますと……。
  • この改正案が審議を省略して可決成立していたら、10年前に合理化特別措置法が公布されたあのときと同じように、糠(ぬか)喜びに終るおそれがあったからですよ。
    昭和50年5月23日に合理化特別措置法が公布され、同日から施行されることになったとき、全国の清掃業者が、これで、下水道の整備等のため業務の縮小又は廃止を余儀なくされる場合の補償の制度は確立したとして、大いに喜び、祝杯をあげたのは、まだ記憶に新しい筈です。法律の制定に尽力された環境保全議員連盟の先生方も自信満々の様子でした。今度の合理化特別措置法改正検討小委員会の委員長をつとめられた参議院議員植木光教先生が日本環境保全協会の昨年度の通常総会の席上で、
    「昭和38年に下水道整備5か年計画が始まり、以来今日に至るまで下水道の整備が全国各地において展開されているわけです。従って、一般廃棄物処理業者である皆さん方の仕事が、それにより非常に大きな圧力を受け、合理化を迫られるというような時代が続いて参りました。私どもは、皆さん方の遭遇しておられる危機を、何とかして、国又は地方公共団体の力で守り抜いて参りたいという趣旨のもとに、昭和50年に合理化特別措置法を議員立法をもって制定しました。下水道の整備等に伴う合理化事業が、皆さん方自身の力とともに、この法律が担保して、円滑に行われるようにという願いをもって、また、この法律でやれるという自身をもって制定したのです。」
    と、語っておられましたが、当時、環境保全議員連盟の先生方は、一様に、このような自信をもっておられた筈です。
    ところが、結果はどうですか、去る6月20日、衆議院社会労働委員会で、自民党社会部会長の稲垣実男先生が、改正法律案の提出者を代表して提案理由を説明された中で述べられたように、「これまでこの法律に基づく合理化事業計画を定めた市町村はなく、一部の市町村において、転廃業を余儀なくされる一般廃棄物処理業者等に対し、事実上の措置として、交付金の交付等を行っている」にすぎない有様じゃありませんか。
  • だからこそ、環境保全議員連盟の先生方も、法律の一部を改正する必要があると考えられたのでしょう。
    昭和59年6月20日付の≪環境保全タイムズ≫によれば、いまお話に出ました植木光教先生は、日本環境保全協会の昨年度の通常総会の席上で、合理化特別措置法の一部を改正する法律案をまとめられた経緯(いきさつ)について、
    「合理化特別措置法第3条第2項は、『合理化事業計画は、下水道の整備等による一般廃棄物処理業等の経営の基礎となる諸条件の変化の見通しに関する事項、下水道の整備等に伴う一般廃棄物処理業等の事業の転換並びに経営の近代化及び規模の適正化に関する事項その他厚生省令で定める事項について定めるものとする。』と、なっています。一番大事な資金の事項がこの中に欠けているため、市町村が合理化事業計画をたてるときに、資金上の措置が明確に計画の中に打ち出されない。ここに一番の問題があるということに着目して、法第3条第2項中『適正化に関する事項』の下に、『下水道の整備等により業務の縮小又は廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業等を行う者に対する資金上の措置に関する事項』を加えることにしました。いろいろな計画を立てていくなかに、業界や業界の皆さん方に対する資金上の措置に関する事項を計画の中に入れさせるということにより、この計画は、いわば魂を入れるということになるわけで、私どもは合意をみた次第です。この点に関しては、厚生省、通産省に対し、この項目を入れることによって、市町村が資金上の措置に関する事項を計画の中に入れる。そのことによって、いろいろ交付金を交付される場合に、この交付金の交付を行うということによって受けられる皆さん方の利益というものを充分に認識をし、周知徹底させること、各市町村に対して資金上の措置に関する事項を計画の中に入れるということを、強く行政指導を行うよう要請し、確約を得ました。皆さん方が交付金を受けられたときには、租税特別措置法により免税を受けるという措置がなかったら、せっかく交付金を受け取っても、その交付金は充分に生きてこないわけですから、免税措置については、実態調査の上で、租税特別措置法により対処するという約束を大蔵省から得た次第です。そして、市町村から交付金として交付されるものについて、自治省が特別交付税その他の交付税により市町村を援助するという道を開くということについて、各省庁の合意も得ました。このような改正をすることにより、この法律が本当に生きて、皆さん方が受けられる被害に対する救済策がとられることになるわけで、この点について、この成案を得たことを、ここに報告します。」
    と、述べておられますよ。
  • 植木先生をはじめ環境保全議員連盟の先生方が、大変なご苦労をなさって、改正案をまとめられ、関係省庁の合意をとりつけて下さったことについては、敬意を表します。しかし、原案どおりに合理化特別措置法の一部が改正され、市町村が定める合理化事業計画の中に、「下水道の整備等により業務の縮小又は廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業等を行う者に対する資金上の措置に関する事項」を加える規定が設けられたとしても、ただそれだけでは、この法律が息を吹きかえすとも思われません。
  • そうでしょうか。
  • 考えてもごらんなさい。合理化特別措置法が施行されて既に10年余り、その間、下水道の整備等に伴って業務の縮小又は廃止を余儀なくされた業者や、遠からず業務の縮小又は廃止を余儀なくされようとしている業者の数は少なくないのに、この法律に基づく合理化事業計画を定めた市町村は1か所もありません。それは何故なのか、その本当のわけを究明する必要があるのではないでしょうか。
  • そうですね、せっかく法律の一部を改正しても、市町村が、今までのように、合理化事業計画そのものを定めなければ、なんにもなりませんからね。
  • それだからこそ、この改正法律案について審議を省略し、簡単に全会一致で可決成立するようなことがあってはいけなかったのですよ。法案を審議する過程において、何故こんにちまで全国の市町村が例外なくこの法律に基づく合理化事業計画を定めなかったのかを明らかにして、その原因をとり除かねばなりません。改正案が継続審議となったのは、この法律に魂を入れる天与の好機です。
行政庁によって無視されてきた合理化特別措置法制定の趣旨
  • 合理化特別措置法には、

    市町村は、下水道の整備や、し尿及びし尿浄化槽にかかる汚泥の海洋投入処分に対する法令の規定による規制の強化に伴って、業務の縮小又は廃止を余儀なくされる業者に対して、その受ける著しい影響を緩和するため、合理化事業計画を定め、その計画に基づいて合理化事業を実施すること

    国は、市町村に対して、そのために必要な資金の融通その他の援助に努めること

    国又は地方公共団体は、合理化事業計画に基づく事業転換計画の認定を受けた業者に対しては、必要な資金についての金融上の措置を講じ、また、従事者については、就職の斡旋その他の措置を講ずること

    などが規定してありますね。
  • ええ。
  • しかも、その合理化特別措置法の施行に際して、当時の厚生事務次官から、昭和50年10月21日付・厚生省環第676号・依命通知をもって、法制定の趣旨について、

    下水道の整備並びに海洋汚染防止法に基づくし尿及びし尿浄化槽汚泥の海洋投入処分に対する規制の強化は、環境の保全上緊急かつ重要な施策であるが、国及び地方公共団体におけるこのような施策の推進に伴い、市町村長の許可又は市町村の委託を受けてし尿の処理を業とする者及び市町村長の許可を受けてし尿浄化槽の清掃を業とする者が、その事業の転換、廃止等を余儀なくされる事態が生じてきている。
    しかし、これらの事業者が事業の転換、廃止等を行う場合、不要となる運搬車、運搬船等の設備及び器材を他に転用することは極めて困難であり、このため事業そのものの転換、廃止等も容易ではない実情にある。しかも、し尿の処理及びし尿浄化槽の清掃の適正な実施を確保するためには、これらの事業は、下水道の終末処理場によるし尿処理への転換が完了する直前まで、その全体の規模を縮小しつつも、継続して行われなければならない。また、海洋投入処分に対する規制の強化が実施されるときも同様である。
    このような事情にかんがみ、この際、市町村が合理化事業計画を定め、都道府県知事の承認を受けて合理化事業を実施することができることとし、また、転換計画を策定して市町村長の認定を受けた事業者に対し、国又は地方公共団体が金融上の措置を講ずるとともに、当該事業の従事者についての就職の斡旋等の措置を講ずるように努めることとすることにより、これらの事業の業務の安定を保持するとともに、廃棄物の適正な処理に寄与せんとする趣旨のもとに本法が制定されたものである。

    という指示が出されています。ところが、このせっかくの厚生事務次官の指示が、残念なことに全く無視されてしまっているのが現状です。
  • どうして、そんなことになったのでしょうか。
  • ひとつには、合理化特別措置法の第3条第1項に、「市町村は、当該市町村の区域に係る下水道の整備その他政令で定める事由によりその経営の基礎となる諸条件に著しい変化を生ずることとなる一般廃棄物処理業等について、その受ける著しい影響を緩和し、併せて経営の近代化及び規模の適正化を図るための事業に関する計画を定め、都道府県知事の承認を受けることができる。」と定められていて、市町村は必ず合理化事業計画を定めて合理化事業を実施しなければならないという条文にはなっていないからでもありましょう。
  • なるほど、合理化事業計画を定めるかどうかは、市町村の自由意志に任せている格好ですからね。
  • ところが、法律の条文はそうであっても、法律の施行について厚生事務次官の適切な指示が出されているのですから、その指示には従う筈のものですよ。それを妨げているのが、ほかならぬ厚生省のお役人たちだということに着目しなければなりません。厚生省では、廃棄物処理担当の水道環境部で、「下水道の供用開始等の事情により、業務の縮小又は廃止を余儀なくされる業者に対して、市町村は、何ら補償の責を負うものではない。」という行政指導をしていますが、これが、合理化特別措置法の施行に当たって出された厚生事務次官の依命通知を骨抜きにさせる要因となっています。
  • そう言えば、厚生省水道環境部が編集し、財団法人日本環境衛生センターから発行している≪廃棄物処理法の解説≫第5版の57頁58頁にかけて、そんな解説をしていますね。
  • あれは、清掃法以来の解説をそのまま引き継いだものです。私が知っている限りでは厚生省が補償問題について正式に見解を表明したのは、昭和37年9月19日、環境衛生局長が、横浜市清掃局長の照会に対して、環発第358号をもって回答したのが最初ですが、環境衛生局長は、その回答の中で、
    「市町村長が、従来許可を与えてきた汚物取扱業者から、当該許可に附せられた期限に伴い、許可の更新の申請があった場合において、下水道の布設等による当該市町村の汚物処理計画の変更等の事情により、この申請を不許可とし、又は、当該汚物取扱業者に係る収集区域を従来よりも縮小して許可したとしても、当該市町村は、当該業者に対して、そのことについての補償の責を負うものではないと解すべきである。」
    と、述べています。下水道の整備等に伴って業務の縮小又は廃止を余儀なくされる業者に対する補償問題についての解説は、清掃法が廃棄物処理法に改められた後も、この環境衛生局長の回答の趣旨がそのまま承継されてきましたし、合理化特別措置法が公布された後も少しも変わっておりません。その経過並びにそれが旧憲法のもとでの解釈によるものであることについては、清研時報第7号及び第8号でくわしく述べておきましたから、ここでは重複を避けますが、市町村の側では、厚生省が、下水道の供用開始等の事情により業務の縮小又は廃止も余儀なくされる業者に対して補償する義務はないと言っているのだから、何もわざわざ合理化事業計画を定めて都道府県知事の承認を受けるようなことをしなくてもいいじゃないかと考えるのも、無理はありませんよ。
  • そうですね、市町村の担当者にしてみれば、厚生省の指導に従うと言っておけば、それがいちばん無難ですからね。
  • これで、合理化特別措置法が10年以上も前に公布されたのに、この法律に基づく合理化事業計画を定めた市町村が1か所もないのは何故かということが、おわかりになったでしょう。
環整連がまとめた下水道整備に伴う補償措置の実態
  • ところで、合理化特別措置法に基づく合理化事業計画を定めた市町村は1か所もないということですが、それでも、転廃業を余儀なくされた業者に対して、何らかの形で補償をしてきた市町村も相当数ありますね。
  • 勿論ありますよ。しかし、そのほとんどは業者が陳情を重ねてかち取ったものです。
    ここに環整連(全国環境整備事業協同組合連合会)の補償対策特別委員会実態調査部会の皆さんが中心となり、昭和58年5月から同年9月にかけて集められた≪下水道整備と清掃業補償の現況≫と題する貴重な資料があります。これは、全国の市町村のうち、市と特別区(特別区については全体を1市として取り扱い)合わせて652市と、町村については下水道計画が進行中か、または昭和62年度までに建設計画のある92町村を抽出し、合計744市町村を対象に調査を行い、回答が得られた373市41町村計414市町村のうち、下水道整備計画のある332市町村についてまとめたものですが、補償措置を実施したところや、実施中のところ、実施を検討中のところは、次頁の表にあるとおり、合計138市町村、全体の41.6パーセントです。
    補償措置 市町村数 全体に占める割合
    実施済み、または実施中 47 14.2%
    補償的措置実施中 2 0.6%
    実施を検討中 89 26.8%
    考えていない 121 36.4%
    補償は行わない、
    または行わない方向で検討中
    5 1.5%
    不明 46 13.9%
    その他 22 6.6%
    合計 332 100.0%
    環整連では、更にこれを人口別に集計していますが、それによれば、下表に示すとおり、人口の少ない市町村ほど、補償を考えていないところが多いようです。
    補償措置 市町村の人口(万)
    50以上 30以上
    50未満
    10以上
    30未満
    5以上
    10未満
    5未満 合計
    実施済み、または実施中 4 7 16 15 5 47
    補償的措置実施中 0 0 1 0 1 2
    実施を検討中 1 3 29 30 26 89
    考えていない 0 8 32 38 43 121
    補償は行わない、
    または行わない方向で検討中
    0 0 2 0 3 5
    不明 1 0 4 23 18 46
    その他 1 1 9 8 3 22
    合計 7 19 93 114 99 332
    この表で、『補償的措置』というのは助成金交付を内容とするもの、『その他』の主なものは、し尿収集が市町村の直営であるため該当なしという内容のものだそうです。
  • 『不明』というのは、補償措置をとっているのかどうかについて回答しなかったところでしょうが、おそらく補償する考えはないのじゃないでしょうか。
  • さあ、それはどうでしょうかね、補償するのかしないのか、まだ考えていないのかもわかりませんよ。
  • いずれにせよ、約40パーセントの市町村が補償について考えていないというのは、やはり、厚生省が、市町村は補償の責を負うものではないと解すべきだという解説をしているからだと見なければならないでしょうね。
公務員なら配置転換、業者は斬り捨て御免では済まされまい
  • 下水道の整備等に伴い業務の縮小又は廃止を余儀なくされる業者に対して市町村は補償の責を負うものではないという厚生省の見解が、果して妥当であるかどうかを判断する格好の事例があります。私は、今年の1月、鹿児島県名瀬市に行ってきましたが、人口およそ4万9,000人世帯数約1万7,300の名瀬市では、下水道工事が着々と進められており、既に全戸数の4割が下水道に接続し、市内に設置されていた浄化槽3,500基のうち約1,000基以上が下水道による水洗化に移行していました。同市の下水道整備計画は市内の全域に及ぶもので、昭和71年度中には便所の汲み取りの仕事も浄化槽の清掃と清掃にかかる汚泥処理の仕事もなくなってしまう予定です。ここでは、市がバキューム車2台でし尿の収集、運搬業務の一部を直営事業として実施していますが、大部分は一般廃棄物処理業の許可業者4社が計6台のバキューム車を使って汲み取り業務を代行しており、そのほか、浄化槽清掃業の許可業者が3社が一般廃棄物処理業の許可も受け、計3台のバキューム車で、浄化槽の清掃とその清掃にかかる汚泥の収集、運搬に従事しています。
  • 業者の数は、都合7社ですね。
  • 許可業者の数は合わせて6社です。し尿の収集、運搬だけを行っている業者が3社、浄化槽の清掃とその清掃にかかる汚泥の収集、運搬だけをしている業者が2社、し尿の収集、運搬と浄化槽の清掃及びその清掃にかかる汚泥の収集、運搬を行っている業者が1社です。それらの業者たちは、現在では、既に、総じて業務量の約半分を縮小させられていますが、業務量が減少したのは業者ばかりでなく、直営の分もそれなりに減少しているわけです。業務量の減少に伴って民間業者の収入は次第に減ってきています。しかし、直営の業務を担当している職員の給与が減額される筈はありません。やがて、下水道整備計画が完了した暁には、それまでし尿の収集、運搬業務に関与してきた市の職員たちは、配置転換によって他の職場に移されるでしょう。どうしても人員整理をしなければならないことにでもなれば、勧奨退職の規定に伴い退職金が割増して支給されるでしょう。
  • それは当然のことですね。
  • その当然のことを、市町村の固有事務を代行する業者には準用する必要がないと厚生省がいうのは、どういうことですか。
  • まるで、業者を人間扱いしていないことになりますね。
  • 廃棄物処理法では、汲み取り便所のし尿の収集、運搬及び処分や、浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集、運搬及び処分を業として行うためには、法第7条第1項の規定に基づく許可を受けなければならないことになっているため、往々にして、市町村長の中には、業者の生殺与奪の権は自分が握っているのだと考えている人が居るようです。しかし、法第7条第2項第1号の規定によれば、「当該市町村による一般廃棄物の収集、運搬及び処分が困難である」と認めるときでなければ許可をしてはならないことになっています。このことは、裏を返せば、市町村による一般廃棄物の収集、運搬及び処分が困難である場合は、放置しておくわけにはいかないから、法第7条第2項第2号以下各号の要件に適合するものに許可を与えて、法第6条第1項の規定により定めた計画に従い、し尿及び浄化槽汚泥を、生活環境の保全上支障が生じないうちに処理させねばならない責務を負わされていることになります。
  • つまり、許可業者は、市町村に与えられた固有事務の代行者だということですね。
  • そのとおりです。他の営業と同じように考えてはいけません。しかも、一般廃棄物の処理業務に携わる市町村の職員はすべておしきせであるのに、市町村の固有事務を代行する業者たちは、いずれも市町村に代わって多額の費用を負担し、自らの責任で、必要なだけの施設を整備し、作業員を雇用して、業務に従事しているのですからね。
  • それなのに、市町村の職員には配置転換や勧奨退職のみちが講ぜられるのに、市町村の固有事務を代行する業者は斬り捨て御免にしても構わないという法はありませんね。
  • そうですとも。市町村は、下水道の整備等に伴って汲み取り便所のし尿や浄化槽汚泥の収集、運搬の仕事がなくなったときは、その業務に関与してきた職員を配置転換するのに準じて、市町村の固有事務を代行してきた業者に対しては代替業務を斡旋すべきであり、どうしても代替業務がないときは、職員に対して勧奨退職の制度に基づき退職金を支給するのに準じて、業者には相当の補償金を交付すべきです。
  • 同感ですね.
  • 私が名瀬市を訪れたとき、たまたま市長さんは不在でしたので、助役さんと市民部長さんにお会いして、下水道の供用開始に伴って職場を失う市の職員に対してとられる措置に準じて、業者に対しても救済のみちを講じていただきたいと、損失補償の根拠や、補償の基準、最近における補償の実例などを書いた資料を渡して要望しておきました。
  • まさか、市の職員だけは他の職場に移すが、民間業者はほったらかすということはないでしょうね。
  • そんなことはないでしょう。鹿児島県環境整備事業協同組合の小河原理事長をはじめ役員の皆さんが熱心に陳情を続けておられるようですし、補償もせずにほったらかすようなことはありますまい。
どうすればこの法律に魂を入れることができるか
  • 合理化特別措置法の第3条第1項に、「市町村は……合理化事業計画を定め、都道府県知事の承認を受けることができる」となっているのを、「市町村は……合理化事業計画を定め、都道府県知事の承認を受けなければならない」というように改めてもらうわけにはいかないのですか。
  • それが出来れば簡単ですが、無理でしょうね。今回の改正案でも、その点にはふれていませんよ。
  • それでは、せめて、合理化特別措置法を制定した趣旨と、こんど改正を必要とした理由を徹底するようにしてもらわねばなりませんね。
  • たしかにそうです。そして、是非とも、厚生省水道環境部の編集にかかる≪廃棄物処理法の解説≫の中の、「下水道の供用開始等の事情により、業務の縮小又は廃止を余儀なくされる業者に対して、市町村は何ら補償の責を負うものではない」という趣旨の解説の文句を取り消してもらうことです。そうしない限り、合理化特別措置法の一部を改正して、法第3条第2項に、「下水道の整備等により業務の縮小又は廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業を行う者に対する資金上の措置に関する事項」を加えたとしても、市町村の担当者は、≪廃棄物処理法の解説≫の文句を盾にとり、合理化事業計画そのものを定めようとしないでしょうし、それでは、せっかくの法律改正も、なんにもならぬ結果となるでしょう。
  • 前にもふれましたが、合理化特別措置法の一部を改正する法律案をまとめられた環境保全議員連盟の植木光教先生が、日本環境保全協会の昨年度の通常総会の席上で、「いろいろな計画を立てていくなかに、業界や業者の皆さん方に対する資金上の措置に関する事項を計画の中に入れさせるということにより、この計画は、いわば魂を入れるということになるわけで、私どもは合意をみた次第です。この点に関しては、厚生省、通産省に対し、この項目を入れることによって、市町村が資金上の措置に関する事項を計画の中に入れる。そのことによって、いろいろ交付金を交付される場合に、この交付金の交付を行うということによって受けられる皆さん方の利益というものを充分に認識をし、周知徹底させること、各市町村に対して資金上の措置に関する事項を計画の中に入れるということを、強く行政指導を行うよう要請し、確約を得ました。」と、述べておられるほどですから、厚生省でも、「下水道の供用開始等の事情により、業務の縮小又は廃止を余儀なくされる業者に対して、市町村は何ら補償の責を負うものではない」という解説の文句は取り消す筈ですね。
  • ところが、厚生省が自発的に≪廃棄物処理法の解説≫の中で示している見解を取り消してくれるだろうなどと考えていたら、大間違いですよ。現に昭和50年に合理化特別措置法が公布され、前に述べたような厚生事務次官の通知が出された後も、従来の見解はそのままにして、改めなかったじゃありませんか。それを思えば、前の国会で審議を省略して成立する運びとなっていたのを、一部の委員の発言から継続審議となったことは、合理化特別措置法を生き返らせるにはどうしたらよいかを検討してもらう絶好の機会が与えられたものというべきでしょう。
  • そうですね。
  • 合理化特別措置法の一部を改正する法律案は、下水道の整備等により業務の縮小又は廃止を余儀なくされる業者に対して、資金の面でも救済する計画を立てさせようとするものであり、この改正法案の趣旨に反する厚生省水道環境部の≪廃棄物処理法の解説≫の中の文句をそのまま放置しておくことは理屈に合いません。この改正法律案は衆・参両院の社会労働委員会で審議されますから、業者の皆さんは地元から出ておられる委員の先生方にお願いして、法案審議の過程で、厚生省水道環境部が≪廃棄物処理法の解説≫の中で示している、「下水道の供用開始等の事情により業務の縮小又は廃止を余儀なくされる業者に対して、市町村は何ら補償の責を負うものではない」という見解を取り消すようにしてもらうべきです。この天与の好機を逃がすようなことがあってはなりますまい。