清研時報

1986年1月号

合理化特別措置法の一部改正について ~この法律に魂を入れるために~
  1. ~今後の新規許可問題処理の参考として~
  2. 岐阜市長が不許可処分にした理由
  3. 原告(許可申請者)の主張
  4. 被告(岐阜市長)の主張
  5. 岐阜地方裁判所が原告の請求を棄却した理由
  6. この訴訟事件が教えるもの
~今後の新規許可問題処理の参考として~
  • 岐阜地方裁判所で争われていた岐阜市の一般廃棄物処理業とし尿浄化槽清掃業の不許可処分取消請求事件は、どちらも、行政側が勝訴したそうですね。
  • ええ、60年3月25日に、不許可処分の取り消しを求めた原告の請求を、いずれも棄却する旨の判決が出ました。
  • 浄化槽法が施行されて、廃棄物処理法の『し尿浄化槽清掃業』の規定はなくなりましたが、浄化槽法でも『浄化槽清掃業の許可』の規定が設けられ、その趣旨に変わりはありませんから、岐阜地方裁判所の判例は、今後、市町村が、浄化槽清掃業の新規許可問題や、浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集、運搬を目的とする一般廃棄物処理業の新規許可問題に対処するときの参考になるでしょうね。
  • そうですね、岐阜地方裁判所で争われた事件は、≪昭和58年(行ウ)第1号・一般廃棄物処理業の不許可取消等請求事件≫となっていますが、事件の内容は、岐阜市において、鈴木理史こと?錫崇が、し尿浄化槽の清掃と、し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集,運搬を業として行う目的で、昭和57年9月20日、岐阜市長に対して許可の申請をしたところ、一般廃棄物処理業については同57年11月19日付で、し尿浄化槽清掃業については同58年9月7日付で、いずれも不許可処分となったため、?錫崇が岐阜市長を相手に、その不許可処分の取り消しを求めて提訴していたものです。
    裁判所は、一般廃棄物処理業については、申請者が廃棄物処理法7条2項所定の許可要件に適合していないとしてなされた不許可処分に違法は認められないとの判断を示すとともに、し尿浄化槽清掃業についても、申請者が同法9条2項に定める許可要件に適合していないとしてなされた不許可処分に違法はなかったとの判断を示しています。そんな内容のものですから、浄化槽法のもとで激増するかもしれない浄化槽清掃業の新規許可問題や、浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集、運搬を目的とする一般廃棄物処理業の新規許可問題に対処するときの格好の参考になりましょうね。
  • いい加減な理由で不許可処分にして、裁判で主張を誤ったために敗訴した例もあるようですから、岐阜市の場合は、どんな理由で不許可処分にしたのか、また、裁判では、どんな主張をしたのかを知ることも必要なことですね。
岐阜市長が不許可処分にした理由
  • まず、岐阜市長が不許可処分にした理由について説明して下さい。
  • 岐阜市長は、し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集及び運搬を業として行うことを目的として申請した一般廃棄物処理業の許可申請については、「廃棄物処理法7条2項各号の規定に適合しない点があり、これを許可した場合には生活環境の保全上支障を生ずるおそれがある。」という理由で不許可処分にしています。また、し尿浄化槽清掃業の許可申請については、「廃棄物処理法9条2項各号の規定に適合しない点が認められる。」という理由で不許可処分にしています。
  • 簡単なものですね。
  • し尿浄化槽清掃業の不許可処分取消請求事件で勝訴した臼杵市長が裁判で主張したのと同じ趣旨です。「既存業者の経営を圧迫するから」とか、「無用の競争を招くから」とか、余計なことは言っていません。一般廃棄物処理業については、廃棄物処理法7条2項に、「許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ、許可をしてはならない。」と定められていますし、し尿浄化槽清掃業については、廃棄物処理法9条2項に、やはり同文の規定がありましたので、法律で定めている許可の要件に適合していないと認めたから不許可処分にしたのだというのは、適切な措置であったと言えましょう。
    浄化槽法36条の規定も、廃棄物処理法9条2項の規定を浄化槽法向けに表現を変えているだけで、趣旨は同じですから、市長村長は、許可の申請が浄化槽法36条に定める1号もしくは2号の要件のいずれかに適合しないと認めたときは、余計なことをつけ加えたりしないで、そのことを理由として不許可処分にすればよいわけです。浄化槽にかかる汚泥の収集、運搬を目的とした一般廃棄物処理業についても、許可の申請が廃棄物処理法7条2項各号に定める許可要件のいずれかに適合していないと認めたときは、そのことを不許可処分の理由にしたらよいでしょう。そうすれば、仮に訴訟事件に発展したとしても、処分を決定した時点において、申請者が許可の要件に適合していないと判断したことが妥当であったことを立証すれば、敗訴する筈はありません。裁判が長引くようなこともないでしょう。
原告(許可申請者)の主張
  • ところで、原告は、どんな理由で、岐阜市長が行った一般廃棄物処理業の不許可処分や、し尿浄化槽清掃業の不許可処分が、違法な処分として、取り消しを免れないものだと主張したのですか。
  • 原告は、次のように主張しています。
    1. 一般廃棄物の収集、運搬又は処理を業として行うことの許可申請並びにし尿浄化槽の清掃を業として行うことの許可申請に対する各許否処分は、いずれもき束裁量行為に該当するものと解すべきである。すなわち、右の各許否は、もっぱら当該申請が法7条2項3号、同9条2項1号所定の厚生省令の定める技術上の基準に適合する施設及び能力を具有する者からされたものであるか否かによってこれを決すべきものであって、いやしくもその申請が右技術上の基準に適合する施設及び能力を具有する者からされたものである以上これに対する許可権限者である市長村長等においては、当然にこれを許可しなければならないのである。(ちなみに、上記の点について、論者によっては、し尿浄化槽清掃業を行うことの許否処分が右に述べたようなき束裁量行為であるのに対し、一般廃棄物処理業を行うことの許否処分は自由裁量行為であるとして、両者を別異に取り扱うべきことを主張するものもある。しかし、右の見解は、し尿浄化槽清掃業を行うためには、不可避的に、右清掃の結果浄化槽から除去されるであろう汚泥を収集、運搬すべき業務をもあわせて行わなければならないという事実を看過した不当な見解であるというのほかはない。)
      しかして、原告は、廃棄物処理法施行規則の定める技術上の基準に適合する施設及び能力をことごとく具有したうえで、一般廃棄物処理業の許可申請及びし尿浄化槽清掃業の許可申請をしたのである。それにもかかわらず、被告は、右申請の双方を不許可としたのであるから、このような処分は、その双方がいずれも右裁量の範囲を逸脱した違法な処分であるという評価を免れ得ないものというべきである。
    2. 仮に、一般廃棄物処理業を行うことの許可申請に対する市町村長の許否処分が自由裁量行為であるとしても、市町村長としては、その裁量権の性質上、もっぱら当該市町村における一般廃棄物の収集、運搬及び処分の事務を円滑かつ適切に遂行するという観点から右裁量権を行使すべきことはいうまでもない。しかるに、以下に述べるような諸事情に照らすと、被告のした不許可処分が右裁量の範囲を著しく逸脱した違法な処分に当たる旨の評価を免れ得ないものであることは明らかである。すなわち、原告は、本件の許可申請に先立ち、昭和56年4月8日、被告に対し、原告が岐阜市においてし尿浄化槽清掃業を行うこと及び原告が岐阜市においてし尿浄化槽にかかる汚泥の収集・運搬業を行うことについての各許可方を申請したのであるが、被告は、同年5月13日、右各許可申請に対して、その双方をいずれも不許可とする旨の処分をした。そこで、原告は、その処分が違法な処分であるとして、同年5月14日、その各取り消しを求めて岐阜地方裁判所に訴えを提起した。右訴訟は、同裁判所昭和56年(行ウ)第5号事件として同裁判所に係属したのであるが、昭和57年7月9日、同事件の口頭弁論期日において、おおむね次のような内容の和解が成立した。
      1. 原告は、右訴えを取り下げ、改めて、被告に対して、「原告が岐阜市においてし尿浄化槽清掃業と、し尿浄化槽にかかる汚泥の収集・運搬業を行うこと」についての許可申請をする。
      2. 原告は、右申請に当たって、あらかじめ、規則の定める技術上の基準に適合するようにバキュームカーを購入する。
      3. 被告は、原告が右(1)及び(2)に従って許可申請をしてきた場合には、原告に対して懇切丁寧に手続上の指導を行い、右申請の時から3か月以内に所定の調査、審査を終え、かつ、原告に特段の欠格事由のない限りこれを許可する。

      原告は、右和解の結果に従い、右訴えを取り下げたうえ、バキュームカーを2台も購入して、改めて一般廃棄物処理業の許可申請をしたのである。以上のような経過があったのにもかかわらず、被告は、右和解の結果などを無視して、原告からの右申請に対して不許可処分をしたものであって、被告がこのような処分をした真意は、もしも原告に対して岐阜市内でし尿浄化槽清掃業とし尿浄化槽にかかる汚泥の収集・運搬業とを行うことの許可を与えると、これらの事業に関して当然に原告と競争関係に立たざるを得ない既存の2業者の私的利益を保護することにあったものというべきである。
      すなわち、原告が一般廃棄物処理業の許可申請をしたのは、その許可を受けることによって、し尿浄化槽の清掃の結果浄化槽から除去される汚泥を適法に収集し、かつ、これを運搬することができるようになることを目的としたものであった。けだし、原告がし尿浄化槽清掃業を行うに当たっては、し尿浄化槽にかかる汚泥の収集・運搬手段を講ずることが事実上必要不可欠だからである。
      しかして、岐阜市では、し尿浄化槽清掃業を行うことについての許可と合わせてし尿浄化槽にかかる汚泥の収集・運搬業を行うことについての許可をも得ている業者は、僅かに2業者をかぞえるにすぎず、岐阜市におけるし尿浄化槽の清掃は、事実上この2業者による寡占状態となっている。このような状態は、他の市町村におけるし尿浄化槽の清掃の実状と対比してみても、異常に少数の業者による寡占状態というのほかはなく、このために、岐阜市におけるし尿浄化槽の清掃の実態が市民の需要を十分に充たしているものとはとうてい認められず、かつ、その料金も右2業者によってほしいままに値上げされるなど、市民生活にとっても看過できない重大な弊害をもたらしているのである。しかるに、被告は、事態を従来のままに放置することが、右のような市民生活上の弊害を助長、増大する結果となることをかえりみることなく、もっぱら右2業者の私的利益を保護することのみを意図して、原告が仮に岐阜市内でし尿浄化槽清掃業を行うことを許可されたとしても、その事業の実施を事実上不可能ならしめるために一般廃棄物処理業の許可申請を不許可処分としたのである。
      以上に主張したような和解成立の経過をはじめ、被告の意図などを総合考量すれば、被告による一般廃棄物処理業の不許可処分が、その自由裁量の範囲を逸脱した違法な処分に該当することは、あまりにも明らかである。よって、原告は、被告がした一般廃棄物処理業の不許可処分の取り消しを求める。

    以上が、原告の主張でした。
  • 原告は、昭和56年にも、不許可処分になって提訴し、被告との間で和解が成立して訴えを取り下げていたのですね。
  • いや、被告の方では、原告が訴えを取り下げたことは認めていますが、原告が主張するような内容の和解をした事実はない、と否認していますよ。原告が主張する和解の内容を見ても、昭和56年に許可の申請をしたときには、原告はバキュームカーも所有していなかったのですから、不許可処分になるのは当然のことで、被告の方には、なにも和解しなければならない必要性はなかったようですね。
被告(岐阜市長)の主張
  • 被告は、一般廃棄物処理業の不許可処分やし尿浄化槽清掃業の不許可処分が適法な処分であることについて、どんな主張をしていますか。
  • まず、一般廃棄物処理業の不許可処分の適法性について、次のように述べています。

    廃棄物処理法は、法7条1項に基づく一般廃棄物の収集、運搬および処分を業として行うことの許可申請があった場合、許可権限者である市町村長においては、その許可申請が同条2項各号の規定に適合していると認めるときでなければ、これを許可してはならない旨規定している。
    ところで、右各号のうち、1号および2号に対する各適合性の有無は、当該市町村における一般廃棄物処理計画に照らし、市町村がその責務である一般廃棄物の収集、運搬及び処分の事務を円滑に遂行するために必要かつ適切であるか否かという観点からこれを判断、決定すべきものであるから、その意味においても、法7条1項に基づく許否の処分は、市町村長の自由な裁量に委ねられているものと解するのが正当である。しかして、本件7条申請については、以下に述べるように法7条2項1号、2号及び4号の各規定に適合しない点が認められた。

    1. 法7条2項1号不適合事由
      岐阜市におけるし尿浄化槽にかかる汚泥の収集及び運搬は、現在これを業として行うことを許可されている2業者によって特段の支障なく円滑に遂行されている。右2業者が収集、運搬することのできるし尿浄化槽にかかる汚泥の最大量と対比しても、右2業者が現実に収集、運搬している汚泥量は、右最大量の葯9割程度であって、右2業者による汚泥の収集・運搬能力には、なお相当の余力があるものと認められる。したがって、被告は、本件7条処分当時、岐阜市においては、いまだ『一般廃棄物の収集、運搬及び処分が困難である。』というような状況にはないものと認めたうえ、本件7条申請が法7条2項1号に適合しない旨の判断をした。
    2. 法7条2項2号不適合事由
      岐阜市においては、現在、右許可業者の収集したし尿浄化槽にかかる汚泥が、岐阜市の設置、運営する2か所のし尿処理場に搬入され、右搬入にかかる汚泥がここで生し尿と混合されて浄化処理されている。しかして、右処理場における浄化処理を効率的かつ円滑に行うためには、各業者によって搬入される汚泥の量と生し尿の量とが一定比に保たれるように、右各業者に対して諸般の指導、監督を行うことが必要である。
      ところで、もしも許可業者が増加するときは、これら業者に対する右のような指導、監督に十全を期することは著しく困難となることが予想された。しかも、岐阜市では、現に下水道の整備作業が進捗中であるから、このような状況下において、あえてし尿浄化槽にかかる汚泥の収集・運搬業者の数を増加させるというようなことは不必要であるばかりでなく、かえって、下水道の整備された際に生起することの予想される右許可業者の業務の削減と、これに対する補償というような諸問題についての解決を困難にするなど、行政上の観点からも妥当でないことが明らかであった。
      右(1)に記載した事実に、これらの事情をも加味して判断すると、岐阜市においてし尿浄化槽にかかる汚泥の収集・運搬業を行うことを原告に許可することが、岐阜市の定める一般廃棄物の『処理計画に適合するものである』などとは、とうてい認められなかった。したがって、本件7条申請が法7条2項2号にも適合しないものであることは明らかであった。
    3. しかも、原告は、本件7条申請にあたり、その経歴を詐称するなどの行為にでた。このような原告の態度に照らすと、岐阜市においてし尿浄化槽にかかる汚泥の収集運搬業を行うことを原告に許可した場合、原告は、法7条2項4号ハに定める『その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者』に該当すると判断せざるを得ないから、本件7条2項4号にも適合しないことは明らかである。以上のとおりであるから、本件7条処分になんらの違法な点もないことは疑いを容れる余地がない。
  • 被告は、次いで、し尿浄化槽清掃業の不許可処分が適法である所以(ゆえん)について、次のように述べています。

    廃棄物処理法は、法9条1項に基づくし尿浄化槽清掃業を行うことの許可申請があった場合、許可権限者である市町村長としては、その許可申請が同条2項各号の規定に適合していると認められるときでなければ、これを許可してはならない旨規定している。ところで、本件9条申請については、以下に述べるように、法9条2項1号及び2号(同法7条2項4号ハ)の各規定に適合しない点が認められた。

    1. 法9条2項1号不適合事由
      法9条2項1号に基づく技術上の基準については、廃棄物処理法施行規則6条がこれに適合する施設及び能力を具体的に規定しているが、その1つとして同条4号は、『し尿浄化槽の機能点検及び清掃に関する専門的知識、技能及び相当の経験』を有することを要する旨を定めている。しかして、右規定に関しては、昭和46年10月16日付環整第43号をもって厚生省環境衛生局長から各都道府県知事及び各政令市市長宛に通知が発せられているところ、右通知は、右4号の規定の運用につき、『許可申請者が、厚生大臣の認定する講習会の課程を終了した者で、しかも、相当の経験を有する者であることをもって、右4号の要件を充たすものとすべきこと』を指示している。そして、岐阜市においては、法9条所定の許否処分について、その適正を期するため、右通知の趣旨をも踏まえて、≪岐阜市し尿浄化槽の汚泥収集、運搬及び清掃許可申請取扱い要綱≫ を定め、規則6条4号の規定する『相当の経験』の有無については、許可申請者が、その許可申請にかかる業務につき2年以上の経験を有するか否かを基準としてこれを判断するという取り扱いをすべきこととしている。
      ところが、原告については、いまだ右に述べたような技術上の基準に適合しない点があることは、以下に述べるところによってきわめて明らかである。

      ア.相当の経験の欠如

      原告が本件9条許可の申請をするに際して同申請書に添付して提出した履歴書には、『原告が昭和48年1月から同51年7月までの約3年6か月余にわたって、三重県下の員弁環境衛生社においてし尿浄化槽の清掃業務に携わった』旨その実務経験についての記載がされている。しかしながら、原告の提出した右履歴書の記載内容の正確性につき、被告において後刻調査した結果、原告が右の期間中右の業務に携わっていた者であることはとうてい認めがたいことが明らかとなった。そこで、被告は、このような調査結果に基づいて、本件9条申請には法9条2項1号、規則6条4号に適合しない点があると判断したものであって、この判断が正当であることはいうをまたない。
      しかのみならず、仮に、被告が、し尿浄化槽の清掃業務について原告に相当の経験があるか否かを判断するにあたって、本件9条処分時点以前のすべての原告の経験(ちなみに、原告は、昭和55年8月以降、前記員弁環境衛生社においてし尿浄化槽の清掃業務に関して若干の経験を積んだもののごとくである。
      しかし、原告は、本件9条処分以前に右の経験について被告に対してなんらの告知をもしなかったものであり、被告もまた、本件9条処分当時このことを全く知らなかった。)をも加味すべきであったとしても、原告の右員弁環境衛生社における勤務の実状に照らせば、右処分時までに、原告がし尿浄化槽の清掃業務につき2年以上の経験を有する者と評価し得ない者にあたることも又きわめて明らかである。

      イ.資格の欠如

      原告は、本件9条申請に際し、自己が前記厚生省衛生局長通知にかかる厚生大臣の認定する講習会の課程を終了した者にあたることを証する書面として、財団法人日本環境整備教育センター清掃コース(Bコース)講習会(この講習会は、規則6条4号の定める専門的知識及び技能を有する者を養成する講習会として厚生大臣の認定を受けたものである。)の修了証書を前記申請書に添付した。
      ところで、右講習会を受講するためには、し尿浄化槽の清掃業務につき実務経験を有することがその受講資格とされており、右実務経験については勤務先の証明が求められている。そして、右実務経験の有無、内容につき虚偽の証明を入手して前記の受講をしたことが明らかとなった場合、その受講者は右講習会の課程の修了資格を取り消されるべきこととなっているのである。
      しかして、原告は、右実務経験を偽り、右虚偽の実務経験につき当時の勤務先である員弁環境衛生社こと鈴木好広の『証明』を得て、右講習会を受講した。そうとすれば、そもそも原告の右講習会の課程の修了資格は、これを取り消されてもやむを得ないものにほかならないから、本件9条処分の当否の判断においては、当然、原告がいまだ前記通知にいう『厚生大臣の認定する講習会の課程』を修了していない者と同視すべき者にあたることを前提とすべきである。したがって、この点においても、本件9条申請には法9条2項1号、規則6条4号に適合しない点があるものというのほかはない。
    2. 法9条2項2号不適合事由
      以下に述べるような事情に照らすと。
      もし原告に対して岐阜市においてし尿浄化槽清掃業を行うことを許可した場合、原告がその業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当な理由のある者に該当するという判断をせざるを得ないから、本件9条申請が法9条2項2号、同7条2項4号ハに適合しないものであることもまた明らかである。すなわち、既に述べたように、原告は、本件9条申請に当たり、その履歴につき虚偽の記載をし、また前記財団法人日本環境整備教育センター清掃コース(Bコース)講習会の受講に際してもその実務経験を詐称したばかりでなく、本件訴訟の審理においても、自己の経歴、実務経験等に関し虚偽の供述をしたのである。
      このような原告の態度に加え、仮に原告に対してし尿浄化槽清掃業を行うことを許可したとしても、その場合、原告は、その結果除去されるべき汚泥を収集し、これを運搬することができない(ちなみに、原告はいまだ法7条に基づく許可を受けていない。)のであるから、原告が、これを放置し、あるいは違法に収集、運搬するなどの違法行為に出るであろうということがきわめて高い蓋然性をもって予想された。そうとすれば、原告がその業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれありと認めるに足りる相当な理由のある者に該当する旨の被告の判断は、きわめて正当なものであって、もとより是認されるべきものであろう。
      以上のとおりであるから、本件9条処分になんら違法の点のないことは疑いを容れる余地がない。
    以上が、被告の主張でした。
岐阜地方裁判所が原告の請求を棄却した理由
  • 裁判所は、どんな理由で、岐阜市長が行った一般廃棄物処理業の不許可処分やし尿浄化槽清掃業の不許可処分が、違法な処分ではなかったと判断したのですか。
  • 岐阜地方裁判所は、まず、し尿浄化槽にかかる汚泥の収集、運搬を目的とした一般廃棄物処理業の不許可処分に違法はないとして、その理由を次のように述べています。

    法7条1項は、『市町村の区域内においては、その区域を管轄する市町村長の許可を受けなければ、一般廃棄物の収集、運搬又は処分を業として行ってはならない。』旨規定しているところ、この規定の趣旨とするところは、以下のようなものであると解される。
    すなわち、市町村の区域内における一般廃棄物の収集、運搬及び処分に関する事務は、本来市町村がこれを処理すべきものであり(地方自治法2条9項、別表第2の2の11)、市町村としては、その処理について一定の計画を定め、しかもその計画に従って生活環境の保全上支障が生じないうちにこれを実施しなければならないという法律(地方自治法2条9項、別表第2の2の11、廃棄物処理法6条1項、2項)上の責任を、当該市町村の住民等に対して負担している。しかしながら、あらゆる市町村に対して、右事務のすべてを自らの手によって処理することを要求することは、立法政策上の観点からしても必ずしも合理的ではないため、法は、7条1項を設け、同条項に基づいて、その長から許可を与えられた業者をして市町村の行うべき右の事務を代行させ、このことによって、当該市町村が自らこれを処理したのと同様の効果を確保、実現しようとしているのであって、法7条1項は、まさに上記のような趣旨にいでた規定にほかならないものと解すべきである。しかして、法7条2項各号は、法7条1項に従っていわゆる一般廃棄物処理業を行うことについての許可申請があった場合における許可の要件を定めている。
    ところで、その許可申請が果して法7条2項1号及び2号の各規定に適合しているものであるか否かは、当該市町村が本来その固有の責務とされている一般廃棄物の収集、運搬及び処分の事務を円滑に遂行するために、その申請業者にこれを行うことについての許可を与え、かつ、その申請業者をして市町村の右事務を代行させることが必要かつ適切であるか否かをもっぱら市町村の定める一般廃棄物処理計画との対比において判断すべきものであって、この意味において、右の判断が当該申請に対する許可権者たる市町村長の自由裁量に委ねられているものと解すべきことは、さきに説示した法7条1項に基づく許可の趣旨、性質に徴してきわめて明らかである。されば、原告が主張するところ(ただし、そのうち、一般廃棄物処理業に関する許可の性質に関する部分)は、当裁判所の上記判断とその見解を異にするものであって、とうてい失当として排斥を免れ得ない。そこで、すすんで、原告の本件7条申請に対して、その法7条2項各号適合性を否定した被告の判断の当否、なかんずく、被告の右判断が、果して前記許可の趣旨、性質との対比において、前説示のようないわゆる自由裁量の範囲を逸脱したものと評価すべきものであるか否かの点について、原告が主張する事実関係や被告が主張する事実関係の存否などとも関連させながら検討してみよう。まず、証拠(略)を総合すると、本件7条処分当時の岐阜市におけるし尿浄化槽にかかる汚泥の収集・運搬業務の実施状況をはじめ、被告のこれについての現状認識や将来展望等が以下1ないし3のようなものであったことが認められる。すなわち、

    1. 本件7条処分の当時、岐阜市におけるし尿浄化槽にかかる汚泥の収集及び運搬はそれ以前に被告から右業務を行うことを許可されていた2業者によって行われていた。そして、被告は、岐阜市内におけるし尿浄化槽にかかる汚泥の収集及び運搬が、既存の2業者によって円滑に遂行されており、これに特段の支障もないものと認めていた。しかも、被告は、仮に将来し尿浄化槽にかかる汚泥の収集及び運搬についての需要が相当増大しても、右既存の2業者にはこれに応える余力すらあるものと判断していた。
    2. 岐阜市においては、本件7条処分時の前後を通じて、し尿浄化槽にかかる汚泥は、同市の設置、運営しているし尿処理場に搬入され、ここで、別途収集、運搬されてきた生し尿と混合のうえ浄化処理されていた。ところで、被告は、右処理効率を高めるためには、1日に搬入されるし尿浄化槽にかかる汚泥量と生し尿量及び両者の混合割合を一定に保つことが望ましいと考えていた。このような観点からすると、し尿浄化槽にかかる汚泥や生し尿のし尿処理場への規則的かつ合秩序的な搬入を期するために、担当業者に対する被告の行政的指導、監督が必要不可欠であって、被告としては、この種指導、監督についての実効を挙げるためにも許可業者数の増加が決して好ましいものではない、と判断していた。
    3. さらに、岐阜市においては、ここ数年来急激な人口増加がなく、このような数年来の人口変動現象に徴すると、近い将来、し尿浄化槽にかかる汚泥が大幅に増加するという事態が到来するものとはとうてい予思できないような状況にある。かえって、岐阜市においても、現に下水道整備計画がすすめられているため、今後、し尿浄化槽にかかる汚泥の収集、運搬の必要性は著しく減少する方向に向かうことが予想されている。
      しかも、既に、岐阜市においては、右下水道整備に伴ってし尿浄化槽清掃業者及びし尿浄化槽にかかる汚泥の収集・運搬業者等の業務量が減少し、同業者らが廃業する場合にそなえて、これら業者に対する補償という問題すら重要な検討事項となっているのである。被告は、このような将来展望にかんがみ、し尿浄化槽にかかる汚泥の収集・運搬業者を1業者といえども増加させることが決して妥当な措置ではないと判断した。しかして、証拠に徴すると、被告は、以上1ないし3のような客観的状況及びこれを背景とする状況認識、将来展望のもとに、本件7条申請が被告の定める一般廃棄物処理計画、なかんずく、し尿浄化槽にかかる汚泥の処理計画に適合しない旨の判断をしたものであることを優に肯認することができ、この認定に反するような証拠はない。しかして、本件7条処分当時、被告が岐阜市におけるし尿浄化槽にかかる汚泥の収集・運搬業務についてした前認定のような現状認識と将来展望等が一応相当なものとして是認できるものであることは、証拠によって明らかというを得べく、しかも右1ないし3に認定したような事実関係等の存在を前提としてかれこれ考量すると、本件申請についてその法7条2項各号適合性を否定した被告の右判断が正当なものとして是認されるべきことは、さきに認定した法7条1項に基づく許可の性質、趣旨に徴しても明らかというのほかはない。その他、本件のあらゆる証拠を精査してみても、被告のした本件7条処分が前記のいわゆる自由裁量の範囲を逸脱した違法な処分であることを肯認させるに足りるような証跡は、とうていこれを発見し得ない。
    岐阜地方裁判所は、次いで、し尿浄化槽清掃業の不許可処分にも違法はないとして、その理由を、次のように述べています。

    市町村の区域内においてし尿浄化槽の清掃を業として行おうとする者も、また、その区域を管轄する市町村長からそのための事前の許可を受けなければならないことは、たしかに法9条1項の明定するところである。しかして、右のような法9条1項に基づく許可が、前項において説示したような法7条1項に基づく許可と対比して、後記のような意味においてその性質を異にするものと解すべきことは、以下の説示に徴して自ら明らかであろう。すなわち、そもそも、し尿浄化槽の清掃業務を行ういわゆるし尿浄化槽清掃業者は、浄化槽のそれぞれの管理者から、本来的には当該管理者の義務に属する当該浄化槽の清掃の仕事を業として請け負い、かつ、その請負にかかる仕事を当該管理者のために業として行うにすぎないのであって、一般廃棄物処理業者が本来的には市町村に課せられた一般廃棄物の収集、運搬及び処分に関する責務の全部又は一部を市町村の代行者として行うのと対比して、その従事する業務自体の性格を異にすることが明らかである。
    もっとも、し尿浄化槽の清掃業務の本来的な性格が右のようなものであるとはいっても、その遂行が適正を欠くときは公衆衛生や生活環境の保全に重大な影響を及ぼすこととなるべきことは、とうていこれを否定することができないから、法は、このような事態を防止するために、特に、これを業として行うことを市町村長の許可にかからしめることによって、右業務を行う者の専門的知識、技能等の向上を図ろうとしたものであると解されるのである。し尿浄化槽の清掃業務に対する法の把握ないし認識が以上のようなものであるからこそ、し尿浄化槽清掃業の許可要件を定めた法9条2項には、一般廃棄物処理業の許可要件を定めた法7条2項1号及び2号に対応するような厳格な要件規定がなく、その許可要件が著しく緩和されているものと解すべきである。
    そして、このような法9条2項各号の規定自体と前説示のようなし尿浄化槽清掃業を行うことに対する許可の趣旨、目的に徴すると、その許可権者である市町村長は、いやしくも当該許可申請が法9条2項1号及び2号の要件に適合する以上、すべてこれを許可しなければならないものと解するのが相当である。そこで、本件9条申請が果して法9条2項1号及び2号に定める要件に適合していたものであったか否かを検討することとする。被告は、本件9条申請には、法9条2項1号、規則6条4号に規定された技術上の基準に適合しない点がある旨を主張するので、まずこの点について考察してみよう。

    1. 証拠(略)によれば、以下の事実が認められる。すなわち
      1. 法9条2項1号にいわゆる厚生省令で定める技術上の基準については、規則6条がこれに適合する施設及び能力の内容を具体的に定めているのであるが、その基準の適合要件の1つとして、同条(規則6条)はその4号において、『し尿浄化槽の機能点検及び清掃に関する専門的知識、技能及び相当の経験』という要件を掲げていること、
      2. ところで、規則6条4号の運用等に関しては、昭和46年10月16日付環整第43号をもって、厚生省環境衛生局長から各都道府県知事及び政令指定市長宛に『廃棄物の処理及び清掃に関する法律の施行について』と題する通知がされているところ、右通知によれば、当該許可申請者が右規則6条4号の要件を具備する者であるか否かは、その許可申請者が『厚生大臣の認定する講習会の課程を終了した者であって、相当の経験を有する者』に該当するか否かによって決するという運用の方法をとるべきことが求められていること。
      3. そして、岐阜市においては、法9条1項に基づく許否処分等の適正な運用を図る目的で、右通知を踏まえたうえで、≪岐阜市し尿浄化槽の汚泥収集、運搬及び清掃許可申請取扱い要綱≫(昭和55年12月22日実施)を定めたこと、
      4. しかして、上記要綱は、その5条において、し尿浄化槽の清掃業務につき2年以上の経験を有する者をもって規則6条4号にいう『相当の経験』を有する者として取り扱うべき旨を定めていること、(なお、岐阜市が定めた前記要綱の内容等に法9条2項1号の趣旨に反するような違法、不当な点のないことは明らかである。)以上の事実を認めることができ、上記認定に抵触するような証拠はない。
    2. ところで、証拠(略)を総合すれば、原告は、昭和55年12月11日、財団法人日本環境整備教育センターの行った清掃コース(Bコース)講習会(ちなみに、この講習会は、規則6条4号の定める専門的知識及び技能を有する者を養成する講習会として厚生大臣の認定を受けたものである)の課程を修了した者であるのに加えて、昭和55年8月から現在に至る(本件9条処分当時はもちろんである。)まで、鈴木好広が員弁環境衛生社の名称をもって行っているし尿浄化槽の清掃業務について右鈴木好広を補助し、右業務に携わっている者であることが認められる。そうとすれば、本件9条申請は、客観的には、法9条2項1号、規則6条4号の定める技術上の基準に適合する者によって行われた申請であったというべきであろう。
    3. しかしながら、他面、証拠(略)を総合すると、本件に関しては、以下のような事実のあったことが認められる。すなわち
      1. 原告は、本件9条申請に際し、被告に対して自己の履歴書をその申請書に添付して提出したものであるところ、右履歴書には、前記員弁環境衛生社における原告の勤続期間が『昭和48年1月から昭和51年7月まで』である旨記載されていること、
      2. そこで、被告においては、原告の右履歴書の記載内容に従って原告のし尿浄化槽清掃業務に関する経験の有無、期間等を調査、検討したこと、
      3. その調査、検討の結果、被告は、原告の経歴等について以下のような事実を知ったこと、
        1. 原告は、前記財団法人日本環境整備教育センターにおける講習会の受講に際しても、自己のし尿浄化槽清掃業務に関する実務経験について、『員弁環境衛生社において昭和48年1月から同51年5月まで、見習助手として右業務に携わった。』旨をその受講申込書の身上調書欄に記載していたこと、
        2. しかし、他面、原告は、右期間(昭和48年1月から同51年5月までの期間)を通じて岐阜県立岐阜高等技能専門学校に在籍していたこと、
      4. 被告は、右のような調査結果にかんがみ、原告が昭和48年1月から同51年7月までし尿浄化槽の清掃業務に従事していた旨の右履歴書の前記記載はとうていこれを信用、首肯することができず、したがって、原告がし尿浄化槽の清掃業務について相当(2年以上)の経験を有する者であるとは認められない旨の判断をしたこと、
      以上の事実を肯認することができ、上記認定に反するような証拠はない。
      そして、証人鈴木好広の証言によれば、同証人と原告とは昭和55年8月以前に右員弁環境衛生社においてし尿浄化槽の清掃業務に携わったような事実もないことを優に肯認することができ、この認定に反する趣旨の原告本人の供述部分は、右鈴木証人の証言に対比してたやすく措信することができず、他に上記認定に反するような証拠はない。そうとすると、原告は、本件9条申請に際し、被告に提出すべき自己の履歴書に、あえて自己のし尿浄化槽の清掃業務に関する経験について虚偽の記載をし、自己の右業務に関する経験を秘匿していたものというほかはない。あまつさえ、原告が、本訴審理に当たって、原告本人の尋問を受けた機会においてさえ、右履歴書にみられる前説示のような虚偽の履歴記載が真相に合致することを固執する趣旨の供述をすることに終始したことは、記録に徴して明らかである。
    4. ところで、右3に認定、判示したような事実関係のもとにおいては、原告が、本件9条申請に際し、みずから同申請書に添付して被告に提出した履歴書の記載内容とは異る自己のし尿浄化槽の清掃業務についての経験、すなわち、昭和55年8月から現在(本件9条処分当時はもちろん)に至るまでの間、引き続きし尿浄化槽の清掃業務に従事していたという同業務についての自己の経験を、本件訴訟において改めて主張し、しかも、このような主張に依拠することによって、もっぱら右履歴書に記載せられているようなし尿浄化槽の清掃業務についての経験が果して原告にあったか否かを審理し、かつ、その審理結果に基づいて、被告の本件9条申請を許可すべきものでないとした被告の判断(この判断が右履歴書の記載内容の真偽、有無を審査した結果であることを前提とする限りにおいて正当なものであることは、上来説示したところから明らかである。)をとらえて、これが違法、不当なものであるとして攻撃、非難するが如きことは、この種行政争訟にかかわる法領域を含むすべての法分野において妥当する信義則、禁反言の原則に著しく違背し、とうてい許されないものというべきである。そうとすると、その余の点についての判断を加えるまでもなく、被告のした本件9条処分が違法な処分であって取り消しを免れ得ないものであるとする原告の主張は、もとより失当としてこれを排斥すべきものである。
    岐阜地方裁判所は、岐阜市長が行った一般廃棄物処理業の不許可処分及びし尿浄化槽清掃業の不許可処分の取り消しを求めた?錫崇の請求を棄却した理由について、以上のように述べています。
この訴訟事件が教えるもの
  • この裁判に学ぶべきものは、どんなことでしょうか。
  • そうですね、この訴訟事件は、市町村が新規の許可申請の問題に対処するときの参考になると思いますので、気付いた点をまとめてみることにしましょう。
    まず、し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集、運搬を業として行うことを目的とした一般廃棄物処理業の許可申請に対する不許可処分について検討してみましょう。
    1. 岐阜市長が、「申請には、法7条2項各号の規定に適合しない点がある」から許可することが出来ない、と不許可処分にした理由を明示して、余計なことをくどくどと並べ立てなかったのは、適切な処置であったといえましょう。
    2. 裁判で、岐阜市長は、
      1. 岐阜市では、現在、既存の許可業者によりし尿浄化槽にかかる汚泥の収集、運搬が円滑に遂行されており、しかも、既存の許可業者には、業務の遂行についてなお相当の余力があると認められるため、新規の許可申請は、法7条2項1号に適合しないものと判断したこと、
      2. 岐阜市のし尿処理場は、搬入されるし尿浄化槽の汚泥の量と生し尿の量との混合割合を一定に保つ必要があるため、許可業者をふやせば、これらの業者に対する指導、監督に十全を期すことが困難であると予想されたばかりでなく、岐阜市では既に下水道の整備作業が進捗中であるため、業者の数をふやす必要はなく、業者をふやせば、かえって、下水道の整備に伴い業務の縮小を余儀なくされる業者に対する補償問題が困難となることが明らかであったため、新規の許可申請は、法7条2項2号にも適合しないものと判断したこと、
    以上について主張し、証拠を挙げてその主張の正当性を立証していますが、これも適切であったと思いますよ。
  • この裁判で、し尿浄化槽にかかる汚泥の収集、運搬を業として行うことを目的とした一般廃棄物処理業の許可申請については、既存の許可業者によってし尿浄化槽にかかる汚泥の収集・運搬業務が円滑に行われている場合にあっては、それを理由として不許可処分にすることに違法はなく、また、それぞれの市町村が、し尿浄化槽にかかる汚泥の収集・運搬業務についての現状認識と将来展望のうえに立って定めた処理計画に適合しないと認めた場合、それを理由として不許可処分にすることにも違法はないことが、はっきりしたわけですね。
  • そういうことです。それでは次に、し尿浄化槽清掃業の許可申請に対する不許可処分について検討しましょう。
    1. 岐阜市長は、不許可処分にした理由として、「申請には、法9条2項各号の規定に適合しない点が認められる」から許可することは出来ないと述べています。ここでも無用の論争を招くような余計なことは言っていません。
    2. そして、裁判では、
      1. 岐阜市においては、し尿浄化槽清掃業について許可するか否かの処分の適正を期するため、≪岐阜市し尿浄化槽の汚泥収集、運搬及び清掃許可申請取扱い要綱≫を定め、廃棄物処理法施行規則6条4号に定める「相当の経験」の有無については、その業務につき2年以上の経験があるか無いかを基準として判断することにしているところ、申請者は、この基準に適合していないものと認められるだけでなく、し尿浄化槽清掃業務についての実務経験を偽って財団法人日本環境整備教育センターが行った清掃コースの講習会を受講したものであることが明らかであるため、法9条2項1号に適合しないものと判断したこと
      2. 申請者は、許可申請に当たっても、また、資格を取得するために財団法人日本環境整備教育センターの講習会を受講するに際しても、自己の実務経験を偽っており、このような態度に加え、申請者はし尿浄化槽の清掃にかかる汚泥を収集し、運搬するに必要な法7条に基づく許可を受けていないため、仮にし尿浄化槽清掃業を行うことを許可したとしても、汚泥を放置するか、または、違法に収集、運搬するおそれがあり、法9条2項2号で準用する法7条2項4号ハに該当するものと判断したこと以上について主張しています。これも妥当な主張といえましょう。
  • 裁判所は、し尿浄化槽清掃業の不許可処分については、原告が法9条2項1号に適合していないとする岐阜市長の判断に違法は認められないとしたうえで、原告の主張は、信義則、禁反言の原則に著しく違背し、とうてい許されないものというべきであるから、その他の点について判断するまでもなく原告の主張は斥けられるべきだと判示していますが、「原告の主張が信義則、禁反言の原則に違背する」というのは、どういうことを言っているのですか。
  • 信義則というのは、民法1条2項に、「権利ノ行使及ヒ義務ノ履行ハ信義ニ従ヒ誠実ニ之ヲ為スコトヲ要ス」と定められている基本原則のことで、信義誠実の原則ともいわれているものです。また、禁反言というのは、法律上、前にした表示または行為に対し、同一人が、後になってそれに反する主張をすることは出来ないとする英米法の原則のことです。原告は、許可申請の際に添付した履歴書に、昭和48年1月から同51年7月までの間、し尿浄化槽清掃業に従事していたと記載していたため、被告は、その履歴書に記載された事項を調査して、それが事実でないと判断して不許可処分にしたのですが、原告は、裁判の審理の過程においても、はじめの内は履歴書に記載した経歴に間違いはないことを固執した主張をしていながら、後になって、昭和55年8月から現在まで実務に従事していたと、主張を改め、原告を不許可処分にしたのは不当であると被告を非難したことから、それは信義誠実の原則に反し、禁反言の原則に違背するもので、許さるべきではないと、きめつけたわけです。
  • なるほど、その点はわかりました。ところで、裁判所が、「許可申請が法9条2項1号及び2号の要件に適合する以上、すべてこれを許可しなければならないものと解するのが相当である。」と述べているのが、どうも気になりますね。
  • そうですか、廃棄物処理法9条2項1号及び2号の規定は、浄化槽法36条1号及び2号に、浄化槽法向けに表現を変えて、同じ趣旨の規定が設けられていますので、今後のこともありますから、その点について検討してみることにしましょう。
    廃棄物処理法では9条2項に、「市町村長は、前項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。」と規定していましたが、浄化槽法でも、36条に、「市町村長は、前条第1項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。」と規定しています。そして、廃棄物処理法9条2項2号で準用していた同法7条2項4号ハの「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」については許可をしてはならないという規定も、そのまま、浄化槽法36条2号ホに同文の規定が設けられています。従って、浄化槽清掃業の許可申請者が、仮に浄化槽法36条に定める1号の要件を充たし、2号のイから二まで及びへからヌまでのいずれにも該当しないものであったとしても、この岐阜市の訴訟事件の原告の場合のように、浄化槽の清掃にかかる汚泥を放置したり、又は、不法に収集、運搬するおそれがあると市町村長が判断したときは、36条2号ホの規定に該当するものとして不許可処分にすればよいわけです。
  • そうすれば、訴訟になった場合、裁判所は、その市町村長の判断に基づく不許可処分が適法であったかどうかについて、実情を調べたうえで裁くことになりますね。
  • 判例は、「判断の前提たるべき事実の認識についてさしたる誤りなく、又その結論にいたる推理の過程において著しい不合理のない限り、裁判所としても、その判断を尊重す」べきであるとしています(昭和33年9月10日、最高裁判所大法廷判決)。
  • なるほど。
  • それに、岐阜地方裁判所は、なにも、「許可申請者が法9条2項1号及び2号の要件に適合していなくても、すべてこれを許可しなければならないものと解するのが相当である」と言っているわけではないのですから、勘違いしてはいけませんよ。それよりも気にかかるのは、岐阜地方裁判所が、判決理由の中で、「(し尿浄化槽の清掃業務)の遂行が適正を欠くときは、公衆衛生や生活環境の保全に重大な影響を及ぼすこととなるから、法は、このような事態を防止するため、特にこれを業として行うことを市町村長の許可にかからしめることによって、右業務を行う者の専門知識、技能等の向上を図ろうとしたものであると解される。し尿浄化槽の清掃業務に対する法の把握ないしは認識が以上のようなものであるからこそ、し尿浄化槽清掃業の許可要件を定めた法9条2項には、一般廃棄物処理業の許可要件を定めた法7条2項1号及び2号に対応するような厳格な要件規定がなく、その許可要件が著しく緩和されているものと解すべきである。」と判示している点です。
  • と、言いますと……。
  • 岐阜地方裁判所は、し尿浄化槽清掃業について市町村長の許可にかからしめたのは、し尿浄化槽の清掃が適正に行われないときは、公衆衛生や生活環境の保全に重大な影響を及ぼすこととなるため、その業務を行う者の専門的知識、技能等の向上を図ろうとしたものだと解されると断定していますが、それだけが理由だとは考えられません。し尿浄化槽の清掃に当たって槽内から引き抜く汚泥は、市町村が廃棄物処理法6条1項及び2項の規定に従って収集し、運搬し、処分しなければならない義務を負う一般廃棄物であり、本件の原告も認めているように、し尿浄化槽の清掃作業と、その清掃にかかる汚泥の収集、運搬作業とは密接不可分の関係にあるところから、し尿浄化槽清掃業についても市町村長の許可を要することになったものと解すべきでしょう。また、廃棄物処理法9条2項に同法7条2項1号及び2号に対応するような要件規定が設けられていなかったのは、し尿浄化槽清掃業の許可要件が一般廃棄物処理業の許可要件に比べて著しく緩和されているというわけのものではなく、し尿浄化槽の清掃を行うには、その清掃にかかる汚泥を収集し、運搬するために、必然的に一般廃棄物処理業の許可を要するところから、法9条2項に法7条2項1号及び2号に対応するような要件を設けなくてもよかったからにほかなりますまい。これは、浄化槽法36条の規定についても同じことが言えます。
  • 今後、この種の訴訟事件が提起された場合には、行政側は、その点を強く主張する必要がありますね。
  • それから、浄化槽法でも、浄化槽清掃業の許可の技術上の基準を定めた規則11条4号に、「浄化槽の清掃に関する専門的知識、技能及び相当の経験を有していること」を要件とする旨の規定がありますから、「相当の経験」というのはどの程度のものかを明らかにしておくために、岐阜市に真似て、≪浄化槽清掃業許可申請取扱い要綱≫というようなものを定め、2年とか3年とか一定の期限以上の実務経験をもっていなければ、「相当の経験」を有するものとは認めないことを明文化しておいたがよいでしょう。また、申請者が法人であるときは、大分地方裁判所が臼杵市のし尿浄化槽清掃業不許可処分取消請求事件で判示しているところに従って、業務を行う役員が「相当の経験」をもっていなければならないことを明確にしておく必要もありましょう。
  • 浄化槽清掃業者の資格については、どうなりますか。
  • 昭和60年9月27日付の厚生省生活衛生局水道環境部長通知で、「浄化槽法施行規則第11条第4号に定める『専門的知識、技能及び相当の経験』を有する者は、厚生大臣の認定する清掃に関する講習会の課程を修了した者であって相当の経験を有する者とすること。なお、従来財団法人日本環境整備教育センター及び旧社団法人日本環境整備教育センター(旧社団法人日本浄化槽教育センターを含む。)が実施した浄化槽管理技術者資格認定講習会(B コース)及び旧社団法人日本浄化槽教育センターが実施した浄化槽管理技術者資格認定講習会の修了者は、(前記の)厚生大臣の認定する清掃に関する講習会の課程を修了した者とみなすこと。」と指示されていますので、今までと変わりありません。
  • ところで、昨年8月2日に、日本環境保全協会が、厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課の加藤三郎課長と、同課の森一晃課長補佐を講師に招いて開催した『廃棄物処理行政当面の問題と、業界の今後のあり方についての研修会』で、森課長補佐が、浄化槽清掃業の許可について、
    「今回(日本環境保全協会から)要望いただきました、市町村長のき束裁量を自由裁量とするように改められたいということでございますが、(廃棄物処理法)立法当初から、9条許可につきましては、従来やはりき束裁量ということで扱われておりますので、この考え方は、ずっと踏襲されておるわけでございます。」
    と説明しておられますが、この点は、どう解釈したらいいのでしょうか。
  • 廃棄物処理法が施行された直後に、当時の厚生省環境衛生局環境整備課の全員が協力して編集した≪廃棄物処理法の解説≫が日本環境衛生センターから発行されましたが、その150頁10行目から16行目までに、法9条のし尿浄化槽清掃業について、
    「本条の許可は、き束裁量(法規裁量)に属する行政処分であって、法第14条の規定による産業廃棄物処理業の許可処分の性格と軌を一にするものである。行政行為は、すべて法規に基づき法規にしたがってなされるのであるが、その法規によるき束の程度、態様は画一的ではない。一般に、自由裁量行為は、行政庁に一定範囲の自由裁量を認めてなされる行為であり、き束裁量行為は、行政庁に裁量の余地のない行為であるとされているが、両者は本質的に異なるものではなく、いずれも、ある程度に法規のき束を受け、反面、ある程度の裁量が認められるのであって、両者の差異は究極的には程度の差であるというのが通説である。」
    と解説していました。これは、行政法の権威として知られた田中二郎博士が、≪新版・行政法上巻・全訂第 2 版≫の116頁から117頁にかけて、
    「行政行為は、すべて法に基づき法に従って行われなければならないが、その法によるき束の程度・態様は、場合によってまちまちである。法がその要件・内容について、ほとんど完全に行政をき束し、行政行為は、ただ法の具体化又は執行に止まる場合があり、また、法が公益目的の実現をめざす行政の特殊性に鑑み、行政庁に対し、行政行為をするかどうか、何時どういう行政行為をするか等について、自由裁量の余地を認めており、行政庁がその裁量によって行政行為をする場合もある。前者をき束行為といい、後者を広く裁量行為と呼ぶ。ただ、き束行為といい裁量行為といっても、その法に対する関係において、両者の間に本質的な差異があるわけではなく、現実には、いずれの場合においても、ある程度に法のき束が存するとともに、また、ある程度に裁量の余地があるのであって、その間には単に程度の差異があるにすぎない。」
    と述べておられるのと、全く同じ趣旨の解説でした。つまり、廃棄物処理法が施行された当初から、環境整備課では、第9条の許可はき束裁量行為であるとしながら、き束裁量行為というのは、行政庁に裁量の余地のない行為ではなく、行政庁にある程度の裁量が認められているのだという学界の定説に従った解説をちゃんと付記していたのです。その解説を収録していた≪廃棄物処理法の解説≫の初版が発行されたのが昭和47年4月20日、第2版が発行されたのが昭和51年3月20日のことですから、現在の環境整備課の皆さんは、当時のことがおわかりにならぬかもしれませんね。しかし、昨年8月27日付で水道環境部長になられた森下忠幸さんは、その初版の編集に関与された方ですから、記憶しておられるでしょう。法律の専門家でもない者が、浄化槽清掃業の許可について、き束裁量か自由裁量かと議論する暇があったら、浄化槽法36条に定める許可の要件をよく検討してごらんなさい。市町村長の裁量の余地のない要件もあれば、市町村長の裁量に任されている要件もあることがわかる筈です。申請者に求められる『相当の経験』については、どれだけの期間の経験を『相当の経験』とするかについて法文では明示せず、市町村長の裁量に任せていますし、申請者が『その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認める』かどうかについても、市町村長の判断に任せています。それが法の規定です。