清研時報

1986年3月号

合理化特別措置法の改正を意義あらしめるために~
  1. 改正案について審議した衆院・社労委員会の会議録から
  2. 市町村が合理化事業計画を定めなかったわけ
  3. 法改正の実効を挙げるには、どうしたらよいか
  4. 政令改正のポイント
  5. 望まれる業界の協力体制の強化
改正案について審議した衆院・社労委員会の会議録から
  • 『下水道の整備等に伴う一般廃棄物処理業等の合理化に関する特別措置法』の一部を改正する法律が、ようやく改正されましたね。
  • ええ。環境保全議員連盟の合理化特別措置法改正検討小委員会がまとめた原案どおりに改められました。
  • 今回は、その合理化特別措置法の改正を意義あらしめるには、どうしたらよいかということについて、検討してもらいたいと思いますが……。
  • いいでしょう。せっかくの法律改正を無駄にしてはなりませんからね。
  • ここに、衆議院の社会労働委員会が、さきの第103回臨時国会で、『下水道の整備等に伴う一般廃棄物処理業等の合理化に関する特別措置法の一部を改正する法律案』の起草の件について審議した昨年11月28日の会議録がありますが、この会議録には、審議の模様が次のように収録されています。
戸井田三郎委員長(自民党)
下水道の整備等に伴う一般廃棄物処理業等の合理化に関する特別措置法の一部を改正する法律案起草の件について議事を進めます。本件につきましては、先般来、各会派間において御協議いただき、意見の一致を見ましたので、委員長において草案を作成し、委員各位のお手元に配布いたしてございます。その起草案の趣旨及び内容について、委員長から簡単に御説明申し上げます。御承知のとおり、昭和50年には、一般廃棄物処理業者等が下水道の整備等により受ける著しい影響を緩和するため、下水道の整備等に伴う一般廃棄物処理業等の合理化に関する特別措置法が制定され、今日に至ったわけでありますが、これまでこの法律に基づく合理化事業計画を定めた市町村はなく、一部の市町村において、転廃業を余儀なくされる一般廃棄物処理業者等に対し、事実上の措置として、交付金の交付等を行っているという実情にあります。このため、本案は、市町村におけるこれまでの事実上の措置が、合理化事業計画に基づくものとして、実施し易くなるよう、同計画に定める事項として、業務の縮小又は廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業等を行う者に対する資金上の措置に関する事項を加えようとするものであります。以上が本起草案の趣旨及び内容であります。戸井田委員長 本件について発言を求められておりますので、これを許します。池端清一君。
池端清一委員(社労委理事、社会党)
本改正案につきましては、我が党も賛成の立場でありますが、その運用に当たりまして、2、3の点について確認の質問をさせていただきたいと思いますので、厚生省の方からお答えをお願いしたいと思います。
まず第一は、清掃事業は廃棄物処理法により自治体の固有事務となっておりますが、今回の法改正が地方自治の侵害とならないように適正な運用を図る必要があると思いますが、厚生省の運用方針はいかがでありましょうか、お尋ねしたいと思います。また、これは新たな民間委託を推進するものではないとお約束できるでありましょうか、その点、大臣の見解をお尋ねしたいと思うのであります。
増岡博之厚生大臣
合理化事業計画は、合理化法にも規定されておりますように、あくまで清掃事業の担い手である市町村が、地域の状況を踏まえて、みずからの発意により定めるものでございまして、厚生省としても、地方自治を尊重しつつ適正な法の運用を図ってまいる考えであります。なお、お尋ねの民間委託の件でございますが、清掃事業の実施体制は、一般廃棄物の処理責任を有する市町村が、生活環境の保全上支障が生じないように地域の実情に応じて自主的に定めるものでありまして、今回の法改正が特段民間委託の推進に結びつくものとは考えておりません。
池端委員
下水道の整備に伴って一般廃棄物処理業務が縮小または廃止されることになりますが、それに伴って最も影響を受けるのは、そこに働いていた従業員の方々でございます。し尿収集の作業は住民生活の上で最も重要な仕事であり、これらの従業員は本当に御苦労をされてきた人たちでありますので、これら従業員に対する十分な配慮が必要ではないか、このように思うのであります。具体的には、交付金等が経営者だけでなく、そこに働いている従業員の人たちにも十分配慮されるべきではないかと思いますが、いかがでございましょうか。
森下説明員(森下忠幸厚生省水道環境部長)
お答え申し上げます。大変ごもっともな御指摘と存じます。日頃非常に苦労の多いし尿処理の仕事を引き受けられまして市町村の清掃行政に貢献しておられましたのは一般廃棄物処理業の経営者でございますが、これと並びまして、毎日の仕事に従事される従業員の方々、大変に御苦労されておるわけでございます。これが下水道の整備によりまして業務が縮小或いは廃止を余儀なくされるという場合には、御指摘の通り、これらの従業員に対しましても十分な配慮を払っていかなければならないと考えております。従いまして、厚生省と致しましては、市町村がこの法律に基づく合理化事業計画において資金上の措置を定める際には、従業員に対しましても適切な考慮が払われるよう地方公共団体を指導して参る考えでございます。
池端委員
最後でございますが、それに関連をいたしまして、労働者の皆さん方の再就職等に当たって、職業訓練等特段の配慮を払うべきではないかと考える訳でありますが、何か具体的な方策がございましたら、それをお示し願いたいと思います。以上です。
森下説明員
職業訓練に関する一般的な制度といたしましては、職業訓練法に基づく公共職業訓練施設による職業訓練の制度がございます。このほか、廃棄物処理業の事業それ自体の転換及びそこで働いております従業員の職業訓練を容易にするための特別の措置といたしまして、中小企業事業転換対策臨時措置法によります業種指定を受ける方途がございます。でございますので、今後このし尿処理業などを指定業種とすることについて関係省庁、これは通商産業省、労働省でございますが、これらと十分連絡調整を図って参りたいと考えております。また、以上申し上げましたような職業訓練制度の活用等につきまして、市町村や事業者に対しまして周知徹底を図って参りたいと考えております。
池端委員
終ります。
戸井田委員長
これにより採決いたします。お手元に配布いたしております下水道の整備等に伴う一般廃棄物処理業等の合理化に関する特別措置法の一部を改正する法律案の草案を成案とし、これを委員会提出の法律案と決するに賛成の諸君の起立を求めます。
[賛成者起立]
戸井田委員長
起立総員。よって、さよう決しました。なお、本法律案の提出手続等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。
[「異議なし」と呼ぶ者あり]
戸井田委員長
御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。
  • この改正法律案は、12月3日、衆議院本会議で異議なく可決され、次いで同月20日、参議院本会議でも全会一致をもって可決され、成立の運びとなったわけですが、この改正法律に関する質疑応答は、後にも先にもこれだけのようです。
  • 合理化特別措置法が施行されて10年以上もたつというのに、これまで、市町村の中に、事実上の措置として交付金の交付等を行ってきたところはあるものの、それらは例外なく業者からの強い要望によって実現したものであって、この法律に基づく合理化事業計画を定めた市町村は1か所もなかった。それは一体何故なのか、その肝心な点についての審議は、ついに行われませんでしたね。
  • 改正法律案の原案をまとめられた環境保全議員連盟の先生方は、市町村が合理化事業計画を定めなかったのは、今までの法律では、市町村が定める合理化事業計画の中に、下水道の整備等により業務の縮小または廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業等を行う者に対する資金上の措置に関する事項が含まれていなかったからだと判断しておられたようですし、改正法律案の審議に当たられた衆・参両院の社会労働委員会の先生方も同じような判断をしておられたものと思われますから、おそらく、この法律改正で、市町村は、どこも、合理化事業計画を定めるようになるものと考えておられるのでしょうね。
  • そうなれば、云うことはありませんよ。
    しかし、考えてもごらんなさい。下水道の整備等に伴って業務の縮小または廃止を余儀なくされる業者たちが求めているのは、仕事ですよ。代替業務です。どうしても代替業務がないときは、仕方がないから金銭で補償してもらいたいというのが業者たちの願いではありませんか。改正前の合理化特別措置法でも、市町村は、「下水道の整備等による一般廃棄物処理業等の経営の基礎となる諸条件の変化の見通しに関する事項」「下水道の整備等に伴う一般廃棄物処理業等の事業の転換並びに経営の近代化及び規模の適正化に関する事項」について合理化事業計画を定めるものとされていたのですよ。下水道の整備計画を進めている市町村では、この規定に基づいて合理化事業計画を定め、事業の転換に関する計画を実施し、転換事業者に対する金融上の措置を講じ、従業員に対する就職のあっせん等を行うべきでした。ところが、合理化事業計画を定めた市町村は1か所もなかった。これが現実です。
    従って、今回、市町村が定める合理化事業計画の中に、「下水道の整備等により業務の縮小又は廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業等を行う者に対する資金上の措置に関する事項」を加えるように改められましたが、市町村が、今までどおり、合理化事業計画そのものを定めなければ、何の役にも立たないのではありませんか。それだからこそ、わたしは、清研時報の一昨年10月号でも、昨年11月号でも、下水道の整備等により業務の縮小または廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業者の数は日増しにふえているのに、市町村が、これに対処するための合理化事業計画を定めないのは何故かという点を指摘するとともに、合理化特別措置法の一部を改正する法律案の審議を通して、その原因を取り除いてもらうように働きかけるべきだと力説してきたわけです。
  • そうでしたね。ところが、その点にはふれないまま、改正法律案は可決、成立し、施行される運びとなりました。今となっては、打つ手はないのでしょうか。
  • そんなことはありません。せっかく業界の長年の苦労が実って法律の改正が実現したのですから、なんとしても、この法律改正を意義あらしめねばなりません。そのためにも、現状を冷静に分析する必要がありましょう。
市町村が合理化事業計画を定めなかったわけ
  • 今まで市町村が合理化事業計画を定めなかったのは、何故でしょうか。
  • 第一の理由は、市町村の担当者たちの中に、合理化特別措置法という法律があることすら知らない者が驚くほど多く居るという事実によるものです。
  • 合理化特別措置法が施行されていることすら知らないようでは、合理化事業計画を定めることなど思いもよらぬでしょうが、そんなに知られていないのですか。
  • わたしは、昨年、東海、近畿、四国、九州地方の6市15か町を訪ね、新規許可問題や補償問題などで、21か所の市長さん、町長さん、それに担当の部・課長さんたちと折衝しましたが、合理化特別措置法にどんなことが定められているかということを認識しているところは皆無でした。一昨年も、一昨昨年も、新規許可問題などで業者の依頼を受けて、あちこちの市や町を訪ねましたが、合理化特別措置法という法律があることすら知らない担当者が少なくないのに驚いたものです。
  • そんなものですか。
  • 第二の理由は、厚生省水道環境部が、その編集にかかる≪廃棄物処理法の解説≫の中で、「下水道の供用開始等の事情により、許可を受けた者の従来の業務量が減少し、又は、許可に付された期限の到来のため再申請した者に対して市町村長が不許可処分を行ったとしても、当該市町村は、当該業者に対して何ら補償の責を負うものではない」とか、「業者は補償を請求することはできない」などと解説していることによるものです。市町村の担当者の中に合理化特別措置法について若干の知識を持つ者が居ても、その殆どは、この厚生省水道環境部の解説に盲従している有様でした。
  • 厚生省が、下水道の供用開始等の事情により業務の縮小または廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業者に対して、市町村は何ら補償の責を負わなくてもよいという行政指導をしている以上、市町村の担当者たちが、それじゃあ何も面倒くさい合理化事業計画など定める必要はないじゃないかと考えるのは、無理もないことですね。
法改正の実効を挙げるには、どうしたらよいか
  • 厚生省水道環境部の従来の行政指導は、昭和37年、清掃法当時に、厚生省環境衛生局長が、横浜市清掃局長からの照会に対して、同年9月19日付・環発第358号をもって回答した内容を、そのまま無批判に繰り返しているもので、このことについては、清研時報の一昨年10月号でくわしく説明しておきましたが、これは、合理化特別措置法という法律そのものを無視したものと云わねばなりません。
    厚生事務次官が昭和50年10月21日付、厚生省環第676号をもって指示した『下水道の整備等に伴う一般廃棄物処理業等の合理化に関する特別措置法の施行について』と題する依命通知を見れば、それは明らかです。厚生事務次官は、その依命通知の中で、次のように述べています。

    本法律は、一般廃棄物処理業等が国及び地方公共団体における下水道の緊急かつ計画的な整備等により受ける著しい影響を緩和し、併せてその経営の近代化及び規模の適正化を図るために必要な措置を講ずることにより、その業務の安定を保持するとともに、廃棄物の適正な処理の確保を図り、ひいては国民の公衆衛生の向上と生活環境の保全に資することを目的として制定されたものであるので、その運用に当たっては、特に次の事項に留意のうえ、これが実施に遺憾なきを期せられたく、命により通知する。おって、貴管下市町村に対する周知指導方よろしくお願いする。

    1.制定の趣旨

    下水道の整備並びに海洋汚染防止法に基づくし尿及びし尿浄化槽汚泥の海洋投入処分に対する規制の強化は、環境の保全上緊急かつ重要な施策であるが、国及び地方公共団体におけるこのような施策の推進に伴い、市町村長の許可又は市町村の委託を受けてし尿の処理を業とする者及び市町村長の許可を受けてし尿浄化槽の清掃を業とする者が、その事業の転換、廃止等を余儀なくされる事態が生じてきている。しかし、これらの事業者が事業の転換、廃止等を行う場合、不要となる運搬車、運搬船等の設備及び器材を他に転用することは極めて困難であり、このため事業そのものの転換、廃止等も容易ではない実情にある。しかも、し尿の処理及びし尿浄化槽の清掃の適正な実施を確保するためには、これらの事業は、下水道の終末処理場によるし尿処理への転換が完了する直前まで、その全体の規模を縮小しつつも、継続して行われなければならない。また、海洋投入処分に対する規制の強化が実施されるときも同様である。このような事情にかんがみ、この際、市町村が合理化事業計画を定め、都道府県知事の承認を受けて合理化事業を実施することができることとし、また、転換計画を策定して市町村長の認定を受けた事業者に対し、国又は地方公共団体が金融上の措置を講ずるとともに、当該事業の従事者についての就職のあっせん等の措置を講ずるよう努めることとすることにより、これらの事業の業務の安定を保持するとともに、廃棄物の適正な処理に寄与せんとする趣旨のもとに本法が制定されたものであること。

    2.合理化事業計画

    市町村が合理化事業計画を定めるに当たっては、下水道の整備等により一般廃棄物処理業等が受ける影響を適確に把握し、将来の当該市町村における一般廃棄物処理業等の規模を適正に設定し、一般廃棄物処理業等の業務の安定を保持するために必要かつ十分な事業であって実施が可能なものを合理化事業として選定する等十分な検討を行うよう指導されたいこと。なお、都道府県知事が行うこととなる合理化事業計画の承認に当たっては、合理化事業計画の適正を確保するため、特に慎重かつ公正を期されたいこと。

    3.事業の転換に関する計画

    市町村長が行うこととなる事業の転換に関する計画の認定は、国又は地方公共団体が講ずるよう努めるべきとされる転換事業者に対する金融上の措置の前提となる重要な行為であり、合理化事業計画の策定及びその承認とともに、法の運用の中枢をなすものであるから、特に慎重かつ公正な運用がなされるよう指導されたいこと。

    4.その他

    市町村に対する資金の融通等の措置、転換事業者に対する金融上の措置及び事業の従事者に対する就職のあっせん等の措置に関し、国が具体的に行う施策については、関係機関とも連絡のうえ、その内容が決定され次第おって通知するものであること。なお、地方公共団体が講ずるよう努めるべきとされる転換事業者に対する金融上の措置及び事業の従事者に対する就職のあっせん等の措置については、今後諸般の検討を行い、適切な施策を講ずるよう努められるとともに、その旨貴管下市町村を指導されたいこと。

    厚生事務次官の通知の内容は、以上のとおりです。
    合理化特別措置法第1条を見ればわかるとおり、「この法律は、下水道の整備等によりその経営の基礎となる諸条件に著しい変化を生ずることとなる一般廃棄物処理業等について、その受ける著しい影響を緩和し、併せて経営の近代化及び規模の適正化を図るための計画を策定し、その実施を推進する等の措置を講ずることにより、その業務の安定を保持するとともに、廃棄物の適正な処理に資することを目的とする」ものですから、厚生省水道環境部が行ってきた行政指導が、この法律の趣旨に反するものであることは明白です。
  • しかし、最初に紹介しました合理化特別措置法の一部を改正する法律案を審議するために開かれた衆議院社会労働委員会の会議録によれば、池端委員が、「下水道の整備に伴って業務の縮小または廃止を余儀なくされる場合、交付金等が経営者だけに交付されるのでなく、そこに働いている従業員に対しても配慮されるべきではないか」とただされたのに対して、森下水道環境部長は、「ご指摘のとおり(経営者ばかりでなく)従業員に対しても、十分な配慮を払っていかなければならないと考えている」と答えておられるほどですから、水道環境部も、現在では、下水道の整備等により業務の縮小または廃止を余儀なくされる業者に対して、市町村は補償の責を負わなくてもよいなどとは考えていないようですね。
  • そうあるべきですよ。少なくとも、合理化特別措置法が施行されてからは、「下水道の供用開始等の事情により、許可を受けた者の従来の業務量が減少し、又は、許可に付された期限の到来のため再申請した者に対して市町村長が不許可処分を行ったとしても、当該市町村は、当該業者に対して何ら補償の責を負うものではない」というような解説をしてはならなかったものです。それなのに、水道環境部環境整備課では、合理化特別措置法が施行された翌年の春、昭和51年3月20日に、≪廃棄物処理法の解説≫の改訂版が発行されたとき、初版の解説をそのまま残し、その後、第3版、第4版、第5版と版を重ねた際にも、従来からの解説を改めようとはせず、現在に至っているわけです。
  • 厚生省では、大切な法律の解説書の内容を十分に検討もせずに版を重ねてきたのではないでしょうか。
  • そうとしか考えられません。しかし、そんなことではいけませんから、今度こそは、合理化特別措置法の一部が改正された機会に、従来の解説を改めてもらわねばなりますまい。幸い、浄化槽法の制定に伴って廃棄物処理法が改正され、廃棄物処理法施行令ならびに廃棄物処理法施行規則も改正されましたので、≪廃棄物処理法の解説≫も、内容を改め、第6版が近く発行される筈ですから、その第6版では、合理化特別措置法の趣旨に反するような解説の文句は削除してもらうように働きかけるべきでしょう。
  • その第6版の発行は、いつごろになるのでしょうか。
  • 発行元の財団法人日本環境衛生センターに尋ねたところ、4月ごろの予定だということでしたよ。
  • その4月ごろに発行される≪廃棄物処理法の解説≫の第6版でも、今までどおり、一般廃棄物処理業について、「下水道の供用開始等の事情により、許可を受けた者の従来の業務量が減少し、又は、許可に付された期限の到来のため再申請した者に対して市町村長が不許可処分を行ったとしても、当該市町村は、当該業者に対して何ら補償の責を負うものではない」とか、「業者は補償を請求することはできない」という解説がなされていたら、このたびの法律改正の苦労も水泡に帰してしまうおそれがありますね。
  • そのとおりです。だから、そんなことにならないように、業界の皆さんは、合理化特別措置法の改正でみせた協力体制を更に強化して運動を展開する必要があるわけです。
  • 運動の目標は、1つには合理化特別措置法の趣旨を市町村の担当者に徹底させるための処置を講ずること。もう1つは合理化特別措置法の趣旨に反するような厚生省水道環境部編集の≪廃棄物処理法の解説≫の中の前述の字句を削除してもらうことですね。
  • そのほかにも大切なことがあります。それについては、つぎの項で検討することにしましょう。
政令改正のポイント
  • 合理化特別措置法では、第2条で、「この法律において『一般廃棄物処理業等』とは、廃棄物の処理及び清掃に関する法律の規定による市町村長(特別区の存する区域にあっては、都知事)の許可を受け、又は市町村(特別区の存する区域にあっては、都)の委託を受けて行うし尿処理業その他政令で定める事業をいう。」と定められてあり、これをうけて、法施行令第1条で、「下水道の整備等に伴う一般廃棄物処理業等の合理化に関する特別措置法第2条の政令で定める事業は、浄化槽法第35条第1項の規定による市町村長(特別区の存する区域にあっては、都知事)の許可を受けて行う浄化槽清掃業とする。」と規定されていますね。
  • はい。
  • ところで、浄化槽法によれば、浄化槽の清掃は浄化槽管理者の義務とされており、浄化槽清掃業とは、浄化槽管理者の委託を受けて浄化槽の清掃を行う事業のことをいうとされているでしょう。
  • そうですね。
  • それから、浄化槽の保守点検についても、やはり浄化槽管理者の義務とされていて、自ら浄化槽の保守点検の技術上の基準に従って浄化槽の保守点検を行うことができない浄化槽管理者は、浄化槽法第48条第1項の規定により条例で浄化槽の保守点検を業とする者の登録制度が設けられている場合にはその登録を受けた者に、その登録制度が設けられていない場合には浄化槽管理士に委託することができることになっていますね。
  • はい。
  • つまり、浄化槽の保守点検を業とする者は、浄化槽管理者の委託を受けて、浄化槽管理者に課されている義務を代行するものですね。
  • そうです。
  • そうだとすれば、浄化槽管理者の委託を受けて浄化槽の清掃を行う者について合理化特別措置法が適用されるのであれば、同様に浄化槽管理者の委託を受けて浄化槽の保守点検を行う者についても合理化特別措置法が適用されるべきではないでしょうか。
  • なるほど、そうなりますね。
  • そこで、合理化特別措置法が制定されたのは何時だったかを思い出してごらんなさい。
  • 昭和50年5月23日ですね。
  • そうです。廃棄物処理法施行規則の第4次改正が行われる前のことです。廃棄物処理法第9条第1項の許可を受けたし尿浄化槽清掃業者が、し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集、運搬又は処分を業として行う場合は、廃棄物処理法第7条第1項の許可を要しないこととされていた当時のことでした。
    その当時としては、し尿浄化槽清掃業者は、単にし尿浄化槽の清掃だけでなく、し尿浄化槽の汚泥の収集、運搬又は処分の業務をも併せて行っていたわけです。ですから、合理化特別措置法を定めるに当たって、し尿浄化槽清掃業を一般廃棄物処理業と同じように取り扱ったのは、当然のことだったと云えましょう。ところが、昭和53年8月10日、つまり、合理化特別措置法が施行されて3年あまり経過した後で、厚生省令第51号による改正で廃棄物処理法施行規則第2条第2号が削除され、し尿浄化槽の清掃とそのし尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集、運搬又は処分を併せて行おうとする者は、廃棄物処理法第9条第1項の許可と併せて同法第7条第1項の許可を要することとなりました。浄化槽法が施行された現在でも、浄化槽法第35条第1項の許可を受けた浄化槽清掃業者が、その清掃にかかる浄化槽の汚泥を収集し、運搬し、又は処分しようとするには、廃棄物処理法第7条第1項の許可も受けなければならないことになっているでしょう。
  • なるほど、合理化特別措置法が制定された当時のし尿浄化槽清掃業の業務内容と、現在の浄化槽清掃業の業務内容とは違ってきていますね。
  • そうです。ですから、合理化特別措置法施行令第1条をこのままにしておいたら、浄化槽の保守点検を業とする人たちから、きっと、浄化槽清掃業と同じように取り扱ってもらいたいという要望が出されるようになりましょうね。
  • 当然、そういう意見が出てくるものと考えねばなりますまい。
  • しかし、合理化特別措置法施行令第1条を改め、浄化槽の保守点検を業とする者についても合理化特別措置法を適用するようにすることには問題がありましょう。それよりは、合理化特別措置法の適用を受けるのは、し尿の収集、運搬または処分を業とする者及び浄化槽にかかる汚泥の収集、運搬または処分を業とする者、すなわち、一般廃棄物処理業者だけに限定し、この法律の『一般廃棄物処理業等』の『等』を削除するとともに、それに応じて法施行令第1条も改正すべきだと考えます。
  • なるほど。
  • 次に、合理化特別措置法では、第3条第1項で、「市町村は、当該市町村の区域に係る下水道の整備その他政令で定める事由によりその経営の基礎となる諸条件に著しい変化を生ずることとなる一般廃棄物処理業等について、その受ける著しい影響を緩和し、併せて経営の近代化及び規模の適正化を図るための事業に関する計画(合理化事業計画)を定め、都道府県知事の承認を受けることができる。」と定め、法施行令第2条で、「法第3条第1項の政令で定める事由は、し尿及びし尿浄化槽に係る汚泥の海洋投入処分に対する法令の規定による規則の強化とする。」と規定しています。従って、合理化特別措置法の適用を受けるのは、1.下水道の整備に伴って業務の縮小または廃止を余儀なくされる場合2.海洋汚染防止法に基づくし尿及び浄化槽汚泥の海洋投入処分に対する規制の強化に伴って業務の縮小または廃止を余儀なくされる場合以上の2つの場合に限定されていますが、この規定について、どう思いますか。
  • 当然のことじゃありませんか。
  • もちろん、当然のことです。わたしがお尋ねしたのは、合理化特別措置法は、この2つの場合だけに適用されるということでよいのか、ということですよ。
  • この2つの場合のほかにも、合理化特別措置法を適用すべきだと云われるのですか。
  • そうです。下水道の整備といい、海洋汚染防止法に基づくし尿及び浄化槽汚泥の海洋投入処分に対する規制の強化といい、いずれも、国策に基づく市町村の一般廃棄物処理計画の変更によるもので、そのために業務の縮小または廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業務に携わる者に対して補償のみちを講ずるのが当然のことであるからこそ、合理化特別措置法が制定されたわけですが、市町村の固有事務を代行する一般廃棄物処理業者が、市町村の処理計画の変更に伴って業務の縮小または廃止を余儀なくされる場合は、この外にもいろいろあるのに、これ以外の場合は合理化特別措置法が適用されないというのは、おかしいとは思いませんか。
  • そう云われてみれば、そうですね。
  • 一般廃棄物処理業の許可の申請については、「当該市町村による一般廃棄物の収集、運搬及び処分が困難である」と認めるときでなければ許可をしてはならないものと定められており、厚生省水道環境部では、≪廃棄物処理法の解説≫の中で、廃棄物の収集、運搬及び処分が困難であるか否かの認定について、「一般家庭から生ずる通常の廃棄物については、原則として困難とはいえない」が、「一般家庭から排出される通常の廃棄物についても、当該廃棄物を市町村が自ら収集、運搬又は処分し、又は市町村以外の者に委託して収集、運搬又は処分する体制が整わない場合は、当分の間、現に一般廃棄物処理業者が法第7条第1項の許可に基づいて収集、運搬又は処分しているものについて困難と認定することができる。」と説明しています。
    つまり、許可制を採用しているのは『当分の間』の応急の措置ということですから、法の建て前から云えば、できるだけ早く直営事業に切り替えるか、それとも市町村以外の者に委託するようにしなければならないわけです。この法律の趣旨に基づいて、市町村が許可制をやめ、従来の許可業者に委託するのであれば問題はありませんが、新たに組織した公益法人に委託することにして、従来の許可業者を廃業させるような場合、そのために廃業を余儀なくされる業者と、下水道の整備に伴って業務の廃止を余儀なくされる業者との間に、何か違いが認められますか。
  • どちらも、市町村の処理計画の変更によって仕事を失うことに変わりはありませんね。
  • だったら、この場合も、同じように、合理化特別措置法の適用を受けるようにすべきではありませんか。
  • そうですね。鹿児島市が、昭和53年に、し尿の収集、運搬業務を、新たに設立した財団法人鹿児島市衛生公社に委託することにして、それまで許可を与えていた12名の業者を廃業させた折には、ちゃんと転廃業に伴う補償金を交付していますね。
  • 鹿児島市だけではありません。ほかにも事例があります。たとえば、京都府の亀岡市でも、昭和51年に、し尿の収集、運搬業務を財団法人亀岡市清掃公社に委託することとし、それまで21年間にわたってし尿の収集、運搬業務を代行してきた業者を廃業させるに当たって、やはり相当額の補償金を交付しています。
  • それは、当然のことですね。
  • その当然のことを、政令で定めておく必要があるとは思いませんか。
  • なるほど、その必要がありますね。
  • そこで、合理化特別措置法施行令第2条は、次のように改めるべきではないでしょうか。
    「第2条 法第3条第1項の政令で定める事由は、次のとおりとする。
    一、し尿及びし尿浄化槽に係る汚泥の海洋投入処分に対する法令の規定による規制の強化
    二、当該市町村の一般廃棄物処理計画の変更」
  • 賛成です。そうしておけば、市町村が、それまで許可業者に代行させていたのをやめて、直営事業に切り替えたり、新たにつくった公益法人に委託するようにしたため、余儀なく廃業させられることとなった業者に対しても、合理化特別措置法が適用されることになりますね。
  • そればかりではありません。業者が真面目にし尿や浄化槽汚泥の収集、運搬または処分の仕事に励んでいて、その市町村の一般廃棄物処理業務が円滑に実施されているにもかかわらず、市町村長が、だしぬけに新規業者に許可を与えたり、経験もない者に委託するようなことが往々にして見受けられますが、こうしておけば、そのために業務の縮小または廃止を余儀なくされることとなる業者に対しては、合理化特別措置法の定めるところに従って、然るべき代替業務を与えるなり、相応の補償金を交付するなりしなければならなくなりますから、市町村長も、選挙の論功行賞や、有力者に頼まれて断わりきれないなどの理由で、無茶なことをするわけにもいかなくなるでしょう。
  • そうなれば、無用の紛争を防止することも出来ますね。
  • ご承知のように、一般廃棄物の処理は市町村の固有事務とされており、本来は、市町村が直営事業として実施するのが建て前になっていますが、その建て前に従って、自ら直事業としてし尿の収集、運搬業務を実施してきた市町村が、下水道を整備したり、または、し尿の収集、運搬業務を市町村以外の者に委託することとしたため、その業務に従事してきた職員を必要としなくなったときは、どうしますか。不要となった職員は配置転換によって他の職場に移すか、どうしても人員整理をしなければならないときは勧奨退職の規定に従って退職金を交付することになるでしょう。
  • そうですね。
  • おしきせで働く地方公務員の場合は、し尿の収集、運搬の仕事がなくなったときは、配置転換によって他の職場に移すか、やむなく退職させるときは相応の退職金を交付するのに、市町村に課せられた固有事務を代行するために、少なからぬ経費を負担し、自らの責任で施設を整え、従業員を雇用して、真面目に勤めてきた業者たちが、市町村長の裁量権の濫用によって、代替業務も与えられず、補償金の交付も受けられないまま、泣き寝入りしなければならないような状態が正常だと云えるでしょうか。
  • そんな事態は、なんとしても防がねばなりません。そのためにも、政令を改正する必要がありますね。
望まれる業界の協力体制の強化
  • 合理化特別措置法施行令には前項で述べたような問題点があり、改正すべきだと思いますが、これを改正してもらうには、合理化特別措置法の改正で見せた業界の協力体制をより一層強化する必要がありましょう。それに、もう1つ、清掃業者の皆さんが自覚しなければならないことがあります。それは、既に下水道整備計画が進められているところでは、すぐにも合理化事業計画を定めてもらうように市町村当局に申し入れなければなりませんが、それには、県内の業者の一致結束した支援体制をとってもらう必要があるということを認識することです。
  • たしかに、清掃業者が組織化されていないところや、組織化されてはいても、いくつかの組合に分かれているところでは、業者はそれを自覚する必要がありますね。
  • 福岡県遠賀郡の芦屋町と水巻町では、昭和53年11月6日、数年後の57年度完成をめざして下水道工事が進められていた当時、下水道の整備に伴いその経営の基礎となる諸条件に著しい変化が生ずる一般廃棄物処理業並びにし尿浄化槽清掃業を行う業者に対して、代替業務を提供することや、補償金を交付することについて、福岡県環境整備事業協同組合水洗化補償対策委員長との間で協定書を取り交わしましたが、これとても地元業者だけの運動によるものではなく、福岡県下の清掃業者の統一団体である協同組合の強力な支援があったればこそ実現したものであることを知らねばなりません。
  • せっかく合理化特別措置法の改正が実現したのですから、この法律改正を意義あらしめるとともに、政令の矛盾についてもこれを改めてもらい、業者の皆さんが安心して業務に励むことができるようにしなければなりませんね。