清研時報

1986年5月号

友愛精神の欠如が騒ぎを大きくした火の国阿蘇の浄化槽清掃業許可問題
  1. 火ダネは保守点検業者の登録制度
  2. 法律で定めた手続きを怠った熊本県環境整備事業協同組合の組合員除名
火ダネは保守点検業者の登録制度
  • 熊本の阿蘇の山々に一斉に火を放つあの壮大な阿蘇の火まつりの時期に、阿蘇山を囲む9つの町村でくすぶり続けていた浄化槽清掃業の許可問題は、熊本県環境整備事業協同組合が、組合員の1人を除名するという騒ぎにまで発展したと聞きましたが、結局、どうなりましたか。
  • 許可問題の方は、4月14日になって、ようやく結論が出ましたが、協同組合の除名の方は、厄介な問題を残したようですよ。
  • どうして、そんな騒ぎになったのでしょうか。
  • 一言で云えば、業者の友愛精神の欠如と法令についての認識不足が騒ぎを大きくしたと云えましょう。全国には中小企業等協同組合法に基づく事業協同組合が少なくありませんし、その運営上参考になる点もあるようですから、順を追って説明することにしましょう。熊本県阿蘇郡には12の町村がありますが、そのうち、一般に阿蘇山と呼ばれている5つの山を中心にして、外輪山に囲まれた内側に、阿蘇町、一の宮町、高森町、白水村、長陽村、久木野村、西原村、波野村、産山村という9つの町村があります。その9つの町村で組織している阿蘇町外8ケ町村衛生施設組合では、組合長が、一般廃棄物処理業や浄化槽清掃業の許可を与えることになっています。
  • 町村長が各町村ごとに許可を与えるわけではないのですね。
  • そうです。組合条例で、許可を申請する者は、関係書類をそろえて組合長に提出し、組合長が組合議会の同意を得て許可を与えることになっています。
  • もちろん、組合議会の議員は各町村から出ているわけでしょう。
  • 町村長が9名、各町村議会議員の中から1名づつ合わせて9名、それに、組合長を出している阿蘇町の衛生課長と、副組合長を出している高森町の衛生課長の合計20名です。
  • その9カ町村の人口は、どれくらいですか。
  • 昭和60年3月31日現在の住民基本台帳によれば、右表のとおりです。9カ町村合わせて62,887人、世帯数が17,547世帯です。
    町村名 人口 世帯数
    阿蘇町 20,637 5,696
    一の宮町 10,939 3,309
    高森町 8,989 2,588
    白水町 5,159 1,279
    西原村 5,108 1,295
    長陽村 5,046 1,658
    久木野村 2,729 666
    波野村 2,219 570
    産山村 2,061 486
  • 人口1万人以下の町村が7カ町村もありますね。
  • そうです。そのうちの3カ町村は、2,000人台です。
  • そんなに人口の少ない町村では、いくつかの町村にまたがって営業できるように許可してもらわねば、1カ町村だけでは採算がとれませんね。
  • 業者の側の必要性だけではありません。町村の側でも、業者が採算がとれるかどうかお構いなしに許可を出すわけにはいきませんからね。それに、1カ町村だけでは採算がとれないような人口の少ないところでも、町村長が許可するようになっておれば、選挙の際に働いてくれたような人たちから許可してくれともちかけられると、ことわりきれずに困るものですよ。組合議会の同意がなければ、町村長の一存では許可することができないとしておく必要があるわけです。
  • たいていの一部事務組合が、組合議会の同意を得て組合長が許可するようにしているのは、そのためですね。
  • そうです。そこで、阿蘇町外8ケ町村衛生施設組合では、組合条例に基づいて、し尿の収集・運搬を行うための一般廃棄物処理業については、阿蘇衛生社代表者内藤正良氏に、阿蘇町を、あそ清掃社代表者向一助氏に、一の宮町を、上村商会代表者上村保枝氏に、白水村、長陽村、久木野村を、出崎商会代表者出崎稔治氏に、高森町、西原村、波野村、産山村を、それぞれ指定して許可を与え、浄化槽清掃業については、一般廃棄物処理業の許可業者である内藤、向、上村、出崎4氏が出資者となって設立した(有)阿蘇浄化槽管理センターに、昭和49年6月以来、9カ町村の全域を区域とする許可を与え、許可の有効期間は、一般廃棄物処理業の方が11月1日から翌々年の10月31日までの2年間、浄化槽清掃業の方が4月1日から翌々年3月31日までの2年間として、どちらも1年おきに許可を更新してきました。
  • それでは、浄化槽清掃業の方だけが今年の3月31日で許可期限が切れることになっていたのですね。
  • そうです。し尿の収集運搬を目的とする一般廃棄物処理業の方は、昨年11月1日に、従来どおり4業者に対して許可の更新を許したばかりです。
  • 今年は、(有)阿蘇浄化槽管理センターのほかに、浄化槽清掃業の許可申請をしたものが居たわけですね。
  • その許可申請をしたのが、(有)阿蘇浄化槽管理センターの社員である向一助、上村保枝、出崎稔治3氏です。
  • それはどういうことですか。会社が許可を受けておれば、会社の社員として浄化槽の清掃をすることが出きるじゃありませんか。
  • 現に、これまで、3人は、各自が一般廃棄物処理業の許可を受けている区域を担当して、向一助氏は一の宮町で、上村保枝氏は白水村、長陽村、久木野村で、出崎稔治氏は高森町、西原村、波野村、産山村で、それぞれ浄化槽の清掃業務に従事してきました。
  • 阿蘇町は内藤正良さんが担当してきたのですね。
  • いや、阿蘇町は(有)阿蘇浄化槽管理センターの直轄区域で、内藤正良氏が担当していたのではありません。
  • (有)阿蘇浄化槽管理センターの代表取締役は内藤正良さんでしたね。
  • そうです。そのため話がこんがらかっているようですが、向、上村、出崎3氏は、それぞれ受持区域の浄化槽を清掃した料金は各自が取得していました。本来は、各自が集金した浄化槽清掃料金は会社に入金し、会社から給料なり配当なりを受取るのが筋でしょうけど……。
  • それでは、(有)阿蘇浄化槽管理センターは、阿蘇町の浄化槽の清掃だけをやっていたわけですね。
  • 浄化槽の清掃は阿蘇町だけですが、阿蘇町外8ケ町村衛生施設組合の管轄区域の全域にわたって浄化槽の保守点検を行ってきました。そのために必要な車輌その他の施設や人員をそろえ、向、上村、出崎氏らに対しては、毎年、出資金に応じてそれなりの配当金も支払ってきていたようです。
  • お話を聞いた範囲では、向さんたちが個別に許可を欲しがるわけがわかりませんね。
  • ところが、(有)阿蘇浄化槽管理センター代表取締役内藤正良氏が、阿蘇町外8ケ町村衛生施設組合長の指示に従い、2月上旬に、関係9カ町村の町村長から「浄化槽清掃業者として適当と認める」旨の副申請をもらい、それを添付して組合長に許可申請書を提出した後になって、会社とは別に、4業者に対してそれぞれ区域を指定して許可してもらいたいと云いだし、それから騒ぎが始ったわけです。
  • 9カ町村の全域にわたって有限会社が許可を受け、更に会社の社員たちが区域を分けて個別に許可を受けるというのは、許可がダブることになりますね。
  • そのとおりです。私は(有)阿蘇浄化槽管理センターの顧問を引き受けており、内藤氏は、清掃事業に関して何ごとによらず相談してこられるし、この件についても電話で照会がありましたので、阿蘇町外8ケ町村衛生施設組合が、同じ人たちに、会社にも個人にもダブって許可を出す筈はない、と注意しましたものの、その許可問題を審議するための衛生施設組合の組合議会が3月3日に開催されるということを知り、ちょうど福岡へ行くようにしていたときでしたから、足を延ばして現地を訪ねてみました。阿蘇町に着いたのが2月21日の夜で、阿蘇町外8ケ町村衛生施設組合の組合長である阿蘇町長河崎敦夫氏は、あいにく翌22日早朝、韓国に出張されたため、面会できず、組合議会の長老である白水村長山室忍氏にお会いしました。
    先ず、(有)阿蘇浄化槽管理センターは、昭和49年6月以来、浄化槽清掃業の許可を受け、現在まで業務を行ってきましたが、この間、業務の実施に関し、何か不都合なことをしでかしたようなことがありましたかと尋ねたところ、そんなことはない、真面目に仕事をしてくれているということでした。そこで、だからこそ、今回の許可更新の申請に当っても、「浄化槽清掃業者として適当と認める」旨の副申請に押印しておられるのでしょうが、従来どおり9カ町村の全域にわたって(有)阿蘇浄化槽管理センターに許可を与え、その上、9カ町村を4つに区域分けして、(有)阿蘇浄化槽管理センターの社員たちにそれぞれ個別の許可を与えるとすれば、同一人に個人と会社とダブって許可を与えることになりましょう。合名会社や合資会社の社員は、商法の定めるところにより、他の社員の承諾がなければ、会社の営業の部類に属する取引をすることは出来ないことになっていますし、有限会社法にも競業避止義務を定めた条文が設けられています。その法令の趣旨からみても、有限会社の社員である内藤、向、上村、出崎4氏が、会社の営業の部類に属する浄化槽清掃業務を同じ区域で行うことを認めるのは不合理というべきでありましょう。
    仮に、内藤、向、上村、出崎4氏に個別に許可を与え、(有)阿蘇浄化槽管理センターに対しては不許可処分にするようなことがあれば、管理センターとしては当然その不許可処分の取消しを求めて提訴するでしょうが、裁判沙汰になるようなことは避けるべきでありましょうし、第一、不許可処分にする理由が見当らないのではないでしょうか。(有)阿蘇浄化槽管理センターの社員4名に個別に許可を与えられるのであれば、(有)阿蘇浄化槽管理センターの解散が前提とならねばなりませんが、管理センターには相当の借入金もあるようですし、それに不用となる車輌その他の施設や従業員をどうするのか、少なくとも管理センターが蒙る損失を補填する方策がとられねばなりますまい。先般その一部が改正された下水道の整備等に伴う一般廃棄物処理業等の合理化に関する特別措置法は、市町村に対し、一般廃棄物処理業や浄化槽清掃業について、経営の近代化及び規模の適正化を図るための合理化事業を行うことを求めています。
    昨年夏、熊本県下の八代市で、9名の業者が協同組合を設立したのも、時代の要請にこたえたものです。せっかく設立している有限会社を解散させるべきではありますまい。しかし、向、上村、出崎3氏が、どうしても個別に許可をしてくれというのであれば、3氏とも(有)阿蘇浄化槽管理センターの持分の全部を他に譲渡して同社を退社し、その上で、改めて個別に許可申請をすべきであり、衛生施設組合としては、(有)阿蘇浄化槽管理センターに対しては今までどおり9カ町村の全域について許可の更新を許し、今まで管理センターの直轄区域であった区域からは出て行かないことを条件とし、向一助氏には一の宮町を、上村保枝氏には白水村、長陽村、久木野村を、出崎稔治氏には高森町、西原村、波野村、産山村を、それぞれ指定して許可を与え、3氏とも各自の許可区域から出て行かないことを条件とされたら如何でしょうか、と進言しました。山室村長は理解された様子でしたので、次に衛生施設組合議会の議長をつとめておられる長陽村長増田一男氏を訪ねました。増田村長は風邪で体調をこわしておられるとかで、病院に行かれるところでしたので、簡単にご挨拶をしただけで辞去し、衛生施設組合事務所の北川信行所長に会い、同様の申し入れをしました。
  • それで、3月3日の衛生施設組合議会の結果は、どうなりましたか。
  • 河崎組合長に一任するということになり、組合長が関係者の意見を聞いた上で方針を決めるということになったそうです。そこで、河崎組合長は、3月8日、阿蘇町役場に内藤、向、上村、出崎4氏を呼んで意見を聞かれたところ、向、上村、出崎3氏は、「自分たちは、今までどおりそれぞれの担当区域で浄化槽の清掃事業を続けたいだけである。なにも浄化槽の保守点検の仕事までしようなどとは考えていない。しかし、阿蘇町で下水道の整備が急がれており、間もなく供用開始される運びとなっているので、阿蘇町の仕事の減少に伴って内藤氏が他の町村に進出してくるおそれがある。それを防ぐために、個別に許可をしてもらいたいのだ」ということだったそうです。
  • しかし、阿蘇町は、内藤さん、向さん、上村さん、出崎さんが社員となって設立している(有)阿蘇浄化槽管理センターの直轄区域だったのでしょう。阿蘇町で浄化槽の清掃をしてきたのは、阿蘇衛生社代表者としての内藤正良さんではないじゃありませんか。
  • そうですよ。ですから、河崎組合長は、向、上村、出崎3氏に対して、会社とは別にめいめいに許可をしてくれというのであれば、(有)阿蘇浄化槽管理センターの社員をやめるのが先決だ。その上で個別に許可申請をすべきだろう。どうするかを決めて3月15日までに回答するようにと指示されたそうです。
  • なるほど、有限会社の社員のままで、有限会社が行う営業と同じ営業をしようとするのを認めるわけにはいかないということですね。
  • だって、そうでしょう。(有)阿蘇浄化槽管理センターには今までどおり許可してもらって、それとは別に、向、上村、出崎3氏には、それぞれ現在の担当区域について浄化槽清掃業の許可をしてくれというのは、向氏たちはいずれも管理センターの社員ですから、向氏たちの担当区域では、会社と個人とにダブって許可をしてくれと云っていることになるわけでしょう。そんな不合理な許可を出される筈がないじゃありませんか。
    また、(有)阿蘇浄化槽管理センターに対しては阿蘇町だけを受持区域に指定し、向氏は一の宮町を、上村氏は白水村、長陽村、久木野村を、出崎氏は高森町、西原村、波野村、産山村を、それぞれ受持区域として許可してくれと云うのであれば、内藤氏は管理センターの社員の1人として、向、上村、出崎氏ら他の社員と共に阿蘇町だけについて権限をもつこととなるのに比べ、向氏ら3名は、いずれも管理センターの社員として、阿蘇町についても他の社員と共同して権限をもち、その上、それぞれの受持区域については個別に権限をもつこととなり、これも不合理であることは明らかです。
  • 河崎組合長は、向さん、上村さん、出崎さんに対して、個別の許可はしないと云われたわけではないのですね。
  • ええ。個別の許可をしてくれというのなら、管理センターをやめて、その上で、改めて申請しなさいと指示されたのだそうです。私は、3月13日、この問題で河崎組合長にお会いしましたが、(有)阿蘇浄化槽管理センターは、長い間、真面目に業務を実施してきており、許可の更新を拒むわけにはいかぬ。今回の個別の許可申請については、先日の組合議会でも、内輪もめだという意見が多かった。向、上村、出崎3君が管理センターの代表者としての内藤君と円満に話し合い、管理センターをやめた上で、各自の現在の業務実施区域を確認して、今後は絶対にそれを侵さないことを約束し、その約束を破ったものは許可を取消されても異存はないというのであれば、その旨を組合議会に報告して、個別の許可について同意してもらうように提案するつもりだ、というお話でした。
  • 内藤さんは、向さんたちに対する個別の許可について、納得されたのですか。
  • ええ。納得していましたよ。
  • それじゃ、なにも騒ぎになるようなことはなかったじゃありませんか。
  • そうですよ。(有)阿蘇浄化槽管理センターの社員総会を開いて、向、上村、出崎3氏がそれぞれの持分の全部を他に譲渡することを承認し、それを証明する総社員の同意書を添えて、今後は業者間の内輪もめはしませんという約定書と共に、個別の許可申請書を提出しておれば、問題はとっくに片付いていたでしょうね。
  • それが、なんで、内藤さんが熊本県環境整備事業協同組合から除名されるというような騒ぎに発展したのですか。
  • どうやら、向、上村、出崎3氏は、衛生施設組合の河崎組合長と内藤氏が個別の許可に対して反対しているものと勘違いして、熊本県環境整備事業協同組合に相談したものとみえます。河崎組合長から回答を求められていた3月15日に、向氏らは熊本県環境整備事業協同組合の冨岡恒人理事長ほか数名に同行してもらって、河崎衛生施組合長に面会し、次いで、衛生施設組合事務所に北川所長を訪ねて、個別の許可をしてもらいたいと要望したそうです。
  • おかしな話ですね。河崎組合長は、会社と個人にダブって許可を出すわけにはいかないと言っておられるだけで、個別の許可は出せないなどとは云っておられないのに……。
  • そうですよ。だから衛生施設組合事務所の北川所長も、組合長は個別の許可に反対しているわけではない。(有)阿蘇浄化槽管理センターの社員のままで、個別に許可してくれと云っても、管理センターと個人とにダブって許可を出すわけにはいかぬ。管理センターをやめた上で、個別に許可申請をしなさいと云っているのだ、と繰り返し説明したということです。
  • それじゃ、向さんたちは、それまで、管理センターの社員をやめる手続きはとっていなかったのですか。
  • そうです。しかし、向氏たちも、ようやく(有)阿蘇浄化槽管理センターをやめることが先決だということに気づいたのでしょう。3月17日に出崎稔治氏が、(有)大阿蘇衛生センター代表者出崎稔治の名義で、同社の代表者印を捺印し、「私儀この度一身上の都合により(有)阿蘇浄化槽管理センターを退社致したく、ここにお届け致します。」と書いた退社届を、衛生施設組合事務所に託して管理センターに渡してもらい、次いで3月18日に、向一助氏が、あそ清掃社向一助の名義で、同文の退社届を管理センターに郵送し、更に3月19日には上村保枝氏が、(有)上村商会上村保枝名義の同文の退社届を管理センターに郵送してきました。
  • 有限会社の社員をやめるのに、そんな退社届でいいのですか。
  • 有限会社の社員というのは、商事会社の営業マンとして就職した会社員や、工事会社の作業員として採用された会社員とはワケが違います。出資者としての持分の全部を他に譲渡して、その手続きを終わらなければ、退社したことにはなりません。それに、3氏とも個人の資格で社員となっているのですから、退社する意志があるのであれば、総社員の同意書に個人名義で署名し、個人印を捺印する必要があります。そのことを(有)阿蘇浄化槽管理センターの内藤八重子取締役が電話で説明したそうですが、3氏とも応じませんでした。
  • それじゃ少しも前進しないじゃありませんか。
  • そんな有様でしたから、阿蘇町外8ケ町村衛生施設組合では、上村保枝、出崎稔治、内藤正良、向一助4氏に対し、3月19日付阿衛組第56号をもって『浄化槽清掃業許可に伴うことについて』と題して、

    このたびの浄化槽清掃業の個別の許可申請については、3月3日に開催した組合議会においても4者の内紛であるという見方が強かったし、3月8日に説明しておいたように、(有)阿蘇浄化槽管理センターにも許可を与え、その上同センターの社員達にも個別に許可を与えるのは妥当でないので、個別の許可を希望する者は、同センターの社員を辞め、今後は4者間で紛争することはしない旨の約定をすれば、組合議会に諮り、個別に許可を与えることについて同意を得るようにしたいので、下記によりお集り下さい。なお、当日は必ず本人(法人にあっては代表者)が出席し、印鑑(法人にあっては代表者の印及び個人の印)を持参して下さい。

    1. 日時 昭和61年3月22日 11時00分
    2. 場所 阿蘇町役場 町長室

    という通知を出しました。
    おかしな話ですが、22日に、阿蘇町役場の町長室で(有)阿蘇浄化槽管理センターの社員総会を開催した形となり、向、上村、出崎3氏が、それぞれの持分の全部を内藤正良氏に譲渡して退社することを承認するという書類を作成しました。ところが、4者間の約定書には4者とも同意したものの、その場で捺印したのは内藤氏だけで、向氏ら3名は、24日には必ず持参するからと云って、その場では捺印せず、約定書を持ち帰ったそうです。
  • それで、24日には、約定書に捺印して持参したのですか。
  • いや、持参していません。約定書の文句が、4者は「昭和61年3月22日現在のそれぞれの業務実施区域並びに業務内容を確認し、お互いにこれを侵さない。」となっていたそうですが、その中の「昭和61年3月22日現在の」という字句を削除してくれと云ってきたそうです。
  • だって、向さんたち3名は、(有)阿蘇浄化槽管理センターが、阿蘇町の下水道の整備のため仕事の量が少なくなるので、自分たちが受持ってきた区域に入りこんでくるおそれがあるとして、現在の各自の受持区域について個別に許可をしてくれと要望していたのでしょう。現在の受持区域を侵さないという約束は、向さんたち3人の願いだったのではないですか。
  • 勿論、それもあります。しかし、本当のねらいは、浄化槽の保守点検を業として行うための登録にあった筈ですよ。浄化槽法第48条の規定に基づいて熊本県でも条例が設けられ、保守点検業の登録には、営業区域ごとに、浄化槽清掃業者との業務に関する提携がなされていることを証明する書面を添付する必要が生じたため、浄化槽清掃業の許可が欲しくなったのでしょう。
  • 結局、どうなりましたか。
  • 3月31日、4月5日、4月14日と折衝を重ねた結果、衛生施設組合では、浄化槽の清掃と浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集、運搬について、今まで4者が業務を実施してきた区域をそれぞれの受持区域として個別に許可を与える。ただし、向、上村、出崎3氏は、それぞれの営業区域について、(有)阿蘇浄化槽管理センターが浄化槽の保守点検業の登録を受けるために必要な業務提携を証する書面に捺印すること。もしも向氏ら3名が、今回だけでなく今後においてもそれを拒むようなことがあれば、(有)阿蘇浄化槽管理センターに対して、9ケ町村の全域を営業区域とする浄化槽清掃業の許可及び浄化槽汚泥の収集運搬業の許可を与えるものとする。という最終方針を決定し、4者ともこれを了承して、ようやく解決することになりました。
法律で定めた手続きを怠った熊本県環境整備事業協同組合の組合員除名
  • それにしても、熊本県環境整備事業協同組合では、どうして内藤さんを除名したのでしょうか。
  • 内藤氏が協同組合の規約に違反したという理由で除名したのだそうです。
  • 正式に手続きをとって除名したのですか。
  • いや、ちゃんとした手続きはとっていないようです。「定款の定めにより組合員の総意をもって除名と決定した」という通知が内藤氏のところに郵送されてきたそうですが、組合総会を開催した事実もなく、内藤氏に組合総会の席上で弁明する機会を与えてもいないということです。
  • それじゃ、内藤さんの除名は無効じゃありませんか。
  • そうです。これは除名された内藤氏の名誉のためにも重要なことですし、事業協同組合の運営の上からも大切なことですから、少し説明を加えておきましょう。事業協同組合の組合員の除名については、中小企業等協同組合法第19条第2項に、次のとおり規定されています。

    除名は、左に掲げる組合員につき、総会の議決によってすることができる。
    この場合は、組合は、その総会の会日の10日前までに、その組合員に対しその旨を通知し、且つ、総会において弁明する機会を与えなければならない。

    1. 長期にわたって組合の施設を利用しない組合員
    2. 出資の払込、経費の支払その他組合に対する義務を怠った組合員
    3. その他定款で定める事由に該当する組合員

    この規定について、中小企業庁組織課では、その編集にかかる≪中小企業等協同組合法の解説≫の中で、「除名は、組合員の意思のいかんにかかわらず、組合において一方的に組合契約を解除し、組合員たる地位をはく奪する行為である。したがって、ことの性格上相当慎重に運用し、組合の一部の者の専制の具となることを防止するため、次のごとく除名原因、手続等を定めている。

    1. 除名原因第2項各号に除名原因を決定し、これに該当する組合員に限り除名することができるものとしている。
      1. 長期間にわたり組合の施設(事業)を利用しない組合員は、除名することができる。
      2. 出資の払込、経費の支払その他組合員たる義務を履行する意思のない組合員は、除名することができる。出資の払込義務の懈怠(けたい)は、出資1口金額の増加、未払込出資金の徴収等の場合をいう。なお、自由脱退の予告をした後、その組合員が経費の支払その他の義務を履行しない場合にも除名することができるものと解する。
      3. その他定款で定める事由に該当する組合員は、除名することができる。定款で定める事由は、組合の存立に重要な影響を与えるような場合、すなわち、組合事業の不正利用、組合運営の妨害、組合の信用の失墜等、具体的に掲げるべきで、理事会に事由の決定を委任したり、組合法の趣旨を脱退するごとき理由を、し意的に定めることは許されないものと解する。
    2. 除名手続き
      除名は、総会において、特別議決により決定しなければならない。しかも組合は、事前に(総会の会日の10日前までに)除名しようとする組合員に対して除名理由及び総会において弁明すべき旨を通知することを要する。
      この手続きを怠ると決議取消しの訴えの原因となり、また、理事は、10万円以下の過料に処せられる。なお、その者が弁明の機会を放棄しても、除名決議の効力には影響がない。除名は、その組合員に通知しなければ対抗できない。通知は、後日の紛争を起こさないために、内容証明をもって郵送するのが適当である。」と解説し、更に事業協同組合の模範定款例を掲げ、『除名』について
      「第13条 本組合は、次の各号の1に該当する組合員を除名することができる。この場合において、本組合は、その総会の会日の10日前までに、その組合員に対しその旨を通知し、かつ、総会において、弁明する機会を与えるものとする。」
      1. 長期間にわたって本組合の事業を利用しない組合員
      2. 出資の払込み、経費の支払いその他本組合に対する義務を怠った組合員
      3. 本組合の事業を妨げ、又は妨げようとした組合員
      4. 本組合の事業の利用について不正の行為をした組合員
      5. 犯罪その他信用を失う行為をした組合員
    と例示しています。熊本県環境整備事業協同組合の定款第13条の内容も、これと大差ない筈です。
  • そうでしょうね。ところで、「除名は、総会において、特別議決によって決定しなければならない。」というのは、どういうことですか。
  • 中小企業等協同組合法第53条に(特別の議決)の規定があり、組合員の除名は、「総組合員の半数以上が出席し、その議決権の3分の2以上の多数による議決を必要とする。」と定められています。
  • 必ず総会を開催しなければならないわけですね。
  • そうです。必ず総会を開かねばなりません。
  • 「除名の手続きを怠ると決議取消しの訴えの原因となる。」ということですが、そんな規定があるのですか。
  • 中小企業等協同組合法第54条に「商法第247条の規定を準用する。」と定められており、商法第247条では、「招集ノ手続又ハ決議ノ方法ガ法令若ハ定款ニ違反シ又ハ著シク不公正ナルトキ」は、「訴ヲ以テ総会ノ決議ノ取消ヲ請求スルコトヲ得。」と規定されています。
  • 内藤さんの場合は、熊本県環境整備事業協同組合では、総会を開いていないということですし、内藤さんに対して、総会の会日の10日前までに除名理由や総会において弁明すべき旨を通知しなければならないという手続きも怠っているようですから、内藤さんが訴えれば、除名決議は取消されるでしょうね。
  • 当然、除名決議は取消されましょう。手続きを怠ったという事実は、ごまかしようがありませんからね。
  • それに、お話を聞いた範囲では、内藤さんが、向さんたち3人に対する個別の許可について反対されたわけでもないようですし、内藤さんには、熊本県環境整備事業協同組合から除名されても仕方がないような除名原因は見当らないように思われますが……。
  • そうですね。
  • それから、除名原因を誤ったり、除名手続きを怠った場合、理事は、10万円以下の過料に処せられると云われましたが……。
  • ええ、中小企業等協同組合法第115条第4号に、同法第19条第2項の除名の規定に違反した場合、理事は、10万円以下の過料に処する、と定められています。
  • 理事に対しては、そんな罰則まで設けられているのですね。
  • 除名は、組合員たる地位を奪う行為ですから、それだけ慎重に運用する必要があるわけです。
  • 内藤さんが除名の決議取消しの訴えを起こさないでおれば、内藤さんが協同組合から除名されたことを理由として、内藤さんの営業を妨害するようなものがあらわれるおそれはないでしょうか。
  • そんなことをしたら、法律の定めるところによって罰せられますよ。刑法に次のような規定がありますので、紹介しておきましょう。

    第230条|公然事実ヲ摘示シ人ノ名誉ヲ毀損シタル者ハ其事実ノ有無ヲ問ハス3年以下ノ懲役若クハ禁錮又ハ20万円以下ノ罰金ニ処ス
    第231条|事実ヲ摘示セストモ公然人ヲ侮辱シタル者ハ拘留又ハ科料ニ処ス
    第233条|虚偽ノ風説ヲ流布シ又ハ偽計ヲ用ヒ人ノ信用ヲ毀損シ若クハ其業務ヲ妨害シタル者ハ3年以下ノ懲役又ハ20万円以下ノ罰金ニ処ス
    第234条|威力ヲ用ヒ人ノ業務ヲ妨害シタル者亦前条ノ例ニ同シ

    ともあれ、業者たちは、お互いに苦労して清掃事業を続けてきた仲間じゃないですか。熊本県環境整備事業協同組合も除名通知は撤回し、内藤氏も除名決議取消しの訴えなどは提起せず、話し合って、円満に仲直りすべきです。幸い、浄化槽法問題で内藤氏といっしょに運動してきた鹿児島県や、大分県、宮崎県などの全国清掃連合会の仲間の皆さんたちも、浄化槽法が一段落したので、もとどおり九州7県の清掃業者の組織に戻ろうという気運もあるようですから、それが実現する頃には、内藤氏の除名問題もきっと円満に解決するでしょう。
  • そうですね。それを期待しましょう。