清研時報

1986年7月号

し尿の収集・運搬手数料について
  1. 原価計算などお構いなしに法外に安い料金を押しつけている市町村の実態
  2. 手数料に関する規定について
  3. 原価計算を無視した低料金は業者にヤミ料金でやれというもの
  4. 業者が受け取る手数料は、収集料金と運搬料金
原価計算などお構いなしに法外に安い料金を押しつけている市町村の実態
  • 最近、研究会の事務局に、あちこちの市町村の清掃事務担当者や清掃業者から、し尿の収集・運搬手数料についての問い合わせが目立って多くなりましたが、各地のし尿収集・運搬手数料には相当の値びらきがあるようですね。
  • そうですね。市町村の実情によって、処理施設が近くにあるところと、遠くにあるところ、人家が密集しているところと、散在しているところでは、1日の作業時間のうち、収集作業に費やす時間と、運搬作業のために費やす時間に違いがあり、1日の収集量に相違が生じるので、従量制にせよ、人頭割にせよ、手数料の額にそれなりの格差があるのは当然です。しかし、し尿の収集・運搬を行うのにどれだけの経費がかかるかを計算もせずに、法外に安い料金を業者に押しつけている市町村が、まだまだ少なくないようです。
  • 岐阜県などでは、無茶苦茶に安い料金を押しつけている市町村は、あまり見当たらないという話を聞きましたが……。
  • 私が持っている資料は、岐阜県14市86町村のうちの78か所のものですが、この資料に誤りがなければ、18ℓ当たりの手数料は次のとおりです。
    手数料(円) 市町村数
    250 1
    230 1
    220 3
    200 1
    190 2
    180 10
    170 40
    168 1
    160 17
    155 1
    140 1
    このうち岐阜、大垣などの市部は殆ど170円です。220円までの5か所の人口、世帯数、人口密度をご参考までに申し上げると、昨年3月31日現在の住民基本台帳で次のようになっています。
    手数料 市町村 人口 世帯数 人口密度
    (1km2当たり)
    250円 徳山村(許可) 1,226人 433世帯 4.84人
    230円 坂内村(許可) 868人 325世帯 5.66人
    220円 谷汲村(委託) 4,420人 1,016世帯 60.55人
    220円 春日村(委託) 2,610人 741世帯 23.39人
    220円 藤橋村(委託) 438人 200世帯 6.37人
    以上の5か所では、いずれも業者から処理費は徴収していません。
  • それでは、1,800ℓ積みのバキュームカー1台当たり25,000円ないし22,000円がそのまま業者の収入となっているわけですね。
  • そうです。それに比べると、高知県の例はひどいもんですよ。
    私は、昨年の11月下旬、高知県下のX市が、15年前から許可を与えてきた既存業者2社に加えて、その年の10月1日に新規業者1社に許可を与え、その3社に対して、処理場への投入台数を均等に割当てたことから、顧客を持たない新規業者が平均して割当台数の4分の1も投入できないでいるのにひきかえ、既存業者は、年末の忙しい時期を迎えるというのに、長年の顧客からの汲取りの依頼を受けながら、これに応じられないで困っているという話を聞き、困っているのは業者だけでなく、正月を控えて汲取ってもらえない市民たちも迷惑するだろうと考えて、早速X市を訪ね、市長さんにお会いして、投入制限を撤廃してもらいましたが、その折に、X市の手数料があまりにも安く、しかも、その5分の1強を処理場への投入料として支払わせていることを知って驚きました。
    そこで、市長さんに、「X市の職員の給与と、高知市の職員給与にひらきがありますか」と尋ねてみました。案の定「あまり違いはないだろう」ということでした。ついでに、「X市の市民の食費や、住居費、車の燃料費などは高知市と比べてどうでしょうか」と尋ねましたが、これも「殆ど変わらないだろう」という答えでした。「それでは、高知市のし尿収集運搬手数料が18ℓ当たり220円、バキュームカー2トン車1台分が22,000円で、処理場への投入料は無料であるのに、X市では投入料を徴収しており、それを差引いた業者の手取り料金は高知市のおよそ4分の1となっている。おそらく市長さんはお気づきではなかったでしょうが、市の固有事務を代行する許可業者の手取りの料金が高知市の許可業者の約4分の1にすぎないことがおわかりになった以上、それでもよいとは、まさかおっしゃれないでしょう。原価計算方式に基づいて合理的に手数料の額を算定していただきたい」と、お願いしました。
  • 市長さんも返事に困られたでしょうね。
  • 困られたような表情でしたよ。しかし、直ちに高知市なみに料金を改訂することは容易ではありますまい。料金改訂のための条例改正は市議会にはからねばなりませんからね。
  • 市議会にはかれば、料金の大幅値上げに積極的に賛成する議員はあまり居ないでしょう。
  • だからといって、このまま放置しておける問題ではありません。私は、X市だけが料金が安いのかどうか、高知県下の他の市町村の中にも料金の安いところがありはしないか、もしも、ほかにも料金の安いところがあるようなら、それらの市町村の業者たちが歩調をそろえて一斉に料金改訂の陳情をする必要があると考えて、高知県下の全市町村について調査してもらいました。
  • その結果、ひどい実情がわかったのですね。
  • そうです。調査報告書を見て、あまりのことに驚きました。高知市ほか2か村を除いて、手数料が安すぎるばかりか、その殆どが多額な処理費を徴収しているんですよ。敢えて公開しましょう。見て下さい。これが高知県下全市町村の1,800ℓ当たりの料金です。

    市町村名 手数料 投入料 差引額 一部事務組合名
    高知市 22,000 0 22,000  
    鏡村 22,000 0 22,000
    土佐山村 22,000 0 22,000
    南国市 15,000 0 15,000  
    土佐山田町 12,000 1,100 10,900 香長し尿処理組合
    野市町 12,000 1,100 10,900
    香北町 12,000 1,100 10,900
    香我美町 12,000 1,100 10,900
    夜須町 12,000 1,100 10,900
    赤岡町 12,000 1,100 10,900
    物部村 12,000 1,100 10,900
    吉川村 12,000 1,100 10,900
    十和村 9,900 1,620 8,280 高幡西部清掃組合
    大正町 8,460 1,620 6,840
    窪川町 7,920 1,620 6,300
    葉山村 8,100 0 8,100 高幡東部清掃組合
    須崎市 9,900 2,160 7,740
    中土佐町 6,840 1,800 5,040
    大野見村 5,040 0 5,040
    西土佐村 8,100 0 8,100  
    佐賀町 8,100 0 8,100 幡東し尿処理組合
    大方町 8,100 0 8,100
    芸西村 8,000 0 8,000  
    中村市 9,450 1,500 7,950  
    三原村 9,000 1,260 7,740 幡西衛生事務組合
    宿毛市 7,200 1,260 5,940
    大月町 7,200 1,260 5,940
    大豊町 10,000 2,800 7,200 嶺北広域行政事務組合
    本山町 10,000 2,800 7,200
    土佐町 10,000 2,800 7,200
    大川村 10,000 2,800 7,200
    本川村 10,000 2,800 7,200
    吾北村 10,000 2,800 7,200
    室戸市 8,000 1,000 7,000 芸東衛生組合
    東洋町 8,000 1,000 7,000
    池川町 8,000 1,200 6,800 高吾北広域町村事務組合
    吾川村 8,000 1,200 6,800
    仁淀村 8,000 1,200 6,800
    佐川町 8,000 1,400 6,600
    越知町 8,000 1,400 6,600
    奈半利町 7,800 1,500 6,300 中芸行政組合
    田野町 7,800 1,500 6,300
    安田町 7,800 1,500 6,300
    北川村 7,800 1,500 6,300
    馬路村 7,800 1,500 6,300
    東津野村 6,000 0 6,000  
    梼原村 6,000 0 6,000  
    安芸市 7,020 1,440 5,580  
    土佐市 6,500 1,000 5,500 仁淀川下流衛生事務組合
    春野町 6,500 1,000 5,500
    伊野町 6,500 1,000 5,500
    日高村 6,500 1,000 5,500
    土佐清水市 7,200 1,800 5,400  
  • 岐阜県の市町村に比べたら、大変な違いがありますね。
  • 高知市では、昭和50年4月から(財)高知市清掃公社が許可を受けてやっていますが、1,800ℓ当たり22,000円の手数料を受取っていて、それでも年間1億円からの赤字だという話も耳にしています。高知市のほかは、南国市がかろうじて岐阜県の最低のレベルと同じ程度で、その他はすべて岐阜県の最低料金のところよりも遙に安い料金です。あまりに安い料金のため、車には業者が1人だけ乗って自分で運転し、作業しているところもある始末です。
  • そんなに料金が安いのに、業者たちは、よく黙って耐えてきましたね。
  • 黙っていたくはなかったでしょう。しかし、よそもこんなものだろうと考えていたのかもしれませんよ。それに、高知県では、(社)高知県環境管理センターができた機会に、県の清掃業者の組合を解散してしまったため、清掃業者たちのよりどころもなくなっていましたし、組織的な料金改訂の運動など出来る状態ではなかったようです。
  • そんなことじゃいかんということに気がついて、こんど、高知県下の清掃業者の組合を再組織することになったわけですね。
  • そうです。4月27日に、高知市の山内会館で事業協同組合の創立総会が開かれ、私も招かれて出席しました。遠からず原価計算方式に基づいた手数料の算定を求める運動が県下一斉に展開されることでしょう。
手数料に関する規定について
  • ところで、廃棄物処理法第7条第4項には、一般廃棄物処理業の許可を受けた者は、

    一般廃棄物の収集、運搬及び処分につき、当該市町村が法第6条第6項の規定により条例で定める収集、運搬及び処分に関する手数料の額に相当する額をこえる料金を受けてはならない。

    と定められており、厚生省では、この規定について、水道環境部編集の≪廃棄物処理法の解説≫第5版66頁で、

    本条第4項の規定によって一般廃棄物の収集、運搬及び処分につき、一般廃棄物処理業者が市民から受け取る料金は、市町村の手数料条例による制限を受けることとなっている。条例によっては、収集手数料と処分手数料という表現を用いていても、事業系一般廃棄物については、業者が搬入してくる一般廃棄物の処分手数料のみを規定し、一般家庭等については、収集されてから処分されるまでの手数料をこめた意味で収集手数料といっているような場合もあり、本条第4項の制限額の解釈には注意を要する。
    本項は、いわゆる料金統制の趣旨ではなく、市町村が直営(委託を含む)で行う一般廃棄物処理事業に関し手数料を定めた場合、市町村が直営で行う場合と、一般廃棄物処理業者が取り扱う場合との間に、市町村住民に不公平をきたさないように料金の最高額を定めたものである。したがって、市町村が処理していない一般廃棄物については、料金を条例で定めることはできないので、その一般廃棄物を処理している業者の料金は制限されないことになる。また、市町村が自ら又は市町村以外の者に委託して一般廃棄物の収集、運搬又は処分を行ってはいるが、住民からその手数料を徴していない場合には、市町村が収集、運搬又は処分している一般廃棄物と同種の一般廃棄物については、本項の趣旨から、一般廃棄物処理業者が料金を受け取ることはできないこととなるので、その場合には、当該業者を委託業者に切り替えて、受託料を払う以外に方法はない。『こえる料金を受けてはならない』というのは、条例で定める手数料の額をこえなければよいのであるから、これと同額はもちろん、これ未満の料金を受けることもさしつかえない。

    と説明していますが、この説明について、どう考えられますか。
  • 市町村の処理区域内に、市町村が直営事業として処理する区域または市町村以外の者に委託して処理させる区域と、市長村長が許可を与えた一般廃棄物処理業者をして処理させる区域とがある場合、手数料に差異があれば、住民の負担が不公平となりますから、そのような不公平が生じないように、直営方式をとっている区域の住民または委託方式をとっている区域の住民にも、許可方式をとっている区域の住民にも、いちように当該市町村が条例で定める手数料の額を負担させるのは当然のことです。手数料を負担する住民の側は、それでよいとして、手数料を受け取る業者の側では、ハイ、そうですか、と素直に引き下がるわけにはまいりますまい。
    委託方式の場合には、法第6条第6項の規定により条例で定める手数料は市町村の収入となり、受託者に対しては別途に市町村から委託料が支払われることになっており、その委託料については、令第4条に定める一般廃棄物の収集、運搬及び処分の委託の基準の第5号に、「委託料が受託業務を遂行するに足りる額であること。」と定められており、厚生省でも水道環境部編集の≪廃棄物処理法の解説≫第5版48頁以下で、

    一般の委託料は、委託者と受託者の合意する額であれば、それが仮りに原価を割った額であろうともさしつかえないはずのものであるが、不当に低額な委託料である場合には、受託者は、その額に見合う程度にまで手を抜いて業務を行うか、他の事業による収益でこれをカバーしなければならない。
    ところで、市町村の委託に基づき一般廃棄物の収集、運搬及び処分を行う者の多くは、その業務を専門とする者であるため、他の事業収入により、その不足額をカバーすることはできないので、業務の実施に手抜きをするほかはないことになる。したがって、不法投棄等の防止を考慮すれば、このような事態を回避しうるだけの制度的補償が準備されるべきである。このような趣旨に基づいて、この規定が設けられたのである。『受託業務を遂行するに足りる額』は、原価計算方式に基づいて算出した原価に適正な利潤を加えた額を意味する。

    と説明していて、問題はありません。しかし、許可業者の場合は、令第4条第5号に該当するような規定がなく、ただ、法第7条第4項の規定があるだけです。その法第7条第4項の規定によって、一般廃棄物処理業者は、当該市町村が自ら一般廃棄物の収集、運搬及び処分を行う場合に住民から徴収する手数料の額をこえる料金を受けては成らないものとされているわけです。
  • そうですね。
  • 市町村が自ら直営事業として処理する場合の手数料の額を決めるに当たって、独立採算制をとり、事業を行うに必要な直接経費と間接経費のすべてを計上しているでしょうか。事務を担当する部・課長らの報酬に見合うような金額や、車輌・事務所・車庫などの減価償却費や、金利などについて、すべて計上されているでしょうか。
  • まさか、そんなことはありますまい。
  • そうすると、許可業者は「一般廃棄物の収集、運搬及び処分につき、当該市町村が法第6条第6項の規定により条例で定める収集、運搬及び処分に関する手数料の額に相当する額をこえる料金をうけtれはならない」ということは、業者自身が車に乗って直接作業に従事していない者は、その報酬はゼロで営業せよ、施設の減価償却や金利のことなどは知ったことではない、というようなものじゃありませんか。
  • そういうことですね。
  • 一部の区域で直営方式または委託方式をとり、残りの区域で許可方式をとっている市町村で、許可方式をとっている区域の住民の負担が、直営方式または委託方式をとっている区域の住民の負担をオーバーするようなことがあれば、住民の負担が不公平になりますから、そんなことはできません。だったら、許可業者は、住民からは市町村が条例で定めた額の手数料を受け取り、その手数料の中には含まれていない必要経費や適正な利潤……委託業者の場合は令第4条第5号によって認められているもの……を、市町村が別途に許可業者に支払うようにするのは、当然の措置というべきではありませんか。
  • なるほど、そうしなければ、許可業者はやってゆけないわけですね。
  • ややもすると、一般廃棄物処理業者は市町村長から営業することを許可してもらう立場にあり、市町村長は営業を許可してやる立場にあるという感覚で、許可に関する一切の事務を処理するきらいがありますが、それがいろいろと理不尽な結果を招く因をなしていることに留意しなければなりません。法第7条第1項で、市町村の処理区域内においては、その区域を管轄する市町村長の許可を受けなければ、一般廃棄物の収集、運搬又は処分を業として行ってはならない、と定めているのは、法第6条の規定により、一般廃棄物の処理を市町村に義務づけているからにほかなりません。市町村は、自ら一般廃棄物の収集、運搬及び処分を行うことが困難である場合に限って、市町村以外の者に許可を与えることが認められていますが、それは、自ら処理することが困難であるからといって放置することはできないため、市町村に課されている義務を代行してもらう必要があるからです。つまり、市町村長が法第7条第1項に基づく許可を与えるのは、当該市町村の処理区域内において、一般廃棄物の収集、運搬又は処分を業として行うことを許してやるという性質のものではなく、市町村の義務を代行してもらうという性質のものです。すなわち、市町村は、市町村に与えられた義務を業者に代行してもらう立場にあり、業者は、市町村に与えられている義務を代行させてもらう立場にあるという認識をもつことが肝要でしょう。
    その認識をもって手数料に関する規定を考えてみましょう。市町村が自ら直営事業として一般廃棄物処理業務を実施する代わりに、市町村以外の者に委託して行わせるときは、受託者に対して、原価計算方式に基づいて算出した原価に適正な利潤を加えた「受託業務を遂行するに足りる額」を委託料として支払うべきことを定めているように、市町村による一般廃棄物の収集、運搬及び処分が困難なために、業者に許可を与えて代行させるときは、その代行者である許可業者は、原価計算方式に基づいて算出した原価に適正な利潤を加えた「代行業務を遂行するに足りる額」の手数料を受け取ることができるように規定するのが理の当然と云うべきではありますまいか。
  • そうですね。法第7条第4項の規定は、令第4条第5号と同じような内容のものに改める必要がありますね。
  • そうですよ。法第7条第4項の規定は、市町村が、その処理区域の全域にわたって許可業者に処理させることは法律の趣旨に適合するものではないという立場に立って規定されたもので、市町村が直営事業として実施する区域と、許可業者に代行させる区域とに区別していることを前提として、住民負担の公平をはかるべく定められたものと解すべきでしょうが、現実には、市町村の大半は、その処理区域の全域にわたって許可業者にし尿の収集、運搬業務を行わせているのが実情です。したがって、法第7条第4項の規定は、この現実に適応した条文に改める必要がありましょう。
原価計算を無視した低料金は業者にヤミ料金でやれというもの
  • 厚生省水道環境部編集の≪廃棄物処理法の解説≫第5版65頁の法第7条第3項の規定の解説のところに、「(一般廃棄物処理業の許可には)『環境衛生上必要な条件』を付すことができる。環境衛生上必要な条件であるから、料金統制のための条件は付しえない。料金については第4項の規定による制限以外に規制することはできない。」という説明があり、66頁の法第7条第4項の規定の解説のところでは、「市町村が処理していない一般廃棄物については料金を条例で定めることはできないので、その一般廃棄物を処理している業者の料金は制限されないことになる。」と説明されていますが、これによれば、市町村がその処理区域の全域にわたって許可業者に代行させているところでは、手数料の額を市町村が条例で定めることもできなければ、許可の条件に付することもできない、手数料の額の決定は業者に任せておけばよい、ということになりますね。
  • そういうことになりますね。しかし、手数料の額の決定を業者の自由に任せている市町村は見当たらないようです。言葉じりをとらえるわけではありませんが、法第7条第3項には「生活環境の保全上必要な条件を付すことができる。」と定められており、「環境衛生上必要な条件」などという文言は使われてはいません。原価計算を無視した低料金では、手抜き作業となり、不法投棄となることは、厚生省水道環境部編集の≪廃棄物処理法の解説≫第5版48頁以下でも認めているところですが、そのような結果を招くおそれのある低料金であってはいけないというのも、生活環境の保全上必要な条件である筈です。
  • それだからこそ、処理区域の全域にわたってし尿の収集、運搬業務を許可業者に代行させている市町村の殆どが、厚生省の担当者たちの意向に逆らって、手数料を条例で定めているのでしょうが、それにしては、手数料の額の算定に当たって、高知県の例に見るように、原価計算を無視して法外に安い料金を押しつけているところが少なくないのは、どうしたわけでしょうか。
  • 端的に云えば、業者たちの無自覚と市町村の担当者たちの無定見によるものです。
  • 手数料の額の決定に当たっては、住民のおもわくを配慮した市町村議会議員たちが値上げに反対するのが常ですが、それも理由の1つでしょうね。
  • それについて、市町村の担当者たちに銘記しておいてもらいたい話があります。昭和38年春、私が全国清掃協議会の理事長をしていた当時、静岡県清水市で、その年の4月からし尿処理手数料を他の都市に比べてはるかに高額な料金に値上げしたときのことです。予想されたように、市議会では激しい反対意見が出されました。「県内のほかの都市の料金は安いのに、清水市が大幅な値上げをするのはおかしいじゃないか」という意見に対して、担当部長は、「よその都市にはよその都市なりの事情がありましょう。当市では原価を計算したところ、これだけはどうしても必要であることがわかりました。必要経費を認めないで安い料金をおしつけるのは、業者にヤミ料金で仕事をせよというようなものです。ヤミ料金を奨励するようなことはしたくありません。必要な経費を認めて、業者にこの料金を厳守させたいと考えます。」と力説しました。市議会はついに原案どおり可決しましたが、私は今もそのときの清水市の担当部長の言葉を忘れることができません。この見識を全国の市町村の担当者たちは見習ってもらいたいものです。
業者が受け取る手数料は、収集料金と運搬料金
  • ところで、各地の手数料の実態をみますと、従量制のところが多く、人頭割のところも1人1か月の排出量を36ℓとみて、いずれも収集する量を基準にして料金を決めているようですね。
  • ちゃんとした原価計算方式に基づいて算定している市町村では、収集に要する経費だけでなく、運搬に要する経費についても計上しているようですが、原価計算方式を無視しているところでは、今までがいくらだったのだから、こんどは何パーセント値上げしてやろうというようなことで決めているのが実情です。
  • その単位のことですが、1ℓ当たりいくらというよりも、18ℓを単位としているところが多く、なかには36ℓを単位としているところもありますが、どうやら業者が桶を使って汲み取りをしていたころからの慣習によるもののようですね。
  • そうです。桶をてんびん棒でかついでリヤカーで運んでいたときの名残です。
  • 料金が従量制や人頭割で決められていて、処理場までの距離が近かろうと遠かろうと、お構いなしに、同じ料金で運ぶことを余儀なくされている業者が少なくないようですが、どうにも納得できませんね。
  • 実に馬鹿げた話です。人を乗せて走るタクシーには大型、中型、小型の区別があり、それぞれ走行距離によって料金が違ってきますし、貨物を運ぶトラックも、重量別に、走行距離によって料金が違ってきます。燃料を使って走る車として当然のことです。ところが、し尿や浄化槽汚泥を積んで走るバキュームカーだけは、従量制で料金が決められていて、し尿処理施設までの距離がいくら遠くても、距離の近いところの料金と同じです。1,800ℓ積みのバキュームカーで1日4台分のし尿を運ぶ業者が受け取る料金のl当たりの単価も、1日に3台分のし尿しか運べない業者が受け取る料金のl当たりの単価も同じであるという不合理が、清掃業界ではまかり通っています。
  • なんとかならないものでしょうか。
  • なんとかしなければなりません。それには、くどいようですが、業者が行っている業務の性格を改めて吟味してみる必要があります。廃棄物処理法は、市町村に対して、その処理区域内におけるし尿や浄化槽汚泥の処理について一定の計画を定め、生活環境の保全上支障が生じないうちに収集し、これを運搬し、処分しなければならない義務を課しており、一般廃棄物処理業者は、市町村に代わって、当該市町村の処理区域内におけるし尿や浄化槽汚泥を収集し、これを市町村の処理施設まで運搬することを業として行うものですね。
  • そうです。し尿や浄化槽汚泥の終末処理は、殆どの市町村が自ら行っていますので、海洋投入処分を業者に委託しているところを除いては、し尿や浄化槽汚泥の処分を業者に代行させているところは見当たらないようです。
  • そこで、業者がバキュームカーに積んで処理施設まで運ぶ「し尿」や「浄化槽汚泥」という名の荷物の荷主は、いったい誰かを考えてみましょう。
  • 荷主は、市町村長ではありませんか。
  • そうですね。法が住民に処理施設までし尿や浄化槽汚泥を運搬することを義務づけていて、住民が自ら運搬する代わりに業者に依頼して運搬してもらうのであれば、荷主は住民だということになりますが、法の規定はそうではないので、荷主が住民でないことは明らかです。また、市町村が定めた計画に従い、自ら実施することが困難な市町村に代わって、便所や浄化槽から、し尿や浄化槽汚泥を処理施設まで運ぶことを業としている業者が荷主であるわけもありません。荷主は間違いなく市町村長である筈です。
  • 荷主である市町村長の依頼を受けてし尿や浄化槽汚泥を処理施設まで運搬する業者のバキュームカーが自家用車扱いを受けているのは何故でしょうか。
  • それは、国が定めている『日本標準産業分類』の中で、一般廃棄物処理業がサービス業に分類されているからです。
  • 市町村が自らし尿や浄化槽汚泥を収集し、運搬し、処分するのは、住民に対するサービスというべきでしょうが、市町村に代わって、し尿や浄化槽汚泥を処理施設まで運搬する業者の仕事が、どうしてサービス業に分類されるのか、腑に落ちませんね
  • 私もおかしな話だと思いますが、そのことについては、いずれ改めて検討することにして、ここでは、現在の法律のもとで、現在の分類のもとで、し尿等の収集、運搬に関する手数料の算定はどうすべきかについて話を進めましょう。
    し尿処理を業として行うのに市町村長の許可を要することとなったのは、昭和29年7月1日以降のことですが、当時の清掃法では、第15条第3項で、「汚物の収集につき第1項の許可を受けた者は、汚物の収集につき、当該市町村が第20条の規定により条例で定める収集に関する手数料の額に相当する額をこえる料金を受けてはならない。」と定められていて、この規定については、清掃法が施行された当時の厚生省環境衛生課長木村又雄氏が、厚生事務官福田勉氏と共に執筆した≪清掃法の解説≫の中で、次のように説明していました。「汚物取扱業者は、必要な限度において、その取扱料金においても規制を受ける。即ち『汚物の収集につき』及び『当該市町村の手数料の範囲内で』規制を受ける。規制を受ける取扱料金は、汚物の収集に関するものであって、運搬または処分の取扱料金については適用を受けないものである。」と。
  • それでは、清掃法のもとでは、業者が規制を受けていたのは収集に関する料金だけで、運搬または処分についての料金は規制を受けていなかったのですね。
  • そうです。
  • 廃棄物処理法では、収集に関する料金だけでなく、運搬に関する料金についても、処分に関する料金についても、市町村が条例で定める手数料の額に相当する額をこえる料金を受けてはならないことになっていますが、清掃法当時の規定と、どちらがよかったでしょうか。
  • よしあしは別にして、現在では廃棄物処理法の規定に従わねばなりません。しかし、前にも述べましたように、し尿の収集、運搬を自らは行わず、すべて業者に代行させている市町村の殆どが、厚生省の担当者たちの意向に逆らって、条例で手数料を定めているのが実情です。それは、手数料を制限せず、業者の自由に任せたら、住民の利益がそこなわれるおそれがあるという配慮からです。ところが、住民の利益を守ることに主眼をおくあまり、法外に安い料金を業者に押しつける結果を招いている市町村が少なくありません。
  • しかも、その法外に安い手数料の中から投入料を支払わせているところもあります。
  • それは、業者に仕事を与えてやっているのだという考え方から出たものと思われますが、市町村が自ら実施することが困難であるからこそ業者に代行してもらっているのですから、業者から投入料を取るべきではありません。業者が住民から受け取った手数料の中から投入料を支払わせるのは、実は、業者を使って住民から投入料を徴収しているわけですから、早急に改める必要がありましょう。処理費が不足するようなら不足分は予算に計上すべき性質のものです。
  • それでは、し尿や浄化槽汚泥を適正に処理するために必要な収集・運搬手数料の額はどのようにして算定したらよいのか、改めて検討してもらうことにしましょう。