清研時報

1987年1月号

なぜ合理化特別措置法は改正されたか
  1. 法律は改正されても、解説は旧態依然 先輩の説をかたくなに踏襲する役人気質
  2. 損失補償に関する行政法学の権威者の意見
  3. おしきせで働く地方公務員には配置転換・勧奨退職の制度あり
    市町村の義務を代行する業者にも代替業務、金銭補償は当然のこと
  4. 更に改正を要する合理化特別措置法
法律は改正されても、解説は旧態依然 先輩の説をかたくなに踏襲する役人気質
  • 全国環境整備事業協同組合連合会が発行している≪広報・環整連≫の8月号に、環整連が、61年7月24日、厚生省に対して、合理化特別措置法に基づく合理化事業計画策定を促進させるため、同計画の具体的な策定方法の市町村への指導等について陳情したことが報道されていましたが、それによれば、陳情を受けた加藤環境整備課長は、環整連の陳情の主旨は十分理解している、としたうえ1.61年夏発行の≪廃棄物処理法の解説≫第6版では、合理化特別措置法改正の趣旨に基づき『補償』についての表現を書き改めたこと2.下水道の整備等により業務が縮小する業者に対し、市町村が十分な対策をとることは当然であること3.合理化特別措置法改正については、各都道府県に対し、主管部長会議、主管課長会議等を通じて十分な説明を行っていることなどを説明した、ということでしたので、≪廃棄物処理法の解説≫第6版が発行されるのを心待ちにして、読んでみましたが、肝心な点は、第5版までの表現と変わってはいませんね。
  • ええ。従来は、法第7条の一般廃棄物処理業についての解説で、

    本条の許可は、講学上の『特許』のように、申請者に特定の権利を付与するものではないため、下水道の供用開始等の事情により、許可を受けた者の従来の業務量が減少し、又は、許可に付された期限の到来のため再申請した者に対して市町村長が不許可処分を行ったとしても、当該市町村は、当該業者に対して何ら補償の責を負うものではない。

    と、述べていたのですが、61年10月1日に発行された第6版では、

    本条の許可は、講学上の『特許』のように、申請者に特定の権利を付与するものではないため、下水道の供用開始等の事情により、許可を受けた者の従来の業務量が減少し、又は、許可に付された期限の到来のため再申請した者に対して市町村長が不許可処分を行ったとしても、当該市町村は、当該業者に対して、補償の責を負うものではない。なお、下水道の整備等によりその経営の基礎となる諸条件に著しい変化を生ずることとなる一般廃棄物処理業者については、別途、下水道等(正しくは下水道の整備等)に伴う一般廃棄物処理業者等(正しくは一般廃棄物処理業等)の合理化に関する特別措置法が制定されており、合理化事業計画の策定・承認等の手続きが規定されているものである。

    と、書き直しただけです。
  • 「何ら補償の責を負うものではない」の「何ら」を削除し、その後に、なお書きで、別途、合理化特別措置法が制定されていると付け加えているだけで、市町村が業者に対して補償の責を負うものではないという従来の解説に変化はないじゃありませんか。
  • そうですね。「何ら」という字句は、≪廃棄物処理法の解説≫の初版のも第2版にも使われておらず、昭和54年に発行された第3版から使われるようになった字句ですから、元に戻ったというだけで、そのほかには、なお書きで、合理化特別措置法が、別途、制定されているということを付記しているにすぎません。
  • 厚生省の加藤環境整備課長が、環整連の山火会長らに対して、「下水道の整備等により業務が縮小する業者に対し市町村が十分な対策をとることは当然」であり、「近く発行する≪廃棄物処理法の解説≫第6版では、合理化特別措置法改正の趣旨に基づき『補償』についての表現を書き改めた」と言ったというのは、いったい、どうなったのですか。加藤課長が嘘を言ったとも思えませんし、また、≪広報・環境連≫に、加藤課長が言いもしないことを、「言った」と書く筈もないと思いますが……。
  • 加藤課長は、嘘を言うような人ではありませんし、環整連もいい加減なことを報道するような無責任な団体ではありません。加藤課長の発言内容をそのまま伝えたものと考えてよいでしょう。
    合理化特別措置法の一部改正については、昭和61年1月13日付衛環第2号・厚生省水道環境部長通知で、改正の内容について、
    1. 資金上の措置 市町村が合理化事業計画を定めるに当たっては、従来から規定されている事項の他に、下水道の整備等により業務の縮小又は廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業等を行う者に対する資金上の措置に関する事項を定めるものとされたこと。
    2. 措置の内容 資金上の措置とは、市町村が業務の縮小又は廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業者等に対して地域の実情に応じて行う資金面での措置全般であり、具体的には、交付金等の金銭の交付、資金の融資、あっせん、保証等を指すものであること。
    と指示していることでもあり、加藤課長としても、下水道の整備等に伴って業務の縮小又は廃止を余儀なくされる業者に対して、ほったらかしておいてもよいなどと考える筈はありません。「市町村が十分な対策をとることは当然だ」というその対策とは、救済のための対策であり、言葉を換えれば補償対策のことだと思いますよ。
  • 市町村がとるべき対策は、それ以外には考えられませんね。
  • 合理化特別措置法の一部を改正する法律は第103回臨時国会において原案どおり可決、成立したものですが、提出者の戸井田三郎衆議院社会労働委員長が、提案理由の説明で、
    「昭和50年には、一般廃棄物処理業者等が下水道の整備等により受ける著しい影響を緩和するため、下水道の整備等に伴う一般廃棄物処理業等の合理化に関する特別措置法が制定され、今日に至ったわけでありますが、これまでこの法律に基づく合理化事業計画を定めた市町村はなく、一部の市町村において、転廃業をよぎなくされる一般廃棄物処理業者等に対し、事実上の措置として、交付金の交付等を行っているという実情にあります。このため、本案は、市町村におけるこれまでの事実上の措置が、合理化事業計画に基づくものとして、実施し易くなるよう、同計画に定める事項として、業務の縮小又は廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業等を行う者に対する資金上の措置に関する事項を加えようとするものであります。」 と述べたことを、厚生省水道環境部の諸君は承知していた筈です。
  • そうですね。
  • それを承知していながら、≪廃棄物処理法の解説≫の中では、先輩たちの説を踏襲する。……これが、役人気質というものです。私は、こうなることを恐れていたからこそ、本誌の59年11月号で、合理化特別措置法の一部を改正する法律案が、前の国会で継続審議になったのを天与の好機として、次の国会で、改正法律案の審議を通じ、合理化特別措置法が施行されて10年余り、その間下水道の整備等に伴って業務の縮小又は廃止を余儀なくされた業者や、遠からず業務の縮小又は廃止を余儀なくされようとしている業者の数は少なくないのに、この法律に基づく合理化事業計画を定めた市町村が1か所もないのは、厚生省水道環境部が、≪廃棄物処理法の解説≫の中で、「下水道の供用開始等の事情により、許可を受けた者の従来の業務量が減少し、又は許可に付された期限の到来のため再申請した者に対して市町村長が不許可処分を行ったとしても、当該市町村は、当該業者に対して補償の責を負うものではない」という行政指導をしているためであることを明らかにすべきだ、と力説しておいたのです。
  • そうでしたね。
  • 私は、衆議院社会労働委員会の2、3の委員にも、その点について要望しておきました。しかし、ついに委員の誰からもその点についての発言はありませんでした。そして、案の定、≪廃棄物処理法の解説≫第6版は、従来の表現を変えないまま発行されるに至ったわけです。
  • 残念でしたね。改正法律案の審議の際に、厚生省水道環境部が云うように、下水道の供用開始等に伴って業務の縮小又は廃止を余儀なくされる業者に対しては、許可期限の到来で再申請したとき不許可処分にしても、市町村は何も補償の責を負うものではないというのなら、わざわざ法律を改正して、市町村が定める合理化事業計画の中に資金上の措置に関する事項を加える必要はないじゃないか、という議論が出ておれば、おそらく、水道環境部も、≪廃棄物処理法の解説≫第6版で、従来どおりの表現を踏襲するわけにはいかなかったでしょうけど……。
  • そもそも合理化特別措置法が制定された趣旨は、昭和50年10月21日付厚生省環第676号・厚生事務次官通知によれば、

    下水道の整備並びに海洋汚染防止法に基づくし尿及びし尿浄化槽汚泥の海洋投入処分に対する規制の強化は、環境の保全上緊急かつ重要な施策であるが、国及び地方公共団体におけるこのような施策の推進に伴い、市町村長の許可又は市町村の委託を受けてし尿の処理を業とする者及び市町村長の許可を受けてし尿浄化槽の清掃を業とする者が、その事業の転換、廃止等を余儀なくされる事態が生じてきている。
    しかし、これらの事業者が事業の転換、廃止等を行う場合、不要となる運搬車、運搬船等の設備及び器材を他に転用することは極めて困難であり、このため、事業そのものの転換、廃止等も容易ではない実情にある。しかも、し尿の処理及びし尿浄化槽の清掃の適正な実施を確保するためには、これらの事業は、下水道の終末処理場によるし尿処理への転換が完了する直前まで、その全体の規模を縮小しつつも、継続して行われなければならない。また、海洋投入処分に対する規制の強化が実施されるときも同様である。このような事情にかんがみ、この際、市町村が合理化事業計画を定め、都道府県知事の承認を受けて合理化事業を実施することができることとし、また、転換計画を策定して市町村長の認定を受けた事業者に対し、国又は地方公共団体が金融上の措置を講ずるとともに、当該事業の従事者についての就職のあっせん等の措置を講ずるように努めることとすることにより、これらの事業の業務の安定を保持するとともに、廃棄物の適正な処理に寄与せんとする趣旨のもとに本法が制定されたものである。

    と、指示しています。
    ところが、厚生省では、廃棄物処理に関する事務を担当してきた環境整備課が、清掃法当時からの『補償』についての考え方を改めようとはせず、「下水道の供用開始等の事情により業務の縮小又は廃止を余儀なくされる業者に対して、市町村は補償の責を負うものではない」という行政指導を続けてきました。これで、合理化特別措置法の施行に当たって出された厚生事務次官の依命通知は骨抜きにされてしまったわけです。
  • 今度もまた、厚生省の担当者たちは、合理化特別措置法の一部を改正する法律が施行された直後に加筆修正を行った≪廃棄物処理法の解説≫第6版で、相も代わらず、従来どおりの解説を繰り返す結果となりましたね。
  • 遺憾千万です。
  • 厚生省では、『補償』について、いつ頃から現在のような考え方を示すようになったのか、改めて説明してくれませんか。
  • 私が知っているかぎりでは、厚生省の担当者が補償問題についての考え方をおおやけにしたのは、横浜市の清掃局長からの照会に対して、厚生省環境衛生局長が、昭和37年9月19日付環発第358号をもって回答したのが最初です。環境衛生局長は、その回答の中で、
    「当該許可の効力は、これに附せられた期限、その他の附款によって制限されるものである。したがって、市町村長が、従来許可を与えてきた汚物取扱業者から、当該許可に附せられた期限に伴い、許可の更新の申請があった場合において、下水道の布設等による当該市町村の汚物処理計画の変更等の事情により、この申請を不許可とし、又は、当該汚物取扱業者に係る収集区域を従来よりも縮小して許可したとしても、当該市町村は、当該業者に対して、そのことについての補償の責を負うものではないと解すべきである。」
    と、述べています。この考え方を、厚生省の担当者たちは、金科玉条として、こんにちまで受け継いできているわけです。
  • お役人の間では、先輩が示した見解に反するような意見は述べないようにしたが無難だという風潮があるとは聞いていましたが……。
  • 清掃法が施行された折に、当時の厚生省環境衛生課長木村又雄氏が、厚生事務官福田勉氏と共著で出版した≪清掃法の解説≫の中には、『補償』についての記述は見当たりませんでしたが、昭和40年6月3日、法律第 119号により清掃法第1次改正が行われた機会に、当時の環境整備課長田中正一郎氏が出版した≪清掃法の解説≫では、昭和37年9月19日付環発第358号・環境衛生局長の回答の内容と同じように、法第15条の汚物取扱業について、
    「本条の許可は、前述のように制限された内容として与えられるものであるから、市町村長は、従来許可を与えてきた汚物取扱業者から、当該許可に附せられた期限の到来に伴い、許可の更新の申請があった場合において、下水道の布設等による当該市町村の汚物処理計画の変更等の事情により、この申請を不許可とし、または当該汚物取扱業者に係る収集区域を従来よりも縮小して許可したとしても、当該市町村は、当該業者に対してそのことについて事実上はともかく法律上は当然に補償の責を負うものではないと解されている。」
    という見解を示しました。
  • 田中課長が、「当然に補償の責を負うものではない」と断言したのは、どんな法律上の根拠に基づくものか、それには触れていませんか。
  • 田中課長は、その解説書の中で、「許可の期限の満了の際に、許可の更新を受けることができなかったことについて、公用収用に準ずる考えを導入して、法律上の補償を請求することはできないと解されている。」と、述べていますので、田中課長のいう法律上の根拠とは、どうやら、公用収用の場合は無償で収去できるという考えによるもののようです。
  • 公用収用の場合は無償でよいというのは、明治憲法当時の解釈ではありませんか。
  • そうです。現在の憲法のもとでは、公用使用又は公用徴収については、正当な補償をなすべきであると定められています。
  • それでは、田中課長は、新憲法のもとで制定された清掃法の条文を、明治憲法当時の考え方に基づいて解説したわけですね。
  • おそらく田中課長は、昭和37年に、環境衛生局長が、横浜市清掃局長からの照会に答えた環発第358号の主旨をそのまま受け継いだものと思います。
  • 先輩の説を踏襲した……というわけですか。
  • そう思われますね。その後、清掃法を改正した廃棄物処理法が施行され、環境整備課で編集した≪廃棄物処理法の解説≫の初版が発行されましたが、その初版でも、法第7条の一般廃棄物処理業について、

    本条の許可は前述のように制限された内容として与えられるものであるから、市町村長は、従来許可を与えてきた一般廃棄物処理業者から当該許可に附せられた期限の到来に伴い、許可の更新の申請があった場合において、下水道の布設等による当該市町村の処理計画の変更等の事情により、この申請を不許可とし、または当該一般廃棄物取扱業者に係る収集区域を従来よりも縮小して許可したとしても、当該市町村は、当該業者に対して補償の責を負うものではない。

    と、述べ、田中課長の解説書にあった「そのことについて事実上はともかく法律上は当然に」という字句こそ抜けているものの、前後は全く同じ表現をしています。それだけでなく、「許可の期限の満了の際に、許可の更新を受けることができなかったことについて、公用収用に準ずる考えを導入して、法律上の補償を請求することはできない。」という解説の文句は、そのまま踏襲しています。
  • 今度の第6版では、「公用収用に準ずる考えを導入して、法律上の」という文句はありませんね。
  • 昭和54年に発行した第3版から、その文句を削除しています。しかし、その前後の文句は以前と全く同じです。厚生省の担当者たちは、明治憲法のもとで公用収用の場合は無償で収去できるとしていた考え方が、今でも通用するものと考えているのでしょう。
損失補償に関する行政法学の権威者の意見
  • ≪廃棄物処理法の解説≫では、第6版でも、「法第 7 条の許可は、講学上の『特許』のように、申請者に特定の権利を付与するものではない。」といい、「法第7条により一般廃棄物処理業者が区域を定めて許可された場合、その区域について市町村長が他の業者を許可しない限り、その業者がその区域を独占的に営業しうることとなるが、この利益は、区域が指定されたことの反射的利益にすぎない。」と説明していますが、一般廃棄物処理業者が受ける利益は反射的利益にすぎないから、その利益が失われても、補償する必要はない、と考えているのではないでしょうか。
  • そうかもしれませんね。しかし、なまはんかな知識をふり回すことは避けねばなりません。大事をとって、行政法学の権威として知られた田中二郎博士の解説を見ることにしましょう。
    田中博士は、≪新版・行政法・上巻・全訂第2版≫の中で、
    「許可は、命令的行為で、許可の結果、例えば、営業上の利益を伴うとか、場合によっては事実上に独占的利益を生ずるということはあるが、それは原則として、単に反射的利益に止まるのに反し、特許は、形成的行為で、相手方のために、権利・権利能力・包括的な法律的地位など、第三者に対抗しうべき法律上の力を与えるものである点に、特色をもつ。」
    と述べていますが、その『反射的利益』については、同書の中で、
    「公権は、公法関係において、直接、自己のために一定の利益を主張しうべきことを法律上に認められたものであるのに対し、法の反射的利益は、法がある命令・制限・禁止等の定めをしていることの反射として、事実上に利益を受ける場合をいう。例えば、医師法により医師の診療義務を定め、薬剤師法により薬剤師の調剤義務を定めている結果、患者が、診療を受け、調剤を求めることができるがごとし。また、公衆浴場法による公衆浴場の営業免許をなすにあたり、浴場相互間に一定の間隔をおくことを要求する結果として、営業免許を受けた者が、一定区域の浴客をほぼ独占することができることになるがごとし。ただ、公権と単なる反射的利益との区別は、必ずしも明瞭とはいえず、立法の趣旨・目的の合理的解釈によって決するほかはない。従来、右にあげたような諸利益は、単に反射的利益にすぎないと解せられる傾向が強かったが、最近、これらの利益も法律上保護に値する利益として、その侵害に対して裁判上の保護を与えようとする傾向が見られる。公衆浴場の営業免許に関する最高裁判所の判例(昭和37年1月19日)は、その一例である。」
    と、述べています。そして、更に、田中博士は、
    「道路、河川の占用の許可、各種の営業の免許、公企業の免許等にあたり、『公益上必要があると認めるときは、何時でも取り消すことができる』旨を附款として定め、さらに、この場合には、許可・免許等を受けた者の負担において原状に回復すべき旨の義務を課する旨の附款を付する例が少なくない。従来、相手方は、これを無条件に受諾し、行政庁もまた、これを根拠に取消(撤回)をし、かつ、原状回復を命じた例が少なくないが、私は、これは、一種の例文的な附款にすぎず、特別の事情のある場合は別として、一般的には、これを根拠として無制限に取消を主張し、又は、原状回復を求めることはできないと考える。すなわち、取消は、これを行使するだけの十分の客観的な理由がある場合に限定されるべきであり、また、無償で原状回復を求めうるものでなく、公益のために必要な場合においても、相手方に加える損失に対しては、その損失が相手方の責に帰すべき事由に基づくものである場合を除いて、原則として、正当な補償を与える必要があると解すべきものと思う。」
    「従来、公法上の損失補償に関しては、一般的な規定とみるべきものはなく、ただ個々の法令により、種々の名目のもとに、一定の損失補償をなすべき旨を定めたものがあったにすぎない。そして、かような規定の存しない場合には、補償を与える必要がないと解されるのが普通であった。ところが、現行憲法においては、財産権の不可侵を定めるとともに、『私有財産は正当な補償の下に、これを公共のために用いることができる』こと(29条)、いいかえれば、公共のために私有財産を用いるためには、正当な補償を与えなければならないことを明らかにした。この規定は、実定法的意義を有すると解すべきであるから、現行憲法のもとでは、正当な補償を与えないで、私有財産を公共の目的のために用いることは、憲法違反となるを免れない。」
    と、述べています。厚生省の担当者たちが、一般廃棄物処理業者が受ける利益は反射的利益にすぎないから、法律上の補償を請求することはできない、というのであれば、やはり、明治憲法のもとでの法解釈が現在の憲法のもとでも通用すると早合点したものだ、といわざるを得ないでしょうね。
おしきせで働く地方公務員には配置転換、勧奨退職の制度あり
市町村の業務を代行する業者にも代替業務、金銭補償は当然のこと
  • 厚生省の担当者たちは、一般廃棄物処理業の性格を、十分にわきまえているのでしょうか。
  • 東京高等裁判所が、昭和42年11月21日、清掃法第15条によるし尿浄化槽内汚物取扱業に対する不許可処分が、自由裁量権の範囲を逸脱したものとして取り消した事件の判決理由の中で、

    市町村長がその公共団体の実情、政策のもとで、清掃法の目的に照らし、どの業者をしてどの範囲で汚物の清掃、収集、処分をなさしめるか、汚物取扱業を許可するかどうかは、市町村長の自由裁量に属するものというべく、その意味で一般の営業に関する保健、警察上の許可とは趣を異にするものがある。

    と、判示していますが、この主旨は、廃棄物処理法のもとでも変わるところはない筈です。ところが、厚生省の担当者たちは、一般廃棄物処理業の許可を、一般の営業に関する保健、警察上の許可と同じように考えているとしか思えませんね。
  • そんな考えだから、許可期限の到来のため再申請した者に対して不許可処分を行ったとしても、市町村は補償の責を負うものではない、などと云えるのでしょうね。
  • 許可には1年の期限を付する例が多いようですが、業者の側では、真面目に仕事をしておれば許可の更新は受けられるものと考え、市町村の側では、年度替わりに許可の更新をするのを慣習としているのが実情です。それだからこそ、業者は、市町村に与えられている義務を代行するのに、少なからぬ出費にもかかわらず、バキューム車を買い、廃棄物排出船などを購入し、作業員を雇用してやってきましたし、作業員にしても、人に嫌われる汚れ仕事ではありますが、永続性があると思えばこそ、労務に服してこられたわけです。それを考えれば、許可期限の満了時において、下水道の供用開始のため、又は市町村による収集、運搬、処分が困難ではない状態になったため、許可の更新を受けることができなくても、補償を請求することはできないなどとは云えない筈です。
  • それなのに、厚生省の担当者たちは、平気でそんなことを言っていますね。
  • 廃棄物処理法の定めるところにより、一般廃棄物の収集、運搬及び処分は市町村が直営事業として行うべきものとされ、市町村による処理が困難な場合に限って、許可を与えた一般廃棄物処理業をして市町村に課された義務を代行させることができることになっているわけですが、直営事業としてし尿の収集、運搬、処分を行ってきた市町村が、下水道の供用を開始したため、又は、し尿の収集、運搬業務を民間業者に委託することとしたため、それまでし尿の収集運搬業務に従事してきた職員を必要としなくなったときは、不要となった職員は、配置転換によって他の職場に移しますし、どうしても人員整理をしなければならないときは、退職を勧奨し、規定に従って割増しした退職金を支給します。
  • 当然のことですね。
  • しかも、市町村の一般廃棄物処理業務に従事する職員は、すべておしきせです。車両も、器具も、船舶も、その他の施設も、なに一つとして自費で買い求めなければならないものはありません。それでも、地方公務員の場合は、市町村の一般廃棄物処理計画の変更に伴ってその職場がなくなれば、配置転換によって他の職場が与えられ、退職の余儀なきに至ったときは、勧奨退職の制度に従って退職金が割増しして支給されます。それなのに、市町村に代わって多額の費用を負担し、自らの責任において必要な施設や人員を整備し、市町村に課されている義務を代行してきた業者に対しては、転廃業の余儀なきに至った場合、市町村は何ら補償の責を負うものではないという≪廃棄物処理法の解説≫の表現が妥当であろう筈はありません。
  • そうですね。この前も云っておられましたが、わが国の憲法は、地方公務員はその恩恵に浴することができるが、市町村の義務を代行してきた民間業者は恩恵に浴することができないような、そんないい加減なものではありませんね。
  • 前にも紹介しましたが、≪廃棄物処理法の解説≫の表現が妥当であるかどうかを判断するのに、もってこいの事例があります。
    鹿児島県名瀬市は、人口およそ 4万9,000人、世帯数1万7,300戸ばかりの小都市ですが、ここでは市内の全域を対象とした下水道整備計画を立て、着々と工事を進めており、昭和71年度中には、便所の汲み取りの仕事も、浄化槽の清掃とその清掃にかかる汚泥の処理の仕事もなくなってしまう予定です。ここでは、市が直営でバキューム車2台を使ってし尿の収集、運搬にあたり、大部分は民間業者6社が9台のバキューム車を使って、し尿の収集、運搬と、浄化槽の清掃及び清掃にかかる汚泥の収集、運搬に従事してきました。私が、昭和60年1月に訪れたときには、既に全戸数の4割が下水道に接続し、市内に設置されている浄化槽3,500基のうち約1,000基が下水道による水洗化に移行していました。
    私が同市を訪れたのは、下水道の整備に伴って業務の縮小を余儀なくされている業者たちから依頼を受けて、補償の問題を市当局と交渉するためでしたが、初めて会ったとき、市長も、市の担当者たちも、補償のことなどまるで念頭になかった様子でした。そこで、
    「あなた方は、業者に許可を与えて仕事をさせてやっているのだというように考えておられるのでしょうが、し尿やし尿浄化槽の汚泥を、生活環境の保全上支障が生じないうちに、一定の計画に従って収集し、これを運搬し、処分するのは、ご承知のとおり、市の義務です。しかし、市がすべてこれを直営事業として行うことが、財政上その他の事情で困難な状態であったからこそ、業者に許可を与え、市が行うべき義務を代行してもらっておられるわけで、このことをお忘れになってはなりません。ところで、下水道の供用開始に伴って業務量が減少したのは、業者だけでなく、直営の分もそれなりに減少している筈です。業務量の減少に伴って民間業者の収入は次第に減ってきていますが、直営の業務を担当している市の職員の給与は、作業量が減ったからといって減額してはおられない筈です。やがて、下水道整備計画が完了した暁には、それまで直接又は間接にし尿の収集、運搬業務に携わってきた市の職員たちは、配置転換によって他の職場に移されるでしょうし、もしも人員整理の必要があれば、勧奨退職の規定に従って退職金を割増しして支給されるでしょう。それは当然の措置です。その当然の措置を、長い間に亘って市町村の固有事務を代行してきた業者に対しても準用するのは当たり前のことであり、それが血のかよった行政というものではないでしょうか。」
    と、訴えました。それから約1年、途中で市長が選挙で交替したため手間どったものの、鹿児島県環境整備事業協同組合の小河原敏男理事長(当時)はじめ幹部諸君の尽力のおかげで、61年3月には、仕事の量が比較的に少なかった業者たち3名が廃業することとなり、それぞれに、それなりの補償金が交付されました。
  • 市町村長や、市町村の担当者たちは、話し合ってみれば、厚生省のお役人たちみたいに、「補償の責を負うものではない」などと、冷たいことは云わないものですね。
  • 温かい血のかよっている人間だったら、誰でも、話し合えばわかってくれますよ。しかし、市町村の経済状態は、若干の例外を除けば、決して楽ではありませんから、補償金など、出さずに済むものなら、それに越したことはないと考える人たちが居ても不思議ではありません。ですから、厚生省水道環境部が編集した≪廃棄物処理法の解説≫第 6 版の『補償』に関する解説をこのまま放置しておけば、今までがそうであったように、市町村の担当者たちが自発的に合理化特別措置法に基づく合理化事業計画を立てるようなことはないものと思わねばなりますまい。
  • このまま放ってはおけませんが、どうしたらよいでしょうか。
  • 『補償』の件で厚生省に陳情したのは、環整連だけではありません。日本環境保全協会も、61年2月18日、加藤環境整備課長に対して、文書で、≪廃棄物処理法の解説≫の説明に適正な修正または補筆をしてもらいたい旨の陳情を行っています。しかし、結果はご覧のとおりです。もはや厚生省の担当者たちを相手に陳情を繰り返しても、それだけでは≪廃棄物処理法の解説≫の表現を変えさせることは無理だということがわかった筈です。このうえは、国会で正式にこの問題をとり上げ、合理化特別措置法制定の主旨にそむくような表現を改めさせるようにしてもらうほかありません。
  • 国会で、この問題について審議してもらう機会があるでしょうか。
  • 本誌の61年3月号でも指摘しておきましたが、合理化特別措置法施行令は、今のままでは不合理なところがあり、改正を要すると思われますし、その政令改正にからんで法律の一部を改正する必要もあると考えられますから、その改正の機会をとらえて審議を尽くすようにしてもらったらよいでしょう。
  • その政令改正と、政令改正にからむ法律の一部改正の必要性について、もう一度説明してくれませんか。
更に改正を要する合理化特別措置法
  • 合理化特別措置法第2条で、「この法律において『一般廃棄物処理業等』とは、廃棄物の処理及び清掃に関する法律の規定による市町村長の許可を受け、又は市町村の委託を受けて行うし尿処理業その他政令で定める事業をいう。」と定め、これをうけた法施行令第1条で、「法第2条の政令で定める事業は、浄化槽法第35条第1項の規定による市町村長の許可を受けて行う浄化槽清掃業とする。」と規定していますが、浄化槽清掃業というのは、浄化槽の管理者の委託を受けて浄化槽の清掃を行う事業のことですね。
  • そうです。
  • それでは、浄化槽の管理者の委託を受けて浄化槽の保守点検を行う浄化槽保守点検業者と、立場は同じだといえますね。
  • そうですね。
  • だったら、浄化槽清掃業が合理化特別措置法の適用を受けるのに、浄化槽保守点検業は合理化特別措置法の適用を受けないというのは、おかしいじゃありませんか。
  • なるほど、片手落ちですね。
  • そこで、合理化特別措置法が制定されたのは何時だったかを思い出してごらんなさい。
  • 昭和50年5月23日でしたね。
  • そうです。廃棄物処理法施行規則第2条第2号が削除される前のことで、法第9条第1項の許可を受けたし尿浄化槽清掃業者が、し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集、運搬又は処分を業として行うのに、法第7条第1項の許可を必要としなかった当時のことでした。つまり、当時のし尿浄化槽清掃業というのは、し尿浄化槽の清掃だけでなく、し尿浄化槽の清掃にかかる一般廃棄物の収集、運搬又は処分をも併せて行う事業のことだったわけです。従って、合理化特別措置法を定めるに当たって、し尿浄化槽清掃業を一般廃棄物処理業と同じように取り扱ったのは、当然のことと云わねばなりません。
    ところが、合理化特別措置法が制定されて3年ばかり経った昭和53年8月10日、厚生省令第51号による改正で、廃棄物処理法施行規則第2条第2号が削除され、し尿浄化槽の清掃とその清掃にかかる汚泥の収集、運搬又は処分を併せて行おうとする者は、廃棄物処理法第9条第1項の許可と併せて同法第7条第1項の許可を要することとなりました。浄化槽法が施行された現在でも、浄化槽法第35条第1項の許可を受けた浄化槽清掃業者は、単に管理者の委託を受けて浄化槽の清掃を業として行うことができるだけで、その清掃にかかる汚泥を収集し、運搬し、又は処分しようとするには、別に廃棄物処理法第7条第1項の許可を受けねばならないことになっています。要するに、合理化特別措置法が制定された当時のし尿浄化槽清掃業の業務内容と、現在の浄化槽清掃業の業務内容とは違ったものになっているわけです。それにもかかわらず、浄化槽清掃業は合理化特別措置法の適用を受けるべきだというのであれば、全く同じ立場にある浄化槽保守点検業も合理化特別措置法の適用を受けるべきであり、法施行令第1条は、そのように改正されねばなりますまい。
  • 当然、浄化槽保守点検業者から、その要望が出てくるでしょうね。
  • しかし、浄化槽管理者……つまり市民の委託を受けて浄化槽の保守点検を行う業者や、浄化槽の清掃を行う業者に、合理化特別措置法を適用することには問題があると思われます。それよりは、浄化槽清掃業が、合理化特別措置法制定当時の業務内容と異なり、単に浄化槽管理者の委託を受けて浄化槽の清掃を行うにすぎないものとなった現状においては、合理化特別措置法の適用を受けるべきではなく、合理化特別措置法の適用を受けるのは、浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集、運搬又は処分を業とする一般廃棄物処理業だけに限定すべきだと考えるのが妥当ではないでしょうか。そうだとすれば、合理化特別措置法の『一般廃棄物処理業等』の『等』を削り、法第2条に「その他政令で定める事業」とあるのを「及び浄化槽汚泥処理業」に改め、法施行令第1条を削除しなければならないことになります。
  • なるほど。
  • 次に、合理化特別措置法第3条第1項の

    市町村は、当該市町村の区域に係る下水道の整備その他政令で定める事由によりその経営の基礎となる諸条件に著しい変化を生ずることとなる一般廃棄物処理業等について、その受ける著しい影響を緩和し、併せて経営の近代化及び規模の適正化を図るための事業に関する計画を定め、都道府県知事の承認を受けることができる。

    という規定をうけて、法施行令第2条で、「法第3条第1項の政令で定める事由は、し尿及びし尿浄化槽に係る汚泥の海洋投入処分に対する法令の規定による規制の強化とする。」と定めていますが、これでは、合理化特別措置法の適用を受けるのは、(1)下水道の整備に伴って業務の縮小又は廃止を余儀なくされる場合と、(2)海洋汚染防止法に基づくし尿及びし尿浄化槽汚泥の海洋投入処分に対する規制の強化に伴って業務の縮小又は廃止を余儀なくされる場合に限られていることになりますね。
  • そうですね。
  • ところが、このほかにも、市町村の一般廃棄物処理計画の変更に伴って業務の縮小又は廃止を余儀なくされる場合があり、市町村が、事実上の措置として、転廃業を余儀なくされる一般廃棄物処理業者に対して補償金を交付したり、代替業務を与えた事例がいろいろあるじゃありませんか。
    例えば、京都府亀岡市では、し尿の収集・運搬業務を2名の業者に委託していましたが、昭和51年に、亀岡市長を理事長とする(財)亀岡市清掃公社を設立し、同公社が旧亀岡町、旧千代川村、旧大井村、旧篠村の区域において業務を行うこととし、同区域で21年間に亘ってし尿の収集・運搬に従事してきた業者との委託契約を解除しました。その再、亀岡市は、契約解除によって廃業を余儀なくされる業者に対して、これを勧奨退職とみなし、退職慰労引当金を支給するとともに、従業員退職引当金、転業対策引当金、営業補償引当金、市の処理施設が完備されるまでの間自力で処理施設を確保し業務を全うしてきた実績に対する処理施設負担金の補 引当金、車両代金引当金などを支給し、車庫、従業員宿舎等については別途協議のうえ買い上げました。契約期限の到来を待って無償で廃業させるような、つれない仕打ちはしませんでした。
    鹿児島市では、し尿の収集・運搬業務を許可業者に代行させていましたが、昭和53年に、前の鹿児島市助役を理事長とする(財)鹿児島市衛生公社を設立させ、同公社に業務を委託することとして、許可業者12社を廃業させるに当たり、『建設省の直轄の公共事業の施行に伴う損失補償基準』及び『同基準の運用方針』を準用して、補償金を算出し、支給しました。静岡県焼津市では、し尿及びし尿浄化槽汚泥の処理を業者に委託して海洋投入処分に付していましたが、昭和54年7月から陸上処理施設で処理することとしたため、それまで海洋投入処分業務に従事してきた業者に対して、船舶建造費の償却残金の補填として約2億円を支払ったほか、代替業務として陸上処理施設への中継運搬業務を委託し、10トン車1台を貸与しました。これらは、いずれも事実上の措置として、業者が蒙る損失を補償してきたものですが、本来は、合理化特別措置法の適用を受けるべき事例ではないでしょうか。
  • そうですね。
  • そこで、私は、合理化特別措置法施行令第2条は、
    「法第3条第1項の政令で定める事由は、次のとおりとする。 一、し尿及びし尿浄化槽に係る汚泥の海洋投入処分に対する法令の規定による規制の強化 二、当該市町村の一般廃棄物処理計画の変更」と、改めるべきだと考えます。
  • そうなれば、市町村が、従来許可業者に代行させていたのをやめて公益法人に委託する場合や、従来海洋投入処分に付していたのをやめて陸上処理施設で処理することにした場合など、そのために廃業を余儀なくされることとなる業者に対しても、合理化特別措置法が適用されることがハッキリしますね。
  • 合理化特別措置法制定の趣旨からいっても、そうしてこそ、文字どおり合理的と云えましょう。
  • 業者の自覚が必要ですね。
  • そうです。業者の自覚が必要です。業者は、それぞれ地元から選出されている国会議員に対して、合理化特別措置法並びに同法施行令は改正する必要があることを訴えるとともに、厚生省水道環境部が、≪廃棄物処理法の解説≫の中で、合理化特別措置法改正の主旨にそむいた行政指導を続けていることを指摘し、国会の場で、審議を通して、厚生省水道環境部の誤った行政指導を改めさせ、法令の合理的な改正を実現してもらうようにすべきです。
  • やはり、全国の業者が、地元から出ている国会議員の先生方にお願いして、国会の審議の場で、きちんと、けりをつけてもらうほかありませんね。
  • そうです。今日は人の身、明日は吾が身という言葉があります。自らの将来を保障するために、自ら努力する必要がありましょう。