清研時報

1987年9月号

合理化特別措置法の効果的運用について 被害者の救済に取り組んでいる担当者の直言
  1. 実務担当者の苦心のたねはし尿処理業務に対する理解の乏しさ
  2. 実務担当者を悩ませている厚生省の解説書
  3. 合理化特別措置法制定の趣旨と法律の一部を改正した理由について
  4. 市町村が合理化事業計画を定めなかったのは何故か
  5. この法律を効力あるものとするために

下水道の整備に伴って業務の縮小を余儀なくされつつある業者をかかえながら、し尿等の処理計画を円滑に実施しなければならない立場にある市町村の担当者たちは、どんな目で改正された合理化特別措置法を見ているか。関東地区の人口15万人ばかりの市の担当課長に聞いてみました。
これはその対談内容を収録したものです。

実務担当者の苦心のたねはし尿処理業務に対する理解の乏しさ
  • こちらでも、下水道の整備事業がすすめられているようですが、そのために業務の縮小を余儀なくされている業者への対応は、なかなか大変でしょうね。
  • し尿汲み取りの業務は、市民生活にとって、ひとときも欠かすことのできないもので、本来は市町村の固有事務として市町村が自ら実施すべきものです。事情があって直営事業として実施することができないため、業者に代行してもらっているのに、そのことが、ややもすれば忘れられ勝ちになっています。市町村から委託を受けた業者たちは、今日まで、心ない人々から差別的な眼で見られながら、従業員の確保になみなみならぬ苦労を重ねながら、また、機材の近代化のために多大の経費を投入しながら、市民へのサービスの向上をめざして業務をつづけてきたものです。これはいずこも同じで、当市だけのことではありません。
    ところが、近年、下水道の普及が全国的にすすめられ、新しい水洗化システムの公共下水道事業は年々その整備区域を拡大し、それに伴って、し尿の汲み取り業務は縮小の一途をたどっています。他に転用できない機材をもち、多くの従業員をかかえている業者たちにとって、公共下水道の普及は死活の問題ですから、多くの市町村では、代替業務の供与や金銭補償によってその救済を図ってはいますが、議会や、行政内部においてさえ、業者が果たしてきたし尿収集業務に対する理解が乏しいため、なぜ補償する必要があるのかを関係者たちに理解させることが、実務を担当している者の苦心のたねとなっています。
実務担当者を悩ませている厚生省の解説書
  • 昭和60年12月27日に公布された合理化特別措置法の一部を改正する法律で、第3条第2項の中の「適正化に関する事項」の下に、「下水道の整備等により業務の縮小又は廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業等を行う者に対する資金上の措置に関する事項」を加えることに改められましたが、厚生省では、その改正後の61年10月1日に発行された水道環境部編集の≪廃棄物処理法の解説≫第6版の中で、一般廃棄物処理業の許可について、「本条の許可は、講学上の『特許』のように、申請者に特定の権利を付与するものでないため、下水道の供用開始等の事情により、許可を受けた者の従来の業務量が減少し、又は、許可に付された期限の到来のため再申請した者に対して、市町村長が不許可処分を行ったとしても、当該市町村は、当該業者に対して、して補償の責を負うものではない。」と、従来どおりの解説を繰り返していますが、下水道の整備に伴って業務の縮小を余儀なくされつつある業者を抱えておられる市の担当課長として、この解説を、どう思われますか。
  • 困りますね。以前は「何ら補償の責を負うものではない」という解説でしたが、その中から「何ら」という字句を削除して、その後に、「なお、下水道の整備等によりその経営の基礎となる諸条件に著しい変化を生ずることとなる一般廃棄物処理業者については、別途、合理化特別措置法が制定されており、合理化事業計画の策定・承認等の手続きが規定されているものである」と付け加えていますが、厚生省がこんな解説をしているため、それ見ろ、市町村は、下水道の供用開始等の事情で業務の縮小又は廃止を余儀なくされる業者に対して補償の責を負う必要はないじゃないか、という意見が出てくるわけです。
  • その「何ら」という字句は、最初は入っていなかったのですよ。昭和47年4月20日に発行された初版にも、51年3月20日に発行された第2版にも「何ら」という字句はありません。54年3月31日に発行された第3版から「何ら」という字句を挿入していたのですから、合理化特別措置法が制定される以前の解説に戻っただけのことですが、厚生省からこんな解説書を出されたのでは、行政の第一線で実務を担当する人たちは困るでしょうね。
  • ええ、困ります。しかし、無批判に盲従してはおれません。以前に、あなたのところの≪清研時報≫を読んで、新規許可問題や補償問題で訪問されたあちこちの市町村の担当者の中に、合理化特別措置法という法律があることすら知らない人が少なくなかった、と書いてあったのを見てショックを受けました。市町村の処理計画の変更のために、長い間市町村の固有事務を代行してきた業者たちに対して、業務の縮小や廃止を求めねばならぬ担当者としては、身を切られる思いです。厚生省が補償の責を負わなくてもよいと指導しているからといって、死活の問題におびえている業者を見殺しにすることは出来ません。補償問題について、どう対処したらよいかを探るために、行政法学者の本などを読んだりして、いろいろと勉強している者が少なくない筈ですよ。
  • そうでしょうね。清研時報で私が述べたのは、一昨年、問題解決のために招かれて訪問した市や町の実情をありのままに伝えたのですが、地方には法律に無頓着な担当者が居るのも事実です。そんなことだから問題が発生するのでしょうが、業者にも責任があります。わが身に関係のある法律ぐらいちゃんと勉強しておれば、担当者も、法律を知らないでは済みませんからね。
  • 仮に業者が法律について無知であったとしても、担当者は知らないでは済みませんよ。それに、厚生省の指導がどうであれ、わが身を業者の立場に置き換えて考えれば、おのずと答は出るものです。ですから、厚生省の解説にかかわらず、各地の市町村では、下水道の整備に伴って業務の縮小又は廃止を余儀なくされる業者に対しては無論のこと、し尿処理業務の直営化、公社化によって損失をこうむる業者に対しても補償を行っているのが実情です。
  • 『建設省の直轄の公共事業の施行に伴う損失補償基準』のようなものが定められていて、『損失補償基準要綱』が示されておれば、それに従えばよいわけですが、厚生省では、「補償する必要はない」などと云って、補償の基準を示していませんから、担当者としては、やりづらいでしょうね。
合理化特別措置法制定の趣旨と法律の一部を改正した理由について
  • そこで、合理化特別措置法がなぜ制定されたのかということを、改めて考えてみる必要があると思います。
    昭和50年10月21日に出された依命通知で、厚生事務次官は、法律制定の趣旨について、

    下水道の整備並びに海洋汚染防止法に基づくし尿及びし尿浄化槽汚でいの海洋投入処分に対する規制の強化は、環境の保全上緊急かつ重要な施策であるが、国及び地方公共団体におけるこのような施策の推進に伴い、市町村長の許可又は市町村の委託を受けてし尿の処理を業とする者及び市町村長の許可を受けてし尿浄化槽の清掃を業とする者が、その事業の転換、廃止等を余儀なくされる事態が生じてきている。しかし、これらの事業者が事業の転換、廃止等を行う場合、不要となる運搬車、運搬船等の設備及び器材を他に転用することは極めて困難であり、このため事業そのものの転換、廃止等も容易ではない実情にある。しかも、し尿の処理及びし尿浄化槽の清掃の適正な実施を確保するためには、これらの事業は、下水道の終末処理場によるし尿処理への転換が完了する直前まで、その全体の規模を縮小しつつも、継続して行われなければならない。また、海洋投入処分に対する規模の強化が実施されるときも同様である。このような事情にかんがみ、この際、市町村が合理化事業計画を定め、都道府県知事の承認を受けて合理化事業を実施することができることとし、また、転換計画を策定して市町村長の認定を受けた事業者に対し、国又は地方公共団体が金融上の措置を講ずるとともに、当該事業の従事者についての就職のあっせん等の措置を講ずるよう努めることとすることにより、これらの事業の業務の安定を保持するとともに、廃棄物の適正な処理に寄与せんとする趣旨のもとに本法が制定されたものである。

    と指示しておられます。
    その後、第103回国会で、この法律の一部を改正する法律が成立しましたが、なぜ改正しなければならなかったかについては、改正案の提案理由の中で、

    わが国の下水道整備は、昭和38年度を初年度とする第1次下水道整備5か年計画の策定以来、国の重点施策として本格的に推進され、現在も、昭和56年度を初年度とする第5次下水道整備5か年計画に基づき、着実に推進されているところであります。このような急速な下水道の整備等の状況にかんがみ、昭和50年には、一般廃棄物処理業者等が下水道の整備等により受ける著しい影響を緩和し、合わせて、その経営の近代化及び規模の適正化を図るため、下水道の整備等に伴う一般廃棄物処理業等の合理化に関する特別措置法が制定されるに至ったわけであります。しかしながら、その後も着実に下水道整備等が進み、以前にもまして一般廃棄物処理業者等の受ける影響が増大しているにもかかわらず、これまでこの法律に基づく合理化事業計画を定めた市町村はなく、一部の市町村において、事実上の措置として、転廃業を余儀なくされる一般廃棄物処理業者等に対し、交付金を交付しているという実情にあります。そこで、このような状況を改め、合理化事業計画に基づき適正かつ円滑に交付金の交付等が行われることとなるよう、合理化事業計画に定める事項として、業務の縮小又は廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業等を行う者に対する資金上の措置に関する事項を加えるものであります。

    と、説明されました。ところが、今まで合理化特別措置法に基づく合理化事業計画を定めなかった市町村が、この法律改正によって、果たして、合理化事業計画を定めるようになるでしょうか。私は、大いに疑問があると考えています。
  • それは何故か、行政の第一線で実務を担当しておられる立場から、率直な意見を聞かしてくれませんか。
市町村が合理化事業計画を定めなかったのは何故か
  • それでは、市町村が何故これまで合理化事業計画を定めなかったかについて、私なりの見解を申し上げましょう。
    まず、その第一点は、清掃事業そのものが、地方自治法や廃棄物処理法によって自治体の固有事務とされており、それを民間に委託して業務を進めてきたものであるから、合理化事業計画など策定しなくても、公共下水道の供用開始によるし尿汲み取りの減少については、行政みずから起こした構造不況産業であるという認識から、その業務に従事する者に対しては、直営であれば配置転換によって他の職場に移すか、どうしても人員整理をしなければならない場合は勧奨退職の規定によって退職させるのと同様の考え方で対応してきたこと。
    第二点は、基本的には憲法第29条第3項の規定に基づき、建設省の直轄の公共事業の施行に伴う損失補償基準を参考として補償してきたこと。
    第三点は、この合理化特別措置法そのものが議員立法であるためか、法施行規則第3条に定める『合理化事業計画の承認の申請』についての具体的な様式、方法が明確に指示されていないこと。この件については、都道府県知事に申請し承認を受けるにもマニュアルもなく、県当局も思案中で、厚生省では実際に申請があったら考えるという態度です。本来は、法律が公布されれば、当然、申請書類については具体的に要綱などで示すべきではないでしょうか。第4点は、合理化事業計画を策定するについては、その裏づけとなる資金融通の措置、転廃業者に対する金融上の措置などが明確にされなければ、合理化事業計画策定の意味がないこと。以上の4点が、これまで市町村が合理化事業計画を策定せずに対応してきた大きな原因です。
  • なるほど、下水道の整備等の事情から業務の縮小を余儀なくされる人や、業務廃止のやむなきに至る人たちに対しては、その業務内容が市町村の固有事務を代行してきたものであるため、直営の場合の職員の配置転換や、勧奨退職と同様の考え方で対応してきた。合理化特別措置法には、市町村が合理化事業計画を策定するに当たって、その裏づけとなる資金融通の措置や、転廃業者に対する金融上の措置が明確にされていないから、合理化事業計画を策定しても意味がないし、それに、合理化事業計画の承認申請について具体的な指示もなく、申請しても県当局は思案中でなかなか承認してくれない、そんな状態だということですね。
  • そうです。
  • したがって、市町村が定める合理化事業計画の中に、「下水道の整備等により業務の縮小又は廃止を余儀なくされる一般廃棄物処理業等を行う者に対する資金上の措置に関する事項」を加えることになったものの、それだけでは、市町村が合理化事業計画を定めるようになるかどうかわからない、と考えておられるのですね。
  • おそらく合理化事業計画を定める市町村は少ないだろうと思います。
この法律を効力あるものとするために
  • せっかく合理化事業計画を定めて申請しても、県では思案投げ首で、なかなか承認してくれないとなると、処置なしということになりますが、だからといって、現実に下水道の整備に伴って被害をこうむっている業者を身殺しにするわけにはいきませんからね。
  • そうですよ。しかし、最初に申し上げましたように、行政内部においてすら、なぜ補償してやらねばならないのかという声があるくらいですから、担当者としては苦労するわけです。
  • わかりますよ、そのご苦労が。前に清研時報でも紹介した鹿児島県の名瀬市のようなところでは、理解が早いのですがね。
    名瀬市の場合は、直営の車が2台あって、業者と区域分けをせず、オープンで汲み取りを行っています。私が最初に訪ねた昭和60年1月には既に全戸数の4割が下水道に接続し、工事は着々と進捗していましたが、市当局は、業者に対する補償のことなど全く考えていない様子でした。そこで、市が直営で行っている汲み取り業務の量も、市の固有事務を代行している業者の汲み取り業務の量も、平均して4割は減少しているわけですが、業務量が減少したからといって、直営の車に乗って働いている職員の給料を4割カットしていますか、と尋ねてみました。もちろん、業務量が減ったからという理由で、その分だけ給料をカットできるわけはありません。それでは、すべておしきせで働いている市の職員は仕事の量が減っても給料はカットしないのに、車や車庫やその他の施設に相当の経費をかけ、従業員を雇用して、市が直営で行っているのと同じ手数料で、市の固有事務を代行している民間業者は、仕事の量の減少に伴ってそれだけの収入が減っているのを放置しておいても構わないと考えますか、とただしました。なるほどということでわかってもらいまして、6人の業者のうち仕事の量の少なかった3人が廃業することとなり、それなりの補償金が交付されました。
  • なるほど、そんなところでは理解も早いでしょうね。
  • ところで、補償の方法については、どんな考えを持っておられるのか、聞かせてくれませんか。
  • 全国の例を見ますと、金銭補償方式をとっているところもあれば、業務補償方式をとっているところもあり、金銭補償と業務補償の併用方式をとっているところや、業務転換資金融資の措置をとっているところなどもあるようです。金銭補償は、行政側においてし尿収集業務に代わる業務を提供することができないか、業者がこれを機会に事業を廃止するか、または自力で他の事業へ転換するか、そのいずれかの場合の補償方式で、これをもって行政側と業者との関係は断たれることとなります。現在多くの市町村で実施している方法は、公共下水道の整備に伴いし尿汲み取り業務が減少するのにつれて段階的に補償してゆくやり方です。しかし、し尿収集業務を数社に委託しているところもあれば、業者に区域を指定して委任しているところもあり、下水道の普及状況もさまざまですから、業者が受ける打撃もまちまちで、それだけに、業者の補償についての要望も一様ではなく、段階的に補償するのも容易なことではありません。
    補償の時期をいつにするかというのも問題です。市町村がこの業務を委託して、何年間かは汲み取り件数は伸びていったものが、公共下水道の供用開始によって汲み取り戸数は減少しつつある。しかし、汲み取り業務は一挙になくなってしまうわけではなく、徐々に減少していくのですから、補償の時期をつかみにくいものです。各地の実情を見ても、横浜市、福山市、平塚市など、10数年経過した後に補償を実施したところもあり、昭和37年4月に下水道事業を開始した横浜市が約50パーセントの普及率で、他の多くの市町村でも、10数年で10パーセントから20パーセントの状況ですから、補償の時期をいつにするかということは、各市町村でも迷うところです。
  • あなたは、補償の基準とすべき時期は、いつだとお考えですか。
  • し尿汲み取り業務が減少することになった直接の要因は、公共下水道の供用開始によるものでありますから、その供用開始の日を補償の基準日とし、その供用開始の時点で、市町村がし尿収集を行うために必要と認めていた委託台数を補償基準日の台数とすることが望ましいと考えています。そして、その台数算定については、業者の受持区域の地理的要因や、汲み取り家庭の状況によって相違はありますが、全国的な考え方としては、1か月1台当たり1,000件から1,200件が作業能力台数とみてよいでしょう。ただし、今後は、公共下水道や浄化槽の普及によって汲み取り家庭が飛び飛びとなり、1台当たりの作業件数は減少するものとみなければなりますまい。金銭補償の算定方法について
  • 金銭補償の算定方法については、どのように考えておられますか。
  • 全国の例を見ますと、営業の権利に対する補償、償却資産など機械器具に対する補償、従業員に対する補償を基本的な構成としており、転業援助資金や、経営者に対する補償なども見られるようです。営業権補償については、公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱などを参考にして算定しているところもあれば、し尿収集業務が一般の企業と異なり市町村の固有事務の代行であること、ましてや、心ない人々にさげすまされながら重労働に耐えてきたことなどを考慮して、独自の考え方で算定しているところも少なくないようです。償却資産など機械器具に対する補償については、減価償却資産の耐用年数表や、地方公営企業法の償却資産の年数表などを参考として、一定の割引率算定係数を策定し、設備補償をするところが多いようです。従業員に対する補償については、再就職までの生活補償は失業保健制度があるものの、この業界では殆ど実施されていないようです。従業員を解雇するには雇主が解雇手当を支払うのが当然ですが、市町村の固有事務の代行業務に従事してきた人たちの労に報いるため、退職金への加算の意味からの手当を出すべきだという考え方で、補償については、公共用地の取得に伴う損失補償基準などを参考としているところが多いようです。
    ところが、各地の実情を調べてみますと、補償金額には大きな地域差が見受けられます。厚生省では、昭和61年1月13日付衛環第2号・水道環境部長通知の中で「交付金の算定について」は、「その内容を十分検討し、適正な算定が行われるとともに、これに沿った実行が確保されるよう市町村を指導されたい」と指示していますが、更に、具体的に、全国的に格差のない補償金の算定基準を明示してもらいたいものです。
  • たしかに、その必要がありますね。そして、せっかく交付された補償金が業務の縮小又は廃止を余儀なくされた業者たちの再出発に生かされるために、租税特別措置法による課税の特例が適用されるようにすることや、業者が受取る補償金を税抜きの手取りの金額で算定するようにすることが必要でしょう。
  • 同感ですね。
代替業務の供与について
  • 下水道の整備等に伴って業務の縮小又は廃止を余儀なくされる業者たちが求めるのは代替業務であり、代替業務がないときに金銭補償となるわけですが、代替業務については、どんな見解を持っておられますか。
  • 業務補償は、し尿収集業務に代わる業務を業者に提供し、雇用している従業員をそのまま使って、それまでの経営収益を補償していく方法ですが、し尿収集業務に慣れてきた特性を生かし、しかも従来の経営収益に相当する収益をあげる業務を提供するのは容易ではありません。代替業務を提供することができるようであれば、金銭補償による一時的な財政支出をする必要もなく、残されたし尿汲み取り業務もスムーズに行われ、市町村にとっては大きなメリットになります。しかし、新たに生ずる業務の委託であればよいのですが、直営で行っている業務を委託に切り替えるとなると、職員の配置転換や、労働組合との対立など多くの問題を解決せねばなりません。
  • いろいろ問題がある中で、転廃業を余儀なくされる業者が進出できる業務には、どんなものがあるとお考えですか。
  • 第一に、下水道管きょの清掃や、道路清掃などの業務があります。これらの業務は今後業務量の増大が予測されるものの、たとえば横浜市が25年たってようやく50パーセントの普及状況であることから見ても、失われた業務量に見合うだけの作業量を確保するには、下水道普及から20数年後になるでしょうし、道路清掃についても、地方によっては、し尿汲み取りの代替業務として見合うだけの作業を必要としないでしょうし、当然、業者は、2つか3つの業務を兼業することとなり、転業の意欲をそそぐことになりましょう。
    第二に、下水道処理場に生ずる汚泥の運搬業務や、ごみ焼却場の焼却灰などの運搬業務があります。下水道汚泥の運搬については、下水道面整備区域の拡大によって業務量は多くなるでしょうが、下水道整備事業計画の規模による制約があるのは無論のことです。焼却灰の運搬については、ごみ収集との兼業で実施するのであれば、代替業務として取り上げることも可能でしょう。
    第三に、処理施設の維持管理業務や、庁舎、公園の維持管理業務があります。ところが、最近の処理施設は高度処理システム化が進み、単純作業に従事してきた従業員たちにとっては、必ずしも容易に転職できる職場ではありますまい。庁舎、公園の維持管理については、やはり、し尿汲み取り業務に見合うだけの業務量はないものと思われます。そこで、最も代替業務として適当だと見られるのが、第4の、ごみの収集業務でしょう。ごみの収集業務は、し尿の収集業務と同じように、市町村の固有事務を代行するものであり、生活の後処理を担当して、汚物を収集し、運搬するもので、特定の地域との密着度も極めて高く、最も類似した業務と云えましょう。そのため、今日まで、多くの市町村は、ごみの収集業務を代替業務として供与してきたのですが、これからも、その傾向はますます強まるものと思います。
  • そうでしょうね。
  • 市町村の側では、実は、ごみの収集業務を民間委託に切り替えることができれば、これに越したことはありません。ごみ収集に要する経費は急激に増大していまして、県内の一般会計決算において6パーセントから10パーセントを占めており、その比率は年々高くなっている状態です。昭和41年・第2次地方制度調査会答申の『地方経費の効率化』の中でも、昭和39年・第47回国会で出された『内閣処理要綱』の中でも、地方公共団体の事務で必ずしも市町村が直接実施する必要のないものとして、各種会館などの運営、給食、庁舎の管理、し尿、ごみ収集などを取り上げ、これらは民間委託の活用をすべきだとしています。直営と委託のコスト面の比較について、日本都市センターや、都市経営総合研究所、地方自治経営学会などが行った調査結果を見れば、その格差は決して少なくないようです。
  • そうですね。どの調査結果を見ても相当な開きがありますね。
    (参考までに、指摘された日本都市センターなどの調査結果を紹介しておきます。)

    [資料1] 財団法人日本都市センターが昭和57年に発表した都市白書によれば、人口規模別ごみ収集経費のトン当たりコスト比較は、次のとおりです。
    *有効回答数 直営102市、委託71市、合計173市
    都市の人口規模 直営(A) 民間委託(B) B/A
    人口50万以上 100万未満 10,144円 -円 -%
    人口30万以上 50万未満 12,288 4,911 40.0
    人口20万以上 30万未満 15,247 4,964 32.6
    人口10万以上 20万未満 13,784 6,881 49.9
    人口5万以上 10万未満 12,362 4,956 40.1
    人口3万以上 5万未満 9,292 4,654 50.1
    人口3万未満 7,229 5,750 79.5
    総平均 11,478 6,117 53.3
    [資料2] 都市経営総合研究所が、昭和58年度に、伊勢崎市、沖縄市、君津市、新潟市、長野市、小樽市、沼津市、前橋市、川越市、千葉市、柏崎市、高槻市、札幌市、函館市、釧路市、滝川市、深川市、赤平市の18市について行った調査結果は、次のとおりです。
    トン当たりの収集経費 直営13,435円 委託5,255円

    [資料3] 地方自治経営学会が、昭和58年度決算をもとにして、前橋市、函館市、長野市、新潟市、君津市、赤平市、柏崎市、釧路市、沖縄市、高槻市、川越市の11市について行った調査結果は、次のとおりです。
    トン当たりの収集経費 直営14,521円 委託6,680円
  • そこで、ごみ収集業務の民間委託は、し尿収集業務の減少に伴う代替業務としての期待は大きいわけですが、それだからといって、直営で実施しているものを一挙に民間委託に切り替えることは困難です。職員の配置転換は容易ではありませんし、それに職員労働組合との対立は必至です。従って、自然退職やごみ量の増大による定数補充をせず、穏やかな形で委託に切り替えていくようにするほかありますまい。しかし、この方法をとるにしても、やはり職員労働組合を説得する努力は必要です。
  • 担当者は見識をもって対処しなければなりませんね。
  • そうです。右を見たり左を見たりしてためらっていたのでは、いたずらに混乱を招くばかりです。こういう時勢ですから、担当者もちゃんとした心構えが必要だと思っています。
  • あなたみたいに熱心な課長さんが居られるところでは、業者も安心ですね。
  • 実は、公共下水道の面整備、供用開始によるし尿処理業務量の減少は、業者の生活をおびやかすものですから、経営者も、従業員も、みずからの職域が狭まることによって仕事を失う危機意識をどう受け止めているか、という意識調査を実施しましたところ、仕事量の減少で不安を感じてはいるものの、下水道の普及には意外に楽観的であることがわかりました。補償については、金銭補償を希望するものが62パーセント、代替業務の提供を希望するものが38パーセント。金銭補償を希望するものは、1年分の減少戸数について毎年補償を受けたいとしています。代替業務の提供を希望するものは、いずれもごみ収集業務を希望していて、他の業種への転業には困難性を示しています。また、従業員は、仕事がなくなった場合には、直営事業に採用してもらいたいと希望しているものの、直営職員との給与格差が大きいということを知って敬遠する傾向にあります。
    業者に対するアンケートは20数項目にわたって実施しましたが、その結果、業者は、行政がなんとかしてくれるだろうという甘い考えで居ることがわかりました。長い間、心ない人々にさげすまれながら、それに耐えて、人の嫌がる仕事をつづけてきた業績については、行政に働く私たち職員も労働者として十分承知しています。下水道の整備等の事情によって業務の縮小又は廃止を余儀なくされる業者に対しては、行政がなんとかしてやらねばならぬこともわかっています。しかし、行政に働く私たちの力だけではどうにもならないことがあります。
  • おっしゃるとおりです。
  • 先般開催された全国都市清掃会議の総会でも、合理化特別措置法が実質的に実行されるように要望するという決議がなされました。行政の第一線で働く私たちも運動をつづけますが、業者の皆さんにも奮起してもらわねばなりません。
  • そうですね、全国の業者がスクラムを組んで、第一に、厚生省水道環境部編集の≪廃棄物処理法の解説≫の中の、「下水道の供用開始等の事情により、許可を受けた者の従来の業務量が減少し、又は、許可に付された期限の到来のため再申請した者に対して市町村長が不許可処分を行ったとしても、当該市町村は、当該業者に対して、補償の責を負うものではない」という解説を改めてもらうようにすること。
    第二に、市町村が合理化事業計画の中で定める交付金の算定について、なるべく全国的に格差がないように、交付金の算定基準を具体的に示してもらうようにすること。
    第三に、市町村から交付される転廃業助成金については、租税特別措置法による課税の特例を適用してもらうようにすること。
    第四に、合理化特別措置法施行規則第3条に定める『合理化事業計画の承認の申請』について、様式、方法を具体的に示してもらうようにすること。
    第五に、市町村が合理化事業計画の承認の申請をしたときは、都道府県知事は、その手続きに不備がない限り、遅滞なく承認すべきことを明確にしてもらうようにすること。
    第六に、国や都道府県の事後処理についての対応を明確にしてもらうようにすること。などを目標に、関係省庁に対して運動を展開する必要がありますね。
  • せっかく議員立法で合理化特別措置法が制定され、その一部を改正する法律も施行される運びとなったのですから、この法律の制定や改正に骨を折って下さった国会議員の先生方のお力を借りて、この法律に魂が入り、効力ある法律となるよう、業界の皆さんが力を併せて努力されることを祈ります。
  • 本日は、この辺で。大変でしょうが、これからも頑張って下さい。