清研時報

1989年5月号

浄化槽清掃業の許可処分を誤らないために訴訟事件の記録に学ぶ(3)
行政側が不許可理由を誤って敗訴した事例
  1. 2-(1)宮崎地方裁判所昭和52年(行ウ)第3号事件
  2. 裁判所からの調査委託に対する厚生省の回答
  3. 2-(2)福岡高等裁判所宮崎支部昭和54年(行コ)第3号事件
2-(1)宮崎地方裁判所昭和52年(行ウ)第3号事件
  • この事件は、宮崎県都城市で発生した事件です。
    許可申請が出されたのが昭和52年3月24日で、不許可処分にしたのが同年10月29日ですから、廃棄物処理法第9条第2項の規定が、昭和51年6月16日法律第68号による改正によって、従来は、「市町村長は、前項の許可を受けようとする者が厚生省令で定める技術上の基準に適合する設備、器材及び能力を有すると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。」と定められていたのを、「市町村長は、前項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。一 その事業の用に供する施設及び申請者の能力が厚生省令で定める技術上の基準に適合するものであること。二申請者が第7条第2項第4号イからハまでのいずれにも該当しないこと。」と改められ、昭和52年3月15日から施行されるようになった後で発生したわけです。
  • 昭和52年でしたら、まだ、法第9条第1項の許可を受けた者は、浄化槽の清掃だけでなく、汚泥の収集、運搬もできるようになっていた当時のことですね。
  • そうです。都城市では、清掃法当時から、4人の業者が、汚物取扱業の許可を受けて、汲取り便所のし尿の収集、処分と、し尿浄化槽の清掃及び汚泥の収集、処分を行っていましたが、業者間の得意の奪い合いが激しく、料金値下げに起因する不法投棄や手抜き作業が続発し、しかも、どの業者が不法投棄したのかを特定することが容易でなく、生活環境は悪化するばかりでした。
    そこで、清掃法を全面的に改正した廃棄物処理法が昭和46年9月24日から施行されるのを機に、4業者をひとまず解散させた上で、市も資本参加して、株式会社都城北諸地区清掃公社を設立させ、同社だけに廃棄物処理法第7条第1項の許可と第9条第1項の許可を与え、市の指導、監督を徹底させるように努めたため、市が定めたし尿及び浄化槽汚泥の処理計画は円滑に実施されるようになっていました。そこへ、新規の許可申請が出されたので、都城市では、業者の競合による弊害に悩まされた以前の状態に逆戻りすることをおそれて不許可処分にしました。
  • どんな理由で不許可にしたのですか。
  • 申請者に対する不許可通知で、許可しない理由を
    「当市におけるし尿浄化槽の清掃については、現在市が許可している業者において、当市区域内に設置されているし尿浄化槽の清掃を完全に実施するに十分な人的・物的施設を有し、現に当市の定めた一般廃棄物処理計画にしたがい市衛生センター及び都北衛生センターの処理機能も考慮して、し尿浄化槽の清掃を計画的・効率的にかつ適正円滑に実施しております。ですから、申請人に対し、新たにし尿浄化槽清掃業の許可を与えるときは、(既存の)許可業者との間に無用の競争、混乱を生じ、それがひいては当市の行うし尿及びし尿浄化槽汚泥の計画的・効率的な処理に重大な影響を及ぼすおそれがあるといわざるを得ません。それは、法の所期する生活環境の保全及び公衆衛生の向上の目的に背馳することも明らかであります。よって、申請人の当申請は許可しないこととします。」
    と述べています。
  • その不許可理由の中には、申請者が許可の基準に適合していないから不許可処分にしたのだという説明は、ないようですね。
  • ええ、ありません。
  • 許可申請から不許可処分が決まるまでに7か月余りかかっていますが、長い間待たされたあげく、そんな理由で不許可処分にされたのでは、申請者が納得せず、不許可処分の取消しを求めて提訴したのも無理はありませんね。
  • 訴訟記録によれば、「被告は、原告が廃棄物処理法第9条第2項に該当するかどうかの審査をせず、不許可通知に記載した理由によって不許可処分をしたものであり、違法であることは明らかである。」として、不許可処分の取消しを求めました。
  • それに対して、行政側では、どんな抗弁をしたのですか。
  • 行政側では、
    1. 法第9条の許可、不許可は市町村長の自由裁量に委ねられている。
      すなわち、法第7条及び第9条の事業の営業を市町村長の許可にかからしめたのは、右事業は本来市町村の責務に属するが(法第6条、地方自治法第2条第3項第7号、同法別表第2の11)、これを全て市町村自らが行うことはできないため、許可業者をして代行させ、自ら行ったのと同様の効果を確保するためである。従って、市町村長が右許可を与えるか否かは、法の目的と当該市町村の清掃計画とに照らし、汚物処理の事務を円滑、完全に遂行するのに必要適切であるかどうかの観点からこれを決すべきである。右は法第7条については明定されている(第2項第1号、第2号、第4号ハ、第3項)。
      ところで、法第9条の清掃作業には、通常、法第7条の作業が伴う。否、むしろ、法第9条のし尿浄化槽の清掃作業の大部分は、法第7条に規定する汚泥の収集、運搬または処分によって占められる。それ故、法第9条の許可業者は、法第7条の許可を得ることなく、同条所定の作業をなし得るとされていた(同法施行規則第2条第2号)。もし、法第9条の許可業者が法第7条の作業を自ら行わない場合には、法第7条の許可業者に作業の依頼をすることになるが、それでは法第9条の営業は成り立たないのである。法第9条の許可業者の行う法第7条の作業も、前記市町村の行う汚物処理計画に適合しなければならないことはいうまでもない。
      このように考えると、法第9条と第7条の区別を設けたこと自体問題がある。いわんや、法第9条の許可は、法第7条のそれと異なり、いわゆる覊束処分であると解釈することは、法の所期する生活環境の保全、公衆衛生向上の目的に背く結果を生む。法第9条の許可は覊束処分であるとする行政解釈、法第9条の許可業者は、許可を経ることなく法第7条の作業をも行いうるとする立法政策は、行政端末で破綻(はたん)を生じ、昭和53年8月10日厚生省令第51号により前記法施行規則第2条第2号は削除された。従って、現在は、法第9条の許可業者であっても、法第7条の作業を行う場合には、同条所定の許可を要する。
      都城市においては、昭和46年9月以来、法第7条、法第9条の許可業者として都城北諸地区清掃公社が存在し、市および北諸県郡の各町も資本参加している。他方、市は、し尿処理施設として市衛生センターおよび都北衛生センターを設置し、右公社と密接な連携をとりながら、汲取りし尿および浄化槽の汚泥を計画的かつ効率的に処理している。現在、し尿汲取り量、浄化槽の汚泥ともに増加の傾向にあるが、右し尿処理施設の処理能力は限度にきつつある。もし、原告に法第9条の許可を与えんか、新たな汚泥投入を拒否せざるを得ない実情にある。又、不許可処分の理由にいうとおり、さまざまな弊害を生じ、市の行うし尿、汚泥の計画的、効率的処理に重大な支障を及ぼすおそれがある。
      被告は、以上の理由により不許可処分をなしたものであって、何ら違法理由は存しない。
    2. 原告には、法第9条第2項第2号、法第7条第2項第4号ハに該当する事由がある。すなわち、先に述べたとおり、都城市のし尿処理施設は新たな汚泥の投入を拒否せざるを得ないが、原告は汚泥処理の施設を保有しないから、不法投棄同様の処分をするであろう。よって、不許可処分は理由がある。
    と抗弁しました。
  • 法第9条の許可は市町村長の自由裁量に委ねられているという主張や、法第9条と法第7条の区別を設けたことに問題があるとか、し尿浄化槽の清掃事業は本来市町村の責務であるという主張は、どうですかね。
  • し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集、運搬、処分は市町村の責務ですが、し尿浄化槽を清掃するのは管理者の責任であって、市町村の責務ではありません。しかし、厚生省環境整備課が≪廃棄物処理法の解説≫(初版151頁)で説明しているように、
    「し尿浄化槽の清掃は、し尿浄化槽から生ずる汚泥の収集または運搬等の作業と、専門的な知識、技能および相当の経験を必要とする附属機器の点検、槽内単位装置の掃除および種汚泥の調整作業等を一体的に実施するのが通例であるため、従前から、市町村において定常的に行うことは困難な業務として取り扱われ、旧清掃法においては、法第15条の規定に基づく汚物取扱業者に、専門的知識、技能等を取得させ、これらの業務を行わせていた」が、「今回の法改正によって、し尿浄化槽の清掃業務を独立した業の対象として分離し、し尿浄化槽清掃業者による維持管理体制の整備と強化を図るため」法第9条の許可制度が新設されたものです。ですから、法第9条と法第7条の区別を設けたことに問題があるという被告代理人の主張は、適当ではありません。
    ところが、法第9条の許可は市町村長の自由裁量に委ねられているという主張は、最高裁判所第1小法廷が昭和47年10月12日、清掃法第15条第1項の規定による『し尿浄化槽の清掃及び槽内汚物取扱業』の不許可処分取消請求事件の判決理由の中で、

    清掃法15条1項が、特別清掃地域内においては、その地域の市町村長の許可を受けなければ、汚物の収集、運搬または処分を業として行ってはならないものと規定したのは、特別清掃地域内において汚物を一定の計画に従って収集、処分することは市町村の責務であるが(同法6条、地方自治法2条3項7号、同法別表第2の11参照)、これをすべて市町村がみずから処理することは実際上できないため、前記許可を与えた汚物取扱業者をして右市町村の事務を代行させることにより、みずから処理したのと同様の効果を確保しようとしたものであると解せられる。
    かかる趣旨にかんがみれば、市町村長が前記許可を与えるかどうかは、清掃法の目的と当該市町村の清掃計画とに照らし、市町村がその責務である汚物処理の事務を円滑完全に遂行するのに必要適切であるかどうかという観点から、これを決すべきものであり、その意味において、市町村長の自由裁量に委ねられているものと解するのが相当である。

    と判示しているのを引用したもので、被告代理人が独自の見解を述べたものではありませんから、これはこれでよいと思います。
    しかし、法第9条の許可は覊束処分であると解釈することは、法の目的に背く結果を生むという主張は、云わずもがなのことではなかったでしょうか。
  • それに、市のし尿処理施設の処理能力が限度にきつつあることを理由として、原告に法第9条の許可を与えれば、新たな汚泥投入を拒否しなければならない実情にあったから不許可にしたという主張は、通用する筈がありませんね。
  • そのとおりです。し尿処理施設の処理能力が限度にきておれば、処理施設を増設すべきですし、施設の増設が困難な事情があるとすれば、お隣りの鹿児島県や熊本県のいくつかの市町村が実施しているように、海洋投入処分にするなどの措置をとる義務があります。
  • これでは、原告の方も黙ってはいませんね。
  • 案の定、原告から「法第9条第2項の許可は覊束処分である。従って、同項に規定しない事由を理由としてなされた不許可処分は違法である。被告が不許可理由として述べるところは、いずれも独断である。又、既存の業者のみが市のし尿処理施設を利用しうるかの如き被告の主張は、全く理由を欠く。市のし尿等の処理能力が限界にきつつあるとすれば、それは、とりもなおさず住民の排出する一般廃棄物が増加したことを意味する。従って、被告は、し尿等処理計画の再検討をすべきであり、それが、まさに法第6条第1項の趣旨である。なお、原告は、汚泥を正当に投棄する場所を確保している。」と反論される結果を招きました。
  • 原告は、汚泥を投棄する場所を確保していると云っていますね。
  • それは原告の主張であって、原告が確保しているという場所が、果して汚泥を適法に処分する施設として認められるものであったかどうかについて、被告は調査をしてはいません。
  • 被告は、当然、その調査をすべきでしたね。
  • そうです。ところで、この裁判では、先ず原告から、次いで被告からも、裁判所に対して、厚生省への調査嘱託の申請をし、厚生省からの回答を、双方とも書証として提出しており、厚生省からの回答の内容が、裁判所の判断にも何らかの影響を与えただろうと思われますので、ここで紹介しておくことにしましょう。
裁判所からの調査委託に対する厚生省の回答
  • 原告が、裁判所に対して、厚生省への調査嘱託の申請をした内容は、次のとおりです。

    厚生省環境衛生局に対する照会事項

    廃棄物の処理及び清掃に関する法律第9条に基づくし尿浄化槽清掃業の許可に関し、次の事項を御回答下さい。

    1. 右事業に対する市町村長の許可の基準は何ですか(県、市町村に対する指導基準)。
    2. 設備器材及び能力を有すると認めたときは許可をしなければならないか否か。不許可にする場合の理由はどのようなものか。その業者に対する指導の方法は何か。
    3. 右の見解について、現在と過去とで変化がありましたか。もしあったとしたら、何時頃どういう見解だったかをくわしく御回答願いたい。
    4. 前項の各見解につき、県又は市町村長からの照会があったことがありますか。回答した場合の代表的な見解の回答書を御送り下さい。
    5. 過去5年の各年に、全国で何件の前記事業の許可がなされましたか。各県、各市町につき統計がありましたら御回答下さい。その時の右各市町村の浄化槽数がわかっていたら、これも御回答願いたい。
    6. 過去5年間の各年に、全国で不許可になった申請につき、各県各市町村につき統計がありましたら御回答下さい。
    これに対する厚生省の回答は、次のとおりです。
    環計第42号 昭和53年5月30日
    宮崎地方裁判所民事部 裁判長裁判官 蒲原範明殿
    厚生省環境衛生局水道環境部計画課長

    調査報告

    昭和53年5月9日付け宮地民第723号をもって嘱託のあった調査について、下記のとおり回答する。

    • 1について
      廃棄物の処理及び清掃に関する法律第9条第2項の各号に適合していることである。
    • 2について
      法第9条第2項の各号に適合していると認める場合には、許可をしなければならない。この旨は、地方自治体からの問合わせに対し、個別に指導してきた。なお、許可に際しては、法第9条第3項に基づき附款を付することができる。
    • 3について
      法制定以後、解釈に変更はない。
    • 4について
      ある。回答者の例は別添1のとおりである。
    • 5及び6について
      該当する統計はないが、し尿浄化槽設置基数については、参考資料として別添2がある。
  • 別添1というのは、どんな書類ですか。
  • 厚生省環境衛生局水道環境部環境整備課長が、岐阜県衛生部長から照会があった廃棄物処理法第9条に関する疑義について、昭和51年6月25日付環整第44号をもって、「市町村長は、し尿浄化槽清掃業の許可を受けようとする者が、厚生省令で定める技術上の基準に適合する設備、器材及び能力を有すると認めるときは、許可をしなければならない。」と回答したものです。
  • それは、法第9条第2項が改正される前に出されたものではありませんか。
  • そうです。宮崎地方裁判所からの嘱託調査に答えた時点では、法第9条第2項の規定が改正されていて、し尿浄化槽清掃業の許可の基準は、厚生省令で定める技術上の基準に適合していることと定められていたのを、厚生省令で定める技術上の基準に適合しているだけでなく、「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」などの欠格要件に該当しないことを条件とするように改められていたのですから、当然、そのことを付記しておくべきでした。
  • 原告が、「設備器材及び能力を有すると認めたときは許可をしなければならないかどうか」、「厚生省の見解は、現在と過去とで変化があったかどうか」「地方自治体からの照会に対して回答したことがあれば、厚生省の見解を示した代表的な回答書を送ってもらいたい」というのに対し、厚生省の解釈は、法制定以後、変更はないとして、法第9条第2項が改正される前に岐阜県からの照会に回答した文書を、注釈もつけずに送付したのは、軽率ではなかったでしょうか。
  • そうですね。し尿浄化槽清掃業の許可の基準を定めた法第9条第2項の規定は、昭和51年法律第68号によって改正され、昭和52年3月15日から施行されていたのですから、し尿浄化槽清掃業の許可の基準についての解釈は、法律改正の前と後では、当然、変更されていなければなりません。厚生省の回答は、それを無視したものと云わねばなりますまい。
  • 厚生省としては、し尿浄化槽清掃業の許可の基準について、裁判所から調査の依頼を受けたのですから、回答の内容が重大な意義をもつものであることを考えて、もっと慎重を期すべきだったと思いますが……。
  • すくなくとも、岐阜県に対する回答書は、法律改正前のものであり、改正後は、申請者が厚生省令で定める技術上の基準に適合しているだけでなく、市町村長がその業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがないと認めるときでなければ、許可をしてはならないように改められたことを付記しておくべきでした。
  • それが、当然でしょうね。
  • 被告が申請した厚生省への調査嘱託の内容は、次のとおりです。

    照会事項

    照会事項廃棄物の処理及び清掃に関する法律第9条に基づくし尿浄化槽清掃業の許可に関し、次の事項を御回答下さい。

    1. 『し尿浄化槽の清掃業務』の中には、実務の実態上、汚泥の収集、運搬または処分が含まれますか。
    2. 右法第7条並びに第9条の業務を市町村が直営もしくは委託することができますか。
    3. 市町村が、右法第7条並びに第9条の業務を直営もしくは委託して十分な処理がなされている場合に、新たに第三者から同条の各許可申請がなされた場合(1)法第7条の許可申請に対しては、許可しなくてもよいか。(2)法第9条の許可申請に対しては、同条第2項の各号に適合していると認められる場合には必ず許可しなければならないか。
    4. 第9条の許可申請にかかるし尿浄化槽の清掃業者が汚泥の収集、運搬、処分をも行う場合に、『第9条第2項の各号に適合していると認められる場合には必ず許可しなければならない』という見解をとると、一般廃棄物の処理計画等から見て、市町村の末端現場で(法第6条、地方自治法第2条3項7号等の法の趣旨を勘案して)、不都合の生じることがありましたか。右不都合を是正するため、過去どのような措置(規則の制定や行政上の指導等)をとられ、また、とられようとされているのか。
    これに対する厚生省の回答は、次のとおりです。
    環計第91号 昭和53年11月8日
    宮崎地方裁判所民事部 裁判長裁判官 蒲原範明殿
    厚生省環境衛生局水道環境部計画課長

    調査報告

    昭和53年9月5日付け宮地民第2369号をもって嘱託のあった調査について、下記のとおり回答する。

    • 1について
      し尿浄化槽の清掃を業として行う者の業務の実態については、お見込みのとおり。
    • 2について
      廃棄物の処理及び清掃に関する法律第7条については、お見込みのとおり。市町村がその事務としてし尿浄化槽の清掃を行うことは可能である。
    • 3(1)について
      法第7条第2項に適合していると認めるときでなければ許可をしてはならない。
    • 3(2)について
      お見込みのとおり。
    • 4について
      不都合の生じた事例については承知していないが、昭和53年8月10日厚生省令第51号をもって法施行規則が一部改正され、し尿浄化槽清掃業者がし尿浄化槽の汚泥の収集、運搬又は処分を行う場合にあっては、一般廃棄物処理業の許可を受けなければならないものとされた。
  • 厚生省が回答した昭和53年11月8日には、既に法施行規則第2条第2号が削除されていて、し尿浄化槽清掃業者が行う業務の中には、汚泥の収集、運搬または処分は含まれてはいなかった筈でしょう。
  • いや、昭和53年8月10日厚生省令第51号によって改正された省令は、公布の日から施行されましたが、第2条第2号を削除するという改正の規定は、省令の公布の日から起算して3月を経過した日、つまり昭和53年11月10日以後から施行することになっていましたので、厚生省が回答した時点では、ほんの2、3日の違いで、まだ、し尿浄化槽清掃業者が行う業務の中には、浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集、運搬または処分が含まれていたのですから、この回答に間違いはなかったわけです。
  • なるほど。ところで、法第7条の許可については、「第2項に適合していると認めるときでなければ許可をしてはならない」と答えているのですから、法第9条の許可についても、「第2項に適合していると認めるときでなければ許可をしてはならない」と答えるのが当然ではなかったでしょうか。「法第9条第2項に適合していると認められる場合には必ず許可しなければならない」というのと、「法第9条第2項に適合していると認めるときでなければ許可してはならない」というのとでは、意味が違うような気がしますが……。
  • そうですね。それよりも、被告としては、「し尿浄化槽清掃業者が行う業務の中に、市町村の責務とされる汚泥の収集、運搬または処分が含まれるのであれば、申請の内容が市町村の定める一定の汚泥処理計画に適合せず、汚泥の処理について不正又は不誠実な行為をするおそれがあると判断したら、それを理由として不許可処分にしてよいか、もしも、それを理由として不許可処分にすることは出来ないとすれば、その法的根拠について」回答を求めるべきだったでしょうね。
  • 結局、裁判所は、どんな理由で不許可処分を取消したのですか。
  • 裁判所は、判決理由の中で、次のように述べています。
    1. 9条1、2項の許可の基準は、厚生省令で定める技術上の基準に適合すること(2項1号)および欠格事由のないこと(同2号)であり、市町村長は、許可申請が右基準に適合するときは、必ず許可を与えるべきであり、右に定める事由以外の理由により不許可処分をすることは許されないと解するのが相当である(7条2項1、2号と対比)。昭和53年改正前の施行規則2条2号の存在は、9条についての右解釈を妨げるものではない。
    2. 本件不許可処分の理由は、9条2項各号所定の事由に該(あた)らない。
    3. 被告は、原告は9条2項2号(7条2項4号ハ)に該当すると、不許可理由を追加して主張するが、市の施設を既存の業者にのみ使用させ、原告には使用させないことを前提とする右主張は、直ちに採用し難い。
    4. してみると、被告のなした本件不許可処分は違法であるから、これを取消すべきである。
2-(2)福岡高等裁判所宮崎支部昭和54年(行コ)第3号事件
  • 都城市長は、宮崎地方裁判所の判決は法第9条の法的性質の解釈について誤りを犯し、裁量の適否についての判断をすることなく、証拠調べもせずに判決したもので、審理不尽(ふじん)の違法があるとして、福岡高等裁判所宮崎支部に控訴しました。
    福岡高等裁判所宮崎支部では、6年間にわたって審理を続け、昭和60年8月9日、次のような理由で、控訴を棄却する旨の判決を言渡しました。

    法9条がし尿浄化槽清掃業の許可要件を法7条の一般廃棄物処理業のそれと異なる定めを置いたのは、前者の業務の主な内容が本来汚物をそれ自身で処理してしまう浄化槽の清掃等の維持、管理にあり、清掃等の結果汚泥が収集されるとしても、それは付随的なものにとどまり、し尿浄化槽清掃業者が右汚泥の収集、運搬、処分を行うにつき一般廃棄物の処理計画との整合性を考慮する必要が少ないことから、その許可基準も一般廃棄物処理業のそれと異なり、敢えて法7条2項1、2号の要件を外(はず)したものと考えられるが、右施行規則2条2号は、右法意を承けて法9条の許可業者がその業にかかる汚泥の収集、運搬、処分を業として行う場合には、法7条1項ただし書きにより、一般廃棄物の収集、運搬、処分につき許可を要しないものとされている事業者が、その一般廃棄物を自ら運搬、処分する場合等に準じて、同じく当該許可を要しないものとしただけのものと解されるのであって、控訴人主張のように、法9条許可に際しても、法7条許可に準ずる審査が併せなされるがため、法9条の許可を受けた者につき、重ねて法7条の許可を受ける必要がなくなるところから設けられた規定とは解し難いのである。
    そして、法(右省令)の施行当初は、許可を受けたし尿浄化槽清掃業者がその業務にかかる汚泥の収集、運搬、処分を独自で行っても、それが市町村の一般廃棄物処理計画の遂行に支障を及ぼすことが考えられるような一般情勢になかったため、前記施行規則2条2項が設けられたものと解される。同条項の制定根拠がこのようなものである以上、その存在が法9条の許可を覊束処分と解することの妨げとなるものではない。
    本件全証拠によるも、本件処分の前後を通じ、控訴人が被控訴人に対し、し尿浄化槽の清掃から生ずる汚泥の処理方法につき適切な方策を有するか否かを尋ねる等法9条2項2号(7条2項4号ハ)の要件審査をした形跡は全く窺えず、さらに、当審における被控訴人代表者本人尋問の結果からすると、被控訴人においては、右汚泥の収集、運搬、処分を他の法7条の許可業者に委託する方策を採ることも充分予測されるのであって、これらのことからも、被控訴人には右法7条2項4号ハに該当する事由があるとの控訴人の主張は理由がないことが明らかである。そうすると、原判決は正当であって、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

  • この判決理由の中で、法施行規則第2条第2項の規定が設けられた理由についての解釈は、どうにも納得できませんが……。
  • そうですね。法施行規則第2条第2号が設けられたのは、「省令が施行された当初は、許可を受けたし尿浄化槽清掃業者がその業務にかかる汚泥の収集、運搬、処分を独自で行っても、それが、市町村の一般廃棄物処理計画の遂行に支障を及ぼすことが考えられるような一般情勢になかったためであると解される。」と述べていますが、これは、明らかに、浄化槽に生ずる汚泥の処理について、その実態を知らず、法の趣旨を曲解した裁判官の独断と云わねばなりますまい。
  • 裁判官には、一般廃棄物の中でも、し尿や浄化槽汚泥は、事業者が自ら運搬し、又は処分することの出来るごみや粗大ごみとは違うということが、わかっていないのではないですか。
  • 厚生省が≪廃棄物処理法の解説≫(初版151頁)で説明しているように、「し尿浄化槽の清掃は、し尿浄化槽から生ずる汚泥の収集または運搬等の作業と、専門的な知識、技能および相当の経験を必要とする附属機器の点検、槽内単位装置の掃除および種汚泥の調整作業等を一体的に実施するのが通例」であり、「市町村において定常的に行うことは困難な業務」であるところから、市町村の責務である汚泥の収集、運搬等の作業をし尿浄化槽清掃業の許可を与えた業者に代行させることとしたものであって、し尿浄化槽清掃業者は、市町村の定める一般廃棄物処理計画とは関係なく、独自に汚泥の収集、運搬、処分をすることは許されないものだということや、市町村が設置しているし尿処理施設には、浄化槽の汚泥を無制限に投入できるようにはなっていないということが、裁判官には理解されていないようです。
  • この裁判で、行政側はどんな主張をしたらよかったのでしょうか。
  • 法第9条の許可は自由裁量か、覊束裁量かということを論争するよりは、各地の事件の結果を見ても、法第9条の許可は、申請者が第2項の各号に適合していると認める場合には必ず許可をしなければならないという解釈がなされていますから、申請者が、厚生省令で定める技術上の基準に適合しているかどうか、欠格要件に該当するかどうかを調査すべきでした。そして、し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の処理について不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めたら、法第9条第2項第2号に定める法第7条第2項第4号ハに該当することを理由として不許可処分とし、裁判では、市内に設置されている浄化槽から生ずる汚泥が、市の定める計画に従い、既存の許可業者によって円滑に実施されていることを証明し、申請者が浄化槽の清掃にかかる汚泥を適法に処理しないおそれがあると判断した根拠を明らかにすべきではなかったでしょうか。
    最高裁判所第3小法廷は、昭和33年7月1日、温泉堀さく許可取消請求事件の判決で、「許可を拒む必要があるかどうかの判断は、主として、専門技術的な判断を基礎とする行政庁の裁量により決定さるべきことがらであって、裁判所が行政庁の判断を違法視し得るのは、その判断が行政庁に任された裁量権の限界を超える場合に限るものと解すべきである。」と判示していますが、法第7条第2項第4号ハに該当するか否かの判断は行政庁に任されたものです。