清研時報

1989年7月号

浄化槽清掃業の許可処分を誤らないために訴訟事件の記録に学ぶ(4)
行政側が不許可理由を誤って敗訴した事例
  1. 4-(1)名古屋地方裁判所昭和54年(行ウ)第19号事件9号事件
  2. 4-(2)名古屋高等裁判所昭和57年(行コ)第7号事件

これから紹介する事件は、いずれも、昭和53年8月10日・厚生省令第51号により廃棄物処理法施行規則の一部が改正され、第2条第2号が削除されて、法第9条第1項の規定により市町村長の許可を受けたし尿浄化槽清掃業者が、し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集、運搬又は処分を業として行う場合には、法第7条第1項の規定による一般廃棄物処理業の許可を要することとなった後で発生したものです。

4-(1)名古屋地方裁判所昭和54年(行ウ)第19号事件9号事件
  • この事件は、愛知県豊田市で発生した事件です。この事件は本誌の昭和59年6月号でもとり上げておきましたが、その後に控訴審の判決も出ましたので、改めて紹介することにしましょう。
    訴訟記録だけでは、はっきりしない点もありますが、事件が発生した当時、豊田市では、5社にし尿浄化槽の清掃と、し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集、運搬を行うための許可を与え、そのうちの4社には、生し尿の収集、運搬を行わせるための許可も与え、市内を5つの区域に分けて、うち1区域を直営区域として市が自ら生し尿の収集、運搬に当たり、その直営区域のし尿浄化槽の清掃と汚泥の収集、運搬を専業1社に行わせ、残りの4区域を兼業4社に区域を分けて担当させ、それぞれ担当区域の生し尿の収集、運搬と、し尿浄化槽の清掃及び汚泥の収集、運搬に当たらせていたようです。そんな状態のところへ、昭和54年11月15日、T社からし尿浄化槽清掃業の許可申請が出されました。
  • 汚泥の収集、運搬をするための一般廃棄物処理業の許可申請はしなかったのですか。
  • ええ。廃棄物処理法第9条第1項の規定に基づく許可申請だけで、法第7条第1項の規定に基づく許可申請はしていません。
    豊田市長は、翌年1月23日付で不許可処分としましたが、不許可処分とした理由は、「豊田市においては、既存のし尿浄化槽清掃業者が、市内に設置されているし尿浄化槽の清掃を実施するに必要な施設および能力を有しているから、T社に新たにし尿浄化槽清掃業の許可を与えると、既存業者との間で無用な競争、混乱を生じ、ひいてはそのことが市の行うし尿およびし尿浄化槽汚泥の計画的処理に影響を及ぼすおそれがあるため許可することができない。」というものでした。
  • なるほど。それでは、T社としても納得できなかったでしょうね。
  • T社は不許可処分の取消しを求めて提訴しました。これに対して、豊田市長は、不許可処分は正当な裁量に基づく処分であり、取消されるべき理由はないとして、次のように主張しました。

    法9条に定めるところのし尿浄化槽の清掃は、同法7条に定めるところの一般廃棄物である生し尿やゴミの収集、運搬、処分と同様、本来的には、市町村固有の行政事務に属することは、地方自治法2条3項7号の規定上明らかである。すなわち、し尿浄化槽の清掃とは、単に浄化槽から汚泥を取り出すだけでなく、浄化槽を適正に維持管理し、浄化槽から放流される水によって地域環境の悪化を防ぐことにあるから、し尿浄化槽の清掃も生し尿の汲取りと同様、生活環境の保全と公衆衛生を守るための行政の一貫として遂行されるべきものであり、市町村の固有事務と言うべきである。
    したがって、し尿浄化槽の清掃は、生し尿やゴミの収集等と同様、すべて市町村自らが処理するのが理想ではあるが、人的、物的な制約で、これをなすことが不可能であるため、特に許可を与えた業者にこれを代行させることにより、市町村が自ら処理したのと同様の効果をあげさせることとしたのである。それ故、し尿浄化槽清掃業の許可申請があった場合に、これを許可するかどうかは、市町村の行う廃棄物の処理計画や、既に許可を与えているし尿浄化槽清掃業者の数およびその能力ないし設備等諸般の事情を考慮し、市町村長がその自由裁量権を行使して決定できるのである。
    本件許可申請がなされた当時においても、既存の許可業者において、市内の浄化槽を清掃するのに十分な施設と能力を備えており、新たなる業者を加えさせる必要は全くなかった。したがって、かかる実情のもとで新規業者の申請を許可することは、既存業者の経営を圧迫する結果、業者間に無用の混乱を生じさせるおそれがあり、業者間の過度の競争は、生活環境の確保と公衆衛生の推進を阻害させる結果を伴うおそれが強い。
    本件不許可処分は、これらの諸般の事情を理由としてなされたものであり、被告に、裁量権の逸脱もしくは濫用のないことは明らかである。

  • 地方自治法には、し尿浄化槽の清掃が市町村の固有事務に属すると定めた規定なんかありませんね。
  • そんなものはありません。被告の訴訟代理人が指摘する地方自治法第2条第3項第7号の規定は、「清掃、消毒、美化、公害の防止、風俗又は清潔を汚す行為の制限その他の環境の整備保全、保健衛生及び風俗のじゅん化に関する事項を処理すること」と定めたものですが、この規定によって、し尿浄化槽の清掃が市町村の固有事務とされているというなら、台所の清掃だって、煙突の掃除だって市町村の固有事務ということになるでしょう。
    地方自治法では第2条第9項で、「第2項の事務の中で法律又はこれに基く政令の定めるところにより市町村が処理しなければならないものは、この法律又はこれに基く政令に規定のあるものの外、別表第2の通りである。」と定め、別表第2の2の『市町村が処理しなければならない事務』の(11)で、

    廃棄物の処理及び清掃に関する法律及びこれに基く政令の定めるところにより、一般廃棄物の処理及び大掃除の実施について計画を定め、一般廃棄物の収集、運搬及び処分をし、土地又は建物の占有者に対して一般廃棄物を運搬すべき場所及び方法を指示し、公衆便所及び公衆用ごみ容器を設け、これを維持管理し、並びに一般廃棄物処理業及びし尿浄化槽清掃業の許可に関する事務を行うこと。

    と規定しています。
    廃棄物処理法では、第8条第4項で、

    一般廃棄物処理施設の管理者は、厚生省令で定める技術上の基準に従い、当該一般廃棄物処理施設の維持管理をしなければならない。

    と定めていますが、この事件が発生した当時は、この規定にある一般廃棄物処理施設の中には、し尿浄化槽も含まれていました。
    そして、法施行規則第4条の2第3項には、し尿浄化槽の維持管理の基準が定められていて、し尿浄化槽の維持管理が法施行規則で定める基準に適合していないと認められるときは、法第8条第5項によって、管理者は、都道府県知事から期間を定めてし尿浄化槽の使用の停止を命ぜられ、その命令に違反した者は、法第26条第1号の規定によって6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられることになっていました。
  • それを見れば、し尿浄化槽の清掃は、管理者の責任であって、市町村の固有事務ではないことがわかる筈なのに、そんな主張をしたのでは、不許可処分を取消されても仕方ありませんね。
  • 名古屋地方裁判所は、昭和57年8月27日、豊田市長がなした不許可処分を違法として、その処分の取消しを決定しましたが、その理由について、

    法9条2項所定の許可の性質について検討するに、地方自治法2条9項、別表第2(11)……これは別表第2の2の(11)の間違いです……によれば、生し尿、ゴミ等一般廃棄物の収集、運搬、処分は市町村がその責任において処理しなければならないいわゆる団体委任事務と規定され、市町村は、その区域内における一般廃棄物の処理について計画を定めなければならず、かつ、その計画に従って、一般廃棄物を収集、運搬、処分しなければならないものとされている。
    しかし、区域内のすべての一般廃棄物について、市町村がそのすべてを行うことは不可能なため、市町村は右業務を市町村以外の者に委託し、または、一般廃棄物処理業者に代行させることとし、その営業を許可制とし、所要の監督を加えることとしている。したがって、一般廃棄物処理業者に対する法7条の営業許可については、市町村の責務である廃棄物処理事務遂行の観点から、市長村長に相当広い裁量権が認められると解される。
    これに対し、し尿浄化槽清掃業については、前記地方自治法2条9項、別表第2(11)……別表第2の2の(11)……に規定されておらず、またその業務の主な内容は、本来汚物をそれ自身で処理し浄化する浄化槽の清掃、維持、管理にあり、清掃の内容は、法施行規則7条に規定するとおりであること(もっとも、清掃の結果引き抜かれた汚泥の処理につき、独立してその収集、運搬または処分を行おうとするときは、別途に法7条1項所定の許可を要する。)、これらに加えて、許可の基準も、監督の態様も、一般廃棄物処理業に比し著しく緩和されている。
    以上の諸点を勘案すると、法は、し尿浄化槽清掃業は、一般廃棄物処理業が有する市町村の事務の代行という性質は有しないものの、浄化槽の適正な維持、管理が区域内の衛生の保持について重大な影響を与えることがあることにかんがみて、右業務を許可制にしたものであり、被告主張の既存業者の保護ないし過度の競争の防止などという観点から右業務を許可制にしたものではないと解するのが相当である。したがって、同法9条2項によって市町村長に与えられた裁量は、覊束裁量であって自由裁量でないと解される。してみると、市町村長は、し尿浄化槽清掃業の許可申請があった場合、申請者が法9条2項各号の規定に適合している限り、必ず許可を与えなければならないものと解すべきである。
    以上の説示に反する被告の主張は、すべて採用できない。本件においては、原告のしたし尿浄化槽清掃業の許可申請に際して、被告が、原告が法9条2項各号の規定に適合しているか否かについて調査することなく、本件不許可処分をしたことは当事者間に争いがないのであるから、本件不許可処分は、裁量権の行使を逸脱した違法が存することは明らかである。

    と述べています。
  • 豊田市長がT社に示した不許可の理由や、裁判で豊田市長の訴訟代理人が不許可処分に違法はないとして主張した論法では、不許可処分を取消されても仕方がないだろうとは思いますが、それにしても、裁判所が示した判決理由の中には、どうにも納得しかねるところがありますね。
    法第9条第2項の条文は、「市町村長は、前項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。」というものであって、「申請者が法第9条第2項各号の規定に適合している限り、市町村長は必ず許可を与えなければならない。」というものではありません。それに、法第9条第2項には、第2号に、「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者には、許可をしてはならない。」という規定があります。この規定は、市町村長の裁量を認めたものである筈です。それなのに、どうして、し尿浄化槽清掃業の許可は覊束裁量であって自由裁量ではないという解釈になるのか、わかりませんね。
  • そうですね。法第9条第2項第1号では、「その事業の用に供する施設及び申請者の能力が厚生省令で定める技術上の基準に適合するものでなければ、許可をしてはならない。」と定め、これをうけて法施行規則第6条で、し尿浄化槽清掃業の許可の技術上の基準を第1号から第4号まで定めていました。その第1号から第3号までは事業の用に供する施設について定めたもので、申請者がこれらの器具を備えていなければ、許可をすることはできません。これは明らかに覊束行為です。第1号から第3号に定める器具のうちどれか不備のものがあるのに市町村長が許可を与えれば、違法な行政行為となります。
    ところが、第4号の「し尿浄化槽の機能点検及び清掃に関する専門的知識、技能及び相当の経験」については、昭和46年10月16日付環整第43号・≪廃棄物の処理及び清掃に関する法律の施行について≫と題した各都道府県知事・各政令市市長宛の厚生省環境衛生局長通知第二の2で、

    規則第6条第4号に定める『専門的知識、技能及び相当の経験』を有する者は、厚生大臣の認定する講習会の課程を終了した者であって相当の経験を有する者又はこれと同等以上の能力を有する者とすること。

    と指示していました。そして、その『相当の経験』については、し尿浄化槽の清掃実務経験が何年以上でなければならないという明文はなかったのですから、市町村長の裁量に任せていたことになります。
    また、厚生省では、厚生大臣の認定する講習会の課程を修了した者であって相当の経験を有する者だけでなく、市町村長がこれと同等以上の能力を有すると認めた者も、第4号にいう専門的知識、技能及び相当の経験を有する者に該当するという行政指導を行い、その基準については明示せず、これと同等以上の能力を有すると認めるかどうかについても、市町村長の裁量に任せていたわけです。次に、法第9条第2項第2号では、「申請者が第7条第2項第4号イからハまでのいずれにも該当しないと認めるときでなければ許可をしてはならない。」と定めていました。その中で、イとロの規定は市町村長に裁量の余地は全くありません。廃棄物処理法又は廃棄物処理法に基く処分に違反して、懲役又は罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者や、廃棄物処理法又は廃棄物処理法に基く処分に違反する行為をして、許可を取消され、その取消しの日から2年を経過しない者については、許可をすることはできません。もしも、市町村長が、2年の期間を経過しない者に許可を与えるようなことがあれば、それは違法な行政行為となります。
    ところが、ハの規定は覊束行為ではありません。法律の条文では、どんな行為がその業務に関して不正な行為に当たるか、どんな行為がその業務に関して不誠実な行為に当たるかを例示してはおらず、申請者がその業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあるかどうかの判断を市町村長に委ねているわけですから、市町村長は、それぞれの市町村の実情に応じて判断することになります。このハの規定が市町村長に裁量権を認めたものであることは明らかです。
  • そういう点を裁判官にわかるように説明する必要がありましたね。
  • いや、それよりも、不許可処分にした理由に問題がありますよ。
    豊田市長は、申請者が、事業の用に供する施設を備えているかどうか、し尿浄化槽の清掃について相当の実務経験を有しているかどうかを調査し、し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の処理について、不正又は不誠実な行為をするおそれがあるかどうかを検討すべきでした。もしも、申請者が、し尿浄化槽の清掃について『相当の実務経験』を有していなかったのであれば、法第9条第2項第1号に適合しないことを理由として不許可処分にすべきでした。また、申請者が、し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥を適法に処理しないおそれがあると判断したら、法第9条第2項第2号に定める法第7条第2項第4号ハに該当することを理由として不許可処分にすべきでした。そして、裁判では、し尿浄化槽清掃業の許可は覊束裁量ではなくて自由裁量だなどと論争を挑(いど)むようなことはやめて、申請者が、法第9条第2項第1号もしくは第2号に適合していないと判断した根拠を明らかにすればよかったと思いますよ。
  • そうですね。豊田市では、市内を5つの区域に分け、許可業者5社にそれぞれ区域を指定して、し尿浄化槽の清掃とその清掃にかかる汚泥の収集、運搬を行わせていたのでしたら、市が定めた浄化槽汚泥の処理計画は円滑に実施されていたのでしょうから、申請者が、汚泥の処理について、法第9条第2項第2号に定める法第7条第2項第4号ハに該当すると判断したとしても、不合理とはいえますまい。だったら、それを理由として不許可処分にすればよかったわけですね。
  • ところが、豊田市では、申請者が法第9条第2項各号に適合するかどうかの調査をしなかったことを認めて、「新規業者を許可することは、既存業者の経営を圧迫する結果、業者間に無用の混乱を生じさせるおそれがあり、業者間の過度の競争は、生活環境の確保と公衆衛生の推進を阻害させる結果を伴うおそれが強いから、市町村長に与えられた自由裁量権を行使して不許可処分にしたものであって、裁量権の逸脱もしくは濫用はない。」と主張したため、「被告主張の既存業者の保護ないし過度の競争の防止などという観点からし尿浄化槽清掃業務を許可制にしたものではないと解するのが相当である。」ときめつけられ、「被告は、原告が法第9条第2項各号の規定に適合しているかどうかについて調査することなく不許可処分にしたものであり、裁量権の行使を逸脱した違法があることは明らかである。」として、不許可処分を取消されることとなったわけです。
  • つまり、肝心なことは、不許可処分にするときの理由を誤ってはいけないということですね。
  • そうです。関係法令に基いて調査をし、許可の要件に適合しないことを理由として不許可処分にしたのであれば、裁判では、そのことを立証すればよいのですが、関係法令にはお構いなしに、独自の見解で不許可処分にした場合は、裁判で、その不許可処分の合理性を立証することは無理だと考えなければなりません。
4-(2)名古屋高等裁判所昭和57年(行コ)第7号事件
  • 名古屋地方裁判所の判決で不許可処分を取消された豊田市長は、判決を不服として名古屋高等裁判所に控訴し、次のように主張しました。
    1. し尿浄化槽清掃業は、その業務内容の主たる部分がし尿浄化槽内に生じた汚泥の抜き取りであり、この汚泥が廃棄物処理法(以下「法」という。)にいう一般廃棄物であることはいうまでもない。また、し尿浄化槽の普及が豊田市においても全世帯のほぼ50パーセントに達している現在、その清掃や、それから生ずる汚泥の処理が、市町村における「清掃」・「環境の整備保全」・「保健衛生」(これらに関する事項の処理は、地方自治法2条3項7号より市町村の事務である。)上不可欠であることは、生し尿の場合と異ならない。実際、し尿浄化槽の清掃の結果抜き取られた汚泥は、法的には業者自身が処分することが可能だとしても、大部分は市町村の設置している処理場に運搬され処分されているのであり、自然、し尿浄化槽の清掃も、市町村の一般廃棄物処理行政全般のなかに組みこまれざるを得ないのである。
      このような浄化槽清掃と一般廃棄物処理の密接不可分な関係からも、し尿浄化槽清掃にかかる事務は、地方自治法別表第2の2(11)に定めるところの「一般廃棄物の収集」事務(市町村の固有事務)と区別さるべきではない。
      また、法9条の許可と法7条の許可とは両者が一体的に運用されることによってはじめて法の目的が効果的に達成されるのであり、この点からも後者は自由裁量により、前者は覊束裁量によるというような区別があるべきでなく、ともに市町村長の自由裁量にかからしめられているものと解すべきである。
      一般廃棄物の収集・運搬・処分(法7条の許可)とし尿浄化槽清掃(法9条の許可)のこのような密接不可分な関係は、とくに昭和51年法律68号による法の改正、及びその後の廃棄物処理法施行規則(以下「規則」という。)の昭和52年厚生省令7号及び昭和53年厚生省令51号による改正により、法制度上も一段と明瞭なものとなっている。法9条の許可が覊束裁量処分であるとの見解は、改正前の法9条が「技術上の基準に適合する施設及び能力」というような、一見裁量の余地の少ない許可基準を掲げていたのに眩惑されて生じたもので、誤っており、当然是正されなくてはならない。
    2. 本件不許可処分の理由としては、被控訴人(1審原告)が抜き取り汚泥を『貨物自動車及びバキューム車により運搬を行う』ことを予定しながら、運搬等に必要な法7条の許可を持っておらず、同条の許可を受けている業者との業務提携の可能性もないことも考慮されている。すなわち、被控訴人(1審原告)は、汚泥の運搬について何ら対策がなく、これを不法投棄し又は放置するおそれがあり、この点から、控訴人は、被控訴人(1審原告)が法9条2項2号、7条2項4号ハにいう『業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者』に該当すると判断したものである。したがって、仮に法9条の許可が被控訴人(1審原告)主張のような裁量の余地の狭いものであるとしても、本件不許可処分は適法である。
  • 行政側の訴訟代理人は、第1審のときと同じ弁護士さんだったのでしょうね。
  • ええ、2人とも同じ人です。
  • 行政側が不許可処分にした際に、申請者が法第9条第2項の各号に適合するかどうかを調べもせず、新規に許可を与えると、既存業者との間で無用な競争混乱を生じ、市の計画処理に影響を及ぼすおそれがあるからということを理由にしていたのですから、弁護に苦心の跡が見えるようですね。
  • その苦心の主張に対して、被控訴人(1審原告)は次のように反論しました。「1廃棄物処理法も、一般廃棄物の収集・運搬・処理業と浄化槽清掃業を明確に区別している。右は両者の間に質的な違いがあるためであり、このことは、控訴人主張の法改正の前後において、なんら変りがない。法9条の許可は法7条の許可とは区別して扱われるべきである。2 本件不許可処分の理由は、既存業者以外の新規業者に許可を与えると、業者間に無用の混乱を生ずるおそれがあるということのみであり、かつ、それに尽きる。したがって、控訴人が本件申請につき法9条2項2号の基準に照らしてこれを審査し、被控訴人(1審原告)がその不許可事由に該当したとの控訴人の主張事実は否認する。また、そもそも控訴人主張のようなことは、不許可の理由とはなり得ないものである。」
  • 不許可処分にされた理由が理由だけに、被控訴人(1審原告)の方では反論し易かったようですね。
  • 名古屋高等裁判所民事第3部は、昭和59年6月18日判決で、次のような理由をもって控訴を棄却しました。
    1. 当裁判所も、原審と同じく、被控訴人の本訴請求を正当として認容すべきものと考える。その理由は、左に補足するほか、原判決理由説示と同一であるから。
      これを引用する。
      1. 当審における控訴人の主張1について 確かに、し尿浄化槽清掃業者の抜き取った汚泥は一般廃棄物であり、通常、市町村の終末処理場まで運搬されて、そこで処分されるから、市町村が法6条1項に基く一般廃棄物処理の計画を定めるについても、これを考慮外におくことはできないし、し尿浄化槽の維持管理も、それが適正を欠くときは、たちどころに公衆衛生や生活環境の保全に影響を及ぼすことから、法9条、規則4条の2、6条、7条、同条の2など、この面の法的規則が改正の度ごとに強化されてきたこと、控訴人主張のとおりである。
        しかし、これによって浄化槽清掃の業務が一般廃棄物収集の業務に含まれることになったわけでもなければ、法9条の許可の法的性質や裁量の範囲に関する前記の結論(原判決引用)に消長を来たすものでもない。およそ、し尿浄化槽清掃業者は、一般廃棄物処理業者が本来市町村に課せられた一般廃棄物の処理業務を代行するのと異なって、浄化槽管理者からその義務に属する浄化槽の維持管理の一環たる清掃を請負い、これを処理するにすぎないものである。そうして、この作業は、従前から市町村によって定常的に行うことの困難な業務として、旧清掃法時代には、汚物取扱業者のうち専門的知識、技能等を有する者がこれを行っていたが、その専門知識、技能の深化向上の必要性の増大にかんがみ、法は、この業務を一般廃棄物処理業から分離し、独立した業務の対象としたのである。
        その結果、し尿浄化槽清掃業と、一般廃棄物処理業とは、これに要する許可についても法律上の取扱いを異にするにいたったもので、このことは、法9条2項の基準のなかに法7条2項1号、2号に相当する規定のないことからもこれを窺(うかが)うことができる。よって、法9条の許可がいわゆる自由裁量処分であるとする控訴人の主張は、採用することができない。
      2. 当審における控訴人の主張2について 控訴人は、法9条の許可が右のごとく裁量の余地の狭いものであるとしても、被控訴人には同条2項2号の引く同法7条2項4号ハに該当する不許可事由があった旨主張する。
        しかしながら、この点につき控訴人が何らかの調査をなしたかのごとく述べる当審証人太田正己の証言は、原審(第1審)証人永田猛之の証言に対比し、にわかに措信できない。かえって、弁論の全趣旨によれば、控訴人は、当審にいたり、被控訴人がたまたま法7条の許可を受けておらず、本件申請に併せてその出願もしていない点をとらえて、直ちに、被控訴人が「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある」と主張するにいたったものであることが明らかである。
        確かに、昭和53年厚生省令51号により規則2条に改正が加えられ、従前の2号が削除されたため、し尿浄化槽清掃業者が浄化槽から抜き取った汚泥を収集、運搬、処分するには、別途法7条の許可を必要とすることになったのであるが、それだからといって、法9条の許可はあるが法7条の許可のない業者が、必ず右抜き取り汚泥を放置したり、不法投棄したりするものとは断定できないこというまでもない。事実調査をなさずして、被控訴人が不正又は不誠実な行為をするおそれがあるということはできないのである。
        いずれにしても、法が、し尿浄化槽の清掃業の許可を、一般廃棄物の処理業のそれとは別個のものとしている以上、法7条の許可と併願しなければ法9条の許可申請が認容されないことに帰着するごとき解釈が、とうていとりえないものであることは、いうまでもない。
        要するに、控訴人は、本件不許可処分をなすにつき、被控訴人が法9条2項2号に該当しているか否か実質的な調査を遂げなかったものであり、右に該当する旨の控訴人の主張は、採用することができない。
    2. 以上のとおりであるから、本件不許可処分を取消した原判決(第1審判決)は正当であり、本件控訴は理由がない。
  • やはり、既存の許可業によって、し尿浄化槽の清掃とその清掃にかかる汚泥の収集、運搬が円滑に行われているからというので、新規の許可申請に対して、法第9条第2項第1号、第2号に適合しているかどうかについて調査もせず、新規業者に許可を与えると、既存業者の経営を圧迫し、業者間の無用の混乱によって生活環境の悪化を招くおそれがあるからという理由で、不許可処分にしたのでは、裁判で勝ち目はありませんね。
  • そうですね。この豊田市の場合は、市内を5つの区域に分けて、区域ごとにし尿浄化槽清掃業と浄化槽汚泥の収集、運搬を業務内容とする一般廃棄物処理業の許可を与えた業者を定め、1区域1業者の体制をとっていたのですし、おそらく市が定めた浄化槽汚泥の処理計画は円滑に実施されていたものとみてよいでしょう。
    T社は、法第9条第1項の規定によるし尿浄化槽清掃業の許可の申請をしたのですが、法第9条第2項に規定する許可の基準は、申請者が、法施行規則第6条で定める技術上の基準に適合することと、法第7条第2項第4号イからハまでに定める欠格要件に該当しないことの2つですから、当然のことながら、T社に対して、し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の処理はどのようにする計画であったかについても調査すべきでした。そして、それを調査した上で、T社にし尿浄化槽清掃業の許可を与えた場合、汚泥の処理について不正な行為をするおそれがあると判断したら、法第9条第2項第2号に定める法第7条第2項第4号ハに該当することを理由にして不許可処分にしておけば、裁判でも、行政庁がそのように判断したことに不合理がなかったことを立証すれば、不許可処分を取消されるようなことはなかったでしょうね。
  • ところが、裁判所は、「し尿浄化槽清掃業者が浄化槽から抜き取った汚泥を収集、運搬、処分するには、別に法7条の許可を必要とすることになっているが、それだからといって、法9条の許可はあるが法7条の許可のない業者が必ず抜き取った汚泥を放置したり、不法投棄したりするものとは断定できないことはいうまでもない。」と云っていますね。
  • それは、行政庁が事実調査をしないでおいて、そんな断定をすることはできないということですよ。裁判所も、その後に続けて、「事実調査をなさずして、不正又は不誠実な行為をするおそれがあるということはできないのである。」と述べているでしょう。
  • そうですね。しかし、一般廃棄物処理業については、法第7条第2項第2号で、申請の内容が法第6条第1項の規定により定められた計画に適合するものでなければ許可をしてはならないと定めているが、し尿浄化槽清掃業については、法第9条第2項に、法第7条第2項第2号と同じ内容の規定がないので、汚泥の収集、運搬、処分をどうするかについては、し尿浄化槽清掃業の許可の要件とはされていないという意見もあるようですが……。
  • それについては、昭和54年8月1日付環整第87号、各都道府県・各政令市廃棄物行政主管部(局)長あて、≪し尿浄化槽清掃業の許可について≫と題した厚生省環境衛生局水道環境部環境整備課長通知による行政指導がなされています。
    それは、神奈川県環境部長からの照会と、その照会に対する回答を併記し、参考にされたいとして通知したものですが、厚生省環境整備課長は、

    廃棄物処理法第9条第1項に規定するし尿浄化槽清掃業の許可については、申請者によるし尿浄化槽の清掃の結果引き抜かれた汚泥の収集、運搬又は処分の予定が法第6条第1項に規定する計画との適合性を有するか否かは法第9条第2項に規定する許可の要件とはされておらず、当該適合性の有無をもって当該許可の可否を判断することはできないものである。
    ただし、申請者がし尿浄化槽の清掃の終了にあたって、当該し尿浄化槽の清掃の結果引き抜かれた汚泥をその場に放置する等『環境衛生上不適切な行為をするおそれがある場合』にあっては、当該申請者は、法第9条第2項第2号に規定する法第7条第2項第4号ハに掲げる者に該当するので、市町村長は許可を与えることはできない。

    と指示しています。
  • 豊田市長は、厚生省のその行政指導に従って処置すればよかったわけですね。