清研時報

1989年9月号

浄化槽清掃業の許可処分を誤らないために訴訟事件の記録に学ぶ(5)
行政側が不許可理由を誤って敗訴した事例
  1. 4-(1)福岡地方裁判所昭和56年(行ウ)第7ないし第9号事件
  2. 4-(2)福岡高等裁判所昭和57年(行コ)第38号事件
  3. 4-(3)最高裁判所昭和59年(行ツ)第283号事件
4-(1)福岡地方裁判所昭和56年(行ウ)第7ないし第9号事件
  • この事件は、『一般廃棄物処理業不許可処分取消請求事件』となっていますが、事件の内容は、福岡県田川市長と、同県田川郡川崎町長、同郡添田町外3ケ町村清掃施設組合長に対して、し尿及びし尿浄化槽汚泥の収集、運搬を目的とする一般廃棄物処理業と、し尿浄化槽清掃業の許可申請をしたKが、いずれも不許可処分となったため、その不許可処分の取り消しを求めて提訴したものです。裁判の結果、一般廃棄物処理業については行政側が勝訴したものの、し尿浄化槽清掃業については行政側が敗訴しました。
    その福岡地方裁判所の判決の結果については本誌の昭和59年8月号で紹介しておきましたが、双方が控訴していた福岡高等裁判所の判決で、双方の控訴が棄却され、更に行政側が上告していた最高裁判所の判決で、上告が棄却されていますので、改めて紹介することにしましょう。
    田川市長の訴訟代理人が上告理由書に添えて最高裁判所に提出した新聞記事によれば、Kは、川崎町役場の同和対策課の職員をしていた昭和55年2月、島根県鹿足郡津和野町で、仲間2人とニシキゴイ(14万円相当)を盗んだ疑いで津和野署に検挙され、諭旨退職の後は川崎町や田川市後藤寺あたりを主地盤とする『鉱害屋』に転身し、石炭鉱業事業団と建設業者との橋渡しを行っていた人物のようです。
  • 田川市長の訴訟代理人が、Kに関する新聞記事を上告理由書に添えて最高裁判所に提出したのには、何かわけがあるのでしょうね。
  • 上告理由書の中では、別に新聞記事については何もふれていませんが、昭和59年6月27日付けの4紙は、いずれも福岡県警の鉱害不正捜査本部が、同月26日、Kを贈賄の疑いで逮捕したことを報じたもので、同年7月18日付けの1紙は、福岡地方検察庁飯塚支部が、同月17日、Kを贈賄罪で飯塚簡易裁判所に略式起訴し、簡易裁判所では同日、罰金20万円の略式命令を出したことを報じたものです。Kという人物はこんな人物だということを裁判官に印象づけようというのが狙いだったのではないでしょうか。
  • 島根県津和野町でニシキゴイを盗んだ事件は、許可申請をする以前のものですが、鉱害屋としての贈賄罪の方は、不許可処分取消請求事件で行政側が最高裁判所に上告した後で露見したものですね。
  • そうです。鉱害屋として起こした贈賄罪の方は、不許可処分になった後のことで、もちろん不許可処分とは関係ありませんし、津和野町で仲間とニシキゴイを盗んだ疑いで検挙されたことも、不許可理由となるものではなく、行政側は、Kがそのために諭旨退職扱いとなったことを承知していましたが、そのことを不許可の理由にはしていません。それはそれでよいとして、田川市長や、川崎町長、添田町外3ケ町村清掃施設組合長が不許可処分にした理由では、Kでなくても納得できなかったでしょうね。
  • どんな理由で不許可にしたのか、改めて説明してくれませんか。
  • 田川市長は、昭和56年3月30日に提出された一般廃棄物処理業とし尿浄化槽清掃業の許可申請について、その翌31日付で、「現在当市において処理計画上、新規業者を必要としないので、廃棄物処理法第7条2項2号及び第9条2項1号の規定により許可しないこととした。」という理由で、いずれも不許可処分にしました。
    川崎町長は、昭和56年3月27日に提出された一般廃棄物処理業とし尿浄化槽清掃業の許可申請について、4月6日付で、「現在当町の一般廃棄物(し尿、汚泥)の処理は困難でないため、廃棄物処理法第7条2項1号および第9条2項の規定により許可できない。」という理由で、いずれも不許可処分にしました。
    添田町外3ケ町村清掃施設組合長は、昭和56年4月10日に提出された同様の許可申請について、同月20日付で、「現在し尿収集についてはなんら支障を来たすことなく行われており、今後とも現業者で十分であると判断しました。」という理由で、いずれも不許可処分にしました。
  • Kは、その不許可理由が納得できなかったわけですね。
  • 田川市長の訴訟代理人が上告理由書に添えて提出した昭和59年6月27日付の毎日新聞によれば、不許可処分を受けたKは、暴力団員を連れて町役場に押しかけ、許可するように迫ったが埒(らち)があかず、裁判に持ち込んだと報じています。
  • 行政側では、不許可処分の適法性について、どんな主張をしたのでしょうか。
  • 川崎町長と添田町外3ケ町村清掃施設組合長の訴訟代理人は同じ弁護士で、その訴訟代理人は、

    生活環境の保全上、一般廃棄物を収集し、運搬し、処分することは市町村の責務であり、市町村がその区域内の一般廃棄物の処理について一定の計画を定めなければならないことは廃棄物処理法第6条の規定するところである。ところで、原告の許可申請は、一般廃棄物処理収集(し尿及び浄化槽汚泥)及びし尿浄化槽清掃業の許可(法7条1項、9条1項の各許可)を一体として申請してきた。被告らは、それぞれ策定した昭和56年度一般廃棄物(し尿及び浄化槽汚泥)処理計画に照らし、被告らの区域内人口から割り出した収集運搬を要する廃棄物の量、既に許可を与えた業者の処理能力と実績からみて処理は十分であること、新規業者を加えることによる摩擦など諸般の事情を考慮し、不許可としたものであって、何ら違法な点はない。

    と主張しました。
    田川市長の訴訟代理人は、

    一般廃棄物処理業の許可申請に対して不許可処分をしたのは、被告が法6条1項に基づき策定した昭和56年度田川市一般廃棄物処理計画に照らし、原告に対する新規許可が、同市における一般廃棄物処理業務の円滑、完全な遂行にあたっての必要適切な処分であるとは認められないとの観点に立ったためである。し尿浄化槽清掃業許可申請に対して不許可処分をした事由は、前記と同一の理由に加えて、右不許可処分の時点で、原告が法の要求する技術上の基準に適合した施設の1つである自吸式ポンプその他の汚泥の引出しに適する器具(バキューム式の汚泥収集運搬車)を備えていなかったことによるもので、不許可処分に違法はない。

    と主張しました。
  • Kはバキュームカーを持っていなかったのですか。
  • 福岡高等裁判所の認定と福岡地方裁判所の認定は多少相違するところがありますが、福岡高等裁判所が認定したところによれば、原告、つまりKは、昭和56年3月中旬にバキュームカー3台を購入し、本件の許可申請をする直前の同年3月23日には代金を完済していたそうです。もっとも、現車の引き渡しを受けたのは同年4月はじめになってからのようですが……。
  • し尿浄化槽清掃の実務経験はもっていたのですか。
  • Kは、昭和52年から56年まで山口県下関市のS衛生工業でし尿浄化槽清掃の実務に従事していたという同社の証明をもらって、日本環境整備教育センターのBコースの講習会の課程を修了しているということですが、ほんとに実務に従事していたかどうかについては調査していないようです。
  • さっきのお話では、Kは昭和55年に島根県津和野町でニシキゴイを盗んだ疑いで検挙され、諭旨退職させられるまでは川崎町役場に勤めていたということでしたから、退職した後『鉱害屋』をしていた当時はともかくとして、退職前に町役場の職員の身でありながら、相当の距離がある下関市の業者のところに通って清掃の実務に従事していたことは考えられないのではありませんか。
  • 田川市でも、川崎町でも、添田町外3ケ町村清掃施設組合でも、Kが廃棄物処理法第9条第2項第1号及び第2号に適合しているかどうかについて調査するまでもなく、し尿浄化槽清掃業の許可申請も、一般廃棄物処理業の許可申請と同じ理由で不許可処分にすればよいと考えていたようです。
  • それでは、裁判で負けるのも当然ですね。
  • そうですね。福岡地方裁判所は、昭和57年12月21日、次のような理由で、一般廃棄物処理業の不許可処分は適法と認めて原告の請求を棄却し、し尿浄化槽清掃業の不許可処分は違法であるとして取り消しました。
    1. 法は、一般廃棄物処理業とし尿浄化槽清掃業につき、許可基準において次のように異なった規定をおいている。
      即ち、一般廃棄物処理業は、法7条2項各号所定の要件を充足することが必要とされるのに対し、し尿浄化槽清掃業の許可基準としては、法9条2項1、2号の規定がある。
      法が右のように一般廃棄物処理業とし尿浄化槽清掃業を区別したのは、一般廃棄物(し尿浄化槽内のし尿も含む。)を収集し、運搬し、処分することは、じん芥処理、下水道処理事業などと同じく、生活環境の保全及び公衆衛生の向上をはかることを目的とする市町村固有の事務(地方自治法2条9項)によるものと解される。従って、市町村は、その区域内における一般廃棄物の処理について、市町村が定めた一定の計画(法6条1項)に従って、一般廃棄物を収集し、運搬し、処分しなければならないが、これを全て市町村自ら直接又は委託により行うことが実際上できない場合もあるので、かかる場合、一般廃棄物処理業者をして処理させることとし、市町村に課せられた一般廃棄物処理事務を代行するものとして規制されるべきものであるから、市町村長あるいは地方公共団体の組合の組合長は、その営業の許可については、市町村の作成した一般廃棄物処理計画に従い、法の目的に照らし、当該市町村の実情のもと、自律性、専門技術的政策的判断の尊重される広範な裁量権をもつものと解される。
      他方、し尿浄化槽清掃業は、本来それ自体で処理する機能をもつ浄化槽の内部の清掃等の維持管理にあることから、法は、これを市町村の固有の事務とすることなく、ただ専門的知識、経験をもち、必要な器材を有する者によって適正に維持管理がされないと、市町村の生活環境の保全及び公衆衛生に多大の影響を及ぼす可能性が高いため、一定の許可基準に達したものに限ってその業務をなしうべきものとして、許可制をとったものと解される。
      以上に照らせば、法7条1項の一般廃棄物処理業の許可は自由裁量行為(処分)であるが、法9条1項のし尿浄化槽清掃業の許可は覊束裁量行為(処分)であるというべきである。
    2. 被告らの一般廃棄物処理業不許可処分について、検討する。
      原告と被告組合長との間では、証拠≪略≫を総合すれば、添田町外3ケ町村清掃施設組合の昭和56年3月25日公示の同年度し尿収集計画において、許可業者3名がバキューム車7台(予備7台)で十分処理することができるとされており、従前の同様の計画に従っても住民からの苦情がなかったので,被告は、右実情から見て、原告の申請に対し、その必要がないと判断して不許可処分をしたことが認められる。
      原告と被告川崎町長との間では、証拠≪略≫を総合すれば、川崎町の昭和56年度一般廃棄物(し尿及びし尿浄化槽汚泥)処理計画において、許可業者2名のバキューム車5台(予備車2台)が1日4回運搬して月1回各家庭から収集することで十分処理しうることになっており、被告は、新たに原告を加える必要がないと判断して不許可処分をしたことが認められる。
      原告と被告田川市長との間では、証拠≪略≫を総合すれば、田川市においては、昭和56年度一般廃棄物処理計画上、し尿処理について一部直営の処理を除き、年間のし尿量3万1,000kl、浄化槽汚泥2,540klを9業者がバキューム車14台で月1回(控訴審で「し尿は月1回、汚泥は年1回」と訂正)戸別収集をしているところから、被告は、新たに原告を加える必要がないと判断して不許可処分をしたことが認められる。被告らの右各不許可処分は、右認定の一般廃棄物(し尿、汚泥)処理計画に照らし、相当として首肯しうるところである。
      原告の反論するところは、右裁量権の逸脱濫用事由に当たると認めることはできず、被告らの各不許可処分は、法7条の趣旨に従った適法な処分といわざるをえない。
    3. 被告らのし尿浄化槽清掃業不許可処分について、検討する。
      し尿浄化槽清掃業の許可は、上述のとおり覊束裁量行為と解されるから、原告が法9条2項の各要件を充足する限り、市町村長は必ず許可を与えなければならない。証拠≪略≫によれば、被告らの右各不許可処分は、このような判断をすることなく、一般廃棄物処理業の不許可と同様に裁量的に判断したことが認められる。
      被告田川市長は、原告が申請時に法9条2項、施行規則6条3号に定めるバキューム車を所有していなかったので、技術上の基準に適合するとの要件を充足していないと主張する。しかし、証拠≪略≫によれば、原告は昭和56年3月20日、三菱自動車販売会社から3台の自動車の譲渡を受けたことが窺われる。
      してみれば、被告らの原告に対するし尿浄化槽清掃業についての各不許可処分は、いずれも法9条に反して違法といわざるをえない。
    以上が判決理由の要点ですが、要するに、一般廃棄物処理業の方は、市町村が定めた一般廃棄物処理計画が、既存の許可業者によって十分に実施されることになっていることを理由に、新規業者を加える必要がないと判断して不許可処分をしたことに違法はないので、原告の請求を棄却し、し尿浄化槽清掃業の方は、申請者が廃棄物処理法第9条第2項第1号および第2号の要件に適合していれば、市町村長は必ず許可を与えなければならないのに、被告らは、Kが法第9条第2項各号の要件に適合しているかどうかについて調査もせず、一般廃棄物処理業の不許可と同じように判断したことは違法であるから、不許可処分を取り消すということになったわけです。
  • Kも、行政側も、どちらも控訴しましたね。
  • ええ。しかし、福岡高等裁判所は、判決で、第1審判決の結論を維持して、控訴をいずれも棄却しました。その判決理由は次のとおりです。
4-(2)福岡高等裁判所昭和57年(行コ)第38号事件
  • 実は、この事件は、福岡高等裁判所昭和57年(行コ)第38号、第40号、同58年(行コ)第1号、第2号一般廃棄物処理業不許可処分取消請求控訴事件と呼ばれていますが、Kは、第1審で敗訴した部分、つまり『一般廃棄物処理業についての不許可処分取消請求を棄却された部分』の取り消しを求め、田川市長と、川崎町長、それに添田町外3ケ町村清掃施設組合長の3者は、いずれも第1審で敗訴した部分、つまり『し尿浄化槽清掃業について不許可処分を取り消された部分』の取り消しを求めて控訴したものです。
  • 福岡高等裁判所の判決理由は、どんな内容だったのでしょうか。
  • 福岡高等裁判所は、昭和59年5月16日の判決で、「当裁判所も、原審と同様、1審原告の請求のうち、し尿浄化槽清掃業の不許可処分の取り消しを求める部分は理由があるからこれを認容し、一般廃棄物処理業の不許可処分を求める部分は理由がないから棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のように改め、付加するほか、第1審の判決理由で説示しているとおりであるから、これを引用する。」として、次のように述べています。

    一般廃棄物処理業とし尿浄化槽清掃業の許可基準は、厚生省令で定める技術上の基準に適合すること及び欠格要件に該当しないことの2つの点で共通しているが、一般廃棄物処理業の場合には、更に法7条2項1、2号の要件が加えられている。

    許可申請が法定の基準に適合しているか否かを認定する段階(要件審査)においては、法7条1項の一般廃棄物処理業の場合は、同条2項1、2号が相当幅の広い要件を定めていることからして、これに該当するか否かの判断につき市町村長等に広範な裁量権が認められるというべきであるが、法9条1項のし尿浄化槽清掃業の場合は、主として技術的観点からの要件を定めるにとどまるものであるから、法規の定める範囲内で若干の裁量は認め得るにしても、右のように広範な裁量権を認める余地はないといわざるを得ない。
    次に、右基準に適合していると認定される場合でも、なお市町村長等に許可、不許可の裁量権が認められるべきか否かの点についてみるに、法7条2項及び9条2項が、『市町村長は、前項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。』と消極的な規定の仕方をしていることから、右裁量権は否定されないとの解釈も成り立ち得ないわけではないようであるが、右許可は講学上の許可(禁止の解除)と解されるから、許可にかからしめた営業の制限は必要最小限度にとどめられるべきものであり、したがって、右基準に適合していると認定される限り、市町村長等は必ず許可すべき拘束を受けるものと解するのが相当である。
    結局、法7条1項の一般廃棄物処理業の許可は、その申請が法定の基準に適合するか否かを認定する段階(要件審査)での自由裁量が認められる意味において自由裁量行為であるが、法9条1項のし尿浄化槽清掃業の許可は覊束裁量行為であるといわなければならない。

    1審被告らは、1審原告に対し一般廃棄物処理業の許可を与えないでし尿浄化槽清掃業のみを許可すれば、1審原告は、清掃の結果引き抜いた汚泥を如何に処理するか、現実の確実的方策がない以上、その場に放置するか、不法に投棄することになりかねず、公衆衛生上不適正な行為にでるおそれが強いと判断されたので、し尿浄化槽清掃業の許可申請についても、法9条2項2号において準用する法7条2項4号ハに該当すると認め、これを不許可処分にした旨主張し、≪証拠略≫中には右主張に副う部分がみられる。
    しかしながら、本件全証拠によるも、1審被告らが、右不許可処分をするに先立ち、1審原告に対し、一般廃棄物処理業の許可が得られない場合に右汚泥の処理方法につき適切な方策を有するか否かを尋ねた形跡は全く窺えないのであって、かかる事実からすれば、1審被告らが1審原告において右方策を有するか否かを調査検討したとの点は甚だ疑問といわざるを得ない。却って、≪証拠略≫によれば、1審原告において右汚泥の収集等を他の業者に委託して処理する方策がなかったわけではないことが認められるから、し尿浄化槽清掃業の許可申請につき、1審原告が、1審被告ら主張のように法7条2項4号ハ(その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者)に該当したとは、到底認めることができない。

    ≪証拠略≫によれば、1審原告の1審被告田川市長に対するし尿浄化槽清掃業許可申請書に添付された使用器材明細書には、種類『し尿浄化槽清掃車』数量『2トン』、備考『四輪車 3 台(1台は予備車及びし尿収集)』とのみ記載されていたこと、1審原告は、昭和56年3月中旬、兵庫三菱ふそう自動車販売株式会社から関西衛生工業所を介して、3台のバキュームカーを代金合計810万円で購入し、同月23日右代金を完済し、同年4月初めにその引渡しを受けたこと、1審原告は、許可申請後、1審被告田川市長からバキュームカー所有の有無について格別尋ねられなかったこと等の事実が認められる。そして、1被告らは、以上のほかに、1審原告のし尿浄化槽清掃業許可申請につき法9条2項1,2号に適合しない事由があった旨の主張をしない。
    よって、原判決は相当であって、本件各控訴はいずれも理由がないから、これを棄却する。

    福岡高等裁判所の判決理由の要旨は、以上のとおりです。
  • 行政側は、いずれも上告しましたね。
  • 上告しましたが、棄却されてしまいました。
4-(3)最高裁判所昭和59年(行ツ)第283号事件
  • 田川市長の訴訟代理人は、上告理由書の中で次のように主張しました。
    1. 原判決には、廃棄物処理法9条の解釈を誤った違法がある。
      1. 原審は、一般廃棄物処理業の許可を講学上の自由裁量行為と適法に認定しながら、し尿浄化槽清掃業の許可は講学上の覊束裁量行為であるという誤った認定をしている。
      2. 法9条2項のし尿浄化槽清掃業の許可は、法文の体裁及び内容を形式的に判断しても講学上の自由裁量行為である。法9条は、昭和51年法律改正により、新たに2項2号(申請者が第7条第2項第4号イからハまでのいずれにも該当しないこと)および3項(第1項の許可には期限を付し又は生活環境の保全上必要な条件を付することができる)が付け加えられた。つまり、市町村は、昭和51年以降は、し尿浄化槽清掃業の許可に関して、『その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者』であれば不許可にできるし、許可にあたっても期限もしくは生活保全上必要な条件を付するなど講学上の付款を自由に設定することができるようになったのであり、その限りで法文の内容からもし尿浄化槽清掃業に対する市町村長の許可、不許可の裁量権は広範となり、市町村長による規制は強化されたものと言うべきである。
      3. また、し尿浄化槽清掃業の許可が自由裁量行為でなければならない事由として、し尿浄化槽清掃業の実態を踏まえた実質的理由もある。近時、し尿や浄化槽汚泥の終末処理は、ほとんど全部が市町村の責任において行われるようになり、市町村はそれぞれ独自の処理計画を策定し、同計画に基づき終末処理場を設け、ここに一般廃棄物処理業者やし尿浄化槽清掃業者が収集したし尿や汚泥を一方的に運搬させ、投入させることとなったため、市町村としては単に一般廃棄物処理業者が収集するし尿のみならず、し尿浄化槽清掃業者が収集する汚泥についても、あらかじめ終末処理場への投入量を予測し、投入計画、ひいては終末処理計画を策定することが必要不可欠になってきているのである。終末処理場の処理は、一般に嫌気性の生し尿を対象として科学的処理方法が計画、実施されているから、ここに無計画に好気性の浄化槽汚泥を大量に投入し、混入させることは、終末処理場の科学的処理を困難にし、全体の処理計画を不可能にすることになる。一般廃棄物処理業とし尿浄化槽清掃業とは、業務実施の結果発生するし尿や汚泥を市町村の終末処理場において処理する観点からみれば、表裏一体のものとして許可、不許可を決すべきものであり、この点からも、法9条に定めるし尿浄化槽清掃業の許可は、以上の諸点を踏まえた当該市町村の自由な裁量により決せられるべきものである。
    2. 原判決には、法9条2項2号ならびに7条2項4号ハの解釈を誤った違法がある。
      1. 原審は、上告人が本件不許可処分に際し、被上告人について、汚泥の処理方法に関する方策の有無を調査検討した事実は甚だ疑問であり、却って被上告人には、汚泥の収集等を他の業者に委託、処理する方策がなかったわけではないことが認められるから、被上告人が法7条2項4号ハに該当するとはとうてい認められないとこれを排斥した。
      2. 被上告人は、し尿浄化槽清掃業と共に一般廃棄物処理業の許可も申請していたのであって、し尿浄化槽清掃業による浄化槽清掃の結果生じた汚泥は、同じく許可が見込まれていた一般廃棄物処理業によって、自ら収集、運搬、処理する計画であることを上告人に対して明示していたものと言うべきである。ところが、被上告人の許可申請のうち一般廃棄物処理業については法7条2項に基づき不許可となったし、また右不許可は原審判断も認めるように適法なものであった。その結果、被上告人は引き抜いた汚泥をその場に放置ないし不法投棄せざるを得なくなったものとみるべきであり、被上告人は、法7条2項4号ハにいう業務に関して不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者と判断されなければならないのである。上告人は、以上のように判断して被上告人に対してし尿浄化槽清掃業を不許可処分にしたのであり、書面審理の建前からは、原審が認定するように、更に進んで被上告人につき、汚泥処理に関する具体的方策までも調査し検討する必要はないものと言うべきであるから、上告人の行った不許可処分に違法はない。
      3. 被上告人が万一、し尿浄化槽清掃業のみの許可でもよいと考えていたのなら、許可申請書の提出に先立ち、自発的にそのことを先ず上告人に明告しておくべきであり、その上で、清掃によって生ずる汚泥は、自ら処理するか、既存の処理業者に委託して処理するか等、汚泥処理が確実に履行可能であることを証する書面を申請書の添付書類として提出しておくべきものであったのであり、それをしていなかった以上、上告人が書面審理の結果から、被上告人には許可、不許可の時点において、汚泥処理に関する具体的、確定的方策の持ち合わせはないと認め、このままし尿浄化槽清掃業を許可すれば汚泥の不法投棄等のおそれがあり、公衆衛生上好ましくないと判断して、法7条2項4号ハに該当するものと認め不許可にしたのは適法な処分であると言わねばならない。原審は、『被上告人には、汚泥の収集等を他の業者に委託、処理する方策がなかったわけではない』と認めるが、かかる方策の有無は、許可、不許可の処分時点で判断さるべきものであるのに対して、被上告人が右のように言いだしたのは、本訴に至ってから後のことであり、被上告人が許可申請時にその処理方策につき言及した事実は全くないのであるから、不許可処分後のためにする弁解であり、証拠資料とはなり得ない。
    3. 原判決には、法9条2項1号および同法施行規則6条3号の解釈を誤った違法がある。
      1. 原審は、被上告人はバキューム車を所有していたと認定して、上告人の主張を排斥した。
      2. バキューム車を持っているか否かは、法律上の所有で足るものではなく、所持(保有)を要するものと考える。し尿浄化槽清掃業の許可にあたっては、市町村長は、あらかじめ、バキューム車が施行規則6条3号で要求する能力を保有しているかどうかの性能検査を現車について実施することになっているばかりでなく、申請者は、許可処分後、直ちに右バキューム車を使用して現実にし尿浄化槽清掃業を実施することが要求されているからである。
      3. ところが、上告人が不許可処分を行ったのは昭和56年3月31日であるのに対して、被上告人は、同日の時点で、現にバキューム車を所持(保有)していなかったばかりか、その所有を証する書類すらも持っていなかった事実は明白である。すなわち、バキューム車に関する譲渡証明書が被上告人あてに神戸市から発送されたのは同年3月31日であるから、被上告人への到着は早くとも同年4月1日と認められるし、現車が神戸市から被上告人あてに運送されたのは、それよりもさらに遅れた同年4月1日であるから、被上告人が現車を現実に受領したのは早くとも同年4月2日と認められるのである。原審は、被上告人につきバキューム車の所有のみを認定し、所有で足りると判断しているが、右は明らかに施行規則6条にいう施設等の技術上の基準に関する法的解釈を誤り、ひいては書証の採否を誤った違法の判断であると言わねばならない。上告人は、本件許可申請に際し、念のため、田川財務事務所および県陸運事務所で被上告人のバキューム車につき課税および登録の有無を調べたが、その事実もなかったので、この程度で調査を終了し、被上告人は、法が要求するバキューム車を現実に所持(保有)していないものと認定したのである。本件に関する以上の具体的事情に鑑みれば、上告人のバキューム車所持についての調査義務は十二分と言うべきであり、この点に関する非はあげて被上告人の方にある。
    4. 以上詳述のとおり、原判決には、し尿浄化槽清掃業の許可申請に関する法9条2項1号、2号、7条2項4号ハ、同法施行規則6条3号の解釈をいずれも誤り、かつ、理由に齟齬(そご)ある違法があるものと断ずべきであり、右違法は判決に影響を及ぼすことも明らかであるから、上告人はすみやかにその破棄を求める次第である。
    これに対して、最高裁判所は、昭和60年10月1日、

    原審の判断は、その適法に確定した事実関係のもとにおいて、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。

    として、上告を棄却しました。
  • その上告理由では、し尿浄化槽清掃業者は、槽の清掃だけでなく、槽内から引出した汚泥の収集、運搬も行うものと思いこんだ主張があるようですね。
  • どうやら、し尿浄化槽清掃業者は、浄化槽内に生じた汚泥の引出し、その引出し後の槽内の汚泥の調整と、単位装置や附属機器類の洗浄、掃除などの作業を行うもので、槽内から引出した汚泥の収集、運搬の作業は、一般廃棄物処理業の領域だという区別がなされていないようです。
  • し尿浄化槽清掃業の許可には付款を自由に設定することができるとも主張しているようですが、許可に付することができる条件は、必要最小限度にとどめられるべきものではありませんか。
  • そのとおりです。付款を自由に設定することは許される筈がありません。
  • し尿浄化槽清掃業の許可、不許可を決めるに当たっては、許可申請書とその添付書類による書面審理で充分だと主張しながら、バキュームカーについては法施行規則6条3号で要求する能力を有しているかどうかの性能検査を現車について実施することになっていると主張しているのも変ですね。
  • 川崎町長と添田町外3ケ町村清掃施設組合長も上告しましたが、両者の訴訟代理人たちが提出した上告理由書は、400字詰の原稿用紙にすれば約40枚に及ぶものでした。紙面の都合で割愛(かつあい)しますが、結果を見ればわかるように、不許可処分にするときの理由を誤れば、裁判で、不許可処分の適法性についてとりつくろうのは無理だということです。
    この事件でも、一般廃棄物処理業の方は、Kの申請が法第7条第2項第1、2号に適合していないと判断したのには手間どらなかった筈ですから、それを理由に、先ず一般廃棄物処理業の方を不許可処分にしておいて、次に、Kが川崎町役場に勤務中の昭和52年から山口県下関市の業者のところでし尿浄化槽清掃業の実務に従事したという経歴が事実であったかどうかを調べ、浄化槽の汚泥の処理をどうするのか、その処理計画書を提出させて、内容を検討すべきでした。そして、Kがし尿浄化槽清掃業について実務経験がなく、また、汚泥の収集、運搬について不正又は不誠実な行為をすると判断したら、それを理由として不許可処分にしておくべきでした。そうしておけば、裁判で、不許可処分の適法性を立証することは容易だったでしょうね。