清研時報

1989年11月号

浄化槽清掃業の許可処分を誤らないために訴訟事件の記録に学ぶ(6)
行政側が対応と主張を誤って敗訴した事例
  1. 5.宮崎地方裁判所昭和56年(行ウ)第2号事件
  2. 行政側の敗因について(し尿浄化槽清掃業不許可処分取消請求事件)
5.宮崎地方裁判所昭和56年(行ウ)第2号事件
  • これは宮崎市で発生した事件です。
    宮崎市では、昭和39年以来、し尿の収集、運搬は、株式会社宮崎衛生公社が、1社だけ、市から委託を受けてこれに従事し、し尿浄化槽の清掃とその清掃にかかる汚泥の収集、運搬は、株式会社宮崎環境開発センターが、これも1社だけ、市長の許可を受けてこれに従事してきました。
    そこへ、昭和55年12月16日、宮崎市郡浄化槽管理事業協同組合が、し尿とし尿浄化槽汚泥の収集、運搬を目的とした一般廃棄物処理業と、し尿浄化槽清掃業の許可申請をしたところ、翌56年9月17日付けで一般廃棄物処理業について不許可処分を受け、その2日後の同月19日付けでし尿浄化槽清掃業についても不許可処分を受けたため、双方の不許可処分の取消しを求めて提訴したものです。宮崎地方裁判所は、昭和61年3月31日、一般廃棄物処理業については原告の請求を棄却し、し尿浄化槽清掃業については不許可処分を取り消しました。
  • つまり、一般廃棄物処理業の不許可処分については行政側が勝訴し、し尿浄化槽清掃業の不許可処分については行政側が敗訴したわけですね。
  • そうです。
  • どちらか控訴しましたか。
  • いや、どちらも控訴しませんでした。
  • 宮崎市長は、どんな理由で不許可処分にしたのですか。
  • 宮崎市長は、一般廃棄物処理業の許可申請については、次の理由で不許可処分にしました。

    当市における一般廃棄物の収集、運搬又は処分については、現在市が委託している宮崎衛生公社及び許可業者である宮崎環境開発センター(し尿浄化槽清掃によって生じる汚泥)により、当市の定めた一般廃棄物処理計画にしたがい、し尿ならびに汚泥の収集、運搬又は処分を計画的、効率的に、かつ適正円滑に実施しております。
    よって、当市としては貴社(殿)に本許可を与える必要はありません。なお、仮に貴社(殿)に本許可を与えるときは、当市の行う一般廃棄物の収集、運搬又は処分の計画的、効率的な処理に重大な支障をきたすおそれがあります。
    よって、申請人の当申請は、許可しないこととします。

    し尿浄化槽清掃業については、次の理由で不許可処分にしました。

    一般廃棄物処理業の許可を受けていない者が、し尿浄化槽の清掃を行うためには、し尿浄化槽から引き抜かれた汚泥を、事実上自ら合法的に収集運搬及び処理をしなければなりません。しかるに、貴社(殿)は一般廃棄物処理業の許可を受けていないため、貴社(殿)に本許可を与えるときは、汚泥の不法な収集、運搬及び処理が行われることが明らかであります。このことは廃棄物の処理及び清掃に関する法律第9条第2項の規定に該当することとなります。
    よって、申請人の当申請は、許可しないこととします。

  • 一般廃棄物処理業の方は、その理由で不許可処分にしたことに違法はないと判断されたのですから、その不許可理由でよかったということになりましょうが、し尿浄化槽清掃業の方は、そんな理由で不許可処分にしたのは間違っていたということですか。
  • いや、し尿浄化槽清掃業を不許可処分にした理由は、適切だったとは云えませんが、間違っていたとは思われません。間違っていたのは、裁判で、不許可処分の適法性について主張した内容です。
  • 裁判で、どんな内容の主張をしたのですか。
  • 宮崎市長の訴訟代理人は、答弁書の冒頭で、次のように主張しました。

    市町村長が法7条および9条の各許可を与えるかどうかは、法の目的と当該市町村の一般廃棄物処理計画とに照らし、市町村がその責務である廃棄物処理の事務を円滑完全に遂行するのに必要適切であるかどうかという観点からこれを決すべきものであり、その意味において市町村長の自由裁量にゆだねられているところである。本件各不許可処分は、被告の正当な裁量に基づく処分であり、裁量権の範囲を越えたり、濫用にわたるものでもないから、何ら違法ではなく、取り消されるべき理由は存しない。

  • 一般廃棄物処理業の許可も、し尿浄化槽清掃業の許可も、どちらも市町村長の自由裁量にゆだねられているものだと主張したのですね。
  • そうです。これは、清掃法当時、神奈川県平塚市で発生した『し尿浄化槽清掃及び槽内汚物取扱業』の不許可処分取消請求事件で、最高裁判所が、

    清掃法15条1項が、特別清掃地域内においては、その地域の市町村長の許可を受けなければ、汚物の収集、運搬または処分を業として行ってはならないものと規定したのは、特別清掃地域内において汚物を一定の計画に従って収集、処分することは市町村の責務であるが、これをすべて市町村がみずから処理することは実際上できないため、前記許可を与えた汚物取扱業者をして右市町村の事務を代行させることにより、みずから処理したのと同様の効果を確保しようとしたものであると解せられる。かかる趣旨にかんがみれば、市町村長が前記許可を与えるかどうかは、清掃法の目的と当該市町村の清掃計画とに照らし、市町村がその責務である汚物処理の事務を円滑完全に遂行するのに必要適切であるかどうかという観点から、これを決すべきものであり、その意味において、市町村長の自由裁量に委ねられているものと解するのが相当である。

    と判示しているのに従ったものと思われますが、これが昭和53年8月10日、厚生省令第51号により廃棄物処理法施行規則第2条第2号が削除される以前、つまり、廃棄物処理法第9条第1項の規定により市町村長の許可を受けたし尿浄化槽の清掃を業とする者が、し尿浄化槽にかかる汚泥の収集、運搬又は処分を業として行う場合は、同法第7条第1項の規定による一般廃棄物処理業の許可を要しないとされていた当時であれば、この最高裁判所が示した判例は、ずばりそのまま適用されるべきものと主張してもよかったでしょう。
    ところが、宮崎市長が本件不許可処分を行ったのは昭和56年9月のことですから、法第9条の許可業者は、し尿浄化槽の管理者に代わって、槽内に生じた汚泥等の引き出し、その引き出し後の槽内の汚泥等の調整や、これらに伴う単位装置、附属機器類の洗浄、掃除などを行うだけで、市町村の責務であるし尿浄化槽にかかる汚泥の収集、運搬を、市町村に代わって行うのは法第7条の許可業者の領域となっていたのですから、その最高裁判所の判例を引用しての主張は適切なものではなかったわけです。
  • なるほど。
  • 宮崎市長の訴訟代理人は、一般廃棄物処理業の不許可処分の適法性と、し尿浄化槽清掃業の不許可処分の適法性について、次のように主張しました。

    宮崎市における一般廃棄物の収集、運搬又は処分については、現在市が委託している宮崎衛生公社及び許可業者である宮崎環境開発センター(し尿浄化槽によって生じる汚泥)により、当市の定めた一般廃棄物処理計画にしたがい、し尿並びに汚泥の収集、運搬又は処分を計画的、効率的に、かつ、適正円滑に実施しているので、原告に法7条の許可を与えるときは、宮崎市の行う一般廃棄物の収集、運搬又は処分の計画的、効率的な処理に重大な支障を来たすおそれがあるから、本件許可申請は法7条2項2号に基づき許可しないこととしたのである。
    また、原告に対し、法7条の許可をしないこととなった以上、原告がし尿浄化槽の清掃を行うためには、し尿浄化槽から引き抜かれた汚泥を事実上自ら合法的に収集、運搬および処分をすることができないので、その引き抜かれた汚泥を清掃した場所に漫然と放置する結果となり、そのことは直ちに法9条2項2号の準用による法7条2項4号ハに該当することとなるので、法9条2項に基づいて不許可処分としたものである。法9条の不許可処分をするにあたり、原告が引き抜いた汚泥を具体的にどのような方策で処理しようとしているか等については原告を調査していない。原告の申請が法9条2項1号の技術上の基準に適合していることについては、これを認める。

  • 一般廃棄物処理業の許可も、し尿浄化槽清掃業の許可も、どちらも市町村長の自由裁量にゆだねられており、本件不許可処分は正当な裁量に基づくもので取り消される理由はないと云われて、原告が黙っている筈はありませんね。
  • もちろん、原告の方で、被告の主張はもっともですと云う筈はありません。
    「法7条、9条のいずれの許可も、許可基準に適合する限り、裁量の余地のない覊束裁量処分である。法7条2項1、2号の要件については裁量の余地があるところから、同条の許可が自由裁量処分であると解されるとしても、被告の不許可処分は、既存業者の保護育成のみを考慮したもので、裁量権の濫用である。原告の法9条の申請は、同条2項1号の技術上の基準に適合し、同項2号の欠格事由もない。」
    と反論しました。
  • 判決が出たのは、いつですか。
  • 昭和61年3月31日です。審理に4年半ばかりかかったことになります。
  • 裁判所は、どんな理由で、一般廃棄物処理業の不許可処分は適法で、し尿浄化槽清掃業の不許可処分は違法だと判決したのですか。
  • 宮崎地方裁判所は、判決の理由について、次のように述べています。
    1. 法7条、9条の各許可の性質 法7条と9条の各許可基準についてみると、まず法9条のし尿浄化槽清掃業については、同条2項1号が客観的な技術上の基準に適合すること、同項2号が欠格事由に該当しないことを規定しているのみであるのに対し、法7条の一般廃棄物処理業については、同条2項3、4号が右法9条と同趣旨を規定しているほか、さらに法7条2項1号が当該市町村による処理の困難性、同項2号が当該市町村の定めた処理計画との適合性をそれぞれ規定しているという違いがある。これは、一般廃棄物の収集、運搬、処分が、本来市町村の固有の事務であると解される(地方自治法2条9項、同法別表第2・2・(11))ところから、市町村は、その定めた法6条1項の計画に従ってその区域内における一般廃棄物を処理しなければならないものの、これをすべて市町村自らが直接あるいは委託により行うことが実際上できない場合もあるので、このような場合に一般廃棄物処理業者をして処理させることとし、その業者は市町村固有の事務を代行するものとして規制されるべきものである。したがって、市町村長は、その営業の許可に関し、市町村の定めた一般廃棄物処理計画に従い、法の目的に照らし、当該市町村の実情をふまえた自律的、専門技術的政策判断の尊重される広範な裁量権を有するものと解される。
      これに対し、し尿浄化槽清掃業者は、本来それ自体で処理される機能をもつ浄化槽の内部の清掃等の維持管理にあることから、法はこれを市町村の本来の固有事務とすることなく、ただ専門的知識、経験をもち、必要な器材等を有する者によって適正に維持管理がされないと、市町村の生活環境の保全、公衆衛生に大きな影響を及ぼすおそれがあるため、一定の許可基準に達した者に限ってこれを許可するものとしたと解される。
      ところで、被告は、法9条には法7条2項2号のような規定がないものの、法9条の許可申請に対する審査には法7条2項2号と同様の内容の審査が前提となっており、そのことは昭和53年・厚生省令51号による廃棄物処理法施行規則の改正の経緯からも明らかである旨主張する。しかし、証拠≪略≫によれば、右改正の理由は、し尿浄化槽清掃業の実態は、地域によっては、し尿浄化槽の清掃によって生ずる汚泥の量が単に付随的なものとみられる程度に止まらず、汲取りし尿量と同程度にもなるところが生じ、右汚泥の処理につき一般廃棄物の処理計画との整合を図る必要が生じたためであることが明らかである。しからば、右改正後は、法9条の許可業者であっても、し尿浄化槽の清掃によって生じた汚泥を収集、運搬、処分するには、更に法7条の許可を要することになり、一般廃棄物の処理計画との整合性は法7条の許可の際に考慮されるのであるから、法9条の許可に際して右処理計画との整合性を考慮する必要性はさらに少なくなったものとみることができ、これは、通常し尿浄化槽の清掃業務の主体が清掃そのものにあるのか、あるいは清掃によって生じた汚泥の収集、運搬、処分にあるのかとか、汚泥の量の多寡等にかかわりなく、そのように解されるのであり、このことは、むしろ法9条の許可申請に対する審査にあたっては、法7条2項2号と同様の内容について審査することを前提とはしていないことを裏づけるものであると解される。
      以上によると、法7条、9条のいずれの場合も、許可の要件を充足している限り、必ず許可しなければならないものではあるが、法7条の場合は、同条2項1、2号に相当幅の広い要件を定めており、これに該当するか否かの判断について前述のような広範な裁量権が認められるから、その限りで同条の許可は自由裁量行為であると解すべきである。
      これに対し、法9条の場合は、法7条2項1、2号のような規定がなく、主として技術的観点からの要件を定めるにとどまるものであるから、同条の許可は覊束裁量行為であるといわざるを得ない。
    2. 法7条の不許可処分の適法性について
      1. 証拠≪略≫によれば、宮崎市におけるし尿汲取り人口は、昭和56年度が12万3,390であって、同65年度になると10万3,680程度に減少すると推計されること、これに対して、昭和56年度におけるし尿汲取り全量は7万7,817キロリットルの実績に対し、同65年度もほぼ同様であるが、その間の推移はU字型をたどるものと推計されること、浄化槽の設置基数の推移は、昭和56年度の実績が2万0500であるのに対し、同65年度は1万9,500程度と推計されること、また公共下水道対象人口の昭和56年度実績は2万7,400であるのに対し、同65年度は10万3,000と推計されることが認められ、これによれば、し尿汲取り人口が今後急速に減少する一方、浄化槽基数がやや上昇し、浄化槽対象人口も昭和59年頃をピークとして同65年には同56年度の実績を下回るものとなり、それは公共下水道対象人口の急速な上昇に伴う結果とみられる。
      2. ところで、証拠≪略≫によれば、宮崎市においては、昭和39年ころまでは法7条の業務を3業者が行っており、いずれも法9条の業務を併有していたが、それぞれの競争激化に伴い、種々の弊害が生じ、一方、公共下水道事業の進展によって業者乱立による共倒れも予測されたこと、宮崎市は、右3業者に行政指導を加えることとし、同3業者も昭和39年10月、それぞれ解散手続きをとると同時に、各業者が出資した株式会社宮崎衛生公社を設立し(企業合同)、その出資者の一員として宮崎市も参画した。
        法7条業務については、直ちに右宮崎衛生公社に許可を与え、当該業務を遂行させ、昭和43年頃より同業務を委託業務に切り替え、その後の前記施行規則改正後、すでに法9条の許可を受けていた宮崎環境開発センターに法7条の許可を与えたこと、そして、右衛生公社に対しては、資本参加をすることによって十分な行政指導ができるようにし、また、環境開発センターに対しては、これを1社に絞ることによって前述のごとき業務遂行上の不都合が出ないよう行政指導の徹底が図られることとし、宮崎市が右衛生公社ならびに環境開発センターと密接な連携をとりながら、汲取りし尿及び浄化槽の汚泥を、宮崎市のし尿処理施設である市衛生処理センター(昭和56年末現在処理能力1日400キロリットル)において、処理をしていることの各事実が認められる。
      3. 右(一)、(二)の事実にかんがみると、被告が前に述べた理由をもって原告の法7条許可申請に対し不許可処分をしたことは一応首肯することができ、この裁量権の行使に特に濫用があるものとされる事情、とくに原告主張のように、既存業者の保護、育成のみを考慮して原告の申請を不許可にしたとの事情も認めることはできない。
    3. 法9条の不許可処分の適法性について し尿浄化槽清掃業の許可は、前記1のとおり、覊束裁量行為と解すべきであるから、原告が法9条2項の各要件を充足する限り、被告は必ず許可を与えなければならない。被告は、法7条の許可を受けていない原告がし尿浄化槽の清掃を行うためには、し尿浄化槽から引き抜かれた汚泥を事実上自ら合法的に収集、運搬および処分をすることができないので、その引き抜かれた汚泥を、清掃した場所に漫然と放置する結果となり、そのことは直ちに法9条2項2号の準用による法7条2項4号ハに該当することになるので、不許可処分にしたと主張し、この点を除く他の要件が欠けるとの主張もないうえ、これを認めうる証拠もない。(技術上の基準に適合していることについては被告も認めるところである。)
      しかしながら、し尿浄化槽から引き抜いた汚泥を自ら収集、運搬、処分することができないからといって、直ちにこれを放置するものとはいえず、他の法7条許可業者に委託する等の措置による解決も当然考えうるところ、本件全証拠によるも、本件処分の前後を通じ、被告が原告に対し、し尿浄化槽の清掃から生ずる汚泥の処理方法につき適切な方策を有するか否かを尋ねる等法9条2項2号(7条2項4号ハ)の要件審査をした形跡は全くうかがえず、原告代表者本人尋問の結果からすると、原告においては、右汚泥の収集、運搬、処分を他の法7条の許可業者に委託する方策を採ることも充分予測されるのであって、これらのことからも、原告には右法7条2項4号ハに該当する事由があるとの被告の主張は理由がないことが明らかである。してみると、本件法9条の不許可処分は、同条に反した違法な処分といわざるをえない。
      以上によれば、原告の被告に対する各請求は、し尿浄化槽清掃業不許可処分の取消しを求める限度において理由があるから、これを認容し、その余は失当であるから棄却することとし、主文のとおり判決する。
行政側の敗因について(し尿浄化槽清掃業不許可処分取消請求事件)
  • この裁判で、一般廃棄物処理業の不許可処分については、行政側の主張が採用されたのですから、あれでよかったのでしょうが、し尿浄化槽清掃業の不許可処分については、行政側の主張が採用されなかったのですから、あれではいけなかったわけですね。
  • そういうことになりますね。
  • それでは、し尿浄化槽清掃業の不許可処分についての行政側の主張のどこがいけなかったのか、指摘してくれませんか。
  • 先ず、許可申請に対する行政側の対応に問題があります。
    宮崎市郡浄化槽管理事業協同組合が一般廃棄物処理業とし尿浄化槽清掃業の許可申請をしたのは昭和55年12月16日です。宮崎市長が一般廃棄物処理業の申請を不許可処分にしたのが翌56年9月17日、し尿浄化槽清掃業の申請を不許可処分にしたのが同月19日のことですから、申請を受けて処分を決めるまでに満9か月の時間をかけています。し尿浄化槽清掃業の方にしても時間をかけすぎているようですが、一般廃棄物処理業の方はもっと早く処分を決定すべきでした。申請者の側では、許可してもらいたい一心からではありましょうが、よくぞ辛抱したものです。
  • 申請者の方では、辛抱するほかないのではありませんか。
  • そんなことはありません。行政庁が法令に基づく申請に対して、相当の期間内になんらかの処分又は裁決をすべきであるのに、これをしないときは、『不作為の違法確認の訴え』を提起することができることになっています。
    し尿や浄化槽汚泥の収集、運搬を目的とする一般廃棄物処理業の許可については、廃棄物処理法第7条第2項第1号の規定で、市町村長は、「当該市町村による一般廃棄物の収集、運搬及び処分が困難であると認めるときでなければ許可をしてはならない」と定め、第2号の規定で、市町村長は、「その申請の内容が法第6条第1項の規定により定められた計画に適合するものであると認めるときでなければ許可をしてはならない」と定めており、厚生省では、この規定について、水道環境部編集の≪廃棄物処理法の解説≫で、「市町村の行う廃棄物の処理業務及びすでに許可した一般廃棄物処理の処理業務との調整ができた場合」でなければ許可してはならないものだと解説しています。
    宮崎市では、裁判所が判決理由の中で認定しているように、昭和39年ころまでは、し尿及びし尿浄化槽汚泥の処理業務を3業社が行っていたのですが、業者間の競争が激化して種々の弊害が生じ、公共下水道事業の進展によって業者の乱立による共倒れも予測されたため、市が行政指導を行って、3業者の企業合同をはかり、市も出資して宮崎衛生公社を設立させ、し尿の処理業務に当たらせることとし、し尿浄化槽汚泥の処理業務については宮崎環境開発センター1社に許可を与えて、以前のように業者の乱立、競合による業務遂行上の不都合が出ないように行政指導の徹底が図られることとし、市当局は宮崎衛生公社および宮崎環境開発センターと密接な連携をとりながら、汲取りし尿とし尿浄化槽汚泥を宮崎市のし尿処理施設で計画的に処理していたのですから、宮崎市郡浄化槽管理事業協同組合から出された許可申請が、法第7条第2項第1号及び第2号に適合しないものであると判断するのに、手間どるところはなかった筈です。一般廃棄物処理業の許可申請とし尿浄化槽清掃業の許可申請がいっしょに出されたからといって、いっしょに処分しなければならないというわけのものではありませんから、一般廃棄物処理業の方は、もっと早く処分すべきでした。
  • そうですね。一般廃棄物処理業については汲取り便所のし尿の収集、運搬だけを目的とするものでも、浄化槽汚泥の収集、運搬だけを目的とするものでも、その申請が廃棄物処理法第7条第2項第1号もしくは第2号のいずれかに適合していないと認めるときは、第3号や第4号に適合しているかどうかを調べるまでもなく、許可をしてはならないものと法定されているのですから、判断するのに、たいした時間はかからないわけですね。
  • ところが、し尿浄化槽清掃業については、廃棄物処理法第7条第2項第1号や第2号に該当する規定がないので、そう簡単にはまいりません。申請が法第9条第2項第1号と第2号に適合していると認めることができるかどうかを調べねばなりませんが、それには、やはり、ある程度の時間は必要です。先ず、その事業の用に供する施設や申請者の能力が、厚生省令で定める技術上の基準に適合するものであるかどうかを調べねばなりません。
    法第9条第2項第1号の規定による厚生省令で定める技術上の基準に適合する施設及び能力については、法施行規則第6条で定められていましたが、その第1号から第3号までに定める器具については調べるのに時間はかかりませんが、第4号の『し尿浄化槽の機能点検及び清掃に関する専門的知識、技能及び相当の経験』の有無については、調べるのに時間がかかります。
    昭和46年10月16日付け環整第43号、『廃棄物の処理及び清掃に関する法律の施行について』と題する厚生省環境衛生局長から各都道府県知事・各政令市市長宛の通知で、「規則第6条第4号に定める専門的知識、技能及び相当の経験を有する者は、厚生大臣の認定する講習会の課程を終了した者であって相当の経験を有する者とすること」と指示していて、その講習会は、財団法人日本環境整備教育センターが厚生大臣から指定されて行ってきたことは、ご承知のとおりです。
    ところで、その講習会の受講資格者はし尿浄化槽の清掃について相当の実務経験がなければならないことになっていますが、教育センターの講習会の受講資格がないのに、受講申込み関係書類のうち身上調書に虚偽の記載をし、相当の実務経験があるようによそおって講習会を受講し、終了証書を取得しているケースがあります。現に、宮崎県の隣りの大分県臼杵市で発生したし尿浄化槽清掃業不許可処分取消請求事件で、行政側は、裁判で、原告が相当の経験といえるほどの浄化槽清掃の実務に携わった事実がないことを立証し、大分地方裁判所は、昭和58年11月21日、「原告はし尿浄化槽清掃について相当の経験はなく、法9条2項1号に適合しないものと言うべきであるから、不許可処分は適法である」として、原告の請求を棄却しています。
  • なるほど、財団法人日本環境整備教育センターが発行した清掃に関する講習会の修了証書だけでは、申請者が規則第6条第4号に適合しているかどうかを判断することはできないわけですね。
  • 教育センターには、受講申込者の身上調書に虚偽の記載があるかどうかを、いちいち調査することまでは求められていませんので、講習会の課程を修了した者が、本当に浄化槽清掃に従事した実務経験を積んでいたかどうかについて教育センターに照会しても、真相はわかりません。しかし、教育センターには、清掃コースの講習会の課程を修了した者の名簿が都道府県別に整理されていますから、それを見れば、その人が実務経験を積んだという会社名がわかります。その会社について、その人が在籍した事実があったかどうかを証拠に基づいて調べれば、真相がわかります。
  • この事件では、宮崎市長の訴訟代理人が、「原告の申請が法9条2項1号の技術上の基準に適合していることについては、これを認める」と言っていますので、その調査はしたのでしょうね。
  • そうでしょうね。いま紹介しました臼杵市の事件で、大分地方裁判所は、判決理由の中で、「相当の経験とは、自ら浄化槽清掃業を営み、あるいは清掃業者の従業員として、し尿浄化槽清掃について相当の実務経験を持つことをいうものと解され、この点を法人の申請において判断するときは、当該法人の代表者等の者であって、申請に際し規則6条4号に定める専門的知識技能者とされている者について判断すべきである。」と判示していますが、本件の申請者は事業協同組合ですから、おそらく事業協同組合の役員の中に、浄化槽清掃についての相当の経験をもつ者がいたのでしょうね。行政側としては、申請者が法第9条第2項第1号に適合していることを確認したら、次に、申請者が法第7条第2項第4号イからハまでのいずれにも該当しないかどうかを調べるべきでした。
    法第7条第2項第4号イとロの規定は、申請者が、廃棄物処理法または廃棄物処理法に基づく処分に違反して罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者や、一般廃棄物処理業かし尿浄化槽清掃業または産業廃棄物処理業の許可を取り消され、その取り消しの日から2年を経過しない者については許可をしてはならないというものですから、宮崎市郡浄化槽管理事業協同組合の役員の中に、廃棄物処理法に定める罰金以上の刑に処せられたり、許可を取り消されたりしたことのある者が居なければ、問題はないわけです。しかし、ハの規定は、「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」には許可を与えてはならないというもので、このハの規定に該当するかどうかの判断をするには、それなりの手順をふむ必要があります。
  • どんな手順をふめばよいのですか。
  • 行政側は、宮崎市郡浄化槽管理事業協同組合に対して一般廃棄物処理業の許可をしないことにしたのですから、し尿浄化槽の清掃に当たって槽内から引き抜く汚泥の処理をどうするつもりか、その汚泥処理計画書を提出させ、汚泥の処理について不正又は不誠実な行為をするおそれがあるかどうかを調べるべきでした。既存の許可業者に収集、運搬を依頼する計画だというのであれば、宮崎市でし尿浄化槽にかかる汚泥の収集運搬業の許可を受けている唯一の業者である宮崎環境開発センターが、汚泥の収集、運搬を確実に引き受けることができるかどうかについて調べる必要がありました。
    また、市のし尿処理施設の責任者について、浄化槽汚泥の処分の実態を調査する必要もありました。そうした調査を行っておれば、宮崎市のし尿処理施設は、1日の処理能力が400キロリットルであり、し尿浄化槽汚泥は1日にせいぜい120キロリットル程度しか投入できないため、宮崎環境開発センターでは、市が定めた処理計画に従い、投入制限の枠を守りながら操業を続けていて、新規に許可を受ける者からの依頼があっても応じられる状態ではなかったことや、下水道対象人口の急速な上昇に伴って、し尿及びし尿浄化槽汚泥の量が将来に向って減少することが予測されるところから、し尿処理施設の増設計画もない状態の中で、新規にし尿浄化槽清掃業の許可を得る業者が居たとしても、その業者がし尿浄化槽の清掃の際に槽内から引き抜く汚泥については、投入を受け容れられない実情であったことが判明したに違いありません。
  • そうすれば、そのことを裁判で証明すればよかったわけですね。
  • そうです。ところが、宮崎市長の訴訟代理人は、「法9条の許可をするには当然なことながら法6条はもとより、法7条にいう『一般廃棄物の処理について、一定の計画に適合するものであること』を前提にしなければならない」ものであり、「法9条についても、法7条の場合と同様、その許可、不許可がいわゆる自由裁量処分であることは明らかである」として、「原告に対し、法7条の許可をしないこととなった以上、原告がし尿浄化槽の清掃を行うためには、し尿浄化槽から引き抜かれた汚泥を、事実上、自ら合法的に収集、運搬および処分をすることができないので、その引き抜かれた汚泥を清掃した場所に漫然と放置する結果となり、そのことは直ちに法9条2項2号の準用による法7条2項4号ハに該当することになるので、不許可処分としたものである」と主張し、「法9条の不許可処分をするにあたり、原告が引き抜いた汚泥を具体的にどのような方策で処理しようとしているか等については原告を調査していない」と、あっさり白状しています。これでは、まるで敵前に白旗を掲げるようなもので、敗訴したのも当然だと云わねばなりますまい。
  • この事件で、裁判所は、宮崎市では3業者の競争激化に伴って種々の弊害を生じたので、業者を1社に絞ることによって業務遂行上の不都合が出ないように、つまり、その業務に関し不正又は不誠実な行為をしないように、行政指導の徹底が図られたことを認めていながら、そうしたいきさつがあって業者を1社に絞っている宮崎市で発生した事件であるのに、原告代表者本人の尋問はしているものの、浄化槽汚泥の収集運搬を行うことができる唯一の許可業者である宮崎環境開発センターが、原告からの依頼に応じて汚泥の収集、運搬を引き受けられる状態であったかどうかについては、証拠調べもしないで、「原告においては、汚泥の収集、運搬を他の法7条の許可業者に委託する方策を採ることも充分予測されるのであって、原告には法7条2項4号ハに該当する事由があるとの被告の主張は理由がないことが明らかだ」と断定していますが、これでは、十分に審理を尽くしたとは云えないのではないでしょうか。
  • そうですね。行政側が調査すべきことを調査した上で不許可処分とし、裁判では、独自の見解を述べたりしないで、法令に基づいて処分したものであることを証明しておれば、敗訴することはなかったでしょうね。