清研時報

1990年3月号

浄化槽清掃業の許可処分を誤らないために訴訟事件の記録に学ぶ(8)
行政側が勝訴した事例
  1. 1.大分地方裁判所昭和56年(行ウ)第2号事件
  2. 不許可理由は、簡明、適切に無用の論争を招かないための配慮が大切
  3. 不許可処分を適法と認めた判決理由
  4. この裁判が教えるもの
1.大分地方裁判所昭和56年(行ウ)第2号事件
  • この事件は、まだ浄化槽法が施行される前の事件で、本誌の1984年4月号でも取り上げてもらいましたが、現在の浄化槽法のもとでも、市町村の担当者にとっては恰好の参考資料になるものと考えられますので、このシリーズでも、改めて紹介してもらうことにしましょう。
  • そうですね。この事件が発生した当時は、し尿浄化槽清掃業については廃棄物処理法第9条に規定されていましたが、事件が発生したのが昭和56年で、し尿浄化槽清掃業の許可の基準を定めた廃棄物処理法第9条第2項が改められて、第1号と第2号が設けられていましたし、また、し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥を収集し、運搬するには、廃棄物処理法第7条第1項の許可を必要とするようになっていましたから、現在の浄化槽法のもとでも大いに参考になることは確かです。
    訴訟記録の中で、廃棄物処理法第9条第1項とあるのは浄化槽法第35条と読み替え、廃棄物処理法第9条第2項とあるのは浄化槽法第36条と読み替え、廃棄物処理法施行規則第6条第4号とあるのは厚生省関係浄化槽法施行規則第11条第4号と読み替え、昭和46年10月16日環整43号厚生省環境衛生局長通知とあるのは昭和60年9月27日衛環137号厚生省生活衛生局水道環境部長通知と読み替えれば、浄化槽法のもとでもそのまま通用しますよ。
不許可理由は、簡明、適切に無用の論争を招かないための配慮が大切
  • 事件が発生したのは、大分県の臼杵市でしたね。
  • そうです。臼杵市内で、金物小売業や水道工事業のほかコクサイ式浄化槽の販売、施工をしていた(有)丸三清掃開発(代表者代表取締役野上亨)が、昭和55年3月7日、し尿浄化槽清掃業を行うため、臼杵市長に対して廃棄物処理法第9条第1項に基づく許可申請をしたところ、臼杵市長は同年9月25日、
    1. 浄化槽清掃については現在の許可台数で充足している。
    2. 市公共下水道が昭和58年度に一部供用開始する。
    という理由で不許可処分にしました。そこで、(有)丸三清掃開発では、同年10月23日、臼杵市長に対して異議申し立てをしたのですが、翌56年2月27日、異議申し立てを棄却されたので、不許可処分の取り消しを求めて提訴するに至ったわけです。
  • 念のためにお尋ねしますが、臼杵市長が示した不許可の理由は、必ずしも適切だったとは云えないのではありませんか。
  • そうですね。裁判で主張したように、「申請者は、法第9条第2項第1号及び第2号に適合しないため、許可することができない。」として、その根拠を申請者が納得するように説明してやっておれば、裁判沙汰にまで発展するようなことはなかったかもしれません。しかし、その当時は、適当な判例もありませんでしたから、市の担当者に、そこまで求めることは無理だったでしょう。
  • (有)丸三清掃開発では、裁判で、どんな主張をしたのですか。
  • 請求の原因について、
    「廃棄物処理法第9条第1項の許可は、いわゆる覊束行為であるから、市町村は、申請が同条第2項各号の要件に適合する場合は許可を与えなければならない。原告の申請は、右要件に適合するものであるにもかかわらず、前記理由に基づいてなされた本件不許可処分は違法である。よって、原告は本件不許可処分の取り消しを求める。」
    と主張しました。
  • 廃棄物処理法第9条第1項の許可は覊束裁量であるから、申請が同条第2項各号の要件に適合する場合は、市町村長は必ず許可を与えなければならないというのは、新規に許可申請をする者が必ず口にする極まり文句ですからね。
  • 前号までに紹介しましたいくつかの事例では、行政側の訴訟代理人が、法第9条第1項の許可は覊束裁量ではなくて自由裁量だと主張して、結局は敗訴しましたが、臼杵市長の訴訟代理人は、無用の論争を招くような愚は避けて、覊束行為だという主張については、柳に風と受け流し、申請者が法第9条第2項第1号及び第2号の要件に適合していないから不許可処分にしたのだと主張しました。
    そこで、裁判所は、申請者が法第9条第2項に定める許可の要件に適合していたかどうかを検討して結論を出すことになったわけです。市町村の担当者は、ここのところを参考にしたらよいでしょう。
    臼杵市長の訴訟代理人は、次のように主張しました。

    市町村長が法9条1項の許可をするには、当該申請が同条2項各号に適合していると認めるときでなければならない。被告は、原告の本件許可申請が、次に述べるとおり、法9条2項各号に適合しないため、右申請を却下したものであり、本件処分は適法である。

    1. 法9条2項1号不適合
      法9条2項1号は、申請者の能力が厚生省令に定める技術上の基準に適合するものであることを要件としている。そして、右能力は、厚生省令(廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則・以下『規則』という。)6条4号により、『し尿浄化槽の機能点検及び清掃に関する専門的知識、技能及び相当の経験』と定められ、『廃棄物の処理及び清掃に関する法律の施行について』と題する通知(昭和46年10月16日、環整43、厚生省環境衛生局長から各都道府県知事・各政令市市長宛)第二の2によれば、『厚生大臣の認定する講習会の課程を終了したものであって、相当の経験を有する者とすること』とされている。
      右講習会は、財団法人日本環境整備教育センター(以下『教育センター』という。)が講習会を行う唯一の団体として厚生大臣から指定されて行っているが、右講習会の受講資格者は相当の実務経験を要し、受講の申込関係書類に虚偽の申告をした場合は、資格喪失することもあるとされている。然るに、
      1. 原告は、規則6条4号に定める専門的知識技能者を代表取締役である野上亨として、本件申請を行った。ところが、野上亨は相当の実務経験がなく、そのため教育センターの講習会の受講資格がないのに、受講申込関係書類のうち身上調書に虚偽の記載をなし、相当の実務経験があるように装って右講習会を受講し、修了証書を取得したものである。
      2. また、野上亨が代表取締役をしている株式会社丸菱が、以前9条の許可申請をした際、専門的知識技能者とされた同人の実子野上泰祐(株式会社丸菱及び原告の各取締役)が、教育センターの受講申し込みに際し、被告の発行する証明書2通を偽造行使した事実もある。以上の事実から、被告は、原告が法9条2項1号に適合しないと判断したものである。
    2. 法9条2項2号不適合(7条2項4号ハ該当)
      法9条2項2号は、申請者が法7条2項4号イからハまでのいずれにも該当しないことを要件としているところ、法7条2項4号ハは、『その業務に関し不正または不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者』と規定している。被告は、以下の理由により、原告が右7条2項4号ハに該当すると判断したものである。すなわち、
      1. 臼杵市は、市民の生活環境の保全をするため、し尿の処理計画を実施しており、右計画に基づく現存し尿浄化処理場の処理能力は、1日50キロリットルで、十分に臼杵市民の衛生環境を守る役目を果している。現在の処理量は、し尿と浄化槽汚泥を合わせて1日45ないし48キロリットルであるが、夾雑物の混入が甚だしいため、処理工程での処理能力の限界が来ている。したがって、これ以上業者がふえても、それに応ずる市営浄化処理場の処理能力はない。
        他方、臼杵市は、下水道事業計画により、昭和58年8月1日から公共下水道の操業を順次開始するため、下水道事業に着工しており、このため、昭和58年度からし尿浄化槽の清掃が逐次減少することは明らかである。
      2. 浄化槽の清掃は、浄化槽の汚泥を引き抜かなければ行えないものであるが、浄化槽から引き抜かれた汚泥は、市町村がその処理について責務を負わされている一般廃棄物であり、臼杵市は、処理施設の処理能力と、区域内の汲取り便所から汲み取るふん尿の量及び浄化槽から引き抜く汚泥の量とを勘案して、右廃棄物の処理計画を定めている。前記のとおり、処理施設に余分の処理能力がない現状では、既存の許可業者で十分であり、仮に新たな業者に許可を与えると、処理施設の能力を超過する汚泥の処理に窮し、不法投棄等の不正又は不誠実な行為をされるおそれが生ずる。
        また、清掃業者が引き抜いた汚泥を運搬、処分するには、法7条の一般廃棄物処理業の許可を取得しなければならないが、右許可は市町村長の自由裁量行為であり、臼杵市においては、一般廃棄物の処理計画、処理施設の処理能力及び下水道事業計画の現状から、被告が許可処分をすることはあり得ない。したがって、法9条の許可のみを得た清掃業者において、法を無視して、許可のないまま汚泥の運搬、処分を行うおそれがある。
      3. 以上の事実及び原告代表取締役の野上亨及び取締役野上泰祐の前記不正行為を併せ考えると、原告がその業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある。
    これが、被告、つまり行政側の主張でした。
  • なるほど、浄化槽汚泥の収集、運搬をするために必要な一般廃棄物処理業の許可については、市町村長の自由裁量行為であると主張していますが、し尿浄化槽清掃業の許可については、市町村長に裁量の余地があるなどとは主張していませんね。
  • そうです。臼杵市長の訴訟代理人は、申請者が法律で定める許可の要件に適合していない点にマトをしぼるべきだと判断したようです。市町村長は、許可の申請が廃棄物処理法第9条第2項第1号及び第2号に適合していると認めるときでなければ、し尿浄化槽清掃業の許可をしてはならない、という規定がありますからね。
  • そうですね。
  • 申請者が法第9条第2項第1号に定める許可の技術上の基準に適合していないため、不許可処分にしたのだということであれば、裁判所は、その事業の用に供する施設及び申請者の能力が、廃棄物処理法施行規則第6条に定める『し尿浄化槽清掃業の許可の技術上の基準』に適合しないものであるかどうかについて審理することになります。そして、例えば、申請者が、し尿浄化槽の清掃について相当の実務経験がないなど、許可の技術上の基準に適合していないことが立証されれば、不許可処分をしたことに違法はないわけですから、請求は棄却されることになります。
    また、申請者が法第9条第2項第2号に規定する欠格要件のうち、『その業務に関し不正または不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者』に該当するため、不許可処分にしたのだというのであれば、裁判所は、市町村長がそのように判断するに至った推理の過程において不合理がなかったかどうかを審理することになります。そして、申請者が、し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥をその場に放置したり又は無許可でこれを収集、運搬、処分するおそれがあると判断したことに不合理が認められないかぎり、不許可処分を取り消されることはありません。
不許可処分を適法と認めた判決理由
  • この裁判で、臼杵市長の訴訟代理人が行った主張は、適切なものだったということですね。
  • そのとおりです。し尿浄化槽の清掃は市町村の固有事務の代行であるなどというような認識不足の誤った主張をしたり、し尿浄化槽清掃業の許可は覊束裁量ではないなどと論争を挑(いど)むようなことはしていません。その主張は適切なものだったといえましょう。ですから、約2年半というこの種の事件としては比較的に短い期間で審理を終わり、臼杵市長が行った不許可処分に違法はないとして、原告の請求は棄却されました。
    裁判所は、判決理由を、次のように述べています。

    被告は、本件不許可処分の理由として、原告の申請が法9条2項1号の要件に適合しない旨主張するので、まず、右主張につき検討する。

    1. 法9条2項は、し尿浄化槽清掃業許可申請が、同項各号の要件に適合していると認めるときでなければ、市町村長は許可を与えてはならない旨規定し、同項1号は、右要件の1つとして、『その事業の用に供する施設及び申請者の能力が、厚生省令で定める技術上の基準に適合するものであること』を挙げている。そして、規則(昭和46年、厚生省令35号)6条4号は、申請者の能力に関する技術上の基準として、『し尿浄化槽の機能点検及び清掃に関する専門的知識、技能及び相当の経験』と定めているところ、成立に争いのない乙第24号証の3によれば、『廃棄物の処理及び清掃に関する法律の施行について』と題する通知(昭和46年10月16日、環整第43号、厚生省環境衛生局長から各都道府県知事・各政令市市長あて)によれば、規則6条4号の運用について、同号に定める『専門的知識、技能及び相当の経験』を有する者は、厚生大臣の認定する講習会の課程を終了した者であって相当の経験を有する者又はこれと同等以上の能力を有する者とする旨通知していることが認められる。
      これらの法令、通知等によれば、結局、申請者が、法9条2項1号の要件に適合し、規則6条4号の要件を具備するための基準としては、厚生大臣認定の講習会を修了する等により専門的知識、技能を修得し、かつ、し尿浄化槽清掃業に従事することにより相当の経験を経ていなければならないと解される。そして、右『相当の経験』とは、自ら浄化槽清掃業を営み、あるいは清掃業者の従業員として、し尿浄化槽清掃について相当の実務経験を持つことをいうものと解され、この点を法人の申請において判断するときは、当該法人の代表者等の者であって、申請に際し規則6条4号に定める専門的知識技能者とされている者について判断すべきである。
    2. 原告が、代表取締役野上亨を規則6条4号に定める専門的知識技能者として本件申請をしたこと、野上亨が厚生大臣認定の講習会を行う唯一の団体である前記教育センターの講習会の課程を修了したことは、当事者間に争いがない。
    3. そこで、野上亨がし尿浄化槽清掃について、相当の経験を有するか否かにつき、検討すべきことになる。
      1. 原告代表者野上亨は、代表者尋問において、昭和30年4月から同40年3月まで、及び昭和51年3月から前記講習会受講時(昭和55年1月)までの間、月のうち半分は中津市に滞在し、同市所在の中津衛生企業組合、及びその前身の株式会社松山商会において、し尿浄化槽清掃の実際業務に従事した旨供述し、原本の存在及び成立に争いのない乙第7号証は、野上亨が同講習会受講申込の際提出した身上調書であるが、これには、右供述に副う同人の職歴、及び同商会等においては同人が現場主任、浄化槽清掃主任、運転士、衛生指導主任等の業務を担当していた旨の記載があり、中津衛生企業組合の理事長松山正夫名義で、野上亨が同組合に勤務している旨の証明がなされている。
      2. しかしながら、他方、同じく野上亨の代表尋問の結果によれば、浄化槽清掃の業務に従事していたとする前記期間において、当時48才を超えていた同人は、臼杵市で昭和22年から開業の金物小売業を営むと同時に、昭和27年開業の水道工事も兼業し、自らその設計、施工等全て1人で行い、昭和30年ころからはその請負量も増加をたどったし、その上さらに販売権を有していたコクサイ式浄化槽のセールス販売・施工のため、大分県内各地を東奔西走していたこと、いずれの営業も順調であったことが認められ、極めて多忙であったことが窺われるところ、このような時期にわざわざ臼杵市から110キロメートルも遠く離れた中津市で、前記営業と両立させつつ、しかも、月の内半分は同市に滞在し、一従業員として浄化槽清掃の実際業務に従事していたとは、到底考え難いところと言わざるを得ない。
        また、前掲乙第7号証、証人中森登(大分県環境整備事業協同組合専務理事)の証言、及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第14号証の1ないし3によれば、教育センターは、野上亨が受講申込の際提出した身上調書に記載された同人の実務経験の確認のため、大分県下の清掃業者の団体である大分県環境整備事業協同組合に照会をしたこと、同協同組合は右照会に基づいて調査したところ、事情聴取した中津衛生企業組合の職員2名、いずれも野上亨を全く知らないと答え、また、同組合松山正夫理事長は、野上亨が身上調書記載のとおり勤務したと述べたものの、野上が浄化槽清掃の実務に携わっていたか否かについては、具体的に言及したり、裏付となる客観的事実による証明はできないと述べていることが認められ、右各事実からも野上亨の前記(一)の供述及び乙第7号証の記載内容の真実性については、疑問を抱かざるを得ない。
        これらの点につき、同人は、人の3、4倍も働き、中津市と臼杵市を不定期的に往復し、中津滞在中は清掃業に従事した、給与もはっきり決めておらず、松山から小遣(こづかい)だといって随時支給を受けていた程度だった。中津衛生企業組合の従業員のうち幹部職員の顔は知っているが、人夫など下の者は知らない等と弁疏(べんそ)するに止まり、合理的説明はなされていない。結局、浄化槽清掃業の経験に関する野上亨の供述、及びこれに副う乙第7号証の記載は、いずれも信用できないものというべきである。
      3. 却って、原告代表者尋問の結果によれば、松山正夫は浄化槽の販売・施工も営んでおり、野上亨が松山に浄化槽を継続的に供給する取引関係にあったことが認められ、また、前掲乙第14号証の3、成立に争いのない乙第25号証の1ないし3、及び証人中森登の証言によれば、松山は、大分県環境整備事業協同組合や教育センターの照会に対して、野上に、法9条の許可とは関係のないAコース(保守点検のみのための受講コース)のためと言われて、前記乙第7号証の証明をした、あるいは、前記申請のためではなく、浄化槽の維持管理の勉強をしたいということで、依頼されて証明をした、と述べている事実が認められる。
        右事実に前記(二)に認定の各事実を総合すると、松山は、取引関係のあった野上亨から依頼され、事実には反するが、右の便宜のためにと安易にその懇請を容れてこれを証明したもので、実際に野上が、中津衛生企業組合等で『相当の経験』といえるほどの浄化槽清掃の実務に携わったことはなかったこと、仮に実務に携わったことがあっても、せいぜい浄化槽据付に立会った程度で、清掃にまで及ぶことはなかったものと推認され、これを覆すに足りる証拠はない。
        その他同人が他の方法、手段により、同清掃の実務に携わったことを認めうる証拠は存しない。したがって、野上亨は、し尿浄化槽清掃について『相当の経験』はなく、原告の本件申請は法9条2項1号に適合しないものと言うべきであるから、本件不許可処分は適法であって、原告の主張はその余の点につき判断するまでもなく失当である。
    裁判所は、以上により、原告の本訴請求は理由がないとして請求を棄却しました。
  • 許可申請をした有限会社の代表者で、申請の際に廃棄物処理法施行規則第6条第4号に定める専門的知識技能者とした野上亨は、し尿浄化槽の清掃について『相当の実務経験』がなく、廃棄物処理法第9条第2項第1号に適合していないから、臼杵市長が不許可処分にしたのは適法であり、その点について判断するまでもないとして、原告の請求を棄却したわけですね。
  • そうです。
  • この臼杵市の訴訟記録は、市町村の担当者にとって貴重な参考資料となるでしょうね。
  • もちろん参考になりますよ。廃棄物処理法第9条第2項第1号の規定は、浄化槽法第36条第1号の規定となり、『し尿浄化槽清掃業の許可の技術上の基準』を定めていた廃棄物処理法施行規則第6条の規定は、『浄化槽清掃業の許可の技術上の基準』として浄化槽法向けに表現を変えてはいるものの、浄化槽法施行規則第11条に同じ主旨の規定が設けられていますし、廃棄物処理法第9条第2項第2号の規定は、これも浄化槽法向けに改められていますが、その主旨は浄化槽法第36条第2号に引き継がれていて、「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」については、許可をしてはならないことに変わりはありませんからね。
この裁判が教えるもの
  • 市町村の担当者は、浄化槽清掃業の許可申請の取り扱いについては、よほど慎重を期さなければなりませんね。
  • 行政側が敗訴した事例で指摘しておきましたように、既存業者から出された申請について、わけもなく不許可処分にするようなことがあれば、訴えられて不許可処分は取り消されますし、その不許可処分によって与えた損害は賠償しなければならないことになります。
    新規の許可申請が出されたら、先ず、申請者が、浄化槽法第36条第1号の規定に適合しているかどうかを調べねばなりません。浄化槽法第36条第1号の規定による『浄化槽清掃業の許可の技術上の基準』は、浄化槽法施行規則第11条に定められていますから、申請者が、
    1. スカム及び汚泥厚測定器具並びに自吸式ポンプその他の浄化槽内に生じた汚泥、スカム等の引出しに適する器具を有しているかどうか
    2. 温度計、透視度計、水素イオン濃度指数測定器具、汚泥沈澱試験器具その他の浄化槽内に生じた汚泥、スカム等の引出し後の槽内の汚泥等の調整に適する器具を有しているかどうか
    3. パイプ及びスロット掃除器具並びにろ床洗浄器具その他の浄化槽内に生じた汚泥、スカム等の引出し後の槽内の汚泥等の調整に伴う単位装置及び附属機器類の洗浄、掃除等に適する器具を有しているかどうか
    について調べる必要があります。そして、それらの器具をそろえていなければ許可してはならないことになっていますから、それを理由に不許可処分にしなければなりません。
  • その場合は、所定の器具をそろえて改めて許可申請をしてくるでしょうね。
  • 所定の器具がそろっている場合は、許可申請者が、浄化槽法施行規則第11条第4号に定める『浄化槽の清掃に関する専門的知識、技能及び相当の経験』を有しているかどうかを調べなければなりません。
    厚生省生活衛生局水道環境部長は、昭和60年9月27日付け衛環第137号、『浄化槽法の施行について』と題した各都道府県知事・各政令市市長あての通知で、

    浄化槽法施行規則第11条第4号に定める『専門的知識、技能及び相当の経験』を有する者は、厚生大臣の認定する清掃に関する講習会の課程を修了した者であって相当の経験を有する者とすること。なお、従来(財)日本環境整備教育センター及び旧(社)日本環境整備教育センター(旧(社)日本浄化槽教育センターを含む。)が実施した浄化槽管理技術者資格認定講習会(Bコース)及び旧(社)日本浄化槽教育センターが実施した浄化槽管理技術者資格認定講習会の修了者は、厚生大臣の認定する清掃に関する講習会の課程を修了した者とみなすこと。

    と指示しています。
    そして、これをうけて、厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課長は、昭和61年2月25日付け衛環第33号、『浄化槽清掃技術者認定講習会の認定について』と題した各都道府県・政令市浄化槽行政主管部(局)長あての通知で、

    浄化槽清掃業の許可の技術上の基準に関しては、昭和60年9月27日付け衛環第137号、水道環境部長通知『浄化槽法の施行について』により、『浄化槽法施行規則第11条第4号に定める専門的知識、技能及び相当の経験を有する者は、厚生大臣の認定する清掃に関する講習会の課程を修了した者であって相当の経験を有する者とすること』としているが、今般、財団法人日本環境整備教育センターが下記により実施する標記講習会を同通知に定める講習会として認定したので、通知する。

    として、その通知の中で、講習会の講習を受けることができる対象者は、『浄化槽の清掃実務経験が2年以上の者』でなければならないことを明らかにしました。
    従って、浄化槽清掃業の許可の条件として求められる『相当の経験を有するもの』とは、少なくとも2年以上の清掃の実務経験をもつものでなくてはならぬということが、はっきりしたわけです。
  • 新規の許可申請者が、以前に(財)日本環境整備教育センターが実施したBコースの浄化槽管理技術者資格認定講習会の終了証書を持っている者であっても、やはり2年以上の清掃の実務経験がない場合は、許可をしてはならないものと考えてよいでしょうね。
  • 当然そうなりましょう。ところで、臼杵市の事件でおわかりのように、浄化槽の清掃の実務経験がないのに、知り合いの業者に頼んで嘘の証明をしてもらい、相当の実務経験があるように詐って、教育センターの講習を受け、修了証書をもらっている例がありますし、そして、それは珍しいことではないようですから、新規の許可申請が出たら、市町村の担当者は、申請者がほんとに清掃の実務経験を有しているかどうかを調べる必要があります。
  • 申請者が、浄化槽管理技術者資格認定講習会のBコースの修了証書や、浄化槽清掃技術者資格認定講習会の修了証書を持っていても、修了証書だけで判断してはいけない。清掃の実務について2年以上の経験を積んでいるかどうかを実地に調べねばならないということですね。
  • そうです。教育センターでは、以前のものについても、Bコースの都道府県別の浄化槽管理技術者名簿を保管していますし、浄化槽法になってからのものは、浄化槽清掃技術者名簿を作成していますから、その写しを送ってもらえば、清掃の実務経験を積んだという勤務先の名称や所在地がわかります。その勤務先について調べれば、経歴に嘘はないかどうかをはっきりさせることができます。嘘は必ずばれるものですよ。
  • 臼杵市の場合は、許可申請者が講習会の受講申し込みの際に教育センターに提出していた身上調書について調べたようですね。
  • ええ、その結果、経歴の嘘がばれました。
  • 実務経験の証明については、地元の業者に頼んでも嘘の証明はしてくれませんが、或る程度離れた地区の業者に頼めば、簡単に嘘の証明をしてくれるようですし、教育センターでは、受講申込者の経歴をいちいち調査しているわけではありませんから、市町村の担当者は、申請者がほんとに実務経験を積んでいるかどうかを調べる必要があるわけですね。
  • それを調べた上で、許可申請者が、相当の実務経験がないのにう、経歴を詐って教育センターの講習を受け、修了証書をもらったものだということがわかったら、それは浄化槽法施行規則第11条第4号の規定に反し、浄化槽法第36条第1号に適合しないものだということが明白ですから、それを理由に不許可処分にすることです。そうしておけば、裁判になっても、不許可処分を取り消されることはありません。
  • ところで、『相当の実務経験』については、許可申請者が法人である場合はその法人の代表者や役員の中に経験者が居なくとも、従業員の中に実務経験をもった者が居ればよいという意見もあるようですが……。
  • 大分地方裁判所は、臼杵市の事件の判決理由の中で、『この点を法人の申請において判断するときは、当該法人の代表者等の者であって、申請に際し、規則6条4号(浄化槽法施行規則11条4号も同じ)に定める専門的知識技能者とされている者について判断すべきである。』と明確に判示しています。やはり、法人の代表者か、実際に業務を行う役員の中に、相当の実務経験をもつ者が居なければならぬと解釈するのが相当でしょうね。
  • それにしても、臼杵市では、許可申請をした法人の代表者が相当の経験があるように詐っていたことを、よくも調べ上げましたね。
  • 市の担当者の努力と、大分県環境整備事業協同組合や教育センターの協力によるものでしょうが、それも、訴訟代理人の指導が適切だったからでしょうね。
  • 経歴を詐って修了証書をもらっていても、訴訟になって調べられたら、結局嘘はばれるということですね。
  • もちろん、嘘はばれますよ。10日や20日ぐらいのことでは、『相当の経験』とは云えませんし、机の前で事務をとっていただけでは、『清掃の実務経験』とは云えませんからね。ほんとに2年以上にわたって清掃の実務についていたのであれば、そのことを立証する証拠がある筈です。嘘であれば、そんな証拠はないわけですから、調べられたら、必ずばれますよ。業者の中には、頼まれれば、簡単に嘘の証明をしてやる人も居るようですが、その嘘の証明が事件発生の要因となって他の地区の市町村担当者や同業者を苦しめ、裁判沙汰になって法廷に呼び出されたら、赤恥をかかねばならぬことになります。決して嘘の証明などしてやってはいけません。
  • 気をつけなければなりませんね。
  • なお、この裁判で、行政側は、原告が、廃棄物処理法第9条第2項第2号で準用する同法第7条第2項第4号ハ、これは浄化槽法第36条第2号ホと同じ規定ですが、「その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当の理由がある者」に該当すると判断したので不許可処分にしたという主張もしていますが、判決では、それについては触れていません。それは、それに触れる必要がなかったからです。
    ご承知のように、廃棄物処理法第9条第2項には、「市町村長は、前項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない」と規定していましたから、許可申請者は、第1号に定める要件にも、第2号に定める要件にも、どちらにも適合していなければならないことになっていました。これは、現在の浄化槽法第36条の規定も同じです。したがって、許可申請者が第1号の要件に適合していない場合には、第2号の要件については判断するまでもなく、不許可処分にしなければなりません。
    ですから、臼杵市の場合も、大分地方裁判所は、判決理由の中で、「原告の本件申請は法9条2項1号に適合しないものと言うべきであるから、本件不許可処分は適法であって、原告の主張はその余の点につき判断するまでもなく失当である」と判示しているわけです。
  • それでは、許可申請者が第1号の要件に適合している場合、第2号の要件に適合していないことを理由として不許可処分にするときは、どうしたらよいでしょうか。
  • それについては、後で、事例を紹介して説明することにしましょう。