清研時報

1990年7月号

浄化槽清掃業の許可処分を誤らないために訴訟事件の記録に学ぶ(10)
行政側が勝訴した事例
  1. 3.岐阜地方裁判所昭和61年(行ウ)第8号事件
  2. 不許可処分の取り消しを求めた原告の言い分
  3. 不許可処分にした経緯と、被告の主張
  4. 不許可処分に違法はないとした判決理由
3.岐阜地方裁判所昭和61年(行ウ)第8号事件
  • これは、昭和61年に岐阜県山県郡高富町で発生した事件です。事件名は、≪し尿浄化槽の清掃業不許可取消請求事件≫となっていますが、高富町長が、不許可処分にしたのは浄化槽法が施行された後の昭和61年2月27日ですから、本当は、≪浄化槽清掃業不許可処分取消請求事件≫と呼ぶべきものです。
  • 許可申請をしたのが、浄化槽法施行以前のことだったのですか。
  • ええ。昭和60年9月21日、浄化槽法施行の直前に、改正前の廃棄物処理法第 9条第 1 項に基づいてし尿浄化槽清掃業の許可申請をしているので、裁判所は、このように呼んだのでしょうね。
  • 一般廃棄物処理業の許可申請はしなかったのですか。
  • していません。
  • 行政側では、どんな理由で不許可処分にしたのですか。
  • 訴訟記録によれば

    1. 申請者は、浄化槽の清掃に関し、相当の経験を有すると認められず、浄化槽法第36条第1号に適合しない。
    2. また、その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当な理由があり、同条第2号ホに該当する。
    という理由で、不許可処分にしました。
  • 申請したのは、個人ですか。
  • 岐阜市に本店事務所を置く岐阜環境衛生有限会社という法人で、代表取締役の鈴木領は、前号で紹介した岐阜市の鈴木理史の息子さんです。
不許可処分の取り消しを求めた原告の言い分
  • それで、原告は、どんな理由で訴えたのですか。
  • 原告は、請求の原因について、次のように述べています。

    本件処分は、以下のとおり、事実を誤認し、もしくは既存業者の既得利益を擁護するため、その裁量権を濫用、逸脱してなされたもので、違法である。

    1. 一般廃棄物の処理は市町村の固有の業務であり、市町村の定めた処理計画に基づいて当該市町村自らこれを処理し、もしくは市町村長が廃棄物処理法7条所定の許可をもって右汚泥の収集等を民間業者に代行させることを要するものであるから、市町村長は、その自由な裁量により右7条許可をなしうるものである。
      これに対し、し尿浄化槽の清掃管理等は市町村の事務とされることなく、浄化槽の各使用者に委ねられ、し尿浄化槽の清掃業は改正前の廃棄物処理法9条により規制されていたが、近年における浄化槽のめざましい普及によって、浄化槽法は、浄化槽清掃の問題を廃棄物一般の問題から切り離し、独自に対処していくこととし、浄化槽の設置、保守点検、清掃等につき規制するとともに、浄化槽清掃業の許可制度等を整備した。
      このように、浄化槽法35条所定の許可制度は、浄化槽の清掃管理等を市町村の事務とすることなく、浄化槽の各使用者にゆだねたうえで、浄化槽清掃業者の資格につき、専門技術的見地から浄化槽法及び昭和60年厚生省令第34号による厚生省関係浄化槽法施行規則所定の技術上の基準に適合する施設及び能力を具有する者からなされた申請である以上、必ず許可しなければならないもの(いわゆる覊束裁量)としたものである。
    2. 本件申請において、原告は、浄化槽法36条1号に定めるところの技術上の基準に適合し、かつ、同条2号ホに該当するような事実もなかったのであるから、被告は、これを許可しなければならなかったものである。にもかかわらず、被告はこれを不許可とした。よって、本件処分の取消しを求める。
不許可処分にした経緯と、被告の主張
  • これを受けて、被告は、不許可処分にしたいきさつと、不許可処分の適法性について、次のように主張しました。

    Ⅰ 本件処分がなされた経緯について

    1. 原告は、本件申請の際、その申請書に左記の書面を添付したのみであり、また、浄化槽清掃後の汚泥の収集・運搬に関し、右申請書の『収集、運搬、処分の方法及び作業計画』欄に、『バキュームカーを使用して収集、運搬する』旨を記載していた。
      1. 『会社の沿革』と題する書面
      2. 原告代表者及び鈴木美千代にかかる『廃棄物処理法9条2項2号に該当しない申出書』と題する書面各1通
      3. 『営業所、事務所及び車庫平面図並びに見取図』と題する図面
      4. 自動車検査証2通
      5. 財団法人日本環境整備教育センター発行にかかる以下のBコースの講習の修了証書各1通(以下『本件修了証』という。)
        1. 鈴木理史の修了証書(B第02909号)
        2. 原告代表者の修了証書(B第03782号)
      6. 商業登記簿謄本
    2. そこで、被告は、原告に対し、原告が浄化槽法36条1号、同法施行規則11条4号所定の『相当の経験』を有していることを証する資料を添付していないとして、口頭もしくは書面で、右相当の経験を有すること、すなわち実務経験の具体的内容(勤務先、在職期間及び担当業務等)を記載した書面の提出を求めるとともに、右汚泥の収集、運搬に関する記載につき、原告自ら汚泥の収集、運搬を行うとの趣旨であるか、明らかにするよう釈明を求めた。
    3. しかるに、原告は、書面により、以下のとおりの回答をした。
      1. 原告代表者及び鈴木理史は、日本環境整備教育センターのBコースの講習を受講済みであり、本件修了証を授与されているところ、教育センターの講習会は同センターが相当の経験を有していると認定した者のみが受講できるのであるから、『相当の経験』を有していたことはおのずと明らかである。したがって、他に『相当の経験』を有することを記載した書面を提出する必要はない。
      2. 浄化槽清掃後の汚泥の収集、運搬に関しては、原告自らバキュームカーを使用して清掃並びに収集及び運搬を行うものである。
    4. その後、被告は原告に対し、何度も『相当の経験』を証する書面の提出を求めたが、原告は、かたくなにこれを拒み、被告に対し、『相当の経験を証する書面は本件修了証の提出で十分であり、被告がそれ以上のものを要求するのは違法である。』との確固たる法的見解を示した。また、前記汚泥の収集、運搬に関しても、原告は被告に対し、口頭で、右汚泥の収集、運搬、処分は、廃棄物処理法7条許可を受けなくとも、浄化槽法35条許可を受ければなしうるとの確固たる法的見解を示した。
    5. そして、原告は被告に対し、被告の行政指導に応じないまま、本件申請につき、早急に判断を下すよう強く求めたため、被告は、昭和61年2月27日付けで本件処分をしたものである。

    Ⅱ 本件処分の適法性について

    1. 浄化槽法35条許可の要件 35条許可をなすには、法36条所定の要件が充足されることを要するが、本件においては以下の2要件の充足が問題となる。
      1. 申請人が浄化槽の清掃に関する専門的知識、技能及び相当の経験を有していること(法36条1号、規則11条4号)
      2. 申請人がその業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがあると認めるに足りる相当な理由がある者でないこと(法36条2号ホ)
    2. 『相当の経験』を有することを証する資料の欠如と法36条1号不適合について
      1. 本件修了証には要旨左記のとおりの記載がある。
        『あなたは廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則6条4号に規定するし尿浄化槽に関する専門的知識及び技能を有する者を養成する講習として厚生大臣の認定した課程を修了したことを証します。』
      2. 右記載によれば、本件修了証は、浄化槽に関する専門的知識及び技能を有する者を養成する講習を受講したことを証するものであるにしても、『相当の経験』を有することを証するものでないことは明らかである。
      3. また、原告が被告に対し、他に『相当の経験』を有することを証する書面を提出しなかったことは前記のとおりである。してみると、原告は被告に対し、本件処分がなされるに至るまで、浄化槽の清掃業に関して『相当の経験』を有することを判断するに足りる資料を提出していないのであって、被告はこの点につき判断することができなかったものである。したがって、被告が法36条1号に適合するものとは認められないとした本件処分には、なんら、違法の廉(かど)はない。
    3. 法36条2号ホ該当について
      1. 35条許可を受けた者が清掃を行った場合、汚泥が発生することが当然に予定され、その収集等が必要不可欠となるところ、右汚泥は一般廃棄物であるから、収集等を行うに当たり7条許可を要するというべきである。この点については昭和60年9月27日付け衛環第137号、厚生省生活衛生局水道環境部長の各都道府県知事・各政令市市長宛の通知等に示される行政解釈においても同様に解される。なお、被告は、35条許可と7条許可とは厳に区別して扱っている。
      2. そこで、被告は原告に対し、汚泥の処理が適正に行われないようでは、『生活環境の保全及び公衆衛生上』の支障を生ずるおそれがあるため、前記のとおり釈明を行ったが、原告は、前記のとおりの態度を示し、被告の行政指導を全く省みる様子がなかったものである。
      3. 以上の原告の態度から、被告は、仮に原告に対し、35条許可を与えた場合、原告が7条許可を受けないで汚泥の収集等を行うおそれが十分にあり、かくては、『生活環境の保全及び公衆衛生上』著しい支障を生ずることは明白であると判断したものである。
      4. なお、昭和62年5月13日付け環整78号、厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課長の各都道府県・各政令市廃棄物行政主管部(局)長宛の通知によれば、
        1. 7条許可を有しない者が35条許可を申請した場合、浄化槽清掃後に生じた汚泥を適正に処理できる体制が整備されているか否かを確認するため、法35条3項、規則10条2項5号に基づき、35条許可申請者又は浄化槽管理者が7条許可を有する者に右汚泥の収集等を委託する場合には、その委託契約書の写しを、浄化槽管理者が自ら右汚泥を処理する場合には、その旨を確認できる書類等の必要な書類の添付を求めることができるものとされ、
        2. 右必要な書類が添付されていないときは、当該許可申請を受理しなくともよく、右書類が添付されていても、その内容を検討した結果、汚泥の不正又は不誠実な処理が行われるおそれがあると判断される場合は、法36条2号ホに該当するとして不許可にしてよいものとされている。したがって、被告が法36条2号ホに該当するとした本件処分には、なんら違法の廉(かど)はない。
不許可処分に違法はないとした判決理由
  • 裁判所は、本件処分に違法はないとして原告の請求を棄却する決定をしましたが、その理由について、次のように述べています。
    1. 被告は、原告の本件申請が法36条1号所定の要件を充足しない旨主張し、原告はこれを争うので、この点について、先ず検討する。
      法36条は、『市町村長は、前条1項の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。』と定めたうえ、申請者の能力(同条1号)及び欠格事由(同条2号イないしヌ)について規定し、規則11条各号は、法36条1号の規定による技術上の基準を規定し、殊に同条4号は『浄化槽の清掃に関する専門的知識、技能及び相当の経験を有していること』と規定し、また、右許可の申請に関し、法35条3項は、申請者は規則に定める申請書及び添付書類を市町村長に提出しなければならないものとし、規則10条はこれを受けて右申請書に記載すべき事項(1項)、及び右添付書類(2項各号)について規定し、殊に同条2項3号は、法36条2号イからニまで及びヘからチまでの欠格事由のいずれにも該当しない旨を記載した書面の提出を義務づけ、同項4号は、申請者が規則11条4号に該当する旨を記載した書面の提出を義務づけている。
      以上の法令の諸規定によれば、法が申請者の能力及びその欠格事由等に関する書面の提出を義務づけた趣旨は、これらの事由が、その事柄の性質上、申請者において最もよく知るものであり、処分行政庁たる市町村長としては、申請者の陳述等を手掛かりとしなければ容易に調査することのできない事項であることから、その資料を申請者に提出させることとしたうえ、市町村長が右資料を基礎にして調査し、当該申請が法36条所定の要件を充足するか否かを判断するものとしたところにあると解される。
      そうとすれば、法36条は、35条許可の要件として、当該申請が、法36条1号に適合し、かつ2号に該当しないという客観的事実が存在することのほか、市町村長が、右の判断資料を基礎に調査した結果、当該申請が同条1号に適合し、かつ2号に該当しないと『認める』ことをも必要としているものと解するのを相当とする。
      もっとも、法は、市町村長が恣意的(しいてき)に法36条各号に適合すると認めたり、認めなかったりすることを許すものでないことは明らかであるから、右にいわゆる『認める』とは、市町村長として相当な方法で調査した結果、法36条1号に適合し、かつ2号に該当しないと認めることが当該判断として合理的である場合をいうと解すべきである。
      しかして、35条許可の申請については、法36条1号の申請者の能力にかかる要件、殊に規則11条4号にいわゆる『相当の経験』の有無は、先に説示したとおり、申請者において最もよく知る事柄であり、処分行政庁たる市町村長としては、申請者の陳述等を手掛かりとしてその真偽を調査することのほか、通常、調査の方法を有しないのであるから、市町村長は、原則として、申請者の陳述その他の提出された資料に従って、その真偽を確認するための裏付け調査をすれば足りると解するのを相当とする。
    2. そこで、本件において、以上の見地から、被告が、本件申請につき、法36条1号に適合すると認めることができたか否かについて先ず判断する。
      1. 原告が被告に対し、本件申請の際、本件申請書とともに本件添付書類を提出したことは当事者間に争いがなく、証拠≪略≫を総合すれば、以下の事実を認めることができる。
        1. 本件申請書には、『施設及び能力』欄に『し尿浄化槽の機能点検及び清掃に関する専門的知識、技能及び相当の経験』として左記の記載が存し、他に浄化槽清掃業の許可申請者の能力に関する記載が存しないこと、

          ・鈴木 領 し尿浄化槽管理技術者B第03782号
          ・鈴木 理史 し尿浄化槽管理技術者B第02902号
        2. 本件添付書類中には、原告代表者及び鈴木理史の本件修了証のほか、浄化槽の清掃業許可申請者の能力に関する書類は存しないこと、
        3. 本件修了証には、いずれも昭和60年厚生省令第34号による改正前の廃棄物処理法施行規則6条4号に定める浄化槽に関する専門的知識及び技能を有する者を養成するBコースの講習として厚生大臣の認定した課程を受講し、これを修了したことを証する旨の記載があるにすぎないこと、
        4. 本件申請書受理後、被告は、昭和60年12月7日、原告の肩書地に赴き、その施設につき現地調査を行ったが、その際、原告に対し、口頭で、法36条1号、規則11条4号所定の『相当の経験』を証する実務経験の具体的内容を記載した書面を提出するよう指導し、その後も同月20日付け書面などにより、再三にわたって『相当の経験』を証する書面の提出を求めたが、原告は、本件処分がなされるに至るまで、『相当の経験』を証する書面として本件修了証が提出済みであり、これで足りる旨書面で回答するなどして譲らず、『相当の経験』を記載した履歴書その他の書面を提出しなかったこと、以上の事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
      2. そこで、本件修了証が右『相当の経験』を証する書面であるか否かにつき検討するに、証拠≪略≫を総合すれば、以下の事実を認めることができる。
        1. 改正前の旧廃棄物処理法9条のもとにおいては、9条許可申請者は、同条2項の規定による『厚生省令で定める技術上の基準』に適合する能力として、『し尿浄化槽の機能点検及び清掃に関する専門的知識、技能及び相当の経験』を要するものとされていたこと(旧廃棄物処理法施行規則6条4号)、
        2. 財団法人日本環境整備教育センター及び旧社団法人日本環境整備教育センターは、浄化槽管理技術者資格認定講習会(Bコース)を実施し、また旧社団法人日本浄化槽教育センターは浄化槽管理技術者資格認定講習会を実施し、右各講習会は、主として旧廃棄物処理法施行規則6条4号所定の『し尿浄化槽の機能点検及び清掃に関する専門的知識、技能』に関しその技術者の養成を目的としたこと、
        3. 浄化槽法制定前においては、厚生省は、旧廃棄物処理法施行規則6条4号に定める『専門的知識、技能及び相当の経験』について、『専門的知識、技能』を有する者とは、厚生大臣の認定する清掃に関する講習会を修了した者のみではなく、市町村長においてこれと同等以上の能力を有すると認めた者もまた右専門的知識、技能を有する者に当たると解していたこと、
        4. 本件申請当時、被告は、し尿浄化槽の清掃業の許可申請に関し、県の指導のもとに『高富町し尿浄化槽の汚泥収集運搬及び清掃業許可申請等取扱い要綱』を定め、これに従って運用していたが、右要綱によれば、旧廃棄物処理法施行規則6条4号所定の『し尿浄化槽の機能点検及び清掃に関する専門的知識、技能』とは、厚生大臣が認定する浄化槽管理技術者資格認定講習会(Bコース)の修了者又はこれと同等以上の資格又は能力を有している者と被告が認める者をいい、『相当の経験』とはこの業務に2年以上の経験を有する者をいうとされていたこと、
        5. しかし、浄化槽法の施行に伴い、同省は、昭和60年9月27日付け衛環第137号、厚生省水道環境部長通知により、規則11条4号に定める『専門的知識、技能及び相当の経験』を有する者とは、厚生大臣の認定する清掃に関する講習会の課程を修了した者であって相当の経験を有する者とすることとし、従来、財団法人日本環境整備教育センター及び旧社団法人日本環境整備教育センターが実施した浄化槽管理技術者資格認定講習会(Bコース)の修了者、並びに旧社団法人日本浄化槽教育センターが実施した浄化槽管理技術者資格認定講習会の修了者は、右厚生大臣の認定する清掃に関する講習会の課程を修了した者とみなすものとしたこと、その結果、右専門的知識、技能を有する者は、右講習会の受講者に限定されることとなった反面、右専門的知識、技能を有するか否かについて、個別に審査することなく、一義的に判断されるようになったこと、他方、『相当の経験』の有無については、右講習会の受講とは別途に判断されていること、
        6. また、同省は、昭和61年2月25日付け衛環第33号、厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課長の各都道府県・政令市浄化槽行政主管部(局)長宛の通知により、財団法人日本環境整備教育センターが実施する浄化槽清掃技術者認定講習会を右昭和60年9月27日付け衛環第137号、厚生省水道環境部長通知における『厚生大臣の認定する清掃に関する講習会』として認定するとともに、右講習会の受講対象者の受講資格を浄化槽の清掃実務経験が2年以上の者としたこと、右受講資格の制限は、従前、特に制限が存しなかったものであるところ、右講習会の受講者として、少なくともこの程度の実務経験を有しなければ、講習が十分に理解されないおそれがあるため、これが要求されるに至ったものであること、講習内容は、公衆衛生・環境保全及び浄化槽行政概論(6時間)、基礎知識・汚水処理原理(7時間)、浄化槽の構造・機能(20時間)、清掃(26時間)及び衛生・安全対策(2時間)とされていること、
        7. 他方、鈴木理史は、昭和55年10月末ごろ、教育センターに浄化槽管理技術者資格認定講習会(Bコース)の受講を申し込み、これを受講し、同年12月11日、右講習会の課程を修了して、本件修了証の交付を受けたこと、原告代表者は、同様にして、同58年9月ごろ、右講習会の受講を申し込み、同年10月30日、右講習会の課程を修了して、本件修了証の交付を受けたこと、
        8. 原告代表者の教育センターにおける浄化槽管理技術者受講申込書の身上調書記載欄には、実務経験の内容として、勤務先を三重県員弁郡員弁町大泉1625番地所在の員弁環境衛生社(代表者鈴木好広)とし、在職期間を昭和57年4月から同年9月までとする記載があるにすぎないこと、鈴木理史及び原告代表者が本件修了証の交付を受けた当時は受講資格の上で実務経験の期間に制限はないこと、以上の事実を認定することができ、右認定に反する証拠はない。
          右認定の事実によれば、本件申請当時、教育センターは浄化槽の清掃に関する専門的知識、技能の深化向上のため、厚生大臣から委託を受けて、実務経験の期間について特に制限を置くことなく、浄化槽管理技術者資格認定講習会(Bコース)を実施し、浄化槽槽管理技術者としての専門的知識、技能を有する者の養成を目的とするにすぎず、講習期間も比較的短期であるから、これを受講したことの一事をもって、浄化槽の清掃に関する実務経験を有し、もしくはこれを取得したものということはできず、したがって、右講習会の修了証たる本件修了証は、右講習会を受講し、修了したことを証するものであっても、『相当の経験』の存在もしくは取得を証するものということができないことは明らかであり右認定を覆すに足りる証拠はない。
          してみると、原告は被告に対し、本件申請当時から本件処分に至るまで、法36条1号、規則11条4号所定の『相当の経験』を証する資料を提出しなかったものというほかはない。
      3. 次に、原告は、本件処分時において、被告は原告の右『相当の経験』の存在を熟知し、もしくはその資料を極めて容易に収集しうるにもかかわらず、これを怠り、あえて『相当の経験』を証する書面の提出を求めたものであり、右措置は合理性を欠くものである旨主張するので、判断するに、証拠≪略≫及び原告代表者の本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認めることができる。
        1. 昭和59年8月、原告が被告に対し、し尿浄化槽清掃業の許可申請をし、被告は、許可申請者の能力に関する前記『相当の経験』について、当時の原告代表者であった鈴木理史の履歴書の記載に不実の記載がなされたことを理由として、同年12月1日、これを不許可としたこと、右不許可処分を不服として、同60年5月、原告が被告に対し、右不許可処分の取消しを求めて提訴し(昭和60年行ウ第2号し尿浄化槽の清掃業不許可取消請求事件。以下『別件訴訟』という。)、同事件の係属中である同60年9月10日、鈴木理史は原告の代表者を退任し、原告代表者が同日付けでこれに就任していること、本件申請時は同事件が係属中であったこと、同事件は、同61年3月19日、取下げで終了したこと。
        2. 原告は、被告から鈴木理史の前記履歴書の記載が事実と合致しないとの指摘を受けたことから、被告に対し、昭和60年4月8日付けで、前記履歴書の記載が事実と合致しないことを記載したうえ、右履歴書の記載を訂正した鈴木理史の履歴書(以下『訂正後の履歴書』という。)を許可申請書の添付書類として提出したが、被告は、昭和60年6月6日付けで、当該許可申請が既に処分済みであることを理由として訂正後の履歴書を原告に返還したこと、
        3. 他方、別件訴訟において、原告は、書証として訂正後の履歴書と全く同一の記載内容の書面を提出し、被告はこれを原告提出の書証として受領したこと、
        4. 本件申請時、被告は、原告との間に別件訴訟が係属中であることに鑑み、これに慎重に対処することを余儀なくされ、本件修了証をもって『相当の経験』を証する書面として取り扱うことが可能か否かにつき県の衛生環境部環境整備課に指導を求めたところ、県は日本環境整備教育センターに右の点を照会し、右教育センターから『同センターの浄化槽管理技術者資格認定講習会Bコース(清掃コース)を修了した者は、浄化槽の清掃に関する専門的知識及び技能を有している者であるが、浄化槽清掃業の許可の技術上の基準の相当の経験を有する者とはみなせない。』との回答を得て、被告に対し、その旨の説明指導をしていること、そして、被告は、訂正後の履歴書が提出された経過等に照らし、改めて鈴木理史に履歴書の提出を求めることとしたこと、
        5. 本件申請当時、被告は、し尿浄化槽の清掃業の許可申請に関し、県の指導のもとに定めた前記取扱要綱に従って運用していたが、右要綱によれば、前記『相当の経験』とは浄化槽の清掃業務に関し2年以上の経験を有する者をいうとされていたこと、厚生省も、昭和61年2月25日付け衛環第33号、環境整備課長通知において、教育センターが実施する浄化槽清掃技術者認定講習会の受講資格を浄化槽の清掃実務経験が2年以上の者としていること、浄化槽の清掃業の専門的、技術的性格に照らし、前記『相当の経験』として2年という実務経験を要求することが合理的でないとまではいえないこと、
        6. 原告代表者(昭和40年7月18日生)は、本件第4回口頭弁論期日において、昭和57年4月ころから同58年1月ころまで、員弁環境衛生社のもとで浄化槽の清掃の手伝いをし、その後は同60年9月ころまで、1か月に4、5回程度、同社に赴いて浄化槽の清掃の手伝いをしていた旨供述していること、原告代表者が同社の本店所在地に住民票を置いたのは、同57年9月7日から同58年1月6日までであること、他方、原告代表者は、日本環境整備教育センターにおける浄化槽管理技術者受講申込書の身上調書記載欄に、実務経験の内容として、員弁環境衛生社において同57年4月から同年9月まで勤務した旨の記載があること、
        7. 鈴木理史の日本環境整備教育センターにおける浄化槽管理技術者受講申込書の身上調書記載欄には、浄化槽清掃に関する実務経験の内容として、勤務先を員弁環境衛生社とし、在職期間を昭和48年1月から同51年5月までとの記載があること、他方、訂正後の履歴書には、昭和45年3月から同51年6月までの期間に関しては記載がなく、同55年8月から員弁環境衛生社兼務及び浄化槽の清掃、管理業務との記載があること、
        8. 被告が、本件処分に至るまで、再三、原告に前記『相当の経験』を証する書面の提出を求めたが、原告が本件修了証の提出を理由にこれに応じないばかりか、右以外に前記『相当の経験』を証する書面を提出しない理由を明らかにしないこと、以上の事実を認めることができ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
          以上の事実によれば、被告が日本環境整備教育センターから原告代表者及び鈴木理史の前記浄化槽清掃技術管理者資格認定講習会の受講申込書を取り寄せ、その履歴の記載を確認することは困難とまではいえず、また、被告は、別件訴訟の書証として、鈴木理史の訂正後の履歴書と同一のものを受領していることを認めることができるものの、原告代表者については、右受講申込書によったとしても、6か月程度の実務経験の記載があるにすぎず、これのみでは、直ちに前記『相当の経験』を有することを認めることができないものといわざるをえず、他方、鈴木理史については、右訂正後の履歴書の提出された経緯、別件訴訟の進行の経緯、『相当の経験』を証する書面に関する原告の態度、訂正後の履歴書の記載と右受講申込書の記載との食い違い等に照らし、被告が右訂正後の履歴書の記載も直ちに信用しがたいものとし、本件申請について、改めて原告の右『相当の経験』に関し、これを証する書面の提出を要求し、その調査の資料としようとしたことを認めることができるとともに、右『相当の経験』の有無が、原告において最もよく知る事柄であり、被告としては原告の陳述によらなければその手掛かりを取得しえないこと、原告が、35条許可申請者として、被告に対し誠実に右『相当の経験』を証する資料を提出すべきであること、右『相当の経験』を証する書面の提出を求めても原告に対しさほどの不利益を課すものでもなく、かつその提出は極めて容易であることが明らかである。以上によれば、本件において、被告が前記『相当の経験』を証する書面の提出を要求したことは、なんら合理性を欠くものということはできない。
      4. しかして、結局、原告は被告に対し、法36条1号に適合していることを証する資料を提出しておらず、被告は、原告が同条同号に適合するか否かを確認することができなかったものというほかはないから、被告が、本件処分において、原告が法36条1号に適合していないとした判断が合理的でないとまでいうことができない。そうとすれば、原告の本件申請は、法36条所定の要件を充足していないことに帰し、被告の本件処分には違法はないものというほかはない。
    裁判所は、その余の点について判断するまでもないとして、原告の請求を棄却し、この事件は解決しました。
  • 浄化槽清掃業の許可の要件とされている『相当の経験』について、裁判所が示した判断は、市町村の担当者にとって貴重な資料となるでしょうね。
  • きっと、参考になりますよ。そのつもりで何度も読んでもらいたいものです。