清研時報

1990年9月号

浄化槽清掃業の許可処分を誤らないために訴訟事件の記録に学ぶ(11)
行政側が勝訴した事例
  1. 4.山口地方裁判所昭和60年(行ウ)第1号事件
  2. 処分の取り消しと損害賠償を求めた原告の主張
  3. 原告の請求に対する被告の主張
  4. 裁判所が原告の請求を却けた理由
  5. この訴訟事件が教えるもの
4.山口地方裁判所昭和60年(行ウ)第1号事件
  • この事件は、昭和60年に山口県岩国市で発生したものです。事件名は≪し尿浄化槽清掃業許可申請受理取消処分取消等請求事件≫となっていて、事件名が示すとおり、不許可処分の取り消しを求めた事件ではありません。行政庁が許可申請書類の不備を理由として、いったん受理していた申請書を差し戻し、許可を与えなかったため、営業の開始に備えて施設や人員を配置していたのにそれが無駄となり、損害を蒙ったとして、し尿浄化槽清掃業許可申請受理取消処分の取り消しと、損害の賠償を求めて提訴したものです。
    訴えたのは有限会社寿総業という法人ですが、裁判所は、損害賠償請求にかかる訴えについては、岩国市長は当事者能力を有しないとして却下し、申請書類受理取消処分については、違法は認められないとして棄却しました。
  • 珍しい事件ですね。
  • ええ、珍しい事件です。しかし、市町村の担当者にとっては、浄化槽清掃業の許可申請に対処するうえで、きっと参考になると思いますので、このシリーズでもとり上げることにしました。
処分の取り消しと損害賠償を求めた原告の主張
  • 先ず、訴訟記録によって原告の主張を見てみましょう。
    1. 許可申請受理取消処分の違法性について
      1. 原告は、一般廃棄物処理業、し尿浄化槽清掃業、産業廃棄物処理業等を目的として昭和53年7月に設立され、広島県の五日市町、廿日市町、宮島町、大竹市等において、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和58年法律第43号による改正前のもの、以下『法』と略称する。)7条による一般廃棄物処理業の許可、法9条によるし尿浄化槽清掃業の許可を得て営業活動を行っていたが、昭和58年5月11日、岩国市においても、昭和59年3月31日を期限とする法9条の許可を得て、営業所を設け、営業を開始した。
      2. その後、同年8月8日、被告は、有限会社から株式会社への組織変更をするつもりで、誤って、原告と目的を概ね同一とする別人格の寿総業株式会社が設立されてしまい、原告は、原告の目的を遊技場業に変更してしまった。そのため、許可期限前の昭和59年3月19日、寿総業株式会社において、被告に対し、法9条に基づくし尿浄化槽清掃業の許可申請を行うところとなった。
        ところが、右申請はいったん受理されたものの、右申請に当たり、発生汚泥の収集運搬については、岩国市における法7条の許可業者である有限会社朝日衛生興業(以下『朝日衛生』という。)に委託する旨の作業計画書を提出した際、有限会社である原告と右朝日衛生との間で昭和57年12月14日に作成された従前の委託契約書を添付したことから、被告は、寿総業株式会社と朝日衛生との間で新たに契約をし直すように求め、右申請書を返還してきた。
      3. そこで、原告は、目的を一部旧に復し、一般廃棄物処理業、し尿浄化槽清掃業、産業廃棄物処理業を追加したうえ、昭和59年12月26日被告に対し、法9条に基づくし尿浄化槽清掃業の許可申請をしたところ、被告はいったんこれを受理したものの、昭和60年4月9日付けで『し尿浄化槽汚泥引抜き及び収集運搬契約書について朝日衛生から異議の申し立てがあり、調整するため相当の日時を与えていたが、結論に至らず、現時点においては書類として整わないため』との理由を付して、申請の受理を取り消し、右申請を差戻す旨を原告に通知してきた。
      4. 本件受理取消処分は、何らの理由がないのに、許可基準に適合するか否かの審査にすら入らず、申請の受理を拒否したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。
      5. 仮に本件受理取消処分が実質的に許可申請に対する却下処分であるとすれば、法9条の許可は、同条2項掲記の許可基準に適合する限り当然になされなければならない覊束裁量行為であるのに、原告が右基準に適合しているにも拘らず、被告において右許可をしなかったものであり、右処分は、重大かつ明白な瑕疵(かし)が存するものであるから無効である。
    2. 損害賠償請求について
      1. 原告と寿総業株式会社は一体であるところ、寿総業株式会社において昭和59年3月19日、法9条の許可申請をなし、さらに、原告において同年12月26日に再度右許可申請をなしたのに、被告は何らの理由もなく、原告に対し当然為すべき法9条の許可を為さず、申請の受理すら拒んでいる。
      2. 原告は、同年4月1日以降も岩国営業所に施設及び人員を配置して営業の開始に備えているが、右被告の違法な不作為によって、次のとおり1,281万1,487円の損害を被った。
        1. 家賃 120万0,000円(但し8万円×15ケ月)
        2. 人件費 714万6,640円
        3. 社会保険等 74万9,183円
        4. 車輌維持費 14万0,320円
        5. 通信費 22万5,700円
        6. 水道光熱費 34万9,644円
        7. 慰謝料 300万0,000円
        原告は、営業継続の期待を裏切られたうえ、業界中での信用を著しく毀損(きそん)されたものであり、右苦痛を慰謝するには右金額をもって相当とする。
        よって、原告は被告に対し、本件受理取消処分の取り消し、及び予備的に許可申請の却下処分の無効確認、並びに国家賠償法1条1項に基づく損害賠償金1,281万1,487円及びこれに対する訴状送達の翌日である昭和60年7月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
原告の請求に対する被告の主張
  • 原告の請求に対して、被告は次のように主張しました。
    1. 本件許可申請受理取消処分に至る経緯について
      1. 昭和58年9月9日、寿総業株式会社から被告に対し、有限会社である原告から寿総業株式会社への組織変更があった旨の許可事項変更申請があったので、調査したところ、右は組織変更ではなく、両会社は各別個の会社であることが判明したため、同年10月3日、原告に対し、し尿浄化槽清掃業の目的を廃止した以上、先の被告の法9条許可に基づく営業については廃止届をすることを勧告し、寿総業株式会社に対し、同社として改めて法9条の許可申請をするべく、それまでは無許可営業はしないよう勧告したが、原告はこれに従わず、同月7日、寿総業株式会社から、同社による法9条の申請をする旨の連絡があった。
      2. ところが、その後同年12月7日になって、朝日衛生が寿総業株式会社によるし尿浄化槽汚泥収集運搬の依頼に応じないので、許可申請書類を備えることができない旨の連絡があり、さらに、翌日、朝日衛生ほか岩国市のし尿浄化槽汚泥収集運搬業者から、被告に対し、寿総業株式会社よりし尿浄化槽汚泥の収集運搬の依頼があったが、同社の前身とみられる原告が、朝日衛生との間で昭和57年12月14日付けで結んでいたし尿浄化槽汚泥等引抜き及び収集運搬契約を誠実に履行しないので、寿総業株式会社からの依頼を拒否した旨の連絡があった。
      3. 然るに、寿総業株式会社は、昭和59年3月19日、原告と朝日衛生との間に昭和57年12月14日作成されたし尿浄化槽汚泥等引抜き及び収集運搬契約の契約書をそのまま添付して、法9条の許可申請をしてきたため、被告は、し尿浄化槽から引抜いた汚泥の処理体制に疑問があったので、右申請を受理しなかった。
      4. その後、原告において昭和59年12月26日、本件の許可申請に及んだが、その際、し尿浄化槽から引抜いた汚泥の処理については、前記(三)と同様、朝日衛生との昭和57年12月14日付けの契約書を添付し、作業計画として、朝日衛生に汚泥の収集運搬を依頼する旨明記されていた。
      5. 被告は、原告と朝日衛生との間にあった汚泥等の収集運搬契約にかかる紛争が解決したものと信じて、いったんは右許可申請を受理したが、調査した結果、右紛争は未解決であることが判明したので、そのままではし尿浄化槽汚泥についての処理体制が明確でないものと認め、本件受理取消処分をなすに至ったものである。
    2. 本件受理取消処分の適法性について 原告は、本件申請に当たり、朝日衛生又はその他の法7条許可を受けた業者とし尿浄化槽汚泥の収集運搬についての契約をととのえるか、あるいは、し尿浄化槽清掃の際、し尿浄化槽設置者から直接法7条許可業者に汚泥の収集運搬を依頼させ(法7条許可業者はこの依頼を拒否できない。)そのうえで清掃作業にあたるというシステムをとる等、何らかの方法でし尿浄化槽清掃の際引抜かれた汚泥が環境汚染をひきおこすことなく適切に処理されるよう、汚泥処理の体制を整えなければ、法9条2項2号所定の欠格要件に該当するところとなる。
      そこで、被告は、前記1の経緯のもとで、本件申請においては、右の処理体制が整備されていることが十分に示されていないものと認めて、その許否の審査に入る前に、原告に対し、汚泥の処理につき適切な方針をたてるよう促し、それまで受理を事実上留保したに過ぎないものである。
    これが、行政側の主張でした。
  • その行政側の主張の中で、どうも納得しかねるところがありますが、それは後でお尋ねすることにして、その前に、裁判所が示した判決理由を紹介してもらいましょう。
裁判所が原告の請求を却けた理由
  • 裁判所は、昭和61年12月25日、損害賠償請求を却下し、その他の請求を棄却しましたが、その理由を次のように述べています。

    第一、本件受理取消処分に対する抗告訴訟について

    一、

    原告が一般廃棄物処理業、し尿浄化槽清掃業、産業廃棄物処理業等を目的として昭和53年7月に設立された有限会社であること、昭和58年5月11日、岩国市において、昭和59年3月31日までの期限付きで法9条によるし尿浄化槽清掃業の許可を得て、営業所を設け、営業を開始したこと、その後、昭和58年8月8日、原告とは別に寿総業株式会社が設立され、同時に原告は定款の目的を遊技場業に変更してしまったこと、並びに寿総業株式会社による法9条許可申請の不受理の経緯は当事者間に争いがなく、証拠≪略≫によれば、原告は、広島県の五日市町、廿日市町、宮島町、大竹市において、法7条による一般廃棄物処理業及び法9条のし尿浄化槽清掃業の許可を得ていたが、昭和59年4月からは、寿総業株式会社が右各地域において右各許可を得て、引き続き営業をなしていることが認められる。そして、本件の許可申請及びその受理取消処分は、当事者間に争いがない。

    ニ、

    そこで、本件受理取消処分の性格及びその適法性につき検討する。
    1. 右に認定の事実と証拠≪略≫並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。
      1. 原告は、広島県五日市町、廿日市町、宮島町、大竹市において、し尿収集・し尿浄化槽清掃業者として営業活動をしてきたが、昭和57年8月ころ、岩国市においても右事業を開始しようと考え、法7条、9条の許可を得る準備のため同市の担当者らと交渉したところ、同市のし尿収集運搬業務は、その需要状況などからも、既存の許可業者で全区域につき十分対応ができていると考えられることを理由に、法9条によるし尿浄化槽清掃業の許可申請のみをするよう指導を受けた。
        そこで、原告は、し尿浄化槽清掃の際に生じる汚泥の収集運搬については、法7条の許可を受けた朝日衛生との間で同年12月14日付けで委託契約を結び、右朝日衛生に発生汚泥の収集運搬を委託する旨の作業計画を示したうえ、右契約書を添付して、被告に対し、法9条によるし尿浄化槽清掃業の許可申請をし、昭和58年5月11日、昭和59年3月31日を期限とする法9条の許可を得た。
      2. その後、原告は、株式会社に組織変更することを計画し、これを顧問税理士に依頼したところ、右税理士は、新会社を設立し、これに原告の債権・債務を譲渡する手続きをとるよう勧めたため、結局原告と目的を概ね同一とする別人格の寿総業株式会社が設立され、原告の法人格もそのまま残して定款目的を遊技場業に変更するところとなった。そのため、昭和58年9月9日、寿総業株式会社において、被告に対し、営業所所在地及び営業所長についての許可事項変更申請をなした際、右申請者が原告と異なることが問題となり、被告は、原告に対しては廃業届を提出するよう、また寿総業株式会社に対しては新規に許可申請をするよう勧告した。
        しかし、原告からは廃業届が出されることはなく、また寿総業株式会社において、従前の原告との発生汚泥の収集運搬についての委託契約を、寿総業株式会社との間の契約に切り替えることを朝日衛生に求めたが、これと相前後して、原告あるいは寿総業株式会社と朝日衛生との間で料金の徴収等に絡んで紛争が生じ、右委託の履行自体が危ぶまれるところとなった。そして、朝日衛生は、被告に対し、寿総業株式会社による汚泥の収集運搬の依頼に応じない旨回答するに至ったため、被告は事態を憂慮し、両者によく話し合って解決するよう指導したが、折り合いがつかなかった。
      3. 原告に対する法9条許可の期限前の昭和59年3月19日、寿総業株式会社から被告に対し、法9条に基づく許可申請がなされ、被告は、これをいったん受理したが、右申請に際しては、前回の原告による申請時と同様、発生汚泥の収集運搬については朝日衛生に委託する旨の作業計画書が提出され、原告と朝日衛生間の昭和57年12月14日付け委託契約書が添付されていたことから、申請書全体として整合性を欠くうえ、朝日衛生と原告あるいは寿総業株式会社間の確執(かくしつ)からみて、汚泥処理計画に疑問もあったため、右申請を受理しない扱いとした。
      4. その後、原告は、定款目的を一部旧に復し、一般廃棄物処理業、し尿浄化槽清掃業、産業廃棄物処理業を追加したうえ、昭和59年12月26日、本件の法9条許可の申請をし、その際にも、発生汚泥の収集運搬については朝日衛生に委託する旨の作業計画書を提出し、前示昭和57年12月14日付け委託契約書を添付したことから、被告は、朝日衛生との紛争が解決したと考えて、いったんこれを受理したものの、その後の調査でこれが未解決であることが判明したため、原告の申請は作業計画の内容に整合性がなく、また右申請のままでは発生汚泥の処理体制が明確でないものと認め、法9条2項2号の欠格要件に該当するおそれがあるものと判断し、原告に対し、朝日衛生との紛争解決を促したうえ、昭和60年4月9日に至り、『朝日衛生から異議の申し立てがあり、調整するため相当の日時を与えていたが結論に至らず、現時点においては書類として整わないため』との理由を付して、本件の受理取消処分をなした。
      5. そして、被告は、原告において朝日衛生との契約を整えて改めて申請に及ぶなら、これを受理して許否を決する意向であった。以上の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
    2. 右認定の事実に照らすと、本件受理取消処分は、原告の申請をそのままでは受理せず、その許否の審査に入ることを拒否するものであって、一応被告の処分として抗告訴訟の対象になるものとは解されるが、その実体は受理の留保に近いものであって、実質的な不許可処分であるとまでみることはできないものと言うべきである。
    3. 而して、法9条の許可を受けて行うし尿浄化槽の清掃にあっては、清掃の結果し尿浄化槽から引き抜かれた汚泥の処理が適切に行われる体制になっていないときは、同条2項2号、7条2項4号ハの『その業務に関し不正又は不誠実な行為をするおそれがある』との欠格要件に該当するおそれがあると言わざるを得ないから、法7条の許可なくして、法9条の許可申請をなす者は、法7条の許可業者に汚泥の収集運搬を委託するか、あるいは、浄化槽清掃の際、浄化槽設置者から直接右業者に汚泥の収集運搬を依頼させるなど何らかの方法で、発生汚泥が環境汚染を引き起こすことなく適切に処理される体制を整えることが不可欠である。ところが、前示認定した経緯によれば、原告は本件の申請に際し、委託が実行されることが明確でないことが明らかな紛争未解決の相手である朝日衛生との間の旧汚泥収集運搬契約書を漫然と添付したまま申請を補正しなかったのであって、右契約書どおりの汚泥の処理は期待し得ないのであるから、被告が本件申請書に添付された契約書を実体の伴わないものと考え、申請事項に不備あるものとして、これを受理しなかった(従っていったん受理したものを取り消した)ことにつき違法であるとか、相当性を欠くものと言うことは到底できない。してみれば、本件受理取消処分の取り消し、あるいは、これが不許可処分であるとしてその無効確認を求める原告の請求は、理由がないことに帰するから、いずれもこれを棄却すべきである。

    第二、損害賠償請求について

    被告岩国市長は、岩国市を代表するその行政機関であって、行政事件訴訟法等他の法律に特別の規定がある場合のほかは訴訟の当事者となる能力を有しないから、国家賠償法に基づく損害賠償を求める民事訴訟法上の訴えについては当事者能力を有しない。そうすると、右訴えについては訴訟要件が欠けるものとしてこれを却下するほかない。

    裁判所が示した判決理由は、以上のとおりです。
  • 結局、行政側がし尿浄化槽清掃業の許可申請をいったん受理しても、申請の内容を調べたうえで、し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集運搬が適切に行われると認められるだけの書類がそろっていなければ、申請事項に不備があるとして、受理していた申請書を差し戻しても、違法ではないというわけですね。
  • そういうことです。
  • 損害賠償請求については、裁判所は、岩国市長には当事者能力がない、といっていますね。
  • そうです。国家賠償法に基づく損害賠償を求める訴えは、市町村長を相手にするのではなく、市町村を相手に提起せねばなりません。国家賠償法第1条第1項には、『国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。』と定められています。ですから、損害賠償を請求するのであれば、別件で、岩国市を相手に提起しなければならなかったわけです。
    しかし、『違法に損害を加えたとき』に限って賠償する責任があるのですから、本件の場合、行政庁の処分に違法はないというのですから、別件で提起していても、当然、請求は棄却されていたでしょうね。
この訴訟事件が教えるもの
  • 行政側の主張の中で、し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集運搬については、管理者が直接法7条の許可業者に依頼すれば、法7条許可業者はその依頼を拒否することはできないと言っていますが、この主張は、どうも納得できません。後でお尋ねしたいと言ったのは、このことです。
  • そうですね。その行政側の主張には確かに問題があります。行政側がそんな主張をするから、原告に、「汚泥の収集運搬契約について、し尿浄化槽清掃の都度、し尿浄化槽設置者から直接7条許可業者にこれを求めさせる形で申請してもよかったというなら、申請の際、そのように指導すべきであるのに、被告はこれをしなかったものであり不当である。」と反論され、裁判所も、判決理由の中で、「法7条の許可なくして法9条の許可申請をなす者は、法7条の許可業者に汚泥の収集運搬を委託するか、あるいは、『浄化槽清掃の際、浄化槽設置者から直接右業者に汚泥の収集運搬を依頼させるなど』何らかの方法で、発生汚泥が環境汚染を引き起こすことなく適切に処理される体制を整えることが不可欠である。」と判示する結果となったわけです。
    本件では、裁判所は、この被告の主張に対する原告の反論も、「本件受理取消処分の適法性の判断に何ら消長を来たさないものと言わざるを得ない。」として、とり上げませんでしたが、しかし、行政側がこんな主張をしてはいけませんね。浄化槽の管理者が直接法7条の許可業者に汚泥の収集運搬を依頼すれば、法7条の許可業者はこれを拒否することができないものなら、許可申請者が、汚泥の収集運搬については管理者から直接法7条の許可業者に依頼してもらうシステムをとるという計画書を申請書に添えて提出すれば、行政側では、汚泥の処理体制が整っていないことを理由に不許可処分にすることはできなくなり、『事業の用に供する施設及び能力が厚生省令で定める技術上の基準に適合するもの』たちが、そのような汚泥の処理計画をもって申請すれば、かたっぱしから許可しなければならないことになりますよ。
  • そうなれば、市町村が定める浄化槽汚泥を含めた一般廃棄物の処理計画は、めちゃめちゃになってしまいますね。
  • 浄化槽汚泥については、一定の処理計画を定めることはできなくなります。
  • 岩国市には、法7条の許可業者は何人いるのですか。
  • 3人だと聞きました。いずれも法9条の許可と併せて法7条の許可を受けているそうです。
  • 営業区域の指定をしているのですか。
  • 区域指定はしていません。
  • 区域指定をしておれば、たとえば、業者Aの受持区域で、管理者が業者Aに汚泥の収集運搬を依頼したら、業者Aはその依頼をことわることはできないかもしれませんが、区域指定をしていなければ、業者Aは、依頼を受けても、業者BかCに依頼してくれと言ってことわることができるでしょう。
  • 複数の業者が居るところでは、そうなることが考えられますね。ところが、業者が1人しかいないところでも、浄化槽の管理者が汚泥の処理を直接業者に依頼するというシステムには、問題があります。
    浄化槽の清掃にかかる汚泥については、市町村が、廃棄物処理法第6条第1項の規定に基づいて一定の処理計画を定め、同条第2項の規定により、その一定の計画に従って生活環境の保全上支障が生じないうちに収集し、これを運搬し、及び処分しなければならないものとされていますが、実は、この規定は、昭和29年7月1日から施行された清掃法(昭和29年4月22日法律第72号)第6条第1項及び第2項の規定を廃棄物処理法向けに表現を変えただけで、主旨はそのまま継承したものです。その清掃法が施行された直後の昭和29年7月6日、布施市長が、清掃法の施行に伴う条例を制定するうえで疑義があるとして、厚生省に、「業者は、清掃法第15条第2項……『前項の許可には、期限を附し、汚泥の収集を行うことができる区域を定め、又は環境衛生上必要な条件を附することができる』……の諸条件に違反しない限り、市との委託によらずに、自由に個々の住民と汚物の収集及び処分の契約を締結することが可能か。」と照会したのに対して、厚生省公衆衛生局環境衛生課長が、昭和29年7月7日付け衛環第63号をもって、「業者は、許可の範囲内において、且つ、その許可に附せられた条件を充分適正に履行する義務を負うのであって、これらに反して、自由に個々の住民と契約を締結することはできない。」と回答しています。この回答の主旨は、法律改正の経緯からみて、当然に、廃棄物処理法のもとでも生きているものと考えるべきでしょう。
  • そうですね。浄化槽に生ずる汚泥については、市町村は一定の計画を定めて処理することになっているのに、市町村が定める処理計画とは無関係に、個々の管理者と法7条の許可業者との自由契約によって、浄化槽汚泥が収集され、運搬されてきたとしても、市町村では、いちいちこれを受けて処理することなど出来ませんからね。
  • 行政側が、浄化槽の管理者が汚泥の収集運搬を直接法7条の許可業者に依頼すれば、業者はその依頼を拒否することはできないなどと言っていたのでは、浄化槽清掃業の許可申請をする者は、それなら、法7条の許可業者が汚泥の収集運搬を引き受けてくれなくても、管理者から直接法7条の許可業者に依頼してもらうようにすれば、汚泥が不正に処理されるおそれはないのだから、許可をするのが当然ではないかと主張するようになりますよ。
    この事件では原告の請求は棄却されましたが、寿総業株式会社では昭和61年8月5日、岩国市長に対して浄化槽清掃業の許可申請を行い、昭和62年1月30日付けで不許可処分になったため、その不許可処分の取り消しを求めて山口地方裁判所に提訴しました。その事件の原告側訴訟代理人は、2人とも、この事件の訴訟代理人と同じ弁護士ですから、行政側のこのような見解を巧みにとらえて我田引水の主張を展開し、それが判決に影響を及ぼすようなことにでもなればまずいと考えて、一昨年9月8日、審理中だった不許可処分取消請求事件の口頭弁論期日に山口地方裁判所まで出向いて、岩国市長の訴訟代理人に面会を求め、老婆心ながらとことわって、私見を申し入れておきました。
  • 行政側が主張を誤って、そのために敗訴したのであっても、一般的には、結果だけを見て、浄化槽清掃業の申請を不許可処分にすれば、訴えられて、不許可処分を取り消されるものと思い込むようになりますから、行政側としては、十分に気をつけねばなりませんね。
  • ところで、昭和58年法律第43号による改正前の廃棄物処理法第9条には、浄化槽法第35条第3項の『第1項の許可を受けようとする者は、厚生省令で定める申請書及び添付書類を市町村長に提出しなければならない』という規定に該当するような条文はありませんでした。それでも、裁判所は、前に述べたような理由で、行政庁がし尿浄化槽清掃業の許可申請を受理しなかった処分に違法はないと判示しています。ところが、浄化槽法には、ちゃんとした明文がありますし、それに関する厚生省の行政指導もあります。浄化槽法施行規則第10条第1項には、法第35条第3項の規定による申請書に記載する事項が定められており、第2項に、申請書に添付しなければならない書類を規定し、その第5号で、第1号から第4号までに掲げるもののほか『市町村長が必要と認める書類』も添付しなければならないと定めています。
  • そんな規定がありますね。
  • そして、この規定に関しては、厚生省生活衛生局水道環境部環境整備課長が昭和62年5月13日付け衛環第78号をもって、各都道府県や各政令市の廃棄物行政主管部(局)長に対して、次のような行政指導を行っています。

    浄化槽清掃業の許可について標記について、別紙(1)のとおり山口県環境保健部長から照会があり、別紙(2)のとおり回答したので、参考までに通知する。
    別紙(1)左記の事項につき疑義がありますので、御回答方お願いいたします。

    問1

    廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号。以下『法』という。)第7条第1項の規定に基づく浄化槽汚泥の収集、運搬又は処分業の許可を有しない者が、浄化槽法第35条第1項に規定する浄化槽清掃業の許可を申請してきた場合には、浄化槽の清掃の結果引き抜かれた汚泥を適正に処理する体制が整備されているか否かを確認するため、浄化槽法第35条第3項及び厚生省関係浄化槽法施行規則第10条第2項第5号に基づき、

    1. 当該申請者又は浄化槽管理者が、法第7条第1項の規定に基づく浄化槽汚泥の収集、運搬又は処分業の許可を有する者に、浄化槽の清掃の結果引き抜かれた汚泥の収集、運搬又は処分を委託する場合には、委託契約書の写し
    2. 浄化槽管理者が、浄化槽の清掃の結果引き抜かれた汚泥を自ら処理する場合には、その旨を確認できる書類等必要な書類の添付を求めることとしてよいか。

    問2

    1の場合において、必要な書類が添付されていない場合には、当該許可申請を受理しなくてもよいか。また、書類が添付されている場合であっても、その内容を検討した結果、汚泥の不正又は不誠実な処理が行われるおそれがあると判断される場合には、浄化槽法第36条第2号ホに該当するとして、不許可処分としてよいか。

    問3

    問1及び問2について積極的に解される場合であっても、昭和54年8月1日付け環整第87号厚生省環境衛生局水道環境部環境整備課長通知別紙(2)照会事項5及び6についての回答とは抵触しないと解してよいか。

    別紙(2)昭和62年4月28日・生活衛生第106号をもって照会のあった標記の件について、左記のとおり、回答する。

    • 照会事項1及び2について 貴見によることとして差し支えない。
    • 照会事項3について 貴見によることとして差し支えない。
    • 照会事項1及び2についての回答は、照会事項3中の前記通知には抵触しない。

  • この照会でも、『浄化槽管理者が、法7条の許可業者に、汚泥の収集、運搬又は処分を委託する場合は、委託契約書の写しの添付を求めてよいか』と言っていますね。
  • その点は、さきほど説明したとおりで、問題があります。大切なことは、厚生省環境整備課長が、『必要な書類が添付されていない場合は、許可申請を受理しなくてもよく、書類が添付されている場合でも、その内容を検討した結果、汚泥が不正又は不誠実に処理されるおそれがあると判断したら、不許可処分にしてよい』と指示している点です。このことは覚えておいたがよいでしょう。