1991年1月号
- 浄化槽清掃業の許可処分を誤らないために訴訟事件の記録に学ぶ(13)
- 裁判所が浄化槽清掃業の許可問題で示した判断
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- 一昨年の1月号から昨年の11月号にかけて、浄化槽清掃業の許可問題に関連した15の訴訟事件について紹介しましたが、行政側が既存業者の申請を不当に不許可処分にして敗訴した事例もあれば、新規の申請に対して法令の規定を無視したいいかげんな理由で不許可処分にし、裁判でも勝手な理屈を並べて敗訴した事例もあり、法令の定めるところに従って不許可処分にし、そのことを裁判で立証して勝訴した事例もあることがわかってもらえたのではないでしょうか。
- そうですね。浄化槽清掃業の許可申請を不許可処分にすれば、訴えられて、不許可処分は必ず取り消されるものと思いこんでいる人たちが意外に多いようですが、そんな人たちにとっては、きっと参考になったでしょうね。
- それでは、このシリーズで紹介した訴訟事件で、裁判所は、浄化槽清掃業の許可の性質についてどんな判断を示したかを、おさらいしてみましょう。
先ず、清掃法当時、昭和38年に平塚市で発生したし尿浄化槽の清掃及び槽内汚物取扱業の不許可処分取消請求事件の控訴審で、東京高等裁判所は、市町村長がその公共団体の実情、政策のもとで、清掃法の目的に照らし、どの業者をしてどの範囲で汚物の清掃、収集、処分をなさしめるか、汚物取扱業を許可するかどうかは、市町村長の自由裁量に属するものというべく、その意味で一般の営業に関する保健、警察上の許可とはおもむきを異にするものである。
市町村長が、し尿浄化槽の清掃とその清掃にかかる汚物の収集処分を業として行おうとする者に対して許可を与えるかどうかは、法の目的と当該市町村の処理計画とに照らし、市町村がその責務である汚物処理の事務を円滑完全に遂行するのに必要適切であるかどうかという観点から、これを決すべきものであり、その意味において、市町村長の自由裁量に委ねられているものと解するのが相当である。
ところが、清掃法が全面的に改正され、廃棄物処理法として生まれ変わってから1年半ばかり経った昭和48年、そのころは、し尿浄化槽清掃業というのは、清掃法当時のし尿浄化槽内汚物取扱業と同じように、し尿浄化槽の清掃とその清掃にかかる汚泥の収集、運搬、処分を内容とするものでしたが、福岡地方裁判所は、中間市外遠賀郡4ケ町環境衛生施設組合で発生したし尿浄化槽清掃業不許可処分取消請求事件で、廃棄物処理法9条1項が、し尿浄化槽の清掃を業として行おうとする者は、当該業を行おうとする区域を管轄する市町村長の許可を受けなければならないものと規定したのは、し尿浄化槽の急速な普及増加に伴い、その清掃の如何によっては、槽内に生じた汚泥等を排出するなどしてその放流水の適正な水質を確保できず、ひいては公共の水域を汚染させるなど各地域で環境衛生上重大な問題を惹起する可能性があることにかんがみ、し尿浄化槽の機能点検及び清掃に関する一定の技術上の基準に適合する設備、器材及び能力を有する者に、し尿浄化槽の清掃及び汚泥の処理を行わせ、生活環境の保全上の支障を防止する必要性を認めたうえ、し尿浄化槽清掃業については、一般廃棄物処理業が市町村の固有事務に属しかつ原則として市町村自身またはその受託業者によって行われる一般廃棄物の処理事業の全体的な計画との調整に関連して相当に広範な裁量の下に許可されるのとは著しく異なり、市町村による一般廃棄物の処理事業との調整の必要性が少ないし、かつ地域住民の需要に応じて良質廉価なサービスを簡便迅速に提供するため業者間の競争によって業界の健全な発達を促進するのが好ましいとの考慮もあって、一般廃棄物処理業とは別個に規制しようとしたものであると解せられる。
したがって、右の趣旨に照らせば、し尿浄化槽清掃業の許可は、一般廃棄物処理業の許可と異なり、同法9条2項に基づく施行規則(厚生省令)6条に定める許可の基準に適合している限り、市町村長には裁量の余地はなく、必ず許可しなければならない、いわゆる覊束行為(処分)であると解するのが相当である。 - その福岡地方裁判所の判示事項は、平塚市の事件で東京高等裁判所や最高裁判所が示した判示事項とは全く食い違っていますが、どうしてでしょうか。
- それは、福岡地方裁判所が、し尿浄化槽清掃業の業務の中に、し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集、運搬又は処分という市町村の固有事務に属する一般廃棄物処理業務が含まれていることを失念し、また、し尿浄化槽の清掃の仕事は、業者を競争させることによって廉価なサービスを受けることはできても、そのサービスは安い料金に見合う程度に手を抜いた質の悪いものとならざるを得ず、結果的には生活環境の悪化を招くものだということに気が付かなかったためでしょうね。
- しかし、福岡地方裁判所が示した判示事項は、その後に発生した浄化槽清掃業不許可処分取消請求事件の審理に影響を与えたのではありませんか。
- そうですね。昭和51年、岐阜市で発生したし尿浄化槽清掃業不許可処分取消請求事件で、岐阜地方裁判所は、
し尿浄化槽清掃業の許可につき法9条によって市町村長に与えられた裁量はいわゆる覊束裁量であって、自由裁量ではなく、申請者が法9条2項各号に適合している場合には、市町村長は必ず許可を与えなければならないものと解すべきである。
9条1、2項の許可の基準は、厚生省令で定める技術上の基準に適合すること(2項1号)および欠格事由のないこと(同2号)であり、市町村長は、許可申請が右基準に適合するときは、必ず許可を与えるべきである。
この2つの事件は、いずれも、廃棄物処理法第9条第1項の規定によりし尿浄化槽清掃業の許可を受けた者は、し尿浄化槽の清掃の仕事だけでなく、浄化槽汚泥の収集、運搬又は処分という市町村の固有事務を代行することになっていた当時のものですが、昭和53年8月10日、厚生省令第51号により廃棄物処理法施行規則の一部が改正され、第2項第2号が削除されて、法第9条第1項の規定により市町村長の許可を受けたし尿浄化槽清掃業者は、し尿浄化槽の清掃を行うだけで、その清掃にかかる汚泥の収集、運搬又は処分を業として行うには、法第7条第1項の規定による一般廃棄物処理業の許可を要することとなった後で発生したし尿浄化槽清掃業不許可処分取消請求事件では、裁判所は、例外なく、廃棄物処理法9条2項によって市町村長に与えられた裁量は覊束裁量であって、自由裁量ではないと解される。
市町村長は、し尿浄化槽清掃業の許可申請があった場合、申請者が廃棄物処理法9条2項各号の規定に適合している限り、必ず許可を与えなければならないものと解すべきである。
- これまでの判例に見られる判示事項は、浄化槽法のもとでも、きっと受け継がれるでしょうね。
- そうですね。裁判所は、「浄化槽清掃業の許可は覊束裁量であり、申請者が浄化槽法第36条各号の規定に適合している限り、市町村長は必ず許可をしなければならない。」という判断を示すものと考えたがよいでしょう。ですから、今後、行政側が不許可処分にするときは、申請者が浄化槽法第36条第1号ないし第2号に適合していないことを理由にして不許可処分にする必要があるわけです。
- 浄化槽清掃業を市町村長の許可制にした経緯
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- 裁判所は、し尿浄化槽清掃業を市町村長の許可制にしたいきさつについて、皮肉な見方をしていて、それが、し尿浄化槽清掃業の許可の性格についての判断に影響しているように思われますが……。
- そう思われても仕方ないでしょう。
し尿浄化槽清掃業を市町村長の許可制にしたいきさつについては、福岡地方裁判所が、昭和48年に中間市外遠賀郡4ケ町環境衛生施設組合で発生した不許可処分取消請求事件で、前に(3頁で)述べたような解釈を示したほか、どの判例を見ても、似たような解釈をしているのがわかります。
岐阜地方裁判所は、昭和51年に岐阜市で発生した不許可処分取消請求事件で、し尿浄化槽清掃業については、その業務の主な内容は、本来汚物をそれ自身で処理してしまう浄化槽の清掃等の維持、管理にあり、清掃の結果、汚物が収集されるとしても付随的なものにとどまるものであり、法も一般廃棄物処理業と別建てとし、許可の基準も監督の態様も同業に比して著しく緩和しているといえるのである。右のような規定の仕方からみると、法は、し尿浄化槽清掃業については、必ずしも自治体の事務の代行という性質が強くないものと考え、ただ、浄化槽の適正な維持、管理が区域内の衛生の保持に重大な影響を及ぼすことにかんがみ、その行政目的から、一般的に右業務を許可制にしたものと解するのが相当である。
- その福岡地方裁判所や岐阜地方裁判所の判断は、おかしいのではありませんか。し尿浄化槽に生ずる汚泥の収集、運搬、処分は市町村の固有事務であり、その固有事務を実行するには、し尿浄化槽の汚泥の収集、運搬又は処分の作業が、専門的な知識、技能、それに相当の経験を必要とするし尿浄化槽の清掃の作業と一体的に行うのが通例であるため、清掃法を全面的に改正するに当たって、廃棄物処理法第9条にし尿浄化槽清掃業の許可の規定を新たに設けたものだということが、まるで理解されていないようですね。
- それを理解してもらうための努力を怠ったからでしょうが、そのことは後で説明することにして、話を進めましょう。
昭和55年に豊田市で発生した不許可処分取消請求事件で、名古屋地方裁判所は、し尿浄化槽清掃業については、その業務の主な内容は、本来汚物をそれ自身で処理し浄化する浄化槽の清掃、維持、管理にあり、清掃の内容は、法施行規則7条に規定するとおりであること(もっとも、清掃の結果引き抜かれた汚泥の処理につき、独立してその収集、運搬または処分を行おうとするときは、別途に法7条1項所定の許可を要する。)、これらに加えて、許可の基準も、監督の態様も、一般廃棄物処理業に比し著しく緩和されている。以上の諸点を勘案すると、法は、し尿浄化槽清掃業は、一般廃棄物処理業が有する市町村の事務の代行という性質は有しないものの、浄化槽の適正な維持、管理が区域内の衛生の保持について重大な影響を与えることがあることにかんがみて、右業務を許可制にしたものであると解するのが相当である。
また、昭和56年に宮崎市で発生した不許可処分取消請求事件でも、宮崎地方裁判所は、し尿浄化槽清掃業は、本来それ自体で処理をする機能をもつ浄化槽の内部の清掃等の維持管理にあることから、法はこれを市町村の本来の固有事務とすることなく、ただ専門的知識、経験をもち、必要な器材等を有する者によって適正に維持管理がされないと、市町村の生活環境の保全、公衆衛生に大きな影響を及ぼすおそれがあるため、一定の許可基準に達した者に限ってこれを許可するものとしたと解される。
- どの判例を見ても、似たり寄ったりの解釈をしていますね。
- ところが、廃棄物処理法にし尿浄化槽清掃業の許可制度が新設されたいきさつについては、厚生省環境整備課が、昭和47年4月20日、日本環境衛生センターから発行した≪廃棄物処理法の解説≫151頁で、
し尿浄化槽の清掃は、し尿浄化槽から生ずる汚泥の収集または運搬等の作業と、専門的な知識、技能および相当の経験を必要とする附属機器の点検、槽内単位装置の掃除および種汚泥の調整作業等を一体的に実施するのが通例であるため、従前から、市町村において定常的に行うことは困難な業務として取り扱われてきた。したがって、旧清掃法においては、法第15条の規定に基づく汚物取扱業者に、専門的知識、技能等を取得させ、これらの業務を行わせていたものである。今回の法改正によって、し尿浄化槽の清掃業務を独立した業の対象として分離し、し尿浄化槽清掃業者による維持管理体制の整備と強化を図るため、本条(法第9条)の許可制度が新設されたところである。
これは、厚生省環境整備課が、同じ≪廃棄物処理法の解説≫76頁で指摘しているように、し尿浄化槽にたまった汚泥については、その収集、運搬は、し尿浄化槽の清掃と一体的に行われるのが通例であり、汚泥の量の多少を問わず、全体作業的にみて、市町村が自ら処理するのが困難であるところから、市町村長が許可を与えた業者に、市町村の固有事務である汚泥の収集、運搬の作業と、し尿浄化槽の管理者の義務である清掃の作業とを一体的に行わせることとしたものです。
昭和53年8月10日、厚生省令第51号による廃棄物処理法施行規則の改正によって、第2条第2号が削除され、法第9条第1項の規定により市町村長の許可を受けたし尿浄化槽清掃業者が、し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集、運搬又は処分を業として行う場合は、法第7条第1項の規定による一般廃棄物処理業の許可を受けねばならないことになりましたが、その後も、し尿浄化槽にたまった汚泥の収集、運搬は、し尿浄化槽の清掃と一体的に行わなければならない作業上の必要性から、法第9条第1項の許可を受けた業者は、殆ど例外なく、法第7条第1項の許可も受けて、営業してきたことはご承知のとおりです。 - つまり、し尿浄化槽の急速な普及増加に対応するため、廃棄物処理法を制定するに当たってし尿浄化槽清掃業を市町村長の許可制にしたのではなく、清掃法が施行された当初から、し尿浄化槽の清掃とその清掃にかかる汚泥の収集、運搬又は処分を業として行う者は、市町村長の許可を受けねばならないことになっていたわけですね。
- そうです。清掃法では、第3条で、
この法律で『汚物』とは、ごみ、燃えがら、汚でい、ふん尿及び犬、ねこ、ねずみ等の死体をいう。
市町村は、特別清掃地域内の土地又は建物の占有者によって集められた汚物を、一定の計画に従って収集し、これを処分しなければならない。
し尿浄化そう及びし尿消化そうは、厚生省令で定める基準に従って維持管理しなければならない。
年1回以上腐敗そう、酸化そう及び消毒そうの掃除を行うこと。
特別清掃地域内においては、その地域の市町村長の許可を受けなければ、汚物の収集、運搬又は処分を業として行ってはならない。
これを見ればわかるように、清掃法施行の当初から、市町村は、し尿浄化槽の清掃にかかる汚泥を一定の計画に従って収集し、処分しなければならないものとされ、これを代行する業者は、市町村長の許可を受けねばならないものと定められていたわけです。 - しかし、厚生省では、一時、し尿浄化槽の清掃とその清掃にかかる汚泥の収集、処分を業として行うのに市町村長の許可はいらないという行政指導をしたことがありましたね。
- えゝ、愛知県衛生部長が、し尿浄化槽の内容物について、市町村は、清掃法第6条の規定に従って収集し、処分しなければならないか、し尿浄化槽の清掃、内容物の汲み取りを業として行うものは清掃法第15条の許可を必要とするかと照会したのに対して、厚生省環境衛生課長が、し尿浄化槽は1年に1回以上清掃しなければならないという規定があり、愛知県衛生部長はその清掃の際に槽内から引き出さねばならない汚物の処理について照会したものと思われるのに、肝心な点を見落とし、普段の状態のし尿浄化槽の内容物を念頭において、
「市町村が収集すべき義務を負う対象となる汚物は『集められた汚物』であり、し尿浄化槽の内容物である汚物は『当該施設において処理される過程にある汚物』であって、いわゆる『集められた汚物』とはいわれないので、市町村はこれを収集、処分すべき義務を負うものではない。法第15条第1項に規定する汚物取扱業は、法第6条第1項の規定による市町村の汚物取扱業務を代行するものとして規制されているものであるから、法第6条の規定の適用を受けないものについては、法第15条の適用を受けないものと解すべきである。」
という無責任な回答をし、その照会と回答を併記して各都道府県衛生部長宛に通知したため、し尿浄化槽清掃業には市町村長の許可はいらないということになっていました。
私は昭和36年秋から清掃業界の世話をするようになったのですが、この環境衛生課長通知が誤っていることに気が付いて厚生省に申し入れたところ、厚生省でもその誤りを認めて、昭和37年5月12日付け環発第162号、厚生省環境衛生局長通知をもって、さきの課長通知を廃止し、し尿浄化槽の汚物の収集(清掃を含む。)を業として行う者は、市町村長の許可を必要とすることに改めました。そのいきさつは、本誌の1988年3月号でくわしく紹介しておいたとおりです。
ところが、その環境衛生局長通知で、さきに出されていた課長通知が誤りであったから訂正するとは云わないで、
「最近し尿浄化槽の急速な普及により、その腐敗槽等の汚物の量が増加したため、その処分については環境衛生上種々の問題を生じている現状である。したがって、これが処分の如何によっては、生活環境が著しく汚染されることも考えられるので、し尿浄化槽内の汚物の取扱いについては、次の方針によることとした。」
などと、もっともらしい口実を設けたため、不許可処分取消請求事件の審理に当たった裁判官の中には、その局長通知によって廃止せざるを得なかった課長通知の内容を検討することもなく、局長通知のうわべの理由を鵜呑みにして、し尿浄化槽清掃業は昭和38年1月1日から市町村長の許可制になったものと勘違いした人が居たようです。 - その勘違いが、事件の審理に影響を及ぼしたと思われる事例も、なくはないようですね。
- 不許可処分にするときの手順について
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- 毎年春になると、全国各地で、浄化槽清掃業の新規の許可申請をめぐってトラブルが発生していますが、行政側の立場で、これに対応するにはどうしたらよいでしょうか。
- そうですね。浄化槽清掃業の許可を申請する者は、同時に、浄化槽汚泥の収集運搬を業として行うための一般廃棄物処理業の許可も申請するものですが、浄化槽清掃業の許可申請と浄化槽汚泥処理のための一般廃棄物処理業の許可申請が同時に出されたからといって、同時に処分を決めねばならないことはありません。
先ず、一般廃棄物処理業の許可申請について検討することです。廃棄物処理法第7条第2項に、「市町村長は、一般廃棄物処理業の許可の申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ、一般廃棄物処理業の許可をしてはならない。」として、第1号に「当該市町村による一般廃棄物の収集、運搬及び処分が困難であること。」、第2号に「その申請の内容が法第6条第1項の規定により定められた計画に適合するものであること。」と規定しています。つまり、市町村長は、当該市町村が定めた一定の処理計画が円滑に実施されていて、浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集、運搬及び処分が困難な状態でない場合は、許可をしてはならないわけです。
厚生省水道環境部も、≪廃棄物処理法の解説≫第7版59頁から60頁にかけて、法第7条の許可について、許可とは、禁止の解除である。ある目的のために一般的にはある行為を禁止しておいて特定の場合にその禁止状態をはずすことである。本条においては、ある目的とは生活環境保全上の支障を生じさせないため市町村が責任をもって確立した一般廃棄物処理体制との調整である。禁止する行為とは廃棄物処理を業とする行為である。特定の場合とは本条第2項に該当する場合である。すなわち、市町村の行う廃棄物の処理業務及びすでに許可した一般廃棄物処理の処理業務との調整ができ、かつ、法に違反したことにより罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わってから2年を経過していないこと等一定の欠格要件に該当しない場合である。
- 市町村が直営もしくは委託で行っている場合には、市町村が直営もしくは委託で行っている処理業務との調整ができなければ許可してはならない。市町村が許可業者に代行させている場合には、既に許可している既存業者が行っている処理業務との調整ができなければ許可してはならないということですね。
- そうです。ですから、申請者が法第7条第2項の1号、2号に適合していないと認めたら、3号、4号の規定について検討するまでもなく、不許可処分にしなければなりません。
- その場合は、とりあえず、一般廃棄物処理業の許可申請を不許可処分にすることを申請者に通知すればよいわけですね。
- そうです。そして、不許可処分をするに当たっては、不許可にする理由として、「過度の競争を防止するため」とか、「既存業者の経営を圧迫するから」などというような文言を並べたてないように注意することが大切です。
- どんな理由で不許可処分にしたらいいでしょうか。
- 「あなたの申請は、廃棄物処理法第7条第2項第1号及び第2号に適合していると認めることができないので、許可することができません。」と、不許可処分にしなければならない法律上の根拠を明らかにしておくべきでしょう。
- なるほど。
- そうしておいて、浄化槽清掃業の許可申請について検討するようにします。
浄化槽法第36条には、廃棄物処理法第7条第2項第1号及び第2号に見合った規定がありません。ところが、浄化槽法では、第35条第3項に、浄化槽清掃業の許可を受けようとする者は、厚生省令で定める申請書及び添付書類を市町村長に提出しなければならない。
- 昨年の9月号で紹介してもらった岩国市の事件が、その添付書類の不備を理由として申請書を受理しなかったために起きた事件でしたね。
- そうです。厚生省関係浄化槽法施行規則第10条第2項第5号に、「市町村長が必要と認める書類」を申請書に添付しなければならないという規定があり、岩国市長は、この規定に基づいて、浄化槽清掃業の許可申請者に、浄化槽汚泥の収集運搬を行うことができる一般廃棄物処理業の許可をもつ業者が、浄化槽汚泥の収集運搬を引き受けることを承諾したことを証明する書類の提出を求めたわけです。
ところが、申請者が、委託契約が実行されないことが明らかな紛争未解決の相手業者との間の無効となった汚泥収集運搬契約書を添付したまま、申請を補正しなかったため、申請事項に不備があることを理由に受理しなかった事件で、裁判所も、行政庁の処分に違法はないと判示しました。 - 許可申請書に汚泥の処理体制が整備されていることを証する書類が添付されていなければ、許否の審査に入る前に、書類不備を理由に申請を受理しなくてもよいわけですね。
- そうです。ですから、浄化槽清掃業については、厚生省関係浄化槽法施行規則第10条第1項及び第2項に定める申請書と添付書類がそろったものについて、許可するかどうかを審査することになります。
浄化槽法第36条第1号の規定により、市町村長は、「その事業の用に供する施設及び清掃業許可申請者の能力が厚生省令で定める技術上の基準に適合する」と認めるときでなければ、浄化槽清掃業の許可をしてはならないものと定められており、この規定を受けて、厚生省関係浄化槽法施行規則第11条に浄化槽清掃業の許可の技術上の基準が設けられていますが、その第1号から第3号までは業務を行うに必要な器具について定めたもので、これらの器具をそろえているかどうかは、調べればすぐわかることです。
ところが、第4号の「浄化槽の清掃に関する専門的知識、技能及び相当の経験」をもっているかどうかを調べるには、ある程度の時間がかかります。
厚生省水道環境部長は、『浄化槽法の施行について』と題した昭和60年9月27日付け衛環第137号、各都道府県知事・各政令市市長に宛てた通知で、浄化槽法施行規則第11条第4号に定める『専門的知識、技能及び相当の経験』を有する者は、厚生大臣の認定する清掃に関する講習会の課程を修了した者であって相当の経験を有する者とすること。
- このシリーズで紹介してもらった臼杵市や、岐阜市、それに岐阜県高富町の事件では、申請者は、いずれも日本環境整備教育センターが行った清掃コースの講習会の修了証書を持っていたものの、行政側の調査で、実は相当の経験がないのに、経歴を詐って受講したものであることがわかったため、廃棄物処理法第9条第2項第1号に適合しないことを理由に不許可処分とし、裁判でも、行政側の主張が認められましたね。
- 浄化槽清掃業者の中には、頼まれれば、浄化槽の清掃実務経験がまるでない者に対しても、簡単に、自分のところで働いていたという嘘の証明をしてやる人がいます。日本環境整備教育センターには、いちいち受講者の実務経験の有無を調査することまでは求められていませんから、教育センターの発行する修了証書だけでは、果して相当の実務経験を有しているかどうかはわからないものです。
しかし、教育センターには清掃コースの資格を取得した人たちの名簿が保管してあり、都道府県毎にそれぞれの勤務先の名称と住所が記録してありますから、その写しを送ってもらって調べればわかります。そんな調査もしなければならないので、時間がかかるわけですが、調べてみて、申請者が2年以上の実務経験がないことがわかったら、浄化槽法第36条第1号に適合していないことを理由に不許可処分にすべきです。 - なるほど。それでは、申請者が法第36条第1号に適合していて、浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集運搬については既存の許可業者が引き受けることを約束した書類もそろっており、第2号の欠格要件に該当するところもないと認められるときは、許可するほかないわけですか。
- いや、問題になるのは、浄化槽の清掃にかかる汚泥の収集運搬についての既存業者との契約の内容です。そのことについては、厚生省環境整備課長が、昭和62年5月13日付け環整第78号、各都道府県・政令市廃棄物行政主管部(局)長宛通知で、山口県環境保健部長からの照会と、それに対する回答を併記して、次のとおり行政指導をしています。
山口県環境保健部長が、
「申請者が浄化槽汚泥の収集、運搬又は処分業の許可を有する者に浄化槽汚泥の収集、運搬又は処分を委託したことを証する契約書の写し、又は、浄化槽管理者が浄化槽の清掃の結果引き抜かれた汚泥を自ら処理することを確認できる書類が申請書に添付されていても、その内容を検討した結果、汚泥が不正又は不誠実に処理されるおそれがあると判断される場合には、浄化槽法第36条第2号ホに該当するとして不許可処分としてよいか」
と照会したのに対して、厚生省環境整備課長は、
「不許可処分としてよい」と回答しています。 - 既存業者の中には、のっぴきならない人から云われたりすれば、ことわりきれずに、汚泥処理引受承諾書にサインする人が居ますからね。
- ですから、受託者について調べる必要があるわけです。受託者は、いずれも自社の業務に支障がない範囲において引き受けるつもりだと答える筈です。それは、裏を返せば、自社の業務に支障があるときは引き受けられないということですから、受託者に余力があればよいが、余力がなければ無理ということになります。無理であるかどうかは行政庁が判断して決めることです。
また、仮に受託者の事業の用に供する施設や人員、能力の面では余力があったとしても、終末処理施設の処理能力の関係で業者に投入制限をしているところでは、その投入制限の面からみて無理と判断しなければならない場合もありましょう。したがって、既存業者との間で締結した浄化槽汚泥処理業務の委託契約書の写しが申請書に添付されていても、行政庁がその内容を検討した結果、汚泥が不正又は不誠実に処理されるおそれがあると判断したら、浄化槽法第36条第2号に適合いていないことを理由に不許可処分にすべきです。そして、不許可処分にするに当たっては、許可できない理由について根拠を示して説明し、申請者が納得するように努める必要がありましょう。
- 訴訟事件に発展したときの対応について
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- 訴訟事件になることは極力避けねばなりません。そのためには、申請者が感情的にならないように冷静に対応し、不許可処分が法令の規定に基づくものであり、厚生省の行政指導に従ったものであることを理解するように努めるべきでしょうが、それでも申請者が納得せず、不許可処分の取り消しを求めて提訴した場合、市町村の担当者は、どんなことに注意したらよいでしょうか。
- 第一に、行政側の担当者が、訴訟代理人といっしょになって事件の解決に当たるという心構えをもつことが必要でしょう。裁判になったら法律専門家に任せるほかないと考えて、訴訟代理人任せになり勝ちですが、廃棄物処理法や浄化槽法に関連した事件を手がけたことのある弁護士は数が少なく、また、弁護士は、ほかにもいろんな事件を抱えていますから、行政側の担当者の方で、本誌で紹介したような判例や、関係法令、それに、許可問題に関する厚生省の部長通知や課長通知などの資料をそろえ、不許可処分にした理由とその根拠をしたためて、訴訟代理人に渡し、参考にしてもらうようにしたがよいでしょう。
- このシリーズで紹介してもらった判例の中には、「浄化槽の清掃は、し尿やゴミの収集、運搬、処分と同様、市町村固有の行政事務に属するもので、浄化槽清掃業の許可は覊束裁量ではなく自由裁量である。申請者が許可の基準に適合しているかどうか調査するまでもなく、行政庁の裁量権に基づいて不許可にしたもので違法はない。」などと主張して敗訴した例もありますが、やはり、法令を無視した、ひとりよがりの主張をしても通用しませんね。
- 第二に、適切な書証をそろえ、証人を用意して、訴訟代理人に不許可処分の適法性を立証してもらう手助けをすべきでしょう。
都城市の事件や宮崎市の事件などでは、判決理由で、浄化槽から引き抜いた汚泥を自ら収集、運搬、処分することができないからといって直ちにこれを放置するものとはいえず、他の許可業者に委託する等の措置による解決も考えられるところ、本件全証拠によるも、本件処分の前後を通じ、原告に対し、浄化槽の清掃から生ずる汚泥の処理方法につき適切な方策を有するか否かを尋ねる等法9条2項2号の要件審査をした形跡は全く窺えず、原告本人尋問の結果からすると、汚泥の収集、運搬、処分を他の許可業者に委託する方策を採ることも充分予測されるのであって、これらのことからも、原告には法7条2項4号ハに該当する事由があるとの被告の主張は理由がないことが明らかである。